ポーランドとハンガリーの注目産業
現地所長が解説(前編)

2026年1月27日

ジェトロは2025年11月26日、現地発ウェビナー「現地所長が語る!中・東欧における注目産業と投資動向」を開催した。

中・東欧地域は、EU政策によるビジネス機会の創出、地政学を考慮した欧州域内製造の再評価、高度なデジタル技術の発展などを背景に、従来からの強みである製造業のみならず、エネルギー・インフラ産業や高度な人材を求めるITなどのサービス産業などさまざまな分野で進出先として注目を集めている。ウェビナーでは、ワルシャワ、ブダペスト、プラハ、ブカレスト、ウィーンの各事務所の所長が、管轄する中・東欧諸国における注目産業と投資動向などを紹介した。本ウェビナーの概要について、2回に分けて報告する。なお、本ウェビナーと同テーマの地域・分析レポート特集「中・東欧における注目産業と投資動向」も参照されたい。


(上段左から時計回りに)司会の森調査部欧州課課長代理、ウェビナーで講師を務めた石賀ワルシャワ事務所長、宮内ブダペスト事務所長、村上ウィーン事務所長、高崎ブカレスト事務所長、宮川プラハ事務所長
(ジェトロ撮影)

ウェビナーは、司会の森友梨・調査部欧州課課長代理による中・東欧概観の説明の後、5所長による講演、パネルディスカッション、質疑応答で構成した。

ワルシャワ事務所・石賀所長「ハブとしての機能と内需、双方から高まるポーランドの重要性」

ワルシャワ事務所の石賀康之所長は、ポーランドを捉えるポイントとしては、中・東欧のハブとしての重要性、投資先・消費市場としての魅力、ウクライナ経済復興のハブの3点を挙げた。

発言要旨

中・東欧・バルト諸国(注1)の名目国内総生産(GDP)は、2004年から2024年までに約3.3倍となり、EUに占める割合も9.2%から15.3%に増加するなど、欧州経済の重心は中・東欧にシフトしつつある。中・東欧の中ほどに位置し、航空便も豊富なポーランドは、同地域全体を効率的にカバーできるハブとしての重要性が高まっている。

経済概況について、GDP成長率は2024年が2.9%、2025年の予測が3.2%と、堅調な推移が予測されている。また、購買力平価(PPP)ベースの1人当たりGDPは、2026年には5万7,500ドルとなり、日本を上回る見込みだ。

ポーランドの日系企業数は390拠点で、欧州で7番目に多い。近年増加傾向にあり、西欧のイタリア(396拠点)やスペイン(392拠点)を抜くのも時間の問題とみている。日系企業はポーランド国内に点在しているが、ドイツやチェコとの国境を有する南西部の自動車部品産業集積地に特に集中している。近年の日系企業投資では、中・東欧で最大の約3,742万人の人口を背景に、内需をターゲットにした案件が見られる。ユニクロの衣料販売、パナソニックによるコンビニ向け冷凍機メーカー買収などがその例で、消費市場に結び付いた投資が行われている。その他、ウクライナ復興需要を視野に入れた三菱倉庫の支店開設や、生体認証サービスの開発を行うロココの研究開発拠点開設など、従来の製造業中心から投資分野が拡大している。外資系企業では、直近では米国企業による大規模投資が目立つ。2022年3月以降にグーグル、ネットフリックスなどが投資を発表しており、ウクライナ侵攻による地政学リスクにあまり左右されずに投資を決めていることが窺える。

エネルギーについて、2024年のポーランドの電源構成に占める石炭の割合は約54%となり、2021年の約71%から減少した。他方、太陽光発電が約4倍、風力発電が約1.6倍となり、再生可能エネルギー(再エネ)比率を着実に伸ばしている。エネルギー移行にはEUや国の資金が割り当てられ、国内外の企業からエネルギー関連プロジェクトへの注目が集まっている。また、2049年までに石炭の生産を段階的に廃止する計画としており、炭鉱労働者の有効活用が社会課題となっている。

注目産業として、自動車産業、デジタル分野を中心としたスタートアップ、航空産業が挙げられる。ポーランドは航空産業で100年の歴史を持ち、航空エンジンの世界大手5社が拠点を構えている。特に、南東部ポトカルパチエ県には、高等教育を受けた優秀なエンジニアを確保しやすいことを背景に、相当規模のクラスターが形成されている。

日系企業にとって商機がある分野として、地政学的位置付けの観点からは、防衛産業や、ウクライナ復興需要を捉えたエネルギー、医療、住宅・建設などが挙げられる。また、EU資金を活用したポーランドの成長戦略の観点からは、エネルギー、インフラ、電気自動車(EV)バッテリー、半導体が考えられる。拡大する内需をターゲットにした市場開拓という観点からは、デジタル、医療、日本産食品とコンテンツ、物流、サービス産業にチャンスがある。


ウェビナーで視聴者の質問に答える石賀ワルシャワ事務所長(ジェトロ撮影)

ブタペスト事務所・宮内所長「自国経済強化のための実利主義からEV産業集積地の形成を実現」

ブタペスト事務所の宮内安成所長は、ハンガリーではEVをはじめとする自動車産業のほか、脱炭素エネルギー、医療機器・バイオテクノロジー、食品産業などが注目産業だとした。

発言要旨

経済概況については、製造業を基軸とした経済発展を推進し、特に裾野の広い自動車産業の誘致に注力した結果、西欧の完成車メーカーとアジアの部品メーカーが出会う場として、EV産業の大きな集積地を形成している。当初2025年中に、BMW、中国の比亜迪(BYD)のEV完成車工場や、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)のEVバッテリー工場が稼働予定であったが、欧州でのEV販売低迷を受け、BYDは現地メディアによると2026年第2四半期に量産開始見込み、CATLも第2フェーズを再検討している。このような状況から、政府は、2025年の実質GDP成長率は0.5~1.0%の範囲にとどまる見通しと、事実上の下方修正を行った。前述のEV関連大型工場が稼働すると、2026年以降は徐々に回復するとみられている。

一方、2024年11月に政府・労使団体・労働組合が今後3年間の最低賃金引き上げで合意し、2025年の最低月額賃金は約29万フォリント(約11万6,000円)で前年比9%増、2026年は13%増、2027年は14%増の予定だ(注2)。消費者物価指数上昇率(インフレ率)は2022~2023年の15%前後から2025年(予測)は4%台に収まってきており、失業率も4%台で推移している。

対内投資は、2024年に決定された投資プロジェクト総額(約103億ユーロ)のうち、中国が50%超、韓国が約25%と、中韓からの投資が牽引し、日本を含むアジア諸国で約80%を占める(2025年1月22日付ビジネス短信参照)。産業別では、自動車産業と電子機器製造がトップ2で、食品産業が続く。日系企業も自動車産業を中心に進出し、最近では東洋インキや日本製紙など、車載バッテリーの要素技術を強みとする企業が、在欧のバッテリーメーカーに部材供給しているのが特徴だ。食品では、日清食品が欧州市場拡大に伴い、2025年3月に即席麺の工場増設計画を発表した(2025年3月6日付ビジネス短信参照)。

注目産業については、中核の自動車産業で、日系電子機器メーカー、アルプスアルパインが2025年3月、EV普及を見据えた新たな車載用モジュールのニーズに対応するため、既設工場の生産能力拡大を発表した(2025年3月4日付ビジネス短信参照)。脱炭素では、現在、ハンガリーの電源構成の半分近くは原子力で、政府は第2原発の建設を検討中。また、太陽光が電源構成の約20%を占め最大で、ユニークなエネルギー源として地熱がある。医療機器・バイオテクノロジーでは、ハンガリーには中・東欧最大手の製薬企業ゲデオンリヒターがあり、医薬品は主要輸出産業の1つであることから、日系企業との臨床試験や共同研究開発の機会が考えられる。食品では、最近アジアの食文化への関心が高まっており、前述の日清食品の追加投資が好事例だ。また、日本産ホタテのプロモーションをブダペスト市内の高級レストランで行った結果、ディストリビューターが別の国から仕入れていたホタテが日本産ホタテに置き換わることになった事例がある。決め手は急速冷凍により、風味や食感などの高い食材品質が保たれる点だった。チルド食品が主流の中・東欧は、急速冷凍された日本産水産物にとって、ポテンシャルが見込まれる。

企業支援については、進出企業への補助金給付制度があり、進出地域・雇用人数・投資額によって補助対象金額が異なるが、投資額の最大30~60%と大きいのが魅力だ。また日系企業がハンガリーに進出する際、駐在員家族が居住する首都ブダペストから車で1時間圏内に工場を設置できるなど、立地条件が良い点もポイントとなっている。

ハンガリーはEU加盟国でありながら、親ロシア・親中国のイメージが強いが、自国経済強化のための実利主義によるところが大きく、その成果としてEV産業集積地の形成を実現しており、今後も注目市場だ。


ウェビナーで視聴者の質問に答える宮内ブタペスト事務所長(ジェトロ撮影)

注1:
ここでは、オーストリア、ポーランド、チェコ、ハンガリー、エストニア、ラトビア、リトアニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニア、クロアチアの12カ国を指す。 本文に戻る
注2:
ハンガリーの企業(雇用者)側代表と被雇用者側代表は2025年11月、2026年の最低賃金引き上げに関して、2024年の合意より2ポイント低い11%で合意した(2025年12月10日付ビジネス短信参照)。経済指標が政府の予測を下回ったため、協定に盛り込まれた再交渉条項が発動され、交渉が再開された結果によるもの。 本文に戻る

現地所長が解説

執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 課長代理
森 友梨(もり ゆり)
在エストニア日本国大使館(専門調査員)などを経て、2020年1月にジェトロ入構。イノベーション・知的財産部イノベーション促進課を経て、2022年6月から現部署に所属。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課 リサーチ・マネージャー
齊藤 圭(さいとう けい)
2015年、東北電力入社。2025年4月からジェトロに出向し、調査部欧州課勤務。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
田中 春彦(たなか はるひこ)
商社勤務などを経て2024年8月、ジェトロ入構。