中国、米国による共同声明違反の指摘に反論

(中国、米国)

調査部中国北アジア課

2025年06月03日

中国商務部は6月2日、中国がジュネーブ経済貿易協議での合意に違反していると米国が主張している件に関し、報道官談話を発表した。それによると、米中双方が5月12日に共同声明を発表後、中国は合意に基づき、米国の相互関税に対して実施した関税、非関税の措置を取り消すか暫時停止してきたと述べた上で、中国は協議の合意を厳格に実行し、積極的に維持していると説明した(注1)。

談話では、米国は協議後も続々と中国に向けて多岐にわたる差別的制限措置を追加してきたと指摘し、人工知能(AI)チップ輸出管理ガイドランの公布(2025年5月15日記事参照)や、中国に対するEDA(電子設計自動化)販売の停止(2025年5月30日記事参照)、中国人留学生に対するビザ取り消し表明などを挙げた。こうした措置は、1月17日に行われた両国首脳の電話会談(2025年1月21日記事参照)やジュネーブ協議の合意を傷つけ、中国側の正当な権益を著しく損なうとした。米国が一方的に絶えず引き起こす新たな経済貿易摩擦が両国の経済貿易関係の不確実性や不安定性を高めているとも批判した。自らを省みるどころか、中国が合意に違反しているといういわれのない非難を行っているが、これは事実から大きく逸脱しており、中国はこうした不当な非難を断固拒否するとも表明した。

他方で、談話では、共同声明は米中双方が相互尊重、対等協議の原則の下で達成した重要な合意であり、たやすく得られる成果ではなかったと評価した上で、米国側が中国と同じ方向を向いて進み、ただちに過ちを正し、協議の合意を共同で守るよう求めている。

ファーウェイ製先端チップなどの使用禁止を執行・協力する企業に制裁を警告

なお、米国商務省によるAIチップ輸出管理ガイドランの公布に関連して、中国商務部は5月21日に報道官談話を発表し、米国が輸出管理に違反しているとの推定に基づき、ファーウェイの「昇騰(Ascend)」を含む中国の先端チップの使用に関して行った警告(注2)は保護主義的行為であり、世界の半導体の産業・サプライチェーンの安定を大きく損ない、他国・地域が先進チップやAIなどのハイテク産業を発展させる権利を奪うものと指摘した。特に中国企業が中国内で中国製のチップを使用することについて、米国が規制を科すのは典型的な一方的いじめだとして、断固反対を表明するとともに、米国側に中国に対する差別的措置を直ちに停止するよう求めた。

また、米国の措置は中国企業に対する差別的・制限的措置に該当する疑いがあるとして、同措置を執行する、あるいは執行に協力するいかなる組織・個人も、「反外国制裁法」(注3)などの法律法規に違反した嫌疑で、相応の法的責任を問われると警告した。今後、米国側の執行状況を注視し、自身の正当な権益を守るための措置を取るとした。

(注1)中国は共同声明を受け、5月14日午後0時1分から、税委会公告2025年第4号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで定めた米国商品に対する追加関税34%のうち24%の適用を90日間停止し、税委会公告2025年第5号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます第6号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによる追加関税(計91%)は実施を停止した(税委会公告2025年第7号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。このほか、4月4日と9日に発表した「信頼できないエンティティー・リスト」への米国企業計17社の掲載(2025年4月9日4月11日記事参照)と、「輸出管理コントロールリスト」への米国企業計28社の掲載をいずれも5月14日から90日間停止すると発表している(2025年5月15日記事参照)。一方、それ以外の措置については、不明確な状況となっている(2025年5月19日記事参照)。中国商務部は5月29日の定例記者会見で、外国メディアからの「中国側は4月4日に発表したレアアースの輸出管理について、いかなる条件下で取り消し、あるいは暫時停止するのか」との質問に対して、明確な回答を避けた。

(注2)米国商務省産業安全保障局(BIS)は5月13日、ジョー・バイデン前政権時代に発表した人工知能(AI)向け半導体などへの輸出管理を強化する暫定最終規則(IFR)を撤回する意向を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますするとともに、中国の華為技術(ファーウェイ)製半導体の使用リスク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます米国製AI半導体が中国のAIモデル開発や推論に利用されるリスク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます半導体転用リスク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに関するガイダンスを発表。ファーウェイの「Ascend」チップを使用することは、世界のどこで使用されたものであっても米国の輸出規制に違反すると警告していた(2025年5月15日記事参照)。ファーウェイの「Ascend」チップの詳細については2025年5月2日記事を参照。

(注3)「反外国制裁法」は、外国の措置に対する中国の対抗措置について定めたもので、2021年6月10日から施行されている(同法については、ジェトロの調査レポート「反外国制裁法の概要」PDFファイル(573KB)参照)。これまで同法に基づく措置としては、米国による台湾への武器売却への関与や、「新疆ウイグル自治区の人権問題」「チベットの人権問題」を口実とした内政干渉などを理由として、米国企業や米国の議会関係者などが「対抗措置リスト」に掲載され、中国内の動産、不動産、その他の各種財産の凍結や、中国内の組織・個人との取引・協力の禁止などの措置を科されている(2024年1月5日記事1月15日記事4月19日記事6月28日記事9月20日記事参照)。なお、国務院は2025年3月24日、反外国制裁法の実施規定を公布・施行している(2025年3月25日記事参照)。

(小宮昇平)

(中国、米国)

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