欧州委、風力発電の整備加速に向けた行動計画発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年10月26日

欧州委員会は10月24日、風力発電の整備加速に向けた政策文書となる欧州風力発電行動計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUは改正再生可能エネルギー(再エネ)指令(2023年4月3日記事参照)で、エネルギーミックスに占める再エネ比率の2030年目標を42.5%に設定。欧州委は2030年目標の達成には風力の発電能力を現在の204ギガワット(GW)から500GWに増やす必要があると試算している。これは年間に換算すると37GW分の新設に相当するが、2022年の新設実績は16GWとなっており、風力発電整備の大幅な拡大が急務となっている。

また、EUではグリーン・ディール産業計画に基づき(2023年2月3日記事参照)、温室効果ガス(GHG)の排出ネットゼロを実現する技術に関する域内製造業の強化を目指している。中国からの輸入に依存する太陽光パネルと異なり、風力発電設備はEU域内需要の大部分を欧州製で賄うことができているため、EUの風力発電産業を特に重視すべき産業に位置付けている。一方で、世界シェアでは安価な中国製に押されており、EUの風力発電メーカーの競争力強化が課題となっている。

行動計画では、再エネ拡大に向けた法整備が進みつつあることから、今後の風力発電の整備拡大を確実にし、EUの風力発電産業の競争力を強化すべく、加盟国と域内の風力発電産業に向けて緊急に対応すべき措置や支援策を示している。主な内容は次のとおり。

  1. 予見性の向上と許認可の迅速化による整備の加速
  2. 公共事業の入札制度の設計改善
  3. 財政支援策
  4. 域外国との公正な競争環境の構築
  5. 人材育成支援
  6. 産業界の関与と加盟国によるコミットメントの支援

1.に関しては、現在、許認可に時間がかかり、需要に対する予見性が低いことから、風力タービンの域内製造量は域内製造能力を下回っている。改正再エネ指令は許認可の迅速化を規定しており、2024年7月1日までに加盟国は国内法化が求められることから、欧州委はデジタル化などを活用することで、加盟国の法整備を支援する。国内法化の実施状況によっては、2024年6月までの時限立法の暫定緊急規則(2022年11月17日記事参照)の延長を検討する。また、需要予測を容易にすべく、欧州委は加盟国に従来の再エネ整備に関する5年以上の計画に加えて、10年計画の策定を求めるとともに、加盟国の入札計画に関する情報をまとめたデジタルプラットフォームを設置する。

2.について、欧州委は価格以外の要素を盛り込んだ落札基準などの入札制度に関する勧告を策定する。中国製の風力発電設備が域内製と比べて平均で約2割安いことを背景に、域内の入札で持続可能性や性能に優れた域内製を支援する意図があるとみられる。

3.については、EUレベルでは、欧州委がイノベーション基金の次回公募の支援額を14億ユーロに、欧州投資銀行(EIB)がグリーン・ディール産業計画関連の融資枠を今後5年間で1,500億ユーロに、それぞれ倍増する予定だ。ただし、これらはいずれも、再エネ技術全般が対象となっており、風力タービンや関連部品の製造に対する具体的な支援額は不明だ。EUレベルでの財政支援は限定的なことから、最大源の活用が求められているのは、加盟国レベルでの国家補助(2023年3月15日記事参照)となる。

4.に関しては、欧州委は、戦略的自律を強化すべく近年成立させた国際調達措置規則(2021年6月10日記事参照)、外国補助金規則(2023年7月13日記事参照)、対内直接投資審査規則(2020年10月13日記事参照)などを、中国を念頭に積極的に活用する方針だ。

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 77b09ba805501370