米USTRのスペシャル301条報告書、知財保護の不備を理由にベトナムを「優先国」に指定
(米国、ベトナム、アルゼンチン、メキシコ、EU、ブルガリア)
ニューヨーク発
2026年05月07日
米国通商代表部(USTR)は4月30日、知的財産権の保護・執行に関する各国の状況をまとめた2026年版スペシャル301条報告書を発表
した。同報告書は1974年通商法182条に基づき、米国企業のビジネスの阻害要因となる、知財保護やその侵害に対する取り締まりなど執行が不十分な国・地域を特定し、懸念が大きい順に「優先国」「優先監視国」「監視国」に指定する(注1)。
2026年版の報告書
では、ベトナムを唯一の優先国に指定し、アルゼンチンとメキシコを優先監視国から監視国に移行した。また、EUを監視国に追加した一方、ブルガリアを監視国から除外した(注2)。その結果、合計で26カ国・地域を対象リストに掲載した。
優先国が指定されるのは、2013年のウクライナ以来、13年ぶりとなる(2013年5月20日記事参照)。USTRは、ベトナムを優先国に指定した理由に、(1)オンライン海賊版に対する持続的かつ効果的な執行措置、(2)広範な偽造品に対する十分な執行措置、(3)効果的な国境管理措置、(4)無許可ソフトウエアの使用に対する執行措置、(5)ケーブル・衛星信号の盗用に対する刑事措置、の欠如を挙げた。USTRは今後30日以内に、これら課題に対処するため、1974年通商法301条に基づく調査を開始するかどうかを決定する(注3)。調査を開始する場合、USTRはベトナムとの協議を要請し問題の解決を図る。米通商専門誌「インサイドUSトレード」(4月30日)は、USTRがスペシャル301条で指摘したベトナムの課題は、USTRの「模造品・海賊版に関する悪質市場調査」の報告書での指摘と共通していると伝えた。2026年3月に発表された同調査は、「スポーツ生中継の海賊版とデジタル時代における著作権保護の課題」に焦点を当てていた(2026年3月5日記事参照)。
優先監視国は、チリ、中国、インド、インドネシア、ロシア、ベネズエラの6カ国だった。USTRは、今後1年間、これらの国と集中的に協議を行う。
監視国は、19カ国・地域だった(注4)。USTRは、アルゼンチンを優先監視国から監視国に移行した理由に、同国との相互貿易投資協定の締結を挙げた(2026年2月9日記事参照)。メキシコについては、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の共同見直しに向け(注5)、知的財産上の懸念に対処するため協議を強化してきたことを理由に挙げた。米国、メキシコの両国はUSMCA見直しに向けた技術協議を3月に開始し、公式2国間交渉会合を5月下旬に行うことで合意している(2026年4月22日記事参照)。EUを監視国に追加した理由には、医薬品一般法(GPL)が、医薬品の販売承認取得のために作成された非公開の試験データに対する不当な商業利用の保護を弱める、などと指摘した。ブルガリアを監視国から除外した理由には、同国のオンライン海賊版に対する刑事訴追など、執行措置の強化を挙げた。
USTRのジェミソン・グリア代表は発表で、「不公正な貿易慣行に対処するため、われわれが持つあらゆる執行手段を活用することは最優先事項だ」「貿易相手国の知的財産慣行を厳格に審査しており、世界中の米国のイノベーターやクリエーターを保護するため、必要に応じて措置を講じる」と述べている。
(注1)優先国には、米国製品に特に深刻な悪影響を与える政策や慣行を取っている国を指定し、1974年通商法301条に基づく調査の対象となる。USTRは優先国指定を補助するため、知財の保護や執行に特定の問題がある国を優先監視国と監視国に指定している。USTRは優先監視国に1年以上指定している国に関し、当該国の問題解決を支援するための行動計画を策定するよう義務付ける。
(注2)2025年版のスペシャル301条報告書は、2025年4月30日記事参照。
(注3)USTRは現在、301条に基づき、過剰生産能力(2026年3月12日記事参照)と強制労働産品の輸入禁止措置(2026年5月7日記事参照)に関する調査を行っており、いずれにおいてもベトナムは対象になっている。
(注4)アルジェリア、アルゼンチン、バルバドス、ベラルーシ、ボリビア、ブラジル、カナダ、コロンビア、エクアドル、エジプト、EU、グアテマラ、メキシコ、パキスタン、パラグアイ、ペルー、タイ、トリニダード・トバゴ、トルコ。
(注5)2020年7月1日に発効したUSMCAは、条文上、発効から16年後に失効すると定められている。ただし、発効6年後の見直しで3カ国が延長に合意すれば、合意時点から16年間延長される。2026年7月1日に初めての見直しを迎える。USMCA見直しの見通しについては、2026年2月20日付地域・分析レポート参照。
(赤平大寿)
(米国、ベトナム、アルゼンチン、メキシコ、EU、ブルガリア)
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