チェコ、ルーマニア、西バルカンの注目産業
現地所長が解説(後編)
2026年1月27日
ジェトロが2025年11月26日に開催したウェビナー「現地所長が語る!中・東欧における注目産業と投資動向」の開催報告の後編(前編は「ポーランドとハンガリーの注目産業」参照)。本稿では、チェコ、ルーマニア、西バルカン諸国の注目産業と投資動向などを紹介する。なお、本ウェビナーと同テーマの地域・分析レポート特集「中・東欧における注目産業と投資動向」も参照されたい。
プラハ事務所・宮川所長「自動化や環境配慮型製品の需要が高まる、半導体にも強み」
プラハ事務所の宮川嵩浩所長は、チェコの注目産業として半導体と食品を取り上げて説明した。
発言要旨
チェコは安価な労働コストを活かして外資系企業を誘致し、EU市場向けの生産拠点として経済成長を実現してきた。近年では人材不足、賃金上昇、エネルギー価格の高騰、EUの環境規制などを背景とし、自動化・省人化・省エネ製品、また環境配慮型製品の需要が高まると予測される。
経済概況について、GDP成長率は2027年まで2%前後の成長が見込まれる。1人当たりGDPは中・東欧諸国の中では最も高く3万ドルを超えており、日本と同等の水準。一方で、失業率がEU域内で最低水準であることに加え、賃金上昇などは人材確保や労働コストの点から課題となっている。製造業が集積するチェコにおいて、今後はロボットの導入による省人化・自動化が高まると予測される。
貿易・産業動向については、EUが主な貿易相手先であり、輸出の約8割、輸入の約6割を占める。主要産業は自動車産業、生産台数はEUにおいてドイツ、スペインに次ぐ3番目であり2024年には過去最高の145万台を生産した。9割以上が主にEU向けの輸出。EVシフトに関しては、生産台数に占める電気自動車(EV)の割合は現状10%程度。チェコでハイブリッド車を生産しているトヨタが、今後、EV車の生産も行うと発表している(2025年9月17日付ビジネス短信参照)。今後チェコにおいても徐々にEVシフトが進んでいくと考えられる。またアイシンがBMWの設計するeアクスル(電動アクスル)の受託生産を開始するなどの動きもある。
企業動向について、チェコに進出する日系企業は265社、うち製造業は104社で、自動車・電気機器関連の企業が多い。最近では環境・エネルギー分野の事例が出てきており、TOPPANが2025年6月、リサイクルに適した環境配慮型パッケージ向けのフィルムの生産を開始した(2025年6月17日付ビジネス短信参照)。パナソニックは2025年9月、ヒートポンプ生産工場を拡張した(2025年9月11日付ビジネス短信参照)。エネルギー分野においては、ヤンマーホールディングスによるコージェネレーションメーカーの買収、日立エナジーによる高電圧送電網製品の生産拠点への追加投資などの事例が出ている。
2025年には、台湾企業による新規、追加投資の事例が目立っている。EV向け電池パックなどの生産や、電子機器・電子部品メーカーの新工場開所などが挙げられる。2024年12月にプラハに世界初となる台湾貿易投資センターが開所し、チェコへのさらなる投資誘致に取り組む。
今後の注目産業の1つである半導体分野に関して、チェコ政府は2024年10月に国家半導体戦略を策定し、国内では約80社が半導体関連ビジネスに関与する。チェコでは世界で生産される電子顕微鏡の約3分の1を生産。半導体の生産・開発に必要な装置類にも強みがある。台湾積体電路製造(TSMC)によるドイツ東部・ドレスデンでの半導体工場建設の動きを踏まえ、チェコ政府は地理的に近い北西部などへのサプライヤー誘致や研究開発、人材育成に取り組む。
注目産業の2つ目は食品分野だ。チェコにおける在留邦人数は中・東欧で1番多く、日本食レストラン数は300店舗でポーランドに次いで2番目。ゼンショーホールディングスの子会社であるSushi Circleの持ち帰り用寿司(すし)カウンターがプラハに2店舗オープン。和牛のステーキやギョーザを提供するアジアンフュージョンレストランのほか、ラーメン店も増加傾向にある。またチェコに居住する、約7万人のベトナム人のネットワークを活用した日本食流通の可能性に加え、最近の流行として人気を博している健康的な食生活をコンセプトにしたファーストフードチェーンを紹介した。

ブカレスト事務所・高崎早和香所長「EU基金の最大の恩恵国の1つ、インフラやIT、農業が注目産業」
ブカレスト事務所の高崎所長は、ルーマニアの今後のビジネス機会と展望について8つのポイントを示した。
発言要旨
ルーマニアは2004年にNATO、2007年にEUに加盟し、外交は親欧米路線で政権も安定している。地理的にユーロ圏、中東、アジアを結ぶ位置にあり、戦略的な拠点としても位置付けられる。人口、国内総生産(GDP)ともに中・東欧域内でポーランドに次ぐ規模。域内ビジネス拠点や消費市場としての高いポテンシャルとともに、ウクライナ復興のゲートウェイとしても注目されている。EU加盟後、経済は急成長し、2024年のGDPは2007年の2.7倍、1人当たりGDPは2.4倍に増加。好調な民間消費支出と潤沢なEU基金による投資が経済成長を牽引している。
エネルギー価格高騰により2022年末に16%超に急上昇した物価上昇率は落ち着きを見せ始め、2026年第1四半期には3.7%まで下がる見通し。ルーマニアの労働コストは西欧に比べると安価である一方、2024年の失業率は5.4%と人材確保が徐々に困難な状況となっている。若年層(15~24歳)の失業率は高いが、スキル不足とインフレに伴う賃金上昇のミスマッチが起きている。
ルーマニアでは、国やEU基金による中小企業向け、地方開発、大型投資などに対する補助金制度が充実しており、対内直接投資残高は毎年増加している。国別に見るとドイツ(自動車関連)、オーストリア(エネルギー開発など)、フランス(自動車関連)が上位を占める。日本の投資額はドイツの約10分の1の水準。業種別では製造業が最大で、建設・不動産、消費市場の拡大による商取引が続く。
ルーマニアで操業する日系企業数は256社、そのうち日本に本社がある企業は約130社。進出日系企業の最新動向は、従来の労働集約型の製造業だけでなく、IT、インフラ、物流など幅広い分野での投資が目立つ。
2016年にシステム開発などでクルージュ・ナポカに進出したNTTデータは現在2,000人規模で全国に拠点展開し、2024年3月には、BMWグループの欧州域内ITサポートを行うBMWとの合弁会社設立を発表した(2024年3月13日付ビジネス短信参照)。横浜ゴムは2025年5月に現地のタイヤメーカーを買収し、欧州の生産能力を強化。EU加盟直後に進出した電動工具のマキタはルーマニア最大規模の工場を稼働している。住友商事は2024年6月、農業資材直販会社を買収し、高機能肥料を主力商品とした販売を手掛ける。IHIインフラシステムは、イタリアのウィビルドとの合弁で、EU補助金などを利用して2023年7月に開通した大型つり橋のブライラ橋を建設した。第三国と連携して投資プロジェクトを進めた成功事例といえる。
注目すべき産業は、IT/スタートアップ、自動車・自動車部品、エネルギー・インフラ、農業の4分野。
「ルーマニアのビジネス機会と展望の8つのポイント」として、(1)EU基金支援の最大の恩恵国の1つ、(2)地政学的重要性の高まり、(3)隣国ウクライナ復興支援のパートナー、(4)物流改善(シェンゲン協定加盟)、(5)製造業、(6)IT、(7)消費市場としてのポテンシャル、(8)西欧諸国に比べて少ない競合が挙げられる。

ウィーン事務所・村上所長「鉄道インフラ、電力生産、ソフトウエア・ITサービスにチャンス」
ウィーン事務所の村上義所長は、西バルカンおよびスロベニア、クロアチアの3つの注目産業を紹介した。
発言要旨
EU加盟国のスロベニアとクロアチアを除く旧ユーゴ諸国と、アルバニアの6カ国を総称して「西バルカン」と呼ぶ。スロベニア、クロアチア、西バルカン諸国は非常に多様性に満ちた民族、言語、宗教で構成されている点が特徴だ。西バルカンについては、90年代のユーゴ内戦から世代が変わり、急速に成長している。スロベニア、クロアチアおよび西バルカンの8カ国全体で約2,240万人強の市場規模がある。ただし、地域間の経済格差が大きい。日系企業のプレゼンスがまだ低い地域であるため、ビジネスチャンスを見出す余地がある。
西バルカン諸国(コソボを除く)はEU加盟候補国として交渉中だ。しかし、各国で汚職や政治的混迷などの課題があることから、複数の国が一斉に加盟することはない見込みだ。ただし、アルバニアとモンテネグロはプロセスが進んでおり、2030年には加盟を果たすとみられている。両国にとってEUは、貿易額の半分以上を占める非常に重要な取引相手だ。
ウィーン比較経済研究所(WIIW)の秋季経済予測(2025年10月)によると、西欧の経済停滞が中・東欧の成長を抑えているが、西バルカン6カ国の成長率は高い状況だ。その要因として、観光、サービスの輸出、大型公共投資が挙げられる。
西バルカン諸国の月額平均賃金は、スロベニアとクロアチアよりも依然として低い。ただし、2019年から2024年にかけて伸び率が高く、人件費が上昇している。
西バルカン全域でオーストリアやイタリアの銀行、保険会社が活動しているほか、セルビアには隣国に進出した自動車メーカーを顧客とする部品メーカーが進出している。またセルビアでは中国のプレゼンスが高いが、西バルカンでは概ねトルコ、オーストリア、イタリア、ドイツ、オランダなどが投資国としてのプレゼンスが高い。日本は今後の進出が望まれている。
日系企業の進出は、製造業を中心にセルビア(特に北部)とスロベニアに集中している。他方で、販売店は機械や自動車を中心に各国に点在しており、日本人を置かないローカルのオペレーションで営まれていることが多い。最近では、エネルギー関連企業も進出しており、今後に注目だ。
注目分野としては、まず鉄道インフラが挙げられる。西バルカンの鉄道インフラはユーゴ内戦以後整備が進んでおらず、資金不足が続いている。しかし、最近は欧州投資銀行(EIB)や欧州復興開発銀行(EBRD)が融資や助成金を通じて資金提供をしており、鉄道インフラの拡張や近代化などのプロジェクトが始まりつつある。西バルカン中央部は山がちな地形で鉄道敷設が困難であるため、トンネル建設や架橋工事などの分野でのビジネスチャンスが見いだされている。
電力生産にも注目だ。アルバニアを除く西バルカン諸国では石炭が主なエネルギー源だ。石炭火力発電所は老朽化が進んでおり改修も計画されているが、これらの国はEU加盟を控えているため、再生可能エネルギー(再エネ)が今後の電力分野での投資の柱になると予測される。そのため、再エネに関するコンサルティングなどにビジネスチャンスがあると考えられる。既に再エネプロジェクトは、西バルカンの新規投資案件数の14%、投資額の46%を占めており、有望な経済分野として認識されているため、同地域において再エネに関する取り組みは今後も進む可能性がある。
また、ソフトウエア、ITサービスはスロベニア、クロアチア、西バルカン諸国が力を入れている分野だ。大卒者の約10%が情報通信技術(ICT)を専攻。また、西バルカンへの新規投資案件数の21%をソフトウエア、ITサービスが占めている。現状では、スロベニアとセルビアが先行しており、セルビアにはNTTデータなど日系企業も進出中だ。

現地所長が解説
シリーズの前の記事も読む
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部欧州課
坂本 裕司(さかもと ひろし) - メーカー勤務などを経て2024年10月、ジェトロ入構。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部欧州課
岩田 薫(いわた かおる) - 2020年5月から調査部欧州課勤務。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部欧州課
近藤 慶太郎(こんどう けいたろう) - 2024年、ジェトロ入構。同年4月から現職。




閉じる






