グローバル人材を次々と輩出するインド。教育改革の現状と課題

2026年8月31日

インドは、世界有数のIT人材供給国として存在感を高めている。米国グーグルの最高経営責任者(CEO)のスンダル・ピチャイ氏や、マイクロソフトのサティア・ナデラ会長兼CEO(両者とも2026年8月時点)に代表されるように、インドで教育を受けた人材がグローバル企業の経営を担っている。また、7月2日にニューデリーで開催された日印首脳会談では、人工知能(AI)分野の協力に関する共同声明が発表され、2030年までにインドから500人の高度AI人材を日本に招き、共同研究や人材交流を進める方針が示された。

インドでは以前から、国内で教育を受けた人材がグローバル企業で活躍してきた。こうした人材供給力をさらに強化するため、近年では教育改革が進められている。一方で、地域間格差や教育と雇用のミスマッチが、人材供給力を維持・強化する上での課題となっている。本稿では、教育制度の現状や英語教育の特徴を述べるとともに、顕在化する地域間格差の課題を整理していく。

「10+2制度」から「5+3+3+4制度」への抜本改革

インド人的資源開発省(現:教育省)は2020年に教育改革の基本方針「National Education Policy 2020(NEP2020)」を策定し、同国の教育制度が34年ぶりに抜本的に改革された。インドでは長年、「10+2制度」と呼ばれる教育体系が採用されてきた。この制度は、6~16歳までの10年間の一般教育(Class1~10)と、16~18歳までの2年間の高等中等教育(Class11~12)で構成される。しかし、「幼児教育の位置付けが不十分」であることや、「試験や受験対策を目的とした暗記中心の学習形態」が課題として従前から指摘されてきた。NEP2020では、これらの課題を改善するため、教育体系を「5+3+3+4制度」へ改編した(表1参照)。新制度では、3~6歳の就学前教育を教育体系へ組み込み、児童の発達段階に応じた学習を重視するとともに、暗記型から思考力・創造力を育成する教育への転換を目指している。

表1:NEP2020が定義する「5+3+3+4制度」の教育体系注:年齢はNEP2020の表記による。インドでは、教育段階の対象年齢を開始年齢から終了年齢までの範囲で示しているため、各段階の境界に当たる8歳、11歳、14歳が前後の教育段階にも含まれる。一方、日本では学年終了時の年齢を基準に表記するため、一般的な学齢表記では、基礎段階は4~8歳、準備段階は9~11歳、中間段階は12~14歳、中等段階は15~18歳に相当する。
教育段階 年齢 対応学年 期間 主な教育内容
基礎段階
Foundational Stage
3~8歳 就学前3年+Class1~2 5年 遊びや体験を通じた学習、身体・認知・社会性・文化芸術・コミュニケーション能力の発達を促し、読み・書き・計算の基礎力を育成する。
準備段階
Preparatory Stage
8~11歳 Class3~5 3年 基礎段階の遊びや体験型学習を発展させつつ、教科書や双方向型授業を導入し、体育、芸術、言語、科学、数学などの各教科の基礎を築く。
中間段階
Middle Stage
11~14歳 Class6~8 3年 理科・数学・芸術・社会科学・人文学などの分野で、より抽象的な概念を議論するため、教科ごとに担当教員を配置。体験型学習、教科横断的な学習を重視。
中等段階
Secondary Stage
14~18歳 Class9~12 4年 批判的思考力を強化するとともに、柔軟な科目選択を可能とし、将来の進路相談も実施。

注:年齢はNEP2020の表記による。インドでは、教育段階の対象年齢を開始年齢から終了年齢までの範囲で示しているため、各段階の境界に当たる8歳、11歳、14歳が前後の教育段階にも含まれる。一方、日本では学年終了時の年齢を基準に表記するため、一般的な学齢表記では、基礎段階は4~8歳、準備段階は9~11歳、中間段階は12~14歳、中等段階は15~18歳に相当する。

出所:インド人的資源開発省「National Education Policy2020」を基にジェトロ作成

NEP2020が目指す多言語・体験型の言語教育

多くの学校では基礎段階(Foundational Stage)から「三言語方式」に基づき、母語を含む多様な言語を学ぶのが特徴的だ。学習言語のうち2つはインド言語に限られるが、残り1つは各州・地域、もしくは生徒自身によって柔軟に選択することが可能となっている。例えば都市部の私立校では、英語を使用言語とする「英語教育校(English Medium School)」が普及しており、数学、理科、社会、コンピューターなどの教科を母語や地域言語ではなく、英語で学んでいる。生徒は英語を学ぶだけでなく、英語を使いながら知識を習得する環境下に置かれている。加えて、英語による発表や討論、プレゼンテーションを通じて、実践的なコミュニケーション能力の向上が図られている。

次の写真は、公立学校のFoundational Stage(3~8歳)の英語学習の様子だ。授業では、児童が絵本を見ながら動物や昆虫の名前を英語で表現するだけでなく、その大きさや色、特徴など、絵から読み取った情報についても英語で表現する。これは、児童が主体的に学びながら言語を習得する「体験型学習」の一例だ。

従来の暗記型学習では、教師の説明を聞き、単に単語や文章を復唱するなど、語句の意味や使い方を十分に理解できない場合がある。一方、体験型学習では、視覚的な手がかりや実践的な活動を通して単語や文の意味を理解できるため、児童の学習意欲を高めるとともに、理解の深化につながる。また、自ら考えながら英語を用いる場面が多いため、言語をより自然に習得することができる。その結果、コミュニケーション能力の向上につながり、英語で適切かつ自信を持って応答できる能力の育成が期待される。


絵本を用いた英語学習の様子(1)(ジェトロ撮影)

絵本を用いた英語学習の様子(2)(ジェトロ撮影)

地域間教育格差の現状

インドの教育分野の大きな課題の1つに「地域間の教育格差」がある。その背景には、「経済発展の差」「インフラ整備の遅れ」「教員数や教員の質の差」などが挙げられる。特に農村部や山岳地域では、校舎やICT設備が不十分で、通学環境が整っていない場合が多い。さらに、貧困やジェンダー格差によって、就学や継続的な学習が妨げられる事例もある。

地域間の教育格差を示す定量指標として、インド教育省は2017年、各州・連邦直轄領の学校教育の成果を総合的に評価する指標「Performance Grading Index(PGI)」を導入した。表2はPGIの評価項目を示したもので、全6項目、合計1,000点満点で、各州・連邦直轄領の学校教育システムのパフォーマンスをスコア化している。

表2:PGIの評価項目の説明
項目 内容
(1) 学習成果 計算能力や言語能力などの学習到達度
(2) 教育アクセス 各教育段階における就学率や進学率など
(3) インフラ整備 実験室、図書室、給食の提供など、教育施設の充実度
(4) 公平性 性別・宗教別に関係なく公平に教育を受けられているか
(5) 行政・ガバナンス 教育政策の実施状況や学校運営の効率性
(6) 教員養成・研修 専門資格を有する教員の割合など

出所:インド教育省「Performance Grading Index2.0 for States/UTs 2025-26」を基にジェトロ作成

表3は、2025年度(2025年4月~2026年3月)のPGIスコアに基づく州・連邦直轄領の上位・下位10地域(全36地域)を示している。最も高いのは北部の連邦直轄領チャンディガルの766.0ポイントである一方、最も低いのは北東部メガラヤ州で525.7ポイントだった。西部、北部および南部の州は比較的高いスコアであるのに対し、北東部では低い傾向がみられ、地域間の経済発展の格差が教育水準にも反映されていることがうかがえる。特にメガラヤ州は大半が山岳・丘陵地域であり、集落が広範囲に点在している。このため、学校への通学が困難な地域が多く、教育インフラの整備や教員配置にも課題を抱えている。

しかし、2024年度から2025年度にかけて、メガラヤ州のPGIは大きく改善している(前年差77.7ポイント増)。その背景には、2018年に同州政府が独自の教育政策「Meghalaya State Education Policy」を策定し、教育の質の向上や教員育成、学校インフラ整備などを重点課題として推進してきたことがある。こうした取り組みが、PGIスコア向上の一因になったと考えられる。

表3:PGIスコアに基づく州・連邦直轄領の上位・下位10地域(全36地域)
項目 州・連邦直轄領 位置 PGIスコア
2025年度 2024年度
上位
10地域
チャンディガル 北部 766.0 739.1
ダドラ・ナガルハベリおよびダマン・ディウ 西部 723.8 683.2
パンジャブ 北西部 723.6 709.1
ケララ 南西部 716.8 687.7
デリー 北部 712.2 675.5
ラクシャディープ 南西沖 672.8 587.7
ヒマーチャル・プラデシュ 北部 672.3 659.2
ゴア 西部 664.6 613.2
マハーラーシュトラ 西部 654.6 649.8
オリッサ 東部 651.5 655.2
下位
10地域
マディヤ・プラデシュ 中部 566.8 574.1
ビハール 東部 564.8 507.0
トリプラ 北東 563.4 559.0
ジャールカンド 東部 555.0 531.1
ミゾラム 北東 549.7 507.9
マニプール 北東 547.7 557.0
ジャンム・カシミール 北部 547.0 500.2
ナガランド 北東 544.2 536.6
アルナーチャル・プラデシュ 北東 541.7 527.0
メガラヤ 北東 525.7 448.0

出所:インド教育省「Performance Grading Index2.0 for States/UTs 2025-26」を基にジェトロ作成

地域格差と教育・雇用のミスマッチが課題

インドの教育制度は、NEP2020による「5+3+3+4制度」への移行を通じて、従来の暗記中心の学習から、思考力や創造力を重視する教育への転換期にある。特に、対話型・体験型の学習を重視する教育は、児童が主体的に学びながらコミュニケーション能力を身に付ける上で重要な役割を果たしている。また、都市部の英語教育校では、英語を授業言語として各教科を学ぶ様子もみられる。

一方で、地域間の教育格差は依然として大きな課題であり、経済発展の格差やインフラ整備の遅れが教育機会や学習成果に影響を及ぼしている。しかし、近年ではPGIスコアによる教育水準の可視化や、州独自の教育改革の推進により、格差是正に向けた取り組みも着実に進展している。また、昨今は中等教育(Secondary Stage)以上の学歴を持つ若年層が増加しているが、失業者全体に占める同層の割合も2000年の54.2%から2022年には65.7%と増加している(注)。企業側が求める能力との間にミスマッチが顕在化しているとみられ、教育と雇用の共存共栄が新たな政策課題となっている。今後、「教育の質の向上」と「地域間格差の縮小」に加え、「産業界のニーズを踏まえた人材育成や質の高い雇用創出」を進めることで、同国の持続的成長と国際競争力の強化の実現につながっていくだろう。


注:
国際労働機関(ILO)とインド人間開発研究所(IHD)共同の公表レポート「India Employment Report 2024」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
野本 直希(のもと なおき)
2016年大手生命保険会社入社、ジェトロ調査部アジア大洋州課を経て2026年4月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ムンバイ事務所
ジーナット・シャウルカル
2013年からジェトロ・ムンバイ事務所勤務。現在は同事務所にてJapan Mallプロジェクトを担当。