米中協議、中国側の輸出管理の動向が焦点の1つに

(米国、中国)

ニューヨーク発

2025年05月19日

米国と中国は5月12日、経済と貿易に関する共同声明を発表した。共同声明では両国の関税率引き下げのほか、中国が4月2日以降に米国に対して講じた非関税措置を停止、または廃止するために必要な行政措置を講じることも定めた(2025年5月13日記事参照)。米国の対中サプライチェーンの観点からは、この非関税障壁に中国による輸出管理が含まれるのかが今後の焦点の1つになる。

ジェトロのヒアリングによると、2018年に米中貿易摩擦が起きて以降、新型コロナウイルスのパンデミックを経て、大手企業を中心に、米国向けと中国向けでサプライチェーンを再編する動きが進展した。一方で、バッテリーや半導体の原料などでは、中国依存が続いており、米中関係の悪化などによって、製造に必要な原料を中国から調達できなくなることが潜在的なリスクとして懸念されていた(注)。米国が中国に対する相互関税率を引き上げて以降、在米日系企業からは、中国が輸出管理を強化して重要鉱物など必要な原料を輸入できないという声が聞かれている。首都ワシントンの状況に詳しい関係者によると、特定の重要鉱物の輸出許可を得られない米国企業もあり、在庫がなくなり次第、米国での生産が停止する懸念が出ていたという。中国は4月4日、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムに対する輸出管理を発表していた(2025年4月7日記事参照)。

中国は共同声明発表後、信頼できないエンティティー・リストへの米国企業計17社の掲載と、輸出管理コントロールリストへの米国企業計28社の掲載を5月14日から90日間停止すると発表した(2025年5月15日記事参照)。中国が輸出ライセンス発行を再開する見込みだとの声も聞かれるが、中国はレアアースに対する輸出管理措置の緩和については明言しないなど、不透明さが残っている(米国通商専門誌「インサイドUSトレード」5月15日)。米国の業界団体は「たとえアフリカで同じ原料を取れたとしても、それを輸送して加工するというのは、コストが高く、経済的に見合わない」「精製技術を同盟国と開発しようとする考えもあるが、大規模な資金が必要で、誰が大きな投資をできるのかという課題もある」など、代替調達先確保の難しさを指摘している。

米中による高関税は90日間停止されているが、その間、関税率だけでなく、こうした重要鉱物に対する輸出管理の動向を注視することも重要となる。

(注)米国の対中サプライチェーンの現状と課題については、2025年3月19日付地域・分析レポート参照

(赤平大寿)

(米国、中国)

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