アパレル産業に、高い「倫理性」の競争力(スリランカ)

2026年1月6日

アパレルは、スリランカで最大の輸出産業。当地の経済成長を支えてきた。アジア地域にはほかにも多くの縫製拠点となる国が存在する。その中で、ニッチな高付加価値市場をターゲットに、欧米の大手アパレルブランドから信頼される製品を持続的に生産してきたことになる。

本稿では、当地アパレル産業の強みを「倫理性」というキーワードから探る。

スリランカの輸出を支えるアパレル産業

アパレルは、スリランカ経済で最大の輸出産業だ。これまで、国際市場向けの製造に特化して発展してきた。1977年の経済自由化を契機に海外ブランドの生産拠点が進出し、国内企業も輸出志向型に転換した。

輸出額は2024年時点で、約51億ドル。総輸出額の4割超を占める(注1)。主要な輸出先は米国、英国、EU。世界的ブランドの主要サプライヤーになっている。具体的には、ギャップ(米国)、ナイキ(米国)、トミーヒルフィガー(オランダ)、トリンプ(スイス)、マークスアンドスペンサー(英国)、インティミッシミ(イタリア)などだ。

スリランカのアパレル産業には、大企業も中小企業もある。ただし、輸出志向の衣料品工場の大半が中小企業。立地も、全国に分散している。

アジア地域にはアパレル製品の製造拠点が多く存在する。スリランカはその中で、高付加価値なニッチ市場を切り開いてきた。構図としては、中国が規模とスピード、バングラデシュが価格重視の大量生産で優位に立つ。これに対してスリランカは、(1)高いカスタマイズ性、(2)迅速なサンプリング、(3)複雑な装飾を必要とする生産を得意とする。スポーツウェアやランジェリー、ラウンジウェア、ブライダルウェア、ワークウェア、スイムウェア、子供服など、幅広い製品を手掛けてきた。

こうした技術力や品質もさることながら、スリランカのアパレル産業の最大の強みは、労働者の福祉や人権尊重に対する揺るぎないコミットメントにある。グローバルなファッション・アパレル業界では、「倫理的ビジネスおよび製造慣行(Ethical Business and Manufacturing Practices)」の観点から世界有数の調達先の1つとしての認識が広く根強いのだ。

そこで以降では、スリランカのアパレル産業の「倫理性」にフォーカスする。その上で、業界の取り組みを概観していく。

「罪悪感のない衣料品」を追求

スリランカのアパレル産業は、「罪悪感のない衣料品(Garments without Guilt)」というキャンペーンを掲げる。児童労働や強制労働、あらゆる差別、過酷な労働環境を排除し、スリランカ製アパレルの倫理性を世界にアピールしている。2005年には、繊維・衣料品輸出のクオータ制度(注2)が廃止に。その結果、低コスト・大量生産型競合国(インドや中国、バングラデシュなど)との競争が激化した。そのことを受け、価格ではない差別化戦略として2006年に打ち出したかたちだ。

この戦略の下、スリランカ投資委員会(BOI)が発行するガイドラインに基づき、全工場に従業員評議会を設置。労使対話を通じて課題解決に取り組んでいる。大半の工場で、現地法とバイヤーの要求事項への遵守を確認するため、独立した第三者監査を受けることを義務付けている。また業界団体のスリランカ合同アパレル協会フォーラム(Joint Apparel Association Forum:JAAF)は、キャンペーンに基づいて、「GWG認証」を設定。工場の倫理的製造を保証している(注3)。

スリランカ製の衣料品の倫理性を海外バイヤーに打ち込む上で、カギになっているのが国際認証の取得や評価ツールの活用だ。スリランカでは、アパレル製造業者の多くが、積極的に社会的コンプライアンスや品質・安全性に関する国際認証を取得している(表参照)。こうした認証を取得することにより、自社の取り組みを客観的かつグローバルな水準で評価してもらうことができる。そのため、海外市場での差別化や、製品の信頼性向上につながる。

表:スリランカのアパレル工場の多くが準拠している国際的な認証・評価の例
認証・評価の名称 重点分野 認証・評価の内容
Worldwide Responsible Accreditation Production(WRAP) 倫理的な生産 衣類・履物・その他縫製品工場向けに、12の原則(「労働安全」「法令遵守」「環境保護」「労働者の権利」など)に基づき、工場の社会的責任を保証する国際認証。
SA8000 社会的責任 国際労働機関(ILO)基準に準拠し、児童労働・強制労働の禁止、労働時間管理、健康・安全、差別撤廃を検証する。
ISO 9001 品質管理 品質マネジメントシステムの国際規格。製品の一貫性、顧客満足、継続的改善を保証する。
OEKO-TEX® Standard 100 繊維の安全性 繊維製品に有害化学物質が含まれていないことを試験・認証。消費者の安全を確保する。
Global Organic Textile Standard(GOTS) オーガニック・持続可能な繊維 オーガニック繊維の使用を保証。持続可能な製造工程(「化学薬品の制限」「水質管理」「社会的基準」など)を認証する。
Fairtrade certification 公正取引・社会的責任 生産者に公正な価格を保証。労働者の権利保護、環境保全、地域社会の持続可能な発展を促進する国際認証。
Higg Index サステナビリティー評価 アパレル製品のライフサイクル全体で環境・社会的影響を評価する指標。企業のサステナビリティーに関してパフォーマンスを測定するための国際的なツール。

注:SA8000、ISO 9001、Fairtrade certificationは、アパレル製品以外も対象にした認証。
出所:Modknits、Sri Lanka Apparel Sourcing Association

例えば「Worldwide Responsible Accredited Production(WRAP)」は、世界最大の衣類・履物・その他縫製品向け工場認証制度だ。安全かつ合法で倫理的な製造プロセスを定めた12のWRAP原則(注4)に適合していることを保証している。WRAPの最高経営責任者(CEO)アヴェディス・セフェリアン氏は「スリランカのアパレル産業は、社会的コンプライアンスとサステナビリティーの面で長年にわたり一貫した努力を続けている」と評価する(注5)。同氏によると、当地にはWRAP認証を取得した企業が27社、工場が112拠点存在。バイヤーからの要求がなくても、工場の多くが自主的に認証を取得している。さらに認証取得後も、最低基準を超える取り組みを推進。従業員の福利厚生や女性の活躍推進などを積極的に進めているという。

中小企業の取り組み促進に国際プログラムを活用

このように、持続可能で倫理的なアパレル生産の取り組みで先行してきたスリランカ。しかし、大企業に比べると、中小企業は後れを取っている。

スリランカ輸出開発局(EDB)の担当者によると、「特に人権尊重の取り組みは海外バイヤーからの要請で取り組み始めるケースが多い。これに対して、中小企業はしばしば、海外バイヤーとの接点がそもそもない」。まさにこれが1つの要因だ(注6)。国際連携が進む中、中小企業に対するキャパシティービルディングに取り組んでいる。

国際プログラム「Global Programme on Textile and Clothing(GTEX)」の活用が一例だ。GTEXは、国際貿易センター(ITC)が主導する国際プログラムで、繊維・衣料品関連の中小企業が競争力を強化する上での技術支援を講じる。スリランカは、第2フェーズ(GTEX2/2024年~2027年)に参加中だ(注7)。

このプログラムにはスイス政府が資金を提供。EDBやJAAFと連携しながら、ITCが技術支援する。スウェーデン国際開発協力庁(SIDA)、国際アパレル連盟(IAF)も支援している。狙いは、中小企業の輸出能力を向上すること、持続可能な雇用創出と貧困削減に貢献すること、だ。

特に、社会的コンプライアンスと環境基準への対応に焦点を当てた支援が進んでいる。具体的には、ワークショップや個社向けのコーチングなどを実施。例えば社会的コンプライアンスに関するワークショップでは、(1)人権・安全衛生・環境などに関する国際的なコンプライアンス基準〔前述のWRAPや「労働環境基準統合プログラム(SLCP)」「倫理的取引イニシアティブ(ETI)」など〕を満たすための知識や、(2)コンプライアンス管理システム(CMS)に関する実践的なトレーニングを提供済みだ。中小企業がサステナビリティーに対する知識を得て、具体的な実務対応を学ぶ機会になっていることがわかるだろう。

YKKランカに見る人権尊重の取り組み

在スリランカの日系アパレル関連企業も、人権に配慮した倫理的製造に取り組んでいる。ここでは、YKKグループの現地法人として、ファスニング商品の製造・販売を手掛けるYKKランカを取り上げる。

YKKランカは、グループ全体の方針に基づき、人権デューディリジェンス(DD、注8)を実施している。DDの範囲は、自社・グループ会社からTier1サプライヤー、Tier2以降のサプライヤー、調達・出荷物流にまで及ぶ。塗料や原材料などグループ一括調達品は、本社が確認。一部の国内調達品については、本社からの質問票を用いてリスクを確認した後に、契約を結ばなければならない。2次サプライヤー以降に対しては、1次サプライヤーを通じて確認を取るかたちで質問票に回答してもらっている。

顧客からの人権に対する取り組み要請も根強い。欧米の大手アパレルブランドからは、監査を毎年受けている。例えば、(1)未成年労働者や過重労働の有無、(2)製品の用途(核兵器利用の有無など)、(3)制裁対象国(イランなど)に渡っていないかなど、詳細な人権項目についてチェックを受ける。顧客監査は2010年代から強化が進んだ。また、監査を実施するブランド数も増えてきた。直近ではほぼ毎月、複数ブランドが監査を実施してくる状況にある。

独自に内部監査する取り組みもある。年間計画に基づき、地域統括会社が実施する監査のほか、南アジア域内の自社拠点自体が毎年相手を変え、相互に監査している。当地拠点の場合、例えば2024年はバングラデシュ拠点と、互いの取り組みをベンチマークにした。また2025年はパキスタン拠点と組んでいる。今後は、例えば欧州拠点と実施するなど、地域をまたいだ相互監査も検討している。

人権に関する教育・通報体制も整備している。従業員にはまず、入社後3カ月の試用期間中に訓練を施す(基礎トレーニングと小テストで理解度を確認)。マネージャー層にも、定期トレーニングを継続。各部署への落とし込みを必須にしている。また、グループ全体の施策として毎年「コンプライアンス強化月間」などのテーマ企画がある。さらに、トップが巡視して、現場を点検する。この際に、細かな点(例えば、破損工具を使用していないか)を含め、労働安全衛生や品質などに関して指摘する。内部通報は、統括会社(アジア拠点の場合はシンガポール)へ24時間、匿名で通報可能だ。通報を受けると、各社社長にフィードバックの上、調査が始まる。社外ステークホルダーからの通報は、グループ共通の窓口で受け付けている。

YKKランカの田中圭マネージングディレクターは、人権DDを実施することの効果について「特に外部へのイメージ向上が大きい」と語る(注9)。スリランカの労働省が開催する「Social Dialogue & Workplace Cooperation 2019」で、製造業部門の優秀賞を受賞した実績もある(2020年2月17日付YKKニュースリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

また、CSR活動も展開している。例えば、恵まれない子ども向けにサッカースクールを開校した。こうした取り組みは、定量的な効果測定が難しい。しかし、新聞などを通じてスリランカ国内で認知されることで、「ブランド価値向上につながっている」という。

縫製拠点として、さらに重みが増す

さらに、米国の関税措置発動により、スリランカの縫製拠点としての重要性が高まりつつある。トランプ政権が課す相互関税率を見ると、隣国インドは50%。一方、スリランカは20%と相対的に低い。

スリランカ国内の複数の関係者によると、これを機に、米国輸出向けのアパレル工場をインドからスリランカへ移管する動きが一部で見られるという(注10)。これを実現しきれるかは、インドでの生産規模をスリランカで確保できるかが焦点になる。だとしても、サプライチェーン再編の流れの中、注目が集まっていることは確かだ。戦略的な重要性が増すスリランカで、持続可能で倫理的なビジネス慣行がさらなるビジネス拡大の礎になるだろう。


注1:
スリランカ輸出開発局(EDB)「Sri Lankan Apparel Industry Capability ReportPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(200KB)」(2025年2月)に基づく。
注2:
関税および貿易に関する一般協定(GATT)の下、1974年、多角的繊維協定(MFA)が発効。輸出国に数量制限(クオータ)を課す仕組みが確立した。しかし、世界貿易機関(WTO)の協定に基づき2005年に撤廃。繊維・衣料品市場の自由化が進んだ。
注3:
JAAFの認証では、試験・検査・認証を行うSGS(本社:スイス)の監査を受け、実施している。
注4:
WRAP原則は、次の12種から成る。(1)法律・職場規制の順守、(2)強制労働の禁止、(3)児童労働の禁止、(4)ハラスメント・いじめの禁止、(5)法定賃金・手当の支払い、(6)法定労働時間の順守、(7)差別の禁止、(8)健康と安全の確保、(9)団結と団体交渉の自由、(10)環境保護、(11)税関規定の順守、(12)セキュリティーの確保。
注5:
スリランカアパレル輸出者協会「Sri Lanka’s Apparel Industry Remains Consistent in Compliance and Sustainability: WRAP Chief Avedis Seferian外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2025年8月18日付)に基づく。WRAP認証の取得企業・工場数は、当該参照記事の掲載時点。
注6:
ジェトロによるインタビューに基づく(2025年10月9日聴取)。
注7:
第1フェーズは、中東や中央アジア諸国(エジプト、ヨルダン、モロッコ、チュニジア、キルギス、タジキスタン)を対象に実施。第2フェーズでは、スリランカのほか、エジプト、ヨルダン、モロッコ、チュニジアが対象になった。
注8:
人権DDとは、自社の事業活動が引き起こす人権への「負の影響」を防止または軽減することを目的に、予防的に調査・把握し、適切な手段を通じて是正し、その進捗と結果について外部に開示する継続的なプロセスを意味する。
注9:
ジェトロによるインタビューに基づく(2025年10月10日聴取)。
注10:
ジェトロによるインタビューに基づく(2025年10月7日~10日聴取)。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ)
2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。