為替管理制度

最終更新日:2023年07月06日

管轄官庁/中央銀行

ブラジル中央銀行(BACEN)

為替相場管理

変動相場制

ブラジルの為替相場制度は1999年1月以降、為替バンドや誘導目標水準を設けない変動相場制に移行している。
1980年代まではすべての為替取引をブラジル中央銀行(Banco Central do Brasil)の厳格な管理下に置いていたため、非常に煩雑な手続きを要したが、1989年以降この管理制度が緩和され、手続きも簡素化された。その一環として、2021年12月29日には、ブラジル為替市場、海外におけるブラジル資本、国内における外国資本、ブラジル中央銀行への情報提供に関する、所謂「新為替法」と呼ばれる法律第14286号が公示され、2022年末に発効した。これはブラジルがOECD加盟の必須条件の1つである資本自由化協定に加盟するための留意点に対処し、国内取引市場の近代化を図ったもの。その細則は中央銀行により、2022年12月31日付で次の5つの決議として定められた。

  • 決議第277号は、外国為替市場および通貨レアルと外国通貨のブラジルへの入出国に関する規制、およびその他の規定を設けている。
  • 決議第278号は、ブラジルにおける外国資本、外国信用取引および外国直接投資、ならびにブラジル中央銀行への情報提供についての規定を設けている。
  • 決議第279号は、海外におけるブラジル資本について規定している。
  • 決議第280号は、個人および法人に適用される居住者および非居住者の定義について規定している。
  • 決議第281号は、決議第278号とともに遵守される一時的措置を規定している。
  • 決議第282号は、1998年3月3日付法律第9613号で規定されている資産、権利、資金の「洗浄」または隠蔽の犯罪、および2016年3月16日付法律第13260号で規定されているテロ資金供与を行うための金融システムの使用を防止するためにブラジル中央銀行から営業許可を受けた機関が採用すべき方針、手順、内部統制について規定している。

従来は貨幣の変動、貿易上の危険やリスクヘッジとして、ブラジル在住の個人、ブラジルに本社を有する法人は、ブラジルの商業銀行を通じて外貨の銀行口座を開設し、資金を転送できるとされていたが、2021年9月30日付中央銀行決議第4948号により、金融機関および中央銀行から営業許可を受けたその他の機関が、国際市場で通常行われているあらゆる種類のデリバティブ取引を海外で行うことができることとなった。
外貨口座を保有できるのは、旅行会社、外国公館・国際機関、ブラジル郵便電信公社、国際クレジットカード会社、外国人非居住者および在外ブラジル人、連邦政府・州・市自治体の直接もしくは間接管理の事業体(ただし国際機関および外国政府機関による対外債権にリンクされた口座であること)、エネルギー分野の開発事業を委託された会社、保険・再保険会社、海外に本社を置く輸送業者、為替取引許可を得ている会社、石油・天然ガスの開発・生産権利を有する企業である。
また、ブラジルの輸出企業も、ブラジルの為替市場で営業することを認められた金融機関で海外にて開設された口座で輸出代金の支払いを受けることができる。

このほか、為替操作にかかる税金として金融取引税(IOF)がある。例えば、個人の海外送金の場合では、ブラジル国内居住者が自ら使用するために海外送金する際は1.1%、第三者への送金の場合は0.38%、国際クレジットカードの海外での利用やインターネットなどで電子販売されている海外の物品をクレジットカードで購入すると、5.38%が課税される。なお、これらIOFの税率は、2022年7月28日付政令第11153号に基づき2029年までに徐々に軽減されることになっており、例えば前記のクレジットカード購入にかかるIOFの場合は、2023年以降毎年1ポイントずつ税率が下げられ、2028年に税率がゼロとなる予定。
旅行代金(陸上費や航空運賃)を海外の旅行会社に送金する場合も、IOF 0.38%と所得税6%が源泉徴収される。ただし後者は、2025年以降1ポイントずつ税率が加算され、2027年には9%となる。

貿易取引

貿易統合システム(SISCOMEX)や中央銀行外貨情報提供システム(SCE)などのシステムを通じて、貿易取引の為替管理も行われる。

輸入

  1. 輸入代金支払いに関する必要書類
    支払期間が180日を超える商品またはサービスの輸入に伴う資金移動について、外国クレジット取引の金額が50万米ドル以上もしくは他の通貨での同等額である場合に、ブラジル中央銀行の外資情報提供システム(SCE-Crédito)上での報告が必要。事象の発生日と10桁もしくは15桁のDI/DUIMP番号を入力する。
  2. 決済期間
    輸入為替取引は、契約締結から決済までの期間として最大1,500日認められる。
  3. 輸入代金の前払い

    利用する輸入形態により、船積前もしくは通関予定日より前、最大360日までの前払いが認められる。送金金額に制限はないが、為替契約時点で船積期日が明記されているプロフォルマ・インボイスを提出しなければならない。
    船積前に輸入ライセンス(LI)を必要とする輸入対象商品は、前払い送金が許可されるまでは、輸入できない。
    製造に時間を要する、または受注生産方式の機械装置などを輸入する場合には、利用する輸入形態により、船積前もしくは通関予定日より前、最大1,800日までの前払いが認められる。この場合、前払い期間は製品の製造期間に基づいていることが条件となり、契約当事者同士の中間払いなどの合意条件が尊重される。

  4. 輸入通関申請時点でSISCOMEXを通して輸入申告(DI:Declaração de Importação)する場合の為替レート
    輸入申告書(DI)の申告時に適用する輸入に課税される税金の算出に適用する外国為替相場(レート)は、2019年4月10日から、輸入申告書登録日の1日前にブラジル中央銀行が公表する売り為替相場を適用することになった。それまでは、過去3日間の平均相場を適用していた。
  5. 輸入のCIFあるいはCIP取引条件(インコタームズ2020)の場合
    ブラジルの輸入者が外国の輸出者とCIFあるいはCIP条件で取引を決定した場合、輸出者が自国の保険会社と契約し、保険証券(Apólice)に記載された料金をProforna Invoiceに明記し、国際運賃(輸入者が指定する港/空港まで)を加算してCIF金額として取引を開始する。決済条件に基づき、CIF金額を送金する場合に、保険料金の外国への支払いに対して制限条項があったが、現行の保険関連法規では保険料金の送金を阻止する措置は出ていない。
関連法規:ブラジル国際保険に関連する法規リスト(民間保険監督庁・保険補足法)

1966年11月21日付行政法令(DL)第73号にて、ブラジル全国民間保険システムが創設されている。ブラジル国内の民間保険および再保険の規制制度の大枠を定めたもので、旧財務省(MF)の外局として民間保険監督庁(SUSEP)が設置された。

前述の行政法令第73号の第6条には、国外における付保にはSUSEPの許可を必要とし、国内でカバーされず、国内の利益にならない保険に限られるとの規定があったが、2007年付補足法第126号(保険補足法)により、この条文は撤廃された。その代わりに、国外での付保の条件が規定された。

前述の補足法第126号の規則として、国家民間保険評議会(CNSP)決議第451号にて外国の通貨で付保される保険や、外国における保険契約について規定。ブラジル国内に引き受ける保険が存在しないリスクの補償等について、当該リスクを対象とした保険を運営するブラジル国内保険会社への照会を通じて、提供する保険での補償が認められていない場合に限り、国外にて契約を認めるとしている。ブラジル国内保険会社への確認方法は、別途細則として、回章第683号(次項)にて規定される。

前述のCNSP決議第451号の細則は、2022年12月19日付SUSEP回章第683号に定められている。外国で保険契約を希望する輸入会社に対して、SUSEPがいつでも「ブラジル国内保険会社より取得した同一内容による最低5社の見積書」、「その5社による引受拒否の理由書」および「外国の保険会社に対する問い合せ書類の写し」の提出を求めることが可能としている。提出されない場合は、現行法に沿った罰則が適用される。

輸出

  1. 為替取引規則

    輸出決済条件では、国際市場で行われている決済条件が認められている。ブラジルの輸出企業は、現金払い条件から、輸出貨物の船積日から起算した360日までの前払い条件まで自由に選択できる。

    360日を超える延払い輸出は「融資」とみなされる。政府は輸出振興のため、輸出金融プログラム(Programa de Financiamento as Exportadores:PROEX)を創設している。この特別融資条件による公的信用資金で融資された輸出として、ブラジル銀行およびブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)からの融資を受ける場合、従来はSISCOMEX Exportaçãoにおける輸出登録(Registro de Exportação:RE)と同時に信用操作登録(Registro de Operação de Credito:RC)をしなければならなかったが、単一輸出申告(DUE)の導入に伴い、この手続きはLPCOモジュール(ライセンス・許可・証明書・その他の輸出書類)に置き換えられた。
    ただし、外国に本部を置く融資機関が、直接輸入業者に融資する場合は、この手続きは免除される。

    また、輸入業者自身の自己資金で融資する場合、あるいは、政府の融資資金を一切使用せず、ブラジルの外為銀行の資金で融資される場合は、その融資条件(融資期間、利息率、保証など)が国際市場で通常取引されている条件に見合うものでなければならない。

  2. 輸出代金の前受け
    商品の船積日から数えて360日よりも前に輸出代金を受け取る際は、中央銀行に対して、申請登録が必要である。
  3. 輸出代金の海外保留額の上限
    輸出代金は、その全額を海外に保留することができる。
  4. 輸出の手数料
    開発商工サービス省貿易局(SECEX)は、各輸出企業が提出する輸出条件(価格、決済条件、マージン比率、取引成立までの状況など)を吟味して、適性輸出マージンの比率を決定、許可している。
    通常はFOBの最大5%となっているが、取引条件の妥当性・説明などによっては、20%のマージンが認められることもある。

為替取引に関する期限

現金またはトラベラーズ・チェックによる外国通貨の売買、国際的な利用を目的としたカードその他の電子決済手段による外貨建ての資金の拠出や引き出し、または為替相場商品としての金の売買の際は、直物決済でなくてはならない。その他の為替取引は先物決済も認められ、その期限が次のとおり定められている。

  • 輸出代金:受取の為替契約決済の期間を1,500日までと定めている。船積日以降に為替契約を決済する場合、期間は、船積日から起算して最大1,500日まで。
  • 銀行間取引・為替裁定取引および国家財務局が借受側となる融資に関わる取引の場合:1,500日以内
  • 輸入および融資にかかる為替取引の場合:1,500日以内

貿易統合システム(SISCOMEX)

輸出入に関する申請、登録、進展状況、認可などの管轄業務をオンラインで行う統合情報管理システム。
1993年に中央銀行情報部によって輸出登録業務のソフトが開発された後、1997年には輸入に関する管理業務ソフトが導入された。現在は、データ処理公社(SERPRO)によって運営され、各々のソフトがほぼ毎年新バージョンに更新されている。

ブラジル中央銀行の外資情報提供システム

ブラジル中央銀行が運用する以下のシステムを通じて、ブラジル国内における外資に関する情報を提供することができる。

  • 外資情報提供システム-外国直接投資(SCE-IED):国内に居住する投資の受け手に対する海外直接投資に関する情報提供を行うシステム。
  • 外資情報提供システム-クレジット(SCE-Credit):国内に居住する個人もしくは法人に付与された外国信用取引に関する情報提供を行うシステム。
  • 非居住者宣言登録(CDNR):外国信用取引の当事者である個人もしくは法人を登録するシステム。非居住者である法人が、国内の居住者である投資の受け手に対する直接投資家となる、あるいは外国信用業務における債権者となるために、ブラジル国税庁の規則に従い法人登録番号(CNPJ)を必要とする場合に、その登録申請が行える。
  • 海外ポートフォリオ投資(RDE-Portfolio):金融資本市場、投資ファンド、預託証券(DR)に対する外国投資の登録を行うシステム。

貿易外取引

従来の融資操作登録(ROF)は不要になった。

特許、商標の使用もしくは譲渡、技術提供、ロイヤルティーとしての金銭的移転を目的とした居住者と非居住者の間の契約、テクニカルサービスやそれに類似したものの提供、外部運用リース、レンタル、チャーターに関するものについては、為替金融総合情報システム(SISBACEN)にて融資操作登録(ROF)の電子申告登録(RDE)が必要とされていたが、2022年12月31日付決議第278号により、中央銀行への情報提供義務は終了した。

資本取引

送金に上限額などの制限は規定上定められていないが、送金に対応する所得税の納付証明が必要。

利益、配当、利子、償却、ロイヤルティー、科学技術・管理支援費として海外に送金する際に、支払うべき所得税がある場合、その納付証明が必要となる。これは2023年6月14日付法令第14596号により条件が緩和されたもの。それ以前にはこれらの支払いについても、貿易外取引と同様に融資操作登録(ROF)の申請が送金の際の根拠書類として提示が求められ、その書類が揃わなければ送金できなかった。そのため例えば、外国企業がブラジルに法人を設立する際に中央銀行における登録手続きに不備があった場合、国外への送金ができなくなる可能性があった。

  1. ブラジルへの外国投資
    外国からブラジルに投資をする場合、ブラジル為替市場、海外におけるブラジル資本、国内における外国資本、ブラジル中央銀行への情報提供に関する、いわゆる「新為替法」と呼ばれる2021年12月29日付法律第14286号に基づき行われる。同法は公布から1年後の2022年12月29日に発効した。その細則にあたるブラジル中央銀行2022年12月31日付決議第278号は、ブラジルにおける外国資本、外国信用取引および外国直接投資、ならびにブラジル中央銀行への情報提供についての規定を、また同日付の決議第281号は、決議第278号とともに遵守される一時的措置を規定している。
  2. 外国資本の登録
    従来の事前の宣言登録であるSISBACENにおける「電子申告登録‐外国直接投資(Registro Declaratorio Eletronico - Investimento Externo Direto:RDE-IED)」に代わり、中央銀行に対する情報提供制度が設けられ、10万ドル以上の資金移動についてのみ外資情報提供システム(SCE-IED)上で報告することが求められる。これに合わせ、ブラジル中央銀行は「国内外資の情報提供方法」に関するマニュアルを公開している。

    中央銀行:Prestação de informações de capitais estrangeiros no país外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

  3. 現金による投資
    現金による投資もブラジル政府による事前の審査は行われず、単に外為取扱銀行を通して送金ができる。ブラジル中央銀行の外資情報提供システムにて、非居住者の投資家が受け手の資本に参加し、有効な法令の定めに従い資本金が払い込まれたもしくは資本を取得したこと、ならびに初期投資額の情報を、海外からの直接投資の受け手が報告する。さらに、非居住者投資家の持分を変更する事象の発生日から30日以内に、受け手の払込資本金、非居住投資家ごとの払込資本金の割合、および資金移動の推移に関する情報の更新を行うことが求められる。
    なお、外為銀行に入金された外国通貨をレアルに換金する手続き、すなわち為替契約は、投資会社とその投資を受けるブラジル国内の会社によって行われる。
  4. 外国信用(クレジット)の変換による投資
    外国クレジット資金を投資に転換する場合は、外国資本の転換となることからブラジル中央銀行への情報提供が必要とされ、銀行にて同時為替操作の契約を直接交わすことで行われる。ただし、これは決議第278号とともに遵守される一時的措置を規定する決議第281号にて、2023年11月1日以降は不要と規定された。
  5. 為替取引を伴わない輸入による財の投資
    有形もしくは無形の財の取引による外国直接投資は、非居住者が所有する財に対応する金額を資本化するものと定義される。支払い義務なしに輸入された財の場合は、輸入申告書の番号、もしくは無形資産の輸入を特徴付けるインボイスまたは同等の書類をもって、事象の発生日から30日以内に中央銀行の外資情報提供システム上で報告されなければならない。

関連法

国家通貨評議会2008年5月29日付決議第3568号:為替取引関連の細則、ブラジル中央銀行2013年12月16日付回章第3691号:為替取引および国際資本規則(決議第3568号の細則)、1962年付法令第4131号及びその細則となる政令第55762号:外国資本関連ほか。

  • 1962年9月3日付法令(Lei)第4131号:外国資本の基本法令
  • 2007年12月14日付政令第6306号:金融取引税(IOF)
  • 2022年7月28日付政令第11153号:IOFの税率軽減について規定
  • 2021年12月29日付法令第14286号:為替市場、外国資本に関連する「新為替法」
  • 1965年2月17日付政令(Decreto)第55762号:外国資本細則
  • ブラジル中央銀行(BCB)2022年12月31日付決議(Resolução)第277号:外国為替市場および通貨レアルと外国通貨のブラジルへの入出国に関する規制
  • BCB 2022年12月31日付決議第278号:ブラジルにおける外国資本、外国信用取引および外国直接投資、ならびにブラジル中央銀行への情報提供について規定
  • BCB 2022年12月31日付決議第279号:海外におけるブラジル資本について規定
  • BCB 2022年12月31日付決議第280号:個人および法人に適用される居住者および非居住者の定義について規定
  • BCB 2022年12月31日付決議第281号:決議第278号とともに遵守される一時的措置を規定
  • BCB 2022年12月31日付決議第282号:資産、権利、資金の「洗浄」または隠蔽の犯罪、テロ資金供与防止のための金融機関の内部統制について規定
  • ブラジル国税特別局(RFB)2016年5月30日付細則(Instrução Normativa)第1645号:海外送金の所得税源泉徴収
  • 国家民間保険システムの創設:1966年11月21日付政令第73号
  • 海外における保険契約規則:2007年1月15日付補足法第126号
  • 国家民間保険評議会(CNSP)2022年12月19日付決議第451号およびその補則にあたる2022年12月19日付国家民間保険庁(SUCEP)回章(Circular)第683号:海外における保険契約細則

その他

特になし。