デジタルファースト政策を軸に国民生活の向上を(モンゴル)
7分野79の提言でデジタル移行
2025年12月23日
モンゴルで、ゴンボジャブ・ザンダンシャタル首相が2025年6月に就任。その際の所信表明演説で、(1)経済の安定、(2)国民所得と生活水準の向上、(3)あらゆるレベルでの国家の強靭(きょうじん)性構築など、目標を掲げた。
その1つに、デジタル化政策を盛り込んだ。過去をひもとくと、モンゴル政府は2005年と2012年のそれぞれ、電子政府への移行を目指す方向で閣議決定。2020年からは「E-Mongolia」システム(オンラインで利用可能な公共サービスの共通プラットフォーム)を導入した。このように、行政サービスの電子化は着実に進んでいる(2023年12月4日付ビジネス短信参照)。
この「E-Mongolia」はバージョン5.0まで進化を遂げた。政府は、(1)デジタル化による行政レベルの向上、(2)デジタル化をきっかけにした経済発展、(3)国民生活水準の向上を目指している。
分散型ICTイベントを初めて開催
モンゴル国立ITパークは9月19~26日、国内各地で総合イベント「テックウィーク2025」を開催した。このイベントの目的は、(1)情報通信分野に関して、新たな知識、技術、イノベーション、将来の動向、投資、政策課題について議論すること、(2)その上で、経験を共有すること、にある。
また、当ウィーク最終日の9月26日には、ウランバートル市の政府庁舎で「ICTフォーラム2025」を開催した。
モンゴル国立ITパークの発表によると、「テックウィーク2025」の期間中、全国あわせて70に上るイベントを開催。延べ7,000人以上が参加した。
「デジタルファースト政策」を発表
首相はICTフォーラムの開会挨拶で、「新内閣の発足から100日目に当たる本日、モンゴルはICT分野で歴史的かつ革新的な一歩を踏み出した」と述べた。あわせて、政府が「IT生産支援バーチャル特区」「デジタルファースト政策」「ビッグデータとAIに関する国家戦略」を承認したことに触れた。これらの措置により、政府の生産性が向上し、国民や企業が直面する課題を迅速かつスマートな技術ソリューションで解決する道を開いたと説明した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| IT生産支援バーチャル特区 |
モンゴル国会は2024年6月、「IT生産支援法」を可決。 同法の施行を確実にするための基盤として、「IT生産支援バーチャル特区」を設立した。特区に登記する企業は、(1)法人所得税免除、(2)社会的責任(CSR)活動への資金援助に税制優遇措置を受けることができる。そのほか、各種補助金や助成金など、9種類の支援を受けられる。
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| デジタルファースト政策 |
政府の生産性を高め、デジタル移行を完全に実施するため、次の7つの目標を示した。
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| ビッグデータとAIに関する国家戦略 |
次に示す4つの目標を達成するため、66の施策を「2026~2030年モンゴル発展5カ年主要方針」の草案に反映させる。
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注:「yurt」は、遊牧民の移動式住居ゲルの英語。
出所:モンゴル政府公式サイト
国際電子政府ランキングで世界46位に
首相は、国連の2024年国際電子政府調査で、モンゴルが193カ国中46位になったことにも触れている。特に、新たに導入した「E-Mongolia 5.0」がもたらしたデジタル化の成果を強調した。具体的には、現在200万人の国民が1,263の行政サービスを電子的に利用。過去5年間で総額1兆7,000億トゥグルク(約700億円、1円=約24.39トゥグルク)を節約できたという。
その上で、デジタルファースト政策に基づいて「5D戦略」を実施することと、そのための目標を発表した。なお、「5D戦略」はモンゴル経済フォーラム(2025年7月8日)で首相が掲げたスローガンで、10年以内に次の5項を飛躍的に伸ばすことを意味する〔ここでいう「D」は、倍増(double)を表している〕。
- Double GDP:GDPを倍増。
- Double Export:輸出量を倍増。
- Double Renewable Energy:再生可能エネルギー(再エネ)生産を倍増
- Double Independence:経済的独立性を確保する。
- Double Digitalization:行政サービスを完全デジタル化し、デジタル経済を新たなレベルに引き上げ確立する。
首相はさらに、(1)GPUを複数搭載したコンピュータを接続する「GPUクラスター」「国家ビッグデータデータベース」の運用を開始すること、(2)ビッグデータとAIに関して、国際レベルの研修プログラムを立ち上げることなどを予定している、と紹介した。また、政府、民間セクター、学術機関、スタートアップ企業に「力を合わせて新たな機会を最大限に活用し、デジタル国家を目指す大きな課題にともに着手する」よう呼びかけた。
電子請願サイト、国立オンライン学校も
そのほか国会のウェブサイトには、(1) D-Parliament(モンゴル語)
や(2) D-Petition(モンゴル語)
を開設済み。さらに、(3) D-GOV(モンゴル語)
を2025年9月10日に導入した。
このうち(1)では、国会で審議中の法案について、内容や進捗状況を確認できる。また(2)は、国会で法案審議してもらいたい案件のある場合、電子請願できるサイトだ。署名10万人分を集めると実際、法案審議が動き出す。(1)(2)とも、首相が国会議長時代に発案し導入に至った。
一方(3)は、デジタルファースト政策の枠内で実現に至った。電子請願という意味では、(2)と同様だ。ただし(3)では、政府の政策立案や意思決定プロセスに国民や市民団体の参画を促す狙いが大きい。このサイトでは、意見や苦情を表明したり、電子媒体上で討論したりすることもできる。
また、モンゴル教育省は2019年から、統合学習プラットフォーム「MEDLE」を開発・導入している。このプラットフォームの下、まず取り組んだのは、普通教育課程向けにデジタルコンテンツライブラリーを構築することだ(時間と場所を問わず利用できるため、生涯学習に資することも視野に入れた)。さらに2022~2023年度、MEDLEを基盤にeスクールを試験導入。その後、本格運用を開始し、2024~2025年度には生徒合計1万7,453人が学習した。当該プラットフォームに基づき、10月15日の閣議で、国立オンライン学校の設立を決定している。
「デジタル国家」の建設を目指して
ここまで見たとおり、政府は「E-Mongolia」「IT生産支援バーチャル特区」「ビッグデータとAI戦略」を通して今後10年でGDP・輸出・再エネの倍増を目指す方向性を示している。その基盤になっているのが、「デジタルファースト政策」「5D戦略」だ。モンゴルで進む「デジタル国家」建設には、注目材料が多い。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・北京事務所(在ウランバートル)
藤井 一範(ふじい かずのり) - 2012~2015年、ジェトロ・北京事務所コレスポンデント(在モンゴル)を経て、2018年からジェトロ・北京事務所レジデントエージェント(在モンゴル)。




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