エヌビディアCEO、AIチップ輸出管理の再考を要請、中国はすぐ背後にいると警告

(米国、中国)

サンフランシスコ発

2025年05月02日

米国半導体大手エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は4月30日、米国の首都ワシントンで開催されたテクノロジー業界と連邦議員による政策対話「ヒル・アンド・バレーフォーラム」に出席し、ブルームバーグやCNBCなど複数のメディアの取材に応じた。ファン氏は、米政府による人工知能(AI)チップの輸出管理の強化について、「世界中に米国のAI技術拡散を促進しないといけない。政策や政権からの支援策で支えることが本当に必要だ」として、規制の見直しを訴えた。

この背景には、エヌビディアの中国向けAIチップ「H20」に対する新たな輸出管理の適用がある。エヌビディアが米証券取引委員会(SEC)に提出した報告書によると、4月9日に米政府から、中国および数カ国へのH20輸出には許可が必要になるとの通知を受けたという(2025年4月17日記事参照)。この規制により、同社は5月28日に発表予定の第1四半期決算において、H20関連の在庫、購買契約、引当金に関連する約55億ドルの損失を計上する見通しだ。

エヌビディアのH20は米国の輸出管理に準拠するように設計されたが、またルールが変更されたことで多大な損害が発生していると指摘される。ファン氏は「世界は数年前と根本的に異なっており、現行のルールはその現実を反映していない」とも述べ、規制の柔軟化と明確化を求めた。

中国を競合相手として警戒

中国のAI技術に対し、「中国は遅れていない。われわれのすぐ背後におり、非常に接近している」と述べ、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を「最も手強い競合相手の1つ」と評した。

「ファイナンシャル・タイムズ」紙(4月29日)によれば、ファーウェイは、中国国内の顧客に対し高度なAIチップクラスター「CloudMatrix384」の出荷を開始したという。これらの顧客は米政府による輸出管理によって、エヌビディアの半導体を入手できなくなったため、発注を増やしているという。半導体調査機関セミアナリシスの創業者ディラン・パテル氏によると、「ファーウェイのCloudMatrix384の開発により、中国はエヌビディアを凌駕(りょうが)しうるAIシステムを手にしたことになる」と述べている。

ファーウェイは、チップの単体性能ではエヌビディアに劣るものの、CloudMatrix384ではAscend910チップの使用数を増加し、光接続技術「スーパーノード」でつなぐことで、クラスタ全体としての性能を高めた。一方で、業界専門家によると、大量のチップ使用による高い電力消費や、エヌビディアのCUDAと比較して3~5倍の運用人件費がかかることが課題として挙げられている。ただし、中国国内には電力資源とエンジニアは豊富に存在するため、CloudMatrixはエヌビディアの先端チップが利用できない顧客にとって、有力な代替手段として注目されている。

(松井美樹)

(米国、中国)

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