都市をつくるリヤド万博(サウジアラビア)
リヤド北部に広がる都市開発の最前線

2026年7月21日

サウジアラビアは、2030年10月1日から2031年3月31日までの約6カ月間、首都リヤドにおいてリヤド万博(EXPO 2030)を開催すべく、現在開発を推進している。本万博は同国の長期国家戦略「ビジョン2030」の柱の1つに位置付けられており、都市開発や産業高度化を加速させる国家プロジェクトとして注目を集める。中東地域において過去最大規模となる見込みの同万博について、本稿ではその決定背景および2026年6月下旬時点における開発状況などを概観する。

開催地決定の背景と勝因

リヤド万博は、2023年11月にフランス・パリで開催された博覧会国際事務局(BIE)総会での投票により正式決定した。韓国・釜山、イタリア・ローマといった競合都市を抑え、1回目の投票で加盟国の3分の2を超える119票の圧倒的な支持を集めて開催地に選ばれた。

リヤドが多くの支持を獲得した主な要因として、以下3つが挙げられる。

  1. サウジアラビア政府は総予算約78億ドルの巨額投資を提示し、会場を100%クリーンエネルギーで運営するなどの壮大な公約を掲げた。
  2. パビリオン建設や技術サポート、旅費などの名目で100カ国以上の発展途上国に対し、総額3億4,300万ドルの支援パッケージを明記。国際的な不平などの是正を打ち出したことが多くの加盟国の共感を呼んだ。
  3. 2030年は、ビジョン2030の最終年に当たる。国全体の劇的な変革の姿を世界に披露するという強いストーリー性が高く評価された。

リヤド万博の規模と特徴

リヤド万博の計画規模は極めて巨大であり、会場面積は約600万平方メートルと、2025年大阪・関西万博の約155万平方メートル(特集「大阪・関西万博、世界各国・地域パビリオンなどの最新動向」参照)の約4倍に達する。敷地内には約225棟のパビリオン(各国館などの展示施設)が建設され、自前パビリオン用区画が最大81区画、貸し出しパビリオンが44棟、さらに約100のパートナー参加枠が設けられる予定だ。加えて、6万本以上の植樹が予定されるなど、環境配慮型の設計が強く意識されている。

本万博は、2021年から翌年にかけてアラブ首長国連邦(UAE)で開催されたドバイ万博(2021年10月1日付記者発表参照)に続き、中東地域で2回目となる登録博(国際機関が公認する大規模な万博)だ。両者はいずれも同地域の経済戦略を象徴するプロジェクトだが、その規模や狙いは異なる。先行したドバイ万博の来場者数が2,410万人であったのに対し、リヤド万博では4,200万人の来場を計画している。この野心的な目標値からも、サウジアラビア政府が国家の威信をかけて本事業に臨んでいる姿勢がうかがえる。

テーマ面においても両者のアプローチは対照的で、ドバイ万博が「心をつなぎ、未来を創る」を主テーマに、機会、移動、持続可能性の3つのサブテーマで構成されていたのに対し、リヤド万博では「あすを見通す力」をメインテーマに掲げ、このテーマの下に技術、地球環境、人間、文化、国際協働に至る多角的なアプローチを展開する。

インフラ・都市開発では、リヤド万博はドバイ万博と比較し、当初から広域的な都市開発戦略との連動性が極めて強い点に特徴がある。ドバイ万博会場も閉幕後に「エキスポ・シティ・ドバイ」として再開発・活用されており、レガシー(跡地利用計画)を都市機能へ転用する点では共通している。しかし、リヤド万博は「都市拡張戦略の中核」として計画されており、リヤド北部の大規模開発と一体となって整備が進められている。

会場の立地と周辺開発

リヤド万博会場はリヤド北部に位置し、将来整備が予定されるキング・サルマン国際空港に近接するエリアに設けられる。会場が同地域に設定された背景には、リヤド北部が今後の都市拡張の中核として位置付けられている点がある。周辺には、プリンセス・ヌーラ・ビント・アブドゥルラフマン大学や、サウジアラビア政府系ファンドの公共投資基金(PIF)傘下の不動産開発会社ロシン(ROSHN)が手がける複合開発エリア「ロシン・フロント」など、既存および計画中の大規模開発が集積している。

このように、住宅、教育、商業機能を一体化した新都市エリアに万博会場が配置されることで、短期的なイベント需要にとどまらず、万博終了後の都市機能への円滑なレガシー活用が可能となる。また、地下鉄(リヤド・メトロ)の延伸接続や幹線道路網などの交通インフラ整備とも一体で計画されており、市内全体のアクセス性向上にも大きく寄与する。

リヤド万博の準備は着実に進展している。会場整備に向けた土工は700万立方メートル、整地は290万平方メートルが完了しており、現場では600台以上の重機が稼働してインフラ整備が進められている。さらに、主要なユーティリティー回廊(共同溝・配管網)の建設も段階的に進展しており、基盤整備は本格化している。各国からの参加登録も順調であり、既に100カ国以上が登録を完了した。現在は複数の国・機関と参加条件の交渉が行われている。2026年11月3日、4日には、リヤドにおいて第1回参加国会議(International Participants Meeting:IPM)の開催が予定されている。

グローバル企業による設計・管理体制

プロジェクトの実行体制においては、国際的な大手コンサルティング企業の活用が極めて初期段階から進められている。米国の大手建設・エンジニアリング企業であるベクテル(Bechtel)がプロジェクト・マネジメント・コンサルタント(PMC)として選定され、会場インフラ全体の進捗管理および建設統括を担っている。また、英国のエンジニアリング・コンサルティング会社ビューローハッポルド(Buro Happold)がリードデザインコンサルタントを務め、インフラやランドスケープ(植栽・広場・水路などを含む屋外環境デザイン)、公共空間を含む詳細なマスタープランの策定を担当する。

さらに、ドイツとオーストラリアを拠点とする建築デザイン事務所ラバ(LAVA)や、米国の総合エンジニアリング会社ジェイコブス(Jacobs)なども初期段階から関与しており、次世代の都市設計やスマートモビリティー、持続可能性(サステナビリティー)分野における世界最先端の技術が導入される見込みだ。全体を統括するPMCと各分野の設計コンサルタントを明確に分離し、相互に連携させる開発体制は、大規模インフラ開発におけるグローバルスタンダードに沿ったものであり、確実なプロジェクト遂行を支える仕組みとなっている。

施工・インフラ建設体制

プロジェクト全体統括は、PIFが設立したリヤド万博公社(Expo 2030 Riyadh Company:ERC)が中心的な役割を担う。同社は万博会場の建設・運営から、閉幕後の跡地開発までを一体的に管理する組織であり、公共主導による長期的な都市開発モデルを採用している。

インフラ建設分野においては、地元サウジアラビア企業の強みを生かしつつ、海外企業とも協調・競争させる入札構造が採られており、初期インフラ工事(入札・検討段階)では、地元のサウジアラビア大手ゼネコンのみならず、グローバルに実績を持つ海外企業が広く競合・参入した(表参照)。

表:リヤド万博会場の初期インフラ整備工事における主な入札招待企業一覧
国籍 企業名 企業概要
サウジアラビア El-Seif (Engineering Contracting) サウジアラビアの大手総合ゼネコン。リヤド市内のランドマークである「キングダムタワー」などの建設実績を持つ。
サウジアラビア Al-Ayuni (Investment & Contracting) サウジアラビアの大手ゼネコン。国内の主要道路建設や鉄道建設プロジェクトに強みを持つ。
サウジアラビア SAPAC (Saudi Pan Kingdom) サウジアラビア全土で公共インフラ・土木を展開する大手ゼネコン。
サウジアラビア Shibh Al-Jazira (Contracting) サウジアラビア国内の主要高速道路建設や、大規模な用地造成・土木工事を受注。
サウジアラビア Al Yamama Co. for Trading and Contracting 建設、インフラ、環境、クリーンテクノロジー分野に強みを持つサウジアラビア国内の大手多角化ゼネコン。
サウジアラビア UNIMAC (United Maintenance and Contracting Company) サウジアラビアの有力 地場インフラ・道路舗装ゼネコン。高速道路、空港滑走路、モータースポーツサーキットなどの施工で豊富な実績を持つ。
トルコ/サウジアラビア Yuksel Saudia トルコのメガゼネコン「ユクセル(Yüksel)」の技術力を背景に、1984年に設立されたリヤドの有力地場インフラゼネコン。リヤド市内の主要道路やBRT(バス高速輸送システム)整備などで豊富な実績を持つ。
トルコ/サウジアラビア IC ICTAS & RTCC JV トルコの大手インフラゼネコン「IC ICTAS」と、サウジアラビアの大手ゼネコン「RTCC(Al-Rashid)」による共同企業体(JV)。リヤド市内の主要道路・インフラのメガプロジェクトを複数受注。
トルコ/サウジアラビア Kolin İnşaat 世界のトップ国際ゼネコン250社(ENR誌)の常連であるトルコ大手の多国籍総合ゼネコン。サウジアラビア東部ダハランにおけるアラムコ関連の大規模都市開発「サウス・ダハラン住宅所有促進プログラム」の初期エリアインフラ(道路、電気、上下水道パッケージ1・2)を元請け受注。
トルコ/サウジアラビア Mapa トルコの有力グローバルゼネコン(MNGグループ傘下)。サウジアラビア国内では、海水淡水化公社(SWCC)主導の超大型送水インフラ・土木プロジェクトで豊富な実績を持つ。
ポルトガル/サウジアラビア Mota-Engil 欧州・アフリカ・中東で広く展開するポルトガル最大級の総合建設会社。サウジアラビア国内に現地法人を擁し、地場大手Nesmaとのコンソーシアムを通じて、NEOM(ネオム)の山岳リゾート開発プロジェクト「トロヘナ」におけるスキー場開発・運営案件へ応札した実績を有する。
エジプト/サウジアラビア Hassan Allam エジプト最古・最大級の民間多国籍総合建設・エンジニアリング大手。サウジアラビア現地法人を設立し、サウジアラビア地場大手のEl-SeifなどとのJVで「NEOM港」のインフラ整備を共同受注したほか、紅海沿岸のギガプロジェクト(AMAALA)などで豊富な施工実績を持つ。

注:入札招待企業をすべて網羅するものではない。

出所:各種情報媒体を基にジェトロ作成

主要な基幹インフラの受注フェーズでは、サウジアラビアのネスマ&パートナーズ(Nesma & Partners)、アル・ヤママ・カンパニー(Al Yamama Company)などが中核案件を獲得した。これらの企業は、電力、上下水道、通信網、EV(電気自動車)充電インフラにおよぶ総延長50キロメートル超の基幹網整備を担う。これらは、会場内の道路網やスマートモビリティーの導入、各国のパビリオン建設を進めるための強固な基盤(土台)であり、万博会場の最重要領域となる。施工フェーズにおいては、ネスマ&パートナーズとビニヤ(Binyah)、アビヤトナ(Abyatona)など同国の有力企業が現場施工に関与している。広大な会場敷地を複数の施工パッケージに細分化し、複数のゼネコンに同時並行で発注・参画させている。施工企業の分散配置は、過密な建設スケジュールを確実に守るための工期短縮とリスク分散を目的とした、メガプロジェクト特有の手法とも言える。


万博会場工事の様子(ジェトロ撮影)

周辺プロジェクトとの連携と事業構造

都市開発および周辺プロジェクトとの連携においては、PIF傘下の不動産開発会社ロシンが主要な役割を担う。同社はリヤド北部を中心に住宅や商業施設を一体的に整備しており、万博会場周辺の都市機能強化と連動した面的開発を推進している。これにより、リヤド万博は単体のイベント投資にとどまらず、住宅・商業・インフラを含めた包括的な「総合都市開発パッケージ」となっており、多様な地場・グローバル企業が多角的に関与している。

さらに事業構造に目を向けると、万博関連案件は単一の契約体系ではなく、多層的な構造を持つ点が特徴だ。政府機関による広域基盤インフラ整備、ERCによる会場整備・運営、各国パビリオンによる個別調達、さらには民間資本による商業・サービス参入などが同時並行で進められる。この結果、建設から運営、サービス供給に至るまで、多数の企業が段階的かつ有機的に参入する一大エコシステムが形成されている。

以上のように、リヤド万博における企業動向は、以下の三層構造で整理できる。

  1. 政府およびPIF系デベロッパー(ERC、ロシンなど)主導の開発
  2. サウジアラビア企業を軸にしたインフラ施工体制
  3. グローバル企業による設計・管理・技術支援

この構造は、サウジアラビア政府が推進するギガプロジェクト「NEOM」などのほかのギガ・メガプロジェクトにも共通しており、同国特有の国家主導型開発モデルが万博プロジェクトにも色濃く適用されていることを示している。

閉幕後のレガシー構想と日サウジ連携

リヤド万博では、閉幕後のレガシー活用をプロジェクトの重要な柱として位置付けている。最大の特徴は、万博を一過性のイベントとして終わらせるのではなく、恒常的な都市機能への転用を当初から前提として設計されている点にある。

閉幕後の会場敷地は、商業、観光、住宅、そして文化機能を備えた先進的な複合都市へと転換される計画だ。会場内の主要インフラや一部の恒設パビリオン、公共空間は継続利用を前提に整備され、広大な公園や緑地、歩行者専用空間などはリヤド市民の貴重な公共資産として継承される。さらにERCは、跡地を次世代の国際交流・イノベーション拠点として再開発する方針を示しており、商業施設、持続可能な居住コミュニティー、文化・イベント空間を統合した新たな都市核の形成を構想している。また、交通網、道路、電力、上下水道、通信網といった基幹インフラは、閉幕後もリヤド北部の都市拡張を支えるインフラストラクチャーとしてそのまま活用される。

再生可能エネルギーやスマートシティ関連の先端技術など、万博を通じて実証・導入される各種イノベーションも、閉幕後にそのまま社会実装へと移行・定着する見込みだ。以上のように、リヤド万博は単なる国際イベントの枠を超え、都市開発、インフラ整備、国際協業を包括的に統合したサウジアラビアの国家プロジェクトだ。そのレガシーは、複合都市の形成、インフラ資産の持続的活用、そして次世代技術基盤の社会実装という形式で、長期的に展開される構造を持つ。

ERCが主導する国際協業型の開発体制に対し、日本側も官民を挙げた協力体制の構築を加速させている。日本政府は、2025年大阪・関西万博からのレガシー継承および「日・サウジ・ビジョン2030」の戦略的枠組みの下、2030年リヤド万博への公式参加をいち早く表明した。こうした二国間の強固な連携関係を背景に、日本企業が強みを持つスマートインフラ技術や先進的な都市設計の知見・ノウハウが、リヤドが目指す次世代の都市づくりに大きく寄与することが期待されている。今後、プロジェクトの具体化に伴い、リヤド万博は国際的な協力と経済・文化交流をさらに促進し、持続可能で革新的な都市モデルを世界に示す場として、その存在感を一層高めていくとみられる。

リヤド万博の具体的な会場配置や周辺都市開発の詳細については、リヤド万博公式サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを参照されたい。

執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ)
2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、海外調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。