欧州委、国家補助緩和策を採択、グリーン・ディール産業計画に資する製造業を支援へ

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月15日

欧州委員会は39日、EU国家補助規制を緩和する「暫定危機・移行枠組み」を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。今回の採択により、加盟国は、温室効果ガスの排出ネットゼロ実現に貢献する産業(ネットゼロ産業)における企業の生産活動に対して国家補助を提供することが可能になる。欧州委は、グリーン・ディール産業計画(2023年2月3日記事参照)の実施に際して、当面は加盟国予算を積極的に活用する必要があることから、国家補助が認められる対象を拡大する方針(2023年2月3日記事参照)を明らかにしていた。米国インフレ削減法により、ネットゼロ産業の域内生産拠点が米国へ移転してしまう恐れがあるとしており、国家補助の拡大には域外移転を防ぐ狙いがある。現行の国家補助規制においては、再エネ整備や生産プロセスの脱炭素化といった限られた企業活動に対してのみ国家補助が認められていることから、今回の採択は国家補助規制を大きく修正するものだ。

EUでは、加盟国間の競争環境を不当にゆがめる可能性があるとして、加盟国による特定の企業に対する国家補助を原則禁止しており、一定の条件を満たす場合にのみ、欧州委の承認を受けた上で、国家補助を例外的に認めている。欧州委は20223月、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機を受け、国家補助規制の一時的な緩和策である「暫定危機対応枠組み」を採択(2022年7月13日記事参照)。2023年末までの適用が決定していた(2022年11月1日記事参照)。今回の枠組みは、「暫定危機対応枠組み」を修正、延長するとともに、支援対象を拡大するものだ。

国家補助の提供が認められる対象として新たに追加されるのは、ネットゼロ産業関連製品の製造だ。具体的には、バッテリー、太陽光パネル、風力発電用タービン、ヒートポンプ、水素製造用の電解槽、炭素回収・貯留と、これらの製造に必要な重要な部品の生産、関連する重要な原材料の生産とリサイクルが対象となる。

加盟国は、ネットゼロ産業の推進策として、対象製品の製造のための投資に対して、特定の割合を上限に国家補助を提供することができる。この割合は、対象企業の規模や投資先となる地域によって異なる。また、税の優遇措置、融資、保証などの形態で国家補助を提供する場合は、より高い割合での支援が可能となる。さらに、域内での生産に対する投資が域外に移転する実質的なリスクがある場合には、その対策として国家補助の支援上限をさらに引き上げることができる。これにより加盟国は、域外の移転候補先で得られる支援額と同等、あるいは域内を投資先にするインセンティブとして十分な額のいずれか低い方を国家補助として提供することが認められる。

ただし、域外移転対策として国家補助を提供する場合、大規模な国家補助を提供する余力のある一部の加盟国にのみ投資が集中し、単一市場のさらなる分断を生む恐れがあることから、開発が遅れる指定地域、あるいは、同指定地域と所得水準が低い地域を含む3加盟国以上を投資先とする場合にのみ、国家補助が認められる。また、推進策、域外移転対策のいずれの場合も、他の加盟国からの移転に対する投資への支援は認められない。なお、この枠組みは、暫定措置との位置付けであることから、2025年末までの適用となる。

(吉沼啓介)

(EU)

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