米USTR、2023年の通商課題を報告、IPEFで高水準の合意に向け集中的に交渉

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年03月02日

米国通商代表部(USTR)は3月1日、「2023年の通商政策課題と2022年の年次報告」を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした(注)。報告書に関するファクトシート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも発表している。バイデン政権は過去1年、パートナー国と協力し、今日の課題に対応する新たな通商政策を実施したと振り返り、共通の優先事項と価値観を追求するために米国が世界で主導的役割を果たす姿勢を示したとしている。

USTRは2022年の主要な成果として、米国主導の経済圏構想であるインド太平洋経済枠組み(IPEF)や、台湾との新たな貿易枠組み(2022年6月2日記事参照)の交渉開始、経済繁栄のための米州パートナーシップ(APEP)の発足(2023年1月30日記事参照)など、新たな通商枠組みの立ち上げを挙げた。また、2021年の報告(2022年3月2日記事参照)に続いて、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」の活用に言及し、メキシコでの労働権侵害に対処したことを自ら評価した(2023年1月31日記事参照)。

2023年の通商課題については、2022年と同様、労働者の権利保護を最初に掲げた。USMCAの効果的な執行に引き続き努めるほか、強制労働に対処するための通商戦略(2022年7月6日記事参照)を策定するために、既存の通商政策などを検証すると明記した。環境分野では、米国とEUが2021年10月に合意した鉄鋼・アルミニウムを巡る炭素排出と過剰生産問題に取り組む「世界持続可能鉄鋼取り決め」(2021年11月2日記事参照)の交渉妥結に向け、集中的に作業すると説いた。

中国との関係を巡っては、「労働者中心の通商政策の原則に基づいて、包括的で現実的なアプローチを取る」と主張した。これは画期的な国内投資から始まるとして、2022年に成立したCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)を通じて重要技術の能力強化などに取り組むとした。対中政策として国内投資を優先する姿勢は、バイデン政権の高官がこれまでも繰り返し訴えており、USTRも2月に発表した中国によるWTO協定順守に関する報告書で指摘している(2023年2月28日記事参照)。個別の対中政策では、1974年通商法301条に基づいて中国原産の輸入品に課している追加関税に関し、企業への影響を考慮し、今後も的を絞った適用除外手続き(2023年2月3日記事参照)を続け、さらなる適用除外の拡大も必要に応じて検討すると記した。

貿易相手国への関与については、IPEFは公平で強靭(きょうじん)な貿易を含む21世紀の課題に対応する枠組みと評価し、高水準の合意を目指すために2023年も集中的に交渉を行う意向を示した。一方、交渉の具体的な成果目標やスケジュールには触れていない。

(注)1974年通商法に基づき、大統領は貿易協定に関する取り組みやその年の政策方針について、毎年3月1日までに議会に報告を行う義務を負う。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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