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地域分析レポート

ドイツ ‐ 先端技術開発で急伸するザクセン州

2017年9月15日

連邦政府は、東部ドイツの経済再興を主要政策の一つに掲げる。自動車や半導体を中心に優れたクラスターを形成するザクセン州では、生産だけでなく先端分野のイノベーション創出を目的として、国内外からの大型投資が続く。日本との経済交流にも積極的だ。

東部の活性化に向けて

ドイツは、2015年に東西統一25周年を迎えた。これを機に東西の経済格差を解消すべく、旧東ドイツ地域に属する新連邦州(注1)における経済振興を主要政策の一つに据えた。特にグローバルな産業クラスターの育成と新技術の開発に重点を置く。

ドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)が15年10月に発表したリポート(注2)によると、新連邦州における1人当たりGDPは、ドイツ統一直後の1991年の7,728ユーロから13年には2万3,585ユーロまで増加した。ドイツ復興金融金庫(KfW)グループによれば、91年以降、政府および民間の対東部ドイツ投資額の総額は約1兆 6,000 億ユーロ。鉄道、道路、水道などのインフラ整備も積極的に推進されたほか、デジタル通信ネットワーク形成に向けたICT(情報通信技術)分野への投資も活発だ。

人口1,600万人を抱える新連邦州の中で、特に経済成長が著しいのはザクセン州だ。同州統計局によれば、91年に150億ユーロ程度だった工業部門の生産高は、16年には約650億ユーロと、4倍以上の伸びを見せている。国内外の大手企業や日本企業による同州への投資も盛んだ(表)。ジェトロが17年に実施した調査では、新連邦州には日系企業の拠点が91カ所あり、うちザクセン州には42カ所が確認されている(注3)。

表:ドイツ国内外企業による対ザクセン州投資事例
企業名 関連事業 本拠地 発表時期 概要
ボッシュ 半導体 ドイツ 2017年6月 ドレスデンに半導体工場を新設予定と発表。700人規模の新規雇用創出。IoTの基幹技術である12インチウエハ技術に約10億ユーロを投資。ドイツ経済エネルギー省(BMWi)のブリギッテ・ツィプリース大臣は、欧州の半導体産業の専門知識や産業立地面でのドイツの競争力維持の向上にとって重要などと発言
フィリップモリス・インターナショナル タバコ スイス 2017年6月 ドレスデンに無煙製品を製造するためのハイテク施設の設立を発表。3億2,000万ドルを投資し、500人規模の新規雇用創出予定
ポルシェ 自動車 ドイツ 2017年4月 ライプツィヒに職業訓練生向けの新たな研修センターを開所。総面積2,300平方メートルの敷地で近代的なワークショップとセミナースペース、最新の教育ツールなど職業訓練向けのインフラを提供
ダイムラー 自動車 ドイツ 2016年10月 カメンツに総額5億ユーロでリチウムイオン電池を製造する子会社の第2工場を建設と発表。2018年半ばに稼働予定。生産・物流関連の工場面積を4倍にし、「メルセデス・ベンツ」や「スマート」などハイブリッド自動車や電気自動車(EV)向けに供給
NH ホテル ホテル スペイン 2016年5月 5カ年計画でドイツでのブランド確立を重視し、ベルリン、フランクフルト、ハンブルクと並んでドレスデンに上級ブランドホテル「NH コレクション」を開設
ナブテスコ・オートモティブ 商用車
ブレーキ機器
日本 2016年4月 ザクセン州の商用車コンプレッサーメーカーであるITG-SとITG-Kの株式100%取得。主力製品のエアドライヤーとコンプレッサーを組み合わせた高付加価値のシステムの早期製品化を目指す。商用車用機器事業において初の欧州拠点を獲得
シンガポール・テクノロジーズ・エンジニアリング 航空機部品 シンガポール 2016年2月 航空宇宙部門のSTエアロスペースがドレスデンの航空機部品メーカーであるEFWの55%の株式取得完了と発表。EFWはエアバス向けに複合フラットパネルのサプライヤーを供給

資料:各社プレスリリースなどを基に作成

かつての工業地帯「復活」へ

ザクセン州の急速な発展の理由は何か。同州の歴史をたどってみれば、第2次世界大戦前には西部のルール工業地帯と並んで繁栄した。国内で初の長距離鉄道が開通したのは州都ドレスデンとライプツィヒ間。ライプツィヒは国際見本市発祥の地であり850年の歴史がある。自動車メーカーのアウディが設立されたのも同州のツヴィッカウだ。同州はかつて織機の製造が盛んで、黎明期(れいめいき)にあった日本の自動車産業が、その工業製品を参考にしたともいわれる。しかし社会主義体制に移行した東ドイツの下、ザクセン州経済は停滞した。

ザクセン州経済振興公社日本代表の尾木蔵人氏によると、現在、同州経済を支えている主産業は自動車、半導体およびマイクロエレクトロニクスだという。ライプツィヒにあるポルシェの工場では、米国、中国、ドイツ国内と いった主要市場に加え、日本向け自動車も組み立てている。ここでは産業用ロボット導入による自動化が進みつつある。またBMWの全てのプラグイン型電気自動車は、ライプツィヒ近郊の工場で開発・生産されている。州内の自動車部品メーカー数は400社以上に上る。

また、マイクロエレクトロニクス分野の研究開発や製造においては、統一前から東欧圏で中心的役割を担ってきた。半導体関連で欧州最大の製造エリアとなった現在、欧州で生産される半導体チップの2枚に1枚は州内で生産されている。同州にはグローバルファウンドリーズやインフィニオンテクノロジーズなどの半導体大手をはじめ、中小企業を含む500社に及ぶマイクロエレクトロニクス関連企業の集積がある。産業クラスターのシリコンザクソニーは、欧州委員会が産業競争力強化に向けて推進する「ヨーロピアン・クラスター・エクセレンス・イニシアティブ(ECEI)」においても、クラスターのマネジメント能力が高く評価されている。

さらに、バイオ、エンジニアリング、ナノテクノロジー、環境・エネルギー技術などの産業分野の裾野が拡大しつつあるほか、ドイツ物流大手DHLの欧州ハブ拠点がライプツィヒ・ハレ空港に立地するなど物流網も整備されている。前出の尾木氏は、「急に工業地帯が誕生したのではなく、かつての工業地帯が復活したと考えた方が現状を理解しやすいだろう」とした上で次のように強調した。「応用研究所であるフラウンホーファー研究機構や工業大学との連携による世界に向けた先端技術や電気自動車、自動運転のイノベーションも推進される。このザクセン州を生産拠点としてだけではなく、開発拠点としても注目してほしい」。

活発化する日本との交流

ザクセン州には対日事業を手掛け、将来的な拡大を見据える企業も存在する。その一例がドレスデンに本拠地を置くプレ・カー・コネクト(Preh Car Connect)。97年の設立以来、ドイツ自動車大手向けにカーステレオなどのオーディオ・ビジュアル機能とカーナビなどの情報機器を組み合わせたインフォテインメント関連システムを開発。国内とポーランドに生産拠点を、米国と中国に研究・開発(R&D)拠点を有する。日本国内でカーナビシステムを開発する計画もあり、16年12月にプレ・カー・コネクト・ジャパンを設立した。日本法人取締役のケン・リーベンザーム氏は「研究開発センターとテストセンターの設立を通じ、日本国内への高度な技術の導入を目指す」と話す。

もう一つは、リヒター・アンド・ヘス・フェアパックングス・サービス。フラウンホーファー研究機構のエレクトロ・ナノシステム研究所と共同で、段ボールにプリントアンテナなどのデジタル印刷を行う技術を開発している。同社は、ジェトロが実施したザクセン州と山形県米沢市との地域間交流支援事業(RIT)に参加し、17年2月には米沢市を訪問して協力関係構築に向けた交流を進めている。

ザクセン州に対する日本側の期待も大きい。16年10月には米沢市の中小企業などで構成される有機エレクトロニクスや関連分野を中心とするミッションが同州を訪問し、州内の企業や大学と交流を深めた。日本との交流を長年担当してきたザクセン州経済振興公社対内投資課プロジェクト・マネジャーのカリン・ハイデンライヒ氏は、「これまでも経験豊富な日本の中小企業経営者が当州との関係を構築してきたが、最近では次世代の経営者も訪れている。長期的な関係を築く上で世代交代は良い兆しだ」と期待を込める。

ジェトロとポツダム商工会議所(IHK ポツダム)は17年4月、ライプツィヒ市、ザクセン州環境・農業省などと協力し、環境・エネルギー技術分野の国際協力フォーラムを開催した。国際見本市発祥の地ライプツィヒ開催ということもあって、国内のみならず世界中から企業が集結。会場は熱気にあふれていた。日本から参加した LIXIL国際標準化推進室長の長谷川鉄朗氏は「先進リサイクル技術のほか、植物由来のごみを資源化する機械技術などを持ったドイツ企業と意見交換ができ有益な機会だった」と語った。新連邦州の経済復興が進む中、ザクセン州は先端分野のイノベーション発信地として再活性化しつつある。日本企業にとっても有力なパートナー先の一つといえよう。


注1:
新連邦州の定義はドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)リポートに基づく。本稿ではブランデンブルク州、メクレンブルク・フォアポンメルン州、ザクセン・アンハルト州、ザクセン州、チューリンゲン州、ベルリン市を指す。
注2:
Industry Clusters in Eastern Germany
注3:
日系企業の定義は、ドイツ国内に所在する法人、支店、駐在員事業所。日本側による直接・間接の出資比率が10%以上ある事業体。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
小菅 宏幸(こすげ ひろゆき)
早稲田大学大学院商学研究科商学専攻修士課程修了
2013年4月 日本貿易振興機構(JETRO)入構 海外調査部欧州ロシアCIS課
2016年5月 ジェトロ・ベルリン事務所(海外実習生)
2017年5月 海外調査部欧州ロシアCIS課 兼 企画部企画課海外地域戦略班(欧州)
2017年9月 企画部企画課海外地域戦略班(欧州)

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