外資に関する奨励
最終更新日:2024年09月30日
- 最近の制度変更
奨励業種
投資促進機関である経済開発庁(EDB)が、奨励産業として掲げている分野は、航空宇宙、コンシューマ・ビジネス、クリエイティブ産業、エレクトロニクス、エネルギー・化学、情報通信技術、物流・サプライチェーン管理、医療技術、天然資源、石油・ガス設備&サービス、医薬品・バイオテクノロジー、精密エンジニアリング、専門家サービス、サステナビリティである。
シンガポールは、知識集約型経済構造の確立を目指し、先端技術部門、高付加価値産業部門、研究開発部門、ビジネスハブ機能の強化に資するサービス部門などを振興している。
EDBは2024年に次の分野に重点を置くこととしている。[1]既存セクターの変革、[2]グローバルなバリューチェーンにおけるシンガポールの地位の強化、[3]新たな成長分野の構築とイノベーションの定着、[4]ローカル人材の育成、[5]ローカルのエコシステムの競争力強化。
EDBが掲げる分野以外で外資奨励に関連し得る主な政策を紹介する。
産業変革マップ(ITM)
産業変革マップは、23の産業についてロードマップを作成し、各産業内の課題に対処し、政府、企業、業界、業界団体、商工会議所間の連携を深めている。
産業変革マップウェブサイト(Industry Transformation Maps:ITM)
国家研究財団(NRF)の設置と2025年研究革新起業計画
国家研究財団(NRF)は、研究開発基金の運用、政策立案、関係機関との調整、政策実行計画の策定、予算管理に当たる行政組織として、2006年1月に首相府内に設置された。NRFのプロジェクト推進室では、設定された戦略研究分野別に戦略プログラム・オフィスを設置し、研究開発案件の公募と審査、R&D助成金の拠出、ならびに各種優遇措置や奨学金制度の導入等を実施している。
国家研究財団ウェブサイト(National Research Foundation:NRF)
首相を委員長とする官民合同の研究・革新・企業評議会(RIEC)は、2020年12月、2021~2025年までの5カ年計画「2025年研究革新起業計画」を発表。予算は250億Sドルで、前計画RIE2020から31%増額された。RIE2025の取り組みは4つの戦略的領域[1]製造、貿易、連携性、[2]アーバン・ソリューションと持続可能性、[3]人の健康と可能性、[4]スマート国家とデジタル経済に沿って編成される。新予算の29%は大学および科学技術庁(Aスター)傘下の研究所に、26%は4つの領域への研究開発の拡大支援に、9%は人材育成のために確保される。2024年度(2024年4月から2025年3月まで)政府予算では、30億Sドルの追加が発表された。
NRF:2025年研究革新起業計画 "RIE 2025 Handbook"
スマート国家(Smart Nation)構想
Smart Nationは、最新のICT技術の導入で人々が暮らしやすい街を作ろうという、スマートシティの考え方を国レベルに拡大したシンガポール政府のビジョンで、2014年11月に発表された。世界初の「スマート国家」の実現に向け、人通りや交通量の多いエリアにセンサーを設置する「スマート・ネーション・プラットフォーム(SNP)」、インテリジェント交通システムと無人走行自動車システムのデータ収集・分析(サイバー・フォレンジック)に特化する「サイバーセキュリティー・リサーチセンター」の設立、サイバーセキュリティー分野の戦略・政策立案を担当する「サイバーセキュリティー庁(CSA)」の新設、国内全土を詳細に表示する3次元地図「バーチャル・シンガポール」の制作、規格が異なる無線通信を組み合わせ、効率の良い通信環境を実現する「へトロジニアスネットワーク」の実証実験などが構想の一環として「インフォコム・メディア2025」マスタープランに基づいて進められている。
政府はネットワーク、センサー、ソフトウエアなどのインフラに関しては市場で調達する一方で、国民向けサービスに関しては国内外で開発されている革新的アイデアを導入する方針という。同ビジョンを政府全体で推進するために当初首相府(Prime Minister’s Office)にSmart Nation Programme Officeが設置されたが、2017年5月1日付で財務省と情報通信省のデジタル部局が統合し「スマート国家デジタル政府グループ(SNDGG)」が新設された。2023年10月に、SNDGGと情報通信省(MCI)が統合した。その後、2024年7月に情報通信省(MCI)はデジタル開発・情報省(MDDI)となった。
シンガポール・グリーンプラン2030(Singapore Green Plan 2030)
シンガポール政府は、2021年2月、環境行動計画「シンガポール・グリーンプラン2030」を発表した。同プランは[1]太陽光発電など環境に優しいエネルギー利用、[2]環境に関連した新たな産業(グリーンエコノミー)、雇用の創出、[3]街路樹の植樹拡大など都市の自然環境の改善、[4]二酸化炭素(CO2)の排出削減など持続可能な生活環境の整備、[5]未来の気候変動への対応、という5つのテーマの下、政府環境関連の幅広い取り組みを包括したもので、国家として取り組むべき2030年までの環境目標が設定されている。
シンガポール・グリーンプラン2030(SG GREEN PLAN)
インフォコム・メディア2025
2015年までの計画であったメディア開発庁(MDA)によるデジタルメディア産業のマスタープラン「シンガポール・メディア・フュージョン」計画と情報通信開発庁(IDA)による情報通信産業分野のマスタープラン「iN2015」を統合して、旧情報通信省(MCI)(現デジタル開発・情報省(MDDI))は2025年までの情報通信メディア産業の将来像を描いたマスタープラン「インフォコム・メディア2025」を2015年8月に公表した。この計画にはスマート国家構想を実現するための一連の具体的施策が描かれている。
情報通信省:インフォコム・メディア2025 "INFOCOMM MEDIA 2025(1.38MB)"
国家AI戦略(NAIS2.0)
2023年12月、シンガポールは人工知能(AI)の新たな国家戦略「国家AI戦略(NAIS2.0)」を発表した。[1]AIが気候変動や公衆衛生など国際課題の解決手段となり、[2]AIと共存する未来に国民の暮らしとビジネス活動の活性化の実現を目指すとしている。その上で、政府や産業、研究機関が向こう3~5年間で取り組む15の行動計画を設定した。
国土利用基本計画マスタープラン
都市再開発庁(URA)では5年ごとに10~15年先の国土利用計画マスタープランを発表している。マスタープランでは国土の用途や容積率が規定されているほか、インフラを含む開発計画が盛り込まれている。
国土利用基本計画ドラフトマスタープラン2025
ドラフトマスタープラン2025では、「シンガポールを、すべての人にとって住みやすく、包摂的で、愛される場所にする」を軸に5つのテーマが設定されている。5つのテーマは、[1]幸せで健康的な都市、[2]持続可能な成長、[3]都市のレジリエンス、[4]私たちの自然と遺産を守る、[5]テクノロジーの活用。
URA:ドラフトマスタープラン2025 "Draft Master Plan 2025"
各種優遇措置
シンガポールを拠点として海外展開を目指す内外企業に対して、法人税制をはじめとして、多種多様な優遇措置と国際的に競争力を高めるビジネス環境が整備されている。
主な投資優遇措置は次のとおり。
法人税制度
- 低い税率
シンガポールは競争力を高めるため、法人税率を引き下げてきた。2020賦課年度からは、課税所得のうち最初の20万Sドルに対しては部分免税制度が適用されるため、実効税率は17%未満になる。
内国歳入庁(IRAS):法人税関連 "Corporate Income Tax Rates, Rebates and Tax Exemption Schemes
"
- キャピタルゲイン課税なし
シンガポールにはキャピタルゲイン課税がない。これは、企業が海外投資を計画する際に撤退戦略まで含めて考えると、重要なポイントとなる。事業再編目的で子会社を売却(投資有価証券を譲渡)する場合に生じるキャピタルゲインに課税が生じないため、その分だけ撤退コストを小さくできる。
内国歳入庁(IRAS): "e-Tax Guide : Certainty of Non-taxation of Companies’ Gains on Disposal of Equity Investments (Third edition)
(348KB)"
- 多数の租税条約
シンガポールは93カ国・地域と租税条約を締結している。シンガポールに置かれた地域統括会社は、租税条約により配当や利息、ロイヤルティーなどへの二重課税を防止できる。
IRAS:二重課税防止条約 "International Tax
"
- 国外源泉所得の免税
シンガポールは国外所得免除方式の課税制度を採用している。国外源泉所得はシンガポールに送金した場合にのみ課税され、ある特定の所得はシンガポールに送金した場合でも免税になる。1つの例として、外国企業からシンガポールに還流された配当金は、その企業が所在する国の最高法人税率が15%以上の場合、その国で課税されている(源泉税や受取配当のもとの利益に課される所得税などを納付している)ことを条件に、非課税となる。
IRAS:国外源泉所得の免税 "Companies Receiving Foreign Income
"
- ワン・ティア・システム
シンガポール政府はワン・ティア法人税制度を採用しており、シンガポールに置かれた持ち株会社や地域本社が本国に配当する際には一切課税が生じない。シンガポール企業が支払う法人税が最終の納税となる。したがって、シンガポール企業が国内の個人、法人に支払う配当金は、受け取る側では課税対象外であり、国外の企業に配当する場合は源泉税が課せられない。
IRAS:Dividends
- タックスヘイブン税制や過小資本税制
他の多くの国と異なり、シンガポールには、CFCルール(controlled foreign corporation rules、いわゆるタックスヘイブン税制:在外子会社の利益に対する合算課税の制度)や過小資本税制はない。支払利息は、資金が課税所得を生み出すために使用されていることを明確に実証できる限り、損金に算入することができる。
優遇税制
シンガポールにおける外資導入や産業振興のための税制優遇措置は、所得税法(Income Tax Act 1947)および経済拡大奨励法(Economic Expansion Incentives (Relief from Income Tax)Act 1967)を根拠法として、時代の政策に応じて整備が行われてきたが、そのうち、製造・サービス業を対象とした優遇措置を所管する経済開発庁(EDB)は、主に外国企業が申請できる投資優遇措置の適用を行う窓口となっている。
これらの優遇措置の適用にあたっては、優遇措置を受けられる投資の認可の条件として、相当規模の資本投資であることや、高度技術と製造技術に関連したプロジェクトであること、特殊技術や専門的サービスの提供を行うこと等が求められており、これを通じて、高付加価値産業への投資促進を誘導している。
優遇税制は、大きく分けて、[1]地域統括企業向け、[2]技術革新・製品開発企業向け、[3]海運・航空事業者向け、[4]貿易・海外事業拡張・観光促進企業向け、[5]金融サービス企業向けの5分野に分類され、シンガポールへの投資を検討している日本企業や既にシンガポールで操業している日本企業に利用できるものである。優遇税制の詳細については、「税制-法人税」の項を参照のこと。
その他の優遇措置
優遇税制とは別に、研究開発、企業の国際化、中小企業の生産性向上・能力開発、起業を促進するための助成金制度や投融資制度などの各種優遇策もあり、経済開発庁(EDB)、エンタープライズ・シンガポール(Enterprise SG)をはじめとする政府機関にて所管されている。
参考:
研究開発などについて:EDB "Incentives & Schemes"
中小企業向けの各種支援策の詳細は、政府ビジネスポータルサイト「GoBusiness Gov Assist」の「GOVERNMENT ASSISTANCE」ページを参照のこと。
その他
グローバルミニマム課税(最低税率課税)を2025年から導入する方針を明らかにしている。
シンガポールは2024年2月、2024年度(2024年4月~2025年3月)政府予算案で、外資投資誘致の新たなインセンティブ「投資税額控除(RIC)」の導入を発表した。RICの導入は、2025年から導入予定の「税源浸食と利益移転(BEPS)2.0」イニシアチブの第2の柱であるグローバルミニマム課税(最低税率課税)を受けて、投資先としての競争力を強化するための措置である。RICが対象とする投資は、[1]製造施設設置や低炭素の発電など生産性向上、[2]デジタルサービスやサプライチェーン管理などの新規拠点設置または拡張、[3]地域統括機能やセンター・オブ・エクセレンスなどの新規設置または拡張、[4]商品取引会社の設置または拡張、[5]研究開発(R&D)、イノベーション活動、[6]低炭素化を目的としたソリューションの導入である。これら活動に伴う設備投資、人件費、委託費など適格費用の最大50%を、法人税額から控除できる。RICの適用期間は最長10年間で、経済開発庁(EDB)とシンガポール企業庁が管轄する。
シンガポールは、2025年1月1日から、多国籍企業の子会社などの税負担が15%の最低税率となるまで課税する「所得合算ルール(IIR)」を導入し、最低税率と実効税率との差額分に対して追加納税の「国内トップアップ税(DTT)」を課す予定。