政府主導で5G・AIとの融合や応用も推進
中国企業のIIOT導入が加速(1)
2025年8月4日
中国では近年、データドリブン(注1)によるインダストリアルインターネット(IIOT:Industrial Internet of Things)が急速に発展し、中国企業の導入が加速している。
この連載では、中国で導入が進むIIOT(以下、「中国版」IIOT)の実態を2回に分けて紹介する。第1回目の本稿では、中国政府がどのようにIIOTの発展を後押ししてきたか、政策動向を概観する。連載2回目では、「中国版」IIOTを形成する産業のエコシステムの構造を整理し、中国企業が実際にIIOT化した取り組み事例を参照する。その上で、進出日系製造業によるIIOT導入の取り組みの方向性について提言する。
政府主導で「中国版」IIOTの発展が加速
「中国版」IIOTで注目すべき特徴は、生産ラインの自動化・省人化だけでなく、ものづくりの川上(設計図の作成や部材の調達など)から川下(販売、メンテナンスなど)までをシステムで一体化することで、ビジネス全体のスマート化を図っている点だ(2025年6月17日付地域・分析レポート参照)。
こうした「中国版」IIOTの特徴は、中国のライトハウス工場の多さにも表れている(注2)。世界のライトハウス工場(189カ所)のうち中国の当該工場は72カ所と最も多く、全世界の約4割(38.1%)を占める。また、中国の当該工場を形式別にみると、エンド・ツー・エンド(E2E)形式(材料の調達から製品の出荷までのサプライチェーンを一元管理化した工場)が27カ所に上る。なお、欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域のライトハウス工場は52カ所、うち欧州のE2E形式は9カ所で、北米のライトハウス工場は全14カ所、うち米国のE2E形式は9カ所だ。
「中国版」IIOTが発展してきた背景には、中国政府がおよそ10年前から先進的なデジタル技術の融合による製造業の高度化を、国家戦略として推し進めてきたことがある。
国務院が2015年に発表した「中国製造2025(中国語)」(中国製造業10カ年計画)では、9つの戦略的な目標の1つに「情報化と工業化の高度な融合の推進」を盛り込んだ。また、これを推進する重要プロジェクトとして「スマート製造プロジェクト」を打ち出していた。同政策を受け、翌2016年には、国務院が「製造業とインターネットの融合発展の深化に関する指導意見」を発表。同指導意見の中でIIOTを指す用語「工業インターネット(中国語:工業互聯網)」が登場。2018年から2020年までの3年間をIIOTの「立ち上げ段階」と位置づけ、IIOTを支えるネットワークインフラやセキュリティー保障システムの初期構築などを進めるとした。
「立ち上げ段階」を経た2020年12月には、「IIOTイノベーション発展行動規画(2021~2023年)」を打ち出した。同年から2023年までを、IIOTの「急速成長期」と位置付けている。2023年までに重点業種10業種での30カ所の5G通信接続工場の建設や、3~5社の国際的に影響力を有する総合IIOTプラットフォームの建設などの具体的な目標が掲げられ、第14次5カ年規画期の中で政策が本格化していった。
2021年3月に採択した「第14次5カ年(2021~2025年)規画と2035年までの長期目標綱要」では、同規画期間におけるイノベーション駆動型発展戦略の項目の1つとして「デジタル化(DX化)の発展加速とデジタル中国の建設」を打ち出した。その中でIIOTを、DX化を推進する重点領域の1つに盛り込み、標識解析システムおよび安全管理システムの構築、工業ソフトウエアの研究開発・応用の加速などを具体策として示した。また、重点業界・地域に国際水準のIIOTプラットフォームやDXを推進する関連施設を建設し、研究開発から、設計、製造、経営管理、アフターサービスまで各領域のDX化を進めるとした。そのほか、カスタマイズ生産やフレキシブル生産システム(FMS)など新たな生産モデルの発展、産業園区(工業団地)のDX化の推進などの方針を示した。
これを受けて、工業情報化部は2021年9月、「中国版」IIOTを「ヒト、機械、モノ、システムなどの包括的な接続によって、全産業チェーンと全バリューチェーンをカバーする新たな製造・サービスシステム」と定義。そのうえで、同規画期間の政策をさらに具体化していった。2021年11月には「第14次5カ年規画における情報化と工業化の高度融合発展計画」を発表。重点項目の1つとして、IIOTプラットフォームシステムの整備を盛り込み、総合型・専門型プラットフォームを構築するほか、より広範な生産要素を集結させるために、業種・分野横断型のプラットフォームの基盤を整備するとした。
同年12月には、「第14次5カ年規画におけるスマート製造発展計画」を発表。2025年までに、一定規模以上の製造業のうち7割以上でDX・ネットワーク化を基本的に実現し、500カ所以上のスマート生産モデル工場を建設するとした。また、スマート生産設備、工業ソフトウエア産業の技術水準と市場競争力を大幅に向上させ、150社以上の高い専門性を有するスマート製造システムソリューションプロバイダーを育成するとした。このほか、IIOTの発展を支える基礎として、関連する200以上の国家および業界標準を制定・改定し、120件以上の影響力を有するIIOTプラットフォームを構築するなどの目標を掲げた。
AIの応用や5Gとの融合を推進
「中国版」IIOTとAIの応用も進めている。2022年7月には科学技術部、教育部、工業情報化部など7部門が共同で「質の高い経済発展を促進するための人工知能(AI)の高度な応用によるシーン・イノベーションの加速に関するガイドライン(中国語)」を発表。AIの技術応用を進める重点領域の筆頭に製造業を掲げた。また、産業機器の頭脳、ロボット支援製造、マシンビジョン検査、設備の相互接続管理などを、優先的な応用シーンとして挙げた。
2023年以降には、IIOTと5Gとの融合を進める実証プロジェクトの拡大に関する施策や、技術実装の促進に関する施策などを相次いで打ち出している(表参照)。これら中央政府の政策方針を基に、広東省、江蘇省、浙江省など製造業が集積する地域を中心に、地方政府レベルでより具体的な政策措置や行動計画を制定した。助成金支給や利子優遇などの補助金政策を展開している。
発表年月 | 主な政策と内容 |
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2023年 11月 |
「5G+IIOT融合応用試験地区試行規則」「5G+IIOT融合応用先試験地区建設ガイドライン」を発表。試験地区で5G専用ネットワークの構築を推進し、国内金融機関による同試験区プロジェクトへの融資支援を促した。 |
2023年 12月 |
関連する8部門とともに、「伝統的製造業の転換および高度化の加速に向けたガイドライン」を発表。企業のスマート化を積極的に推進するために、人工知能(AI)、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、5G、IoT、その他の情報技術を製造プロセス全体に統合させるとした。 |
2024年 1月 |
関連する12部門とともに、「IIOT標識解析システム『一貫』行動計画(2024~2026年)」を発表。2026年までに、自律的かつ制御可能な標識解析システムを構築し、製造業や主要経済・社会分野での初期的な応用を実現するとした。(1)企業のデジタル改革を促進すること、(2)産業サプライチェーンの滞りを解消すること、(3)大企業と中堅中小企業の産業発展をサポートすること、を目的にする。 |
2024年 2月 |
「産業分野におけるデータセキュリティー能力強化のための実施計画(2024~2026年)」を発表。インダストリアル・クラウド、産業ビッグデータ、IIOTプラットフォームなどの新たな応用技術のデータセキュリティーの構造設計を強化する。また、産業分野のデータセキュリティーで「製品+サービス」基盤の供給を革新する。 |
2024年 12月 |
「5G+IIOT」における512プロジェクト強化実施方案」を打ち出した。2027年までに「5G+IIOT」を実体経済における重要産業・分野に幅広く取り入れ、5G工場を1万カ所設立し、「5G+IIOT」のパイロット都市を20カ所以上建設するとした。 |
出所:工業情報化部の発表を基にジェトロ作成
- 注1:
- 「データドリブン」とは、データに基づき意思決定する手法。売上データや、顧客データなどを収集・分析し、分析結果を基に戦略や施策を立案・実行する。
- 注2:
- 「ライトハウス工場」とは、第4次産業革命をリードする先進的な工場のこと。世界経済フォーラム(WEF)と米コンサルティング大手のマッキンゼー・アンド・カンパニー(MCK)が2018年に提唱した新しい概念だ。WEFとMCKは、同工場を定期的に選出している。選出基準は、デジタル化、拡張現実(AR)/仮想現実(VR)/複合現実(MR)、IIOT、ビッグデータ分析など、デジタル技術の導入の度合だけではない。自動化による生産効率向上やコスト削減、ものづくりの現場およびサプライチェーンのプロセス改善、人材育成や働き方、企業や業界の持続可能性、社会や環境へのインパクトといった幅広い基準で評価している。
中国企業のIIOT導入が加速
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- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課
益森 有祐実(ますもり あゆみ) - 2022年、ジェトロ入構。中国北アジア課で中国、韓国関係の調査を担当。