欧州委、米インフレ削減法に対抗するグリーン・ディール産業計画を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年02月03日

欧州委員会は2月1日、2050年までの気候中立を目指す欧州グリーン・ディールの一環として、「グリーン・ディール産業計画」の詳細を示した政策文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、気候変動との闘いにおいて、最も重要なのは温室効果ガスの排出ネットゼロの実現に貢献する産業(ネットゼロ産業)とし、同計画はネットゼロ産業に最適な環境をEU域内で提供することが目的だと説明した。

欧州委が支援を加速させる背景には、米国、日本、英国、カナダなどによる補助金競争の激化がある。特に、米国のインフレ削減法2022年10月6日付地域・分析レポート)に関して欧州委は、ネットゼロ産業などを念頭にEUの競争力に対する脅威とし、同計画は、米国のインフレ削減法に対する対抗策だと明言している。EUをネットゼロ産業の中心地にすべく、その生産拠点が域外に移ることを何としても防ぎたいとする欧州委の意図がみられる。EUでは、グリーン・ディール政策において、従来、ネットゼロ産業の研究開発や再生可能エネルギーの整備に支援の重点が置かれていたが、今後は同計画の下で、ネットゼロ産業の生産拠点に対する支援が本格化するとみられる。

同計画は、規制環境の改善と資金調達の支援を中心に、人材開発、貿易の促進を加えた4つの柱からなる。規制環境の改善に関しては、欧州委はネットゼロ産業法案を3月中旬に発表するとした。同法案は、バッテリー、ヒートポンプ、太陽光、水素生産用の電解槽、炭素回収・貯留技術などの生産拠点の展開における主要な障壁の1つとなっている許認可プロセスを簡略化する。許認可プロセスの各段階に審査期限を設定するとともに、許認可プロセスを同一の窓口で対応する「ワン・ストップ・ショップ」を加盟国ごとに導入する。

資金調達の支援に関しては、短期的および中期的な支援、そしてその橋渡しとなる支援を想定する。EU予算としては、橋渡し支援となる、既存のEU政策からの予算の振り分けが大部分を占める。大型の新規予算としては、EUレベルで補助金を提供する「欧州主権基金」構想が打ち出されているが、詳細は2023年夏までに発表としており、同計画には詳細は明記されていない。そこで、当面の支援の中心となるのは、短期的な支援として打ち出しているEU国家補助規制の緩和による、加盟国の補助金になるとみられる(2023年2月3日記事参照)。

EU予算から拠出されるのは、現時点では、復興基金の中核政策である復興レジリエンス・ファシリティー(RRF、2021年6月2日記事参照)の融資未割当分2,250億ユーロを含む、2,500億ユーロなどだ。欧州委は、加盟国に対して、復興計画を修正し、ネットゼロ産業の投資に対する税控除などを求めている。また、欧州委は、EUイノベーション基金の予算を活用して、グリーン水素の生産を支援するための競争入札を2023年秋から実施することを新たに発表した。落札者は、生産するグリーン水素について、1キロ当たりで設定されたプレミアム(奨励金)を10年間にわたり得ることができる。予算規模は8億ユーロとしており、詳細は6月に発表する予定だ。また、こうした支援を、太陽光、風力、バッテリー、電解槽などに必要な部品の生産に対しても拡大することを検討するとした。

(吉沼啓介)

(EU)

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