日本企業との協業で誕生した、英国で人気を呼ぶ日本着想のお香

2026年9月8日

アールオブイースト(Earl of East外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は、ロンドン発のフレグランスおよびライフスタイルブランド。主にお香、キャンドル、ディフューザーなどのホームフレグランス製品を展開しており、「香りを通じたライフスタイルの提案」を行う。ロンドンでは4店舗を持ち、製品は世界300以上の店舗で取り扱われている。

数ある製品の中でも高い人気を誇る香りとして、日本に着想を得た「Onsen(温泉)」と「Shinrin-Yoku(森林浴)」シリーズがある。シリーズの中でお香は八丹堂(本社:栃木県日光市)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによるOEMという形で日本国内で製造され、日本のものづくりや文化的背景を反映したお香として開発された。日本企業と英国企業の協業や、英国市場における日本製のお香の魅力について、Earl of Eastのポール・ファーミン(Paul Firmin)氏にインタビューした。(取材日:2026年3月6日)

質問:
Earl of Eastにおいて、お香はどのような位置付けのプロダクトか。また、日本をテーマにした商品が生まれた背景は何か。
答え:
当社は2014年にビジネスをスタートし、その後、事業を拡大してきた。各プロダクトは特定の風景や体験から得たインスピレーションに基づいており、お香はその中核を担う重要な位置付けだ。
私たちは、お香を単なる香りの商品ではなく、「その土地の空気感や物語に触れる体験」と捉えている。これまで何度も日本を訪れる中で着想を得て、「Onsen(温泉)」や「Shinrin-Yoku(森林浴)」といった商品を開発し、2018年にキャンドルの香りとして販売を開始した。現在ではこれらはブランドを代表する人気商品となっている。

日本の森林浴に着想を得たお香「Shinrin-Yoku」(Earl of East提供)

日本との協業が生み出すブランド価値

質問:
日本での生産にこだわった理由と、パートナー選定の経緯は。
答え:
日本をテーマにした商品が支持を得る中で、日本文化を扱う責任の重要性を意識するようになった。その結果、「日本に着想を得たものは日本で生産すべきである」という考えに至った。
ジェトロ・ロンドンに相談し、複数の日本企業からサンプル提供を受けたが、いずれも品質は非常に高く、その中で八丹堂は、私たちの目指す世界観との親和性が最も高かった。また、和紙を用いた外箱が醸し出す雰囲気は、当社の「入浴文化」というコンセプトと深く通じるものがあり、非常に印象的であった。さらに、協業において重要な要素であるコミュニケーションのしやすさ、前向きな姿勢が決め手となった。
質問:
八丹堂との初対面で印象に残った点は何か。
答え:
ジェトロの支援を通じて事前に情報収集していたため、元々関心は高かった。実際に訪問して印象に残ったのは、家族経営ならではの温かみであり、手作業を大切にしたものづくりの姿勢であった。これはオンラインでは得られない体験だった。特に、八丹堂敷地内から出る湧き水を使用し、一つ一つの工程を丁寧に積み重ねている点は強く印象に残った。当社のコレクションが「入浴文化」に着想を得ていることもあり、この水が製品に奥行きを与えてくれると直感した。
こうした背景を実際に目の当たりにすることで、ものづくりに対する考え方の近さと、ビジネス上の相性の良さを強く実感した。

英国市場で広がる香りを通じた日本文化

質問:
英国市場において、日本のお香が受け入れられている理由をどのように分析しているか。
答え:
私たちの顧客は暮らしや空間の質を重視する層だ。彼らは香りを単に消費するのではなく、その背景にあるストーリーやプロセスを含めた体験そのものを重視している。そうした体験は、実際に使用する前、すなわち購入の段階からすでに始まっている。
日本製の商品であることは顧客にとって明確な価値であり、価格が日本製でない商品より高くても購入の妨げにはなっていない。むしろ、日本の地域に根ざした生産者と協業している点に対して強い共感が得られる。
日本の香りは繊細で洗練されており、その魅力を伝える方法を探ってきたが、体験やストーリーを通じて、その価値は十分に理解されている。こうした理解が、商品そのものの品質への信頼と相まって、長期的なファンの形成にもつながっている。
質問:
顧客の反応で印象的な点は何か。
答え:
私たちは店舗に立ち、直接顧客と対話することを重視している。製品の背景や現地での体験を共有することに対して、顧客は高い関心を示す。
単なる商品説明ではなく、「どのように作られたか」「どのような人たちと関わっているか」を伝えることが、価値として受け取られていると感じている。

日英におけるビジネス文化の違い

質問:
日本企業との協業において感じた課題と学びは。
答え:
意思決定に時間がかかる点や、商習慣の違いには難しさを感じた。一方で、一度プロジェクトが動き出すと、非常に強い当事者意識を持って取り組んでもらえる点は印象的だ。
また、多くの日本企業が海外展開に関心を持っているものの、物流対応やコミュニケーションの進め方といった基本的な実務対応が障壁となるケースがみられた。これらは他国では大きな課題になりにくい部分であり、品質以外の要素がビジネスの進展に影響を与えている点が印象的であった。
今回の経験を通じて強く感じたのは、パートナー選定においては商品の市場性だけでなく、進め方やスピード感といったプロセスの相性が極めて重要であるという点だ。
質問:
日本の生産者に伝えたいことは何か。
答え:
日本文化という観点から非常に興味深いと感じたのは、日本人が自国の文化が尊重されることを強く望み、丁寧に扱われた際に深い感謝を示す点だ。これは他の文化にはあまりみられない特徴だ。
西洋ブランドが日本に着想を得た商品を展開することに疑問を持つ声も英国内では聞かれることがあるが、私たちの顧客は、それを安心感や、より深いつながりをもたらすものとして受け入れている。
日本文化に内在する静けさや穏やかさは、人々の感情に深く作用する力を持っていると考える。だからこそ、日本の生産者には、海外ブランドとの協業を通じて、自らの中にすでにある価値に自信を持ち、安心してそれを外に届けていってほしいと考えている。
質問:
今後の展望は。
答え:
現在、お香にとどまらず、檜(ひのき)素材や陶芸など、日本の要素を取り入れた取り組みを進めている。目指しているのは単なる商品開発ではなく、「日本で作られていることを体感できる世界観」の構築だ。
そのために重要なのは、製品の完成度だけではない。どのように作られ、どのような関係性のもとで生まれたかというプロセスそのものが価値となる。
英国市場で求められているのは、まさに人々の生活や感情に深く入り込む体験であり、それは単なる製品ではなく、その背景やものづくりのプロセス、そして関係性によって支えられている。

創業者のニコ・ダフコス(Niko Dafkos)氏(左)とポール・ファーミン(Paul Firmin)氏(同社提供)
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
小林 慶(こばやし けい)
2018年ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課、ジェトロ熊本を経て、2022年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
荒川 伶奈(あらかわ れいな)
2022年、株式会社山梨中央銀行入行。
2025年からジェトロ出向。海外ビジネスサポートセンター貿易投資相談課を経て、2026年4月から現職。