先入観を覆すカンボジアでの日本食市場開拓とスギヨの逆張り戦略

2026年8月7日

水産練り物メーカーのスギヨ(本社:石川県七尾市)は、現地販促イベントへの参加を契機に市場性を確認し、カニカマなどのカンボジアへの輸出を開始した。成約後も、現地パートナーやバイヤーと連携し、用途や販売方法を提案することで、販売チャネルの拡大を図っている。本稿では、同社の事例を通じ、新興国市場における現地の実態の把握と、成約後の販売支援の重要性を考察する。

カンボジア・プノンペンの日本食市場

後発開発途上国であるカンボジアは、一般的に低所得国との見方が強い。一方、首都プノンペン(人口約235万人)と地方との経済格差は大きく、都市部では中間・富裕層を中心とした消費市場が形成されている。こうした市場実態は、平均的な所得水準を見るだけでは捉えにくい。

2025年11月時点で、カンボジア国内の日本食レストラン数は約370店舗に達し(注)、過去2年間で約90店舗増加した。日本食市場の浸透度を示す1つの指標として人口当たりの日本食レストラン数を見ると、人口1万人当たりでは約0.21店舗であり、ベトナム(約0.18)やインドネシア(約0.23)と近い水準にある。また、全体の約8割に当たる約280店舗が首都プノンペンに集中している点も特徴である。さらに、2010年代後半以降は、丸亀製麺やリンガーハットなどの日本の外食チェーンの進出も加速している。

表:東南アジア各国における人口・月額賃金・GDP・日本食レストラン数(ーは記載なし)
国名 人口 首都人口 月額賃金
(製造業作業員の
中央値)
1人あたり
GDP
(2024年)
実質GDP
成長率
(2024年)
日本食
レストラン数
(2025年)
カンボジア 1,728万人 235万人 230 (USD) 2,755 (USD) 6.00% 370店
ベトナム 10,134万人 871万人 302 (USD) 4,536 (USD) 7.10% 1,820店
タイ 6,595万人 546万人 437 (USD) 7,492 (USD) 2.50% 5,920店
マレーシア 3,406万人 207万人 490 (USD) 12,541 (USD) 5.10% 2,200店
シンガポール 603万人 90,674 (USD) 4.40% 1,140店
インドネシア 28,444万人 1,068万人 384 (USD) 4,960 (USD) 5.00% 6,580店
ラオス 765万人 103万人 115 (USD) 2,066 (USD) 4.00% 50店
ミャンマー 5,753万人 148 (USD) 1,114 (USD) -1.10% 90店
フィリピン 10,903万人 1,348万人 273 (USD) 4,079 (USD) 5.70% 940店

出所:ジェトロ作成。人口は各国統計、GDPおよび成長率は主にIMF等の推計値(2024年)に基づく。賃金は「製造業ワーカー(月額基本給)」ベース(ジェトロ調査)であり、各国平均賃金とは異なる。
日本食レストラン数は農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和7年)」による。

小売分野においても同様の傾向がみられる。2014年にカンボジアに進出したイオンは、2026年7月時点で国内に3つのイオンモールと18店舗のマックスバリュを展開している。マックスバリュのうち17店舗はプノンペン、1店舗は隣接州に立地する。これらは主に、首都プノンペンの富裕層や中間所得層をターゲットとしている。ジェトロが2025年11月にプノンペンのイオンモールで実施したアンケート調査(回答数505人)によれば、回答者の約44%が世帯月収600米ドル以上で、そのうち約半数が1,000米ドル以上だった。同調査はイオンモール来場者を対象としたもので、プノンペン全体の所得分布を示すものではない。しかし、ショッピングモールを利用する消費者層の中には、縫製・製靴業などで適用される最低賃金水準(210米ドル)を大きく上回る所得があり、一定の購買力を持つ層が存在することを示している。

カンボジアでの逆張り戦略

水産練り物メーカーのスギヨは、2025年にカンボジアへの輸出を開始し、2026年から販売チャネルを拡大した。同社海外事業推進部長の宝泉氏にカンボジアでのこれまでの取り組みを聞いた。なお、現地でスギヨ商品のマーケティング・輸入卸販売を担うBuddy’s Marketing JPの最高経営責任者(CEO)である岩月宥磨氏にも取材し、現地での活動状況に関する説明を得た(取材日:2026年5月29日)。


左から、Buddy’s Marketing JP CEOの岩月氏、スギヨ海外事業推進部長の宝氏。
右は石川県シンガポール事務所(当時)の北田拓也氏(ジェトロ撮影)
質問:
カンボジア市場にどのような可能性を見出したか。
答え:
カニカマをはじめとする練り物の輸出市場としてのポテンシャルはあった。カンボジアでは、クイティウ(魚のすり身団子などが入った米粉麺)に代表される練り物文化が定着しており、またタイ産などの既存製品が流通していることから、日本産製品に対する受容性と品質評価の余地があると考えられた。一方で、これまでカンボジア市場への参入のきっかけはなかったが、現地の販促イベントに参加することで、従来のイメージとは異なる都市部の購買力を確認した。
タイやマレーシアは日本食市場の規模が大きい一方で競争も激しい市場である。これに対しカンボジアは、人口1,728万人の市場規模がありながら競合が比較的少ないとみられた。こうした点を踏まえ、競争が激しい成熟市場ではなく、成長途上で競合が限られる市場に先行参入する「逆張り」戦略として、カンボジアでの展開を開始した。

きっかけはイオンカンボジアでのJapan Fair

質問:
実際に輸出を開始する契機となった取り組みは何か。
答え:
2024年11月のイオンカンボジアでの「Japan Fair(2024年12月27日付ビジネス短信参照)」への出展を石川県シンガポール事務所(石川県が設置する海外ビジネス支援拠点)から打診され、市場調査を目的に参加したことだ。同フェアでは、カニカマのサンプリングを実施し、おおむね好意的な反応が得られた。来場者の反応をデータとして収集した上で、イオンカンボジアへ商品提案を行ったものの、この段階では成約には至らなかった。
その後、ジェトロの「Japan Street」を活用したオンライン商談を経て、初めて成約に至り、2025年の「Japan Fair(2026年1月19日付ビジネス短信参照)」ではサンプリングに加え販売も実施し、本格的な展開につながった。
質問:
Japan Fairでは石川県のブースでサンプリングと販売を実施し、10日間で1,000個以上のカニカマの販売につながった。この要因をどのように振り返るか。
答え:
「開発途上国で低所得である」との先入観にとらわれず、現地で市場を確認したことが最大の要因だ。また、2年連続でJapan Fairに参加し、来場者・消費者の反応を把握したこと、さらに、そこで得られた知見を踏まえ、イオンカンボジアへの商品提案を継続的に行ったことが、販売拡大の実現につながったと考えている。

バイヤーとともに市場開拓に取り組み販売を拡大

2025年のJapan Fairでの成果を踏まえ、スギヨは新たな食べ方や販売方法の提案を通じた市場開拓に取り組み、イオンでの販売チャネルの拡大につなげた。

質問:
イオンプノンペン店のすしコーナーで、スギヨのカニカマを使ったすしが販売されるに至った経緯は。
答え:
当社のカンボジアでのマーケティングを担うBuddy’s Marketing JPに対し、カニカマの新たな用途としてすしメニューを提案した。さらに同社と連携し、イオンに対して商品および販売方法に関する提案を実施した。これを受けイオン側では、デリカ担当部署を巻き込んで商品開発が進められ、結果としてカニカマすしの販売に至った。現在では、イオンベーカリーにおいて、スギヨのちくわを使用したパンの販売も開始されている。
海外市場で商品を定着させるためには、サプライヤー自らが商品の特性や他国での展開事例を踏まえ、食べ方や販売方法を提案することが重要だ。こうした提案を現地の販売事情に精通するマーケティング会社やバイヤーと連携して実行することで、効果的な売り方を構築できると考えている。

イオンモール・プノンペン店での、カニカマすしの販売の様子(Buddy’s Marketing JP提供)

スギヨが狙うカンボジアでのカニカマ市場拡大

質問:
今後のカンボジアでの展望は。
答え:
カンボジアにおいては、イオンのデリカ・ベーカリー分野での販売拡大に加え、伝統市場(ウェットマーケット)内の個人商店への営業も組み合わせ、認知度向上と需要喚起を通じて市場拡大を図る方針である。
カンボジアの市場規模はタイやベトナムに比べると小さいが、経済成長に伴い拡大する余地は大きい。今後もサプライヤーならではの提案やマーケティングを強化し、中長期的に市場育成を進めたい。

カンボジアでの日本食市場の開拓

「その国に対する先入観に縛られることなく、一度は市場を見に行ってほしい」とスギヨの宝泉海外事業推進部長は指摘する。カンボジアは所得水準の低い国とのイメージを持たれがちだが、実際に訪れてみれば、都市部には平均値だけでは把握しにくい中間・高所得層が存在し、日本食を受容する消費者層も一定程度存在することが分かる。

また、成約後も適切な販売支援を継続しなければ、商品が市場に定着せず、継続受注につながらない場合がある。これは、商品の特性や用途、販売方法について、消費者のみならずバイヤー側にも十分に伝わっていない場合があるためだ。そのため、サプライヤーがバイヤーと信頼関係を構築し、食べ方や販売方法を提案するなど販売活動に主体的に関与しながら、協働して市場を開拓することが重要である。

本事例は、現地の市場実態を自ら確認し、成約後も継続的な販売関与によって販路拡大に成功した好例といえる。


注1:
農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和7年)」参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所(執筆当時)
宮嶋 紀輝(みやじま かずき)
2023年、ジェトロ入構。本部プラットフォームビジネス課、プノンペン事務所を経て、2026年7月からジェトロ島根で勤務。