中国が政府調達制度の新政策を策定、効率化・透明化を推進

2026年10月15日

中国の財政部と国家市場監督管理総局は2026年5月15日、「地方政府調達電子モールの質の高い発展の推進に関する指導意見」(財庫〔2026〕8号)(以下、意見)を策定し、同年6月1日に公布した。本意見は、政府調達制度改革の加速および全国統一市場の構築を背景として、電子モール(オンライン上の政府調達プラットフォームの一種)の管理強化と、財政資金使用の規範化を目的として策定された。本レポートでは、「電子モール」および「フレーム契約」という2つの概念や変遷を整理し、本意見で示された具体的な内容を解説する。今後、地方政府や政府調達機関向けに物品を販売する日系企業にとっては、参入手続きや基準の明確化が期待される一方、商品や取引の内容に応じた要件、地域ごとの運用および制度上の制約に留意し、価格設定、商品登録および販売管理の状況を確認する必要がある。以上を踏まえ、本意見による企業への影響や、実務的に懸念される参入障壁や制度上の制約を考察する。

なお、本意見は「中華人民共和国政府調達法」「中華人民共和国価格法」「党政機関における節約励行浪費反対条例」などの関連規定に基づいている。

小額・随時の政府調達を支える電子モールの発展

電子モールは、電子化の進展と制度改革の過程で段階的に形成されてきた。

2002年に制定された「中華人民共和国政府調達法」が、公平・公正・公開を原則とする政府調達制度の基礎を定めた。これに先立ち、政府調達情報を公開する公式サイト「中国政府調達網」は2000年に開設されたが、当時調達は主にオフラインで実施されており、電子モールは概念自体がなかった。

2010年代以降、小額・小口の取引における効率性の向上やおよび透明性の確保のため、政府調達制度改革の一環として電子モールの整備が進められた。各地方でプラットフォーム(政采雲やネットモールなど)が構築され、試行が開始された。

こうした動きを受け、2018年の「深化政府調達制度改革プラン」で、政府調達とインターネットの融合の推進や、クラウドコンピューティング、電子商取引の活用強化方針が打ち出された。

2021年に公布された「中央国家機関政府調達電子モール管理弁法」で電子モールが初めて明文化され、その機能・取引方式・管理体制を体系的に規定した。2023年の改正で、小額・随時の調達に対応する電子化プラットフォームとして位置づけが改めて整理された。

表1:中国における電子モールの整備・普及および関連制度・政策
時期 制度・政策 内容 意義
2002年 「中華人民共和国政府調達法」制定 公平・公正・公開の原則を確立。調達は主にオフラインで実施 政府調達制度の基本枠組みの確立(電子モール概念なし)
2010年代以降 地方における電子モール試行(政采云・ネットモールなど) 小額・零細取引の効率化・透明化を目的にオンライン調達プラットフォームを整備 電子調達の実務的導入、普及の開始
2018年 「深化政府調達制度改革プラン」 政府調達とインターネットの融合、クラウド・電子商取引の活用を推進(明確な定義は未提示) 電子モールの概念が政策レベルで提示される
2021年 「中央国家機関政府調達電子モール管理弁法」公布 電子モールを公式定義:供給者が商品、サービスを掲載し、限度額以下の取引を行うオンラインプラットフォーム。機能、取引方式、管理体制を規定 電子モールが制度として正式に確立
2023年 「中央国家機関政府調達電子モール管理弁法」の改正 小額・随時の調達に対応する電子化プラットフォームとして再定義 実務ニーズに即した制度の高度化、適応

出所:各政府発表を基にジェトロ作成

今回の「意見」では、電子モールは、「商品の追跡が可能」「データの検索が可能」「価格の比較が可能」「責任の追及が可能」という運営体系の構築を目標としている。また、全ての調達行為を電子モールで実施することが義務付けられているわけではない。

小額・多頻度の調達を効率化する2段階のフレーム契約

フレーム契約制度は、たとえば事務用品などのような小額かつ頻繁に発生する政府調達について、案件ごとに入札を繰り返すことなく、効率的に契約者を決定するための仕組みである。調達の効率性を高めつつ、事業者間の競争を維持できる点に制度の意義がある。

手続きは2段階で構成される。第1段階では、集中調達機関または予算所管機関が公募により候補事業者を選定し、将来の調達に適用する手続き、条件および基準などを定めたフレーム契約を締結する。この段階では具体的な案件は発生・確定せず、今後の調達案件の基礎となる条件などを設定する。第2段階では、具体的な調達ニーズが生じた際に、募集要項およびフレーム契約で定めていた内容・条件などに基づき、候補事業者の中から契約相手方を決定し、個別契約を締結する。

フレーム契約調達はクローズド型とオープン型に区分されており、中国では主にクローズド型が採用される(注1)。クローズド型では第1段階の公開競争を通じ、候補業者を絞り込む。その淘汰(とうた)率は原則20%以上とされ、最低1社を淘汰する必要がある。選定方法には「価格優先法」と「品質優先法」があり、一般的には価格優先法が採用される。第2段階では、品質と価格を総合的に評価する方法のほか、候補業者に順番に発注する順番制や再競争(ミニ入札)などの選定方法も利用可能である。以上の仕組みにより、手続きの効率化と競争性の確保を両立している。

2000年代初頭、中国における政府調達制度改革は急速に進展したが、小額・多頻度の調達に関しては既存制度だけでは対応が困難だった。このため、2004年の関連弁法で、事前合意契約による調達方式や、あらかじめ指定した事業者を通じての調達方式が導入された。しかし運用を通じて、価格の不透明性や品質問題、競争制限といった課題が顕在化した。

これらの課題を解消するため、2022年に「政府調達フレーム契約方式管理暫定弁法」が公布され、フレーム契約という新たな法定調達方式が確立された。小額・多頻度の調達の効率化や、透明性と競争性の向上を目的とするものと言える。

表2:中国におけるフレーム契約の整備・普及および関連制度・政策
時期 制度・政策 内容 意義
2000年代初頭 政府調達制度改革の進展 政府調達制度は急速に整備されたが、小額・多頻度の調達に関する明確な制度が未整備 小額・頻発取引に制度的空白が存在
2004年 「政府調達における物品およびサービスの入札に関する管理弁法」 公開入札による事前合意契約による調達方式、協議供給および及びあらかじめ指定した事業者を通じての調達方式定点調達を導入し、小額調達を制度化 価格不透明、品質問題、競争制限などの問題が顕在化
2022年 「政府調達フレーム契約方式管理暫定弁法」 フレーム契約方式を正式な調達方式として導入 小額・多頻度調達における競争性・規範性の確保

出所:各政府発表を基にジェトロ作成

フレーム契約の制度下で、電子モールは、主として第2段階で用いられる基盤として機能する。つまり、この範囲では、電子モールはフレーム契約とは別個の調達方式ではなく、フレーム契約に基づく個別調達をオンライン上で実施するための仕組みとして位置付けられる。多くの地域では、既に両者の一体的な運用が進められていた。今回の「意見」により、電子モールの位置付けが明確化され、全国で統一的な運用の方向性が示された。

電子モールの取引透明化と競争強化が企業に与える影響

上記制度の枠組みを前提として、今回の「意見」では電子モールの取引ルールや監督体制が具体化された。その内容に基づき、今後、各地方省などで制度や運用の整備が進むものとみられる。以下では、本意見で示された主な内容と、企業に与えうる影響について整理する。

対象商品は、大きく目録内商品(注2)と目録外商品に区分される。目録内商品については、関連法令に基づき供給業者および製品要件が厳格に規定されている。他方、目録外商品については、電子モール供給業者および商品参入条件の確認が必要とされるが、ブランド、規模、業種、地域、投資家の国籍などを理由とする参入障壁の設定は禁止されており、サプライヤーに対する差別的取り扱いも認められていない。

また、電子モールに登録される商品は、市場流通品であること、国家強制標準(GB12904)に適合したバーコードを有すること、特注品でないことなどの要件を満たす必要がある。従って、市場価格データが存在しない商品は登録ができない。

これらの商品区分は既存制度上でもあったが、従来の政府調達では高額落札や談合といった問題が継続的に指摘されてきた。公開入札制度の下で一定の規制が設けられているにもかかわらず、これらの問題は十分には解消されていない。特に、非公開かつ不透明なオフライン調達では、特定業者への偏重的発注やルート指定といった不適切な実務の存在が指摘されている。また、価格の妥当性を客観的に検証する仕組みが不十分であったことが、価格の不透明性を助長していたと考えられる。

このような不透明性の課題に対応するため、本意見では制度設計が見直され、「参考価格制度」の導入が示された。同制度の下では、市場データに基づき各商品に参考価格が設定され、一般に市場販売平均価格を上回らない水準とすることが想定される。また、ビッグデータおよび人工知能(AI)技術の活用により、価格動向の継続的な監視が実施され、参考価格を上回る商品には価格の見直しや掲載の削除を促す仕組みの構築が予定されている。さらに、電子入札、オンライン競争入札、逆オークションなど(注3)の導入により、価格決定過程の透明性や競争性の向上が期待される。

これらの措置により、価格競争は制度的に強化され、従来のようにブランド価値のみに依拠した高価格の維持は困難となる。加えて、調達機関に対してもコスト意識の強化が求められ、より有利な条件が存在する場合には電子モール外調達も許容されることから、調達行動全体における経済合理性が一層重視される構造となっている。その結果、高価格帯の製品は、価格指標による規制の影響を受け、競争上の制約に直面する可能性がある一方で、コスト競争力を有する企業にとっては有利に作用する環境が形成されているといえる。

さらに、電子モールは単なる取引プラットフォームにとどまらず、政策誘導機能を有する特徴がある。すなわち、専用コーナーや特設ブースの設置を通じて、革新的な製品、環境配慮型商品、中小企業製品、障害者福祉事業者の商品などの優先的調達が促進され、政府の政策目的の実現に寄与する設計となっている(注4)。

今後は、政府調達のデジタル化や市場統合がさらに進展することが見込まれる。電子モールの省単位での統合が実現すれば、従来の地方分散型市場から広域統合型市場への移行が進むとともに、中央システムとの連携を通じて商品、価格、取引データの全国的共有が実現する可能性がある。加えて、デジタル証書(CA)(注5)の相互認証や電子証照の導入により参入手続きの簡素化が進むとともに、市場監視機能の高度化も期待される。

コンプライアンスの観点からは、価格操作、ダンピング、不当価格設定、差別的取り扱いなどが禁止行為として規制されており、違反時には行政処分などのリスクが生じ得る。また、電子モール運営機関の独立性の確保および情報セキュリティの強化も重要な要件として位置付けられている。

以上を踏まえると、本制度の下では市場原理に基づく透明性および競争性の強化が進展しており、日本企業にとっては、価格設定の透明性確保と内部統制の一層の強化が肝要だ。

参考価格の設定と市場参入を巡る制度・運用上の課題

中国の政府調達制度の改善は進展しつつある一方、実務的には複数の参入障壁が依然として存在すると考えられる。主な課題は次のとおり。

  1. 参考価格の設定上の問題。参考価格の算定方法や、データ処理の方法に不透明な点が残る。また、市場価格は地域差や取引条件、流通構造の違いにも左右されるため、一律の基準として用いることによって、必ずしも実態を正確に反映しないケースが生じ得る。
  2. 価格競争の偏重。「最低価格による落札」が過度に重視されると、入札評価基準が価格要因に偏り、製品の品質やサービス水準が軽視される可能性がある。その結果、「低価格・低品質」という問題が生じやすくなる。品質やブランド価値を重視する日本企業にとっては、価格優位性を有する現地企業との競争において不利な立場に置かれる可能性がある。
  3. 調達担当者の専門能力不足。政府調達には法律や技術など多岐にわたる知識が求められるが、一部の機関では専門人材が不足しており、調達に関する意思決定や審査の質に影響を及ぼしている。

以上のように、政府調達の電子化は不透明性や非効率性の改善に寄与することが期待される一方、地域ごとに異なる運用ルールや登録手続き、参入条件を巡る課題などは依然として残されている。今回の「意見」はこれらの課題の是正を目指しており、政策が具体化すれば市場の透明性や効率性向上に繋がる可能性がある。他方、参考価格の設定、価格競争への偏重、人的リソースなどの運用上の課題にも留意する必要がある。また、これらの課題に加えて、国産品優遇制度や情報セキュリティ政策(注6)などの別な法制度上の制約からも、政府調達の市場参入のハードルは高まる傾向にある。


注1:
クローズド型は、競争によって候補事業者を選定した後、その名簿は原則として固定される(新たな事業者を追加できない)一方、オープン型は、調達者が定めた所定の条件を満たせば事業者は随時参加でき、名簿も動的に更新されるという違いがある。 本文に戻る
注2:
目録内商品は以下から確認できる。 政府集中調達とは、調達者が集中調達目録に掲載された案件について、集中調達機関に代理調達を委託するか、あるいは部門による集中調達を行うことを指す。 本文に戻る
注3:
オンライン競争入札とは、電子調達システム上で複数のサプライヤーが価格を提示し、競争によって供給者を選定する方式。
逆オークションとは、複数の供給者が受注獲得のため価格を引き下げて競争し、最も有利な条件を提示した供給者を選定する方式。 本文に戻る
注4:
政府調達関連の支援策として、以下の政策を例に挙げる。これらの政策の推進を目的として、調達担当者を誘導するための専門コーナーを設けた。
注5:
デジタル証書(CA)とは電子認証サービス機関が発行するものであり、証書保有者の身元情報および電子署名検証データを記載し、電子署名の真正性と信頼性を証明する証明書をいう。 本文に戻る
注6:
中国米国商会の白書などによれば、「安可」(安全でコントロール可能、原文は「安全可控」)、あるいは、「信創」(情報技術応用イノベーション、原文は「信息技術応用創新」)と呼ばれる制度が 2019年より整備され、何等かの基準を満たした製品が当該制度に基づきリスト化され、当該リストに掲載された製品・サービスしか政府調達において採用されないという情報が寄せられている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
鄭 慧(テイ ケイ)
2010年からジェトロ・北京事務所勤務。