新車販売は2年連続で過去最高を更新(フィリピン)
自動車ローンの利用増加で顧客層が拡大
2025年7月17日
フィリピンにおける2024年の自動車販売・生産台数は、いずれも前年から増加した。とりわけ、販売台数は2年連続で過去最高を記録した。政策金利の引き下げおよびローンの利用増加などにより、需要が伸びている。そのシェアは依然として日系メーカーが過半数を占めているが、中国、韓国メーカーの躍進が目立った。
2024年の新車販売台数は過去最高を更新も、伸び率は鈍化
フィリピン自動車工業会(CAMPI)とトラック製造業者協会(TMA)の発表によれば、2024年の新車販売台数は前年比8.7%増の46万7,252台だった(図1参照、注1)。2023年の42万9,807台を上回り、2年連続で過去最高を更新した。ただ、期待されていた50万台には届かず、2023年(前年比21.9%増)に比べると伸び率は鈍化した(2025年1月15日付「インクワイアラー」紙)。

出所:フィリピン自動車工業会(CAMPI)およびトラック製造業者協会(TMA)の発表データを基にジェトロ作成
部門別では、乗用車が前年比10.5%増の12万770台で、商用車が8.1%増の34万6,482台だった。商用車と比べると乗用車の伸び率が高かったが、いずれも前年比20%以上の増加となった2023年と比べると、伸び悩む結果となった。
フィリピンの自動車情報サイト「オートインダストリア・ドット・コム」によれば、2024年のブランド別販売台数(注2)では、トヨタが依然として首位で 21万 5,756台だった(市場シェア45.4%)。第2位は三菱自動車の8万9,124台(同 18.8%)、第3位はフォードの2万7,997台(同5.9%)で続いた(表参照)。上位8位までの順位は前年から変動がなかった。
順位 | ブランド |
販売台数 (2023年) |
販売台数 (2024年) |
市場シェア | 前年比 |
---|---|---|---|---|---|
1 | トヨタ | 198,188 | 215,756 | 45.4 | 8.9 |
2 | 三菱自動車 | 78,371 | 89,124 | 18.8 | 13.7 |
3 | フォード | 31,320 | 27,997 | 5.9 | △ 10.6 |
4 | 日産自動車 | 27,136 | 26,774 | 5.6 | △ 1.3 |
5 | スズキ | 18,454 | 20,371 | 4.3 | 10.4 |
6 | いすゞ | 17,639 | 17,641 | 3.7 | 0.0 |
7 | ホンダ | 16,645 | 15,518 | 3.3 | △ 6.8 |
8 | 現代自動車 | 9,130 | 12,023 | 2.5 | 31.7 |
9 | 上海汽車(MG) | 5,679 | 9,016 | 1.9 | 58.8 |
10 | 起亜 | 5,033 | 6,692 | 1.4 | 33.0 |
出所:「オートインダストリア・ドット・コム(2025年2月4日付)」を基にジェトロ作成
前年比でみると、日系ではトヨタが8.9%増、三菱自動車が13.7%増、スズキが10.4%増と堅調だった。特に伸びが目立ったのは韓国勢と中国勢で、韓国の現代自動車が31.7%増、起亜が33.0%増、中国の上海汽車(MG)は58.8%増と大幅に伸ばした。ブランド別で上位10には入らなかったが、中国の比亜迪(BYD)は、前年の537台から8.9倍の4,780台へと急増し11位に浮上した。同社はフィリピンのエネルギー省(DOE)と提携して、EV(電気自動車)普及を推進しており、大手財閥アヤラ傘下のACモビリティーズ(ACM)が正規販売代理店となっている。中国勢では、広州汽車(GAC MOTOR)が65.1%増、捷途汽車(JETOUR)が67.2%増と高い伸び率を記録した。一方、中国の吉利汽車 (ジーリー)は、2024年7月に双日ジーオート・フィリピンがジーリー・オートモーティブ・インターナショナル・コーポレーションへ売却されたこともあり、販売台数は60.8%減となり、前年の9位から15位へと大幅に順位を落とした。
2023年以降、自動車ローン利用者が急増
フィリピンでの自動車の販売台数増加の要因の1つとして、金融機関の与信審査が以前より緩和され、自動車ローンが組みやすくなったことが挙げられる。フィリピン中央銀行(BSP)のデータによれば、2024年12月の消費者向け貸出残高のうち、自動車ローン(二輪車ローンを除く)は約4,500億ペソ(約1兆1,700億円、1ペソ=約2.6円)だった。自動車ローンは2020年4月にピークを迎えた後、新型コロナウイルス流行の影響で停滞していたが、2023年以降は増加傾向にある(図2参照)。

出所:フィリピン中央銀行(BSP)の発表を基にジェトロ作成
政策金利の引き下げが金融機関によるローンの条件を好転させ、利用者増加の追い風になっている。BSPは、2024年8月15日に3年9カ月ぶりの利下げに踏み切った。利下げは2024年中に3回行われ、6.50%から5.75%まで合計0.75ポイント引き下げられた(注3)。これを受けて金融機関は自動車ローンを充実させている。例えば大手の地場銀行の1つであるフィリピン・アイランズ銀行(BPI)では、一部のブランドおよび車種に限り最長84カ月(その他は72カ月まで)のローンを利用できる。月々の支払いの負担が軽く、頭金は最低15%で返済を開始できるほか、月収3万ペソから申し込みが可能だ。また、三菱UFJ銀行が出資するセキュリティーバンクでは、新車の場合は購入金額の最大80%まで、12~60カ月払いでローンを組むことができる。中古は最大70%まで、12~48カ月払いで対応している。頭金は購入金額の最低20%で、審査は申請後、銀行営業日で3~5日で完了する。このほか、メトロポリタンバンク&トラスト(メトロバンク)傘下のフィリピン・セービング・バンク(PSバンク)が、最低10万ペソから、12~60カ月払いの自動車ローンを提供している。
銀行が個別ブランドと提携する例も出てきている。2024年4月には、セキュリティーバンクがミツビシ・モーターズ・フィリピン(MMPC)との合弁で、「ミツビシ・モーターズ・ファイナンス・フィリピン」を立ち上げると発表した。同社は、2025年からMMPCの顧客向けにローンなど金融サービスを提供する。また、三井住友銀行が出資するリサール商業銀行(RCBC)は2024年11月、米国EV大手テスラ顧客向けのデジタル自動車ローンプロセスを導入し、迅速な審査が行える仕組みを発表した。RCBCは2025年4月にも、日産フィリピンとの提携を発表している。
利用者が増えているのは、銀行ローンだけではない。ジェトロが行ったディーラーへのヒアリングによれば、ディーラーが提供するローンを組んで自動車を購入する顧客が増えているという。銀行ローンよりも利率は高く10%前後の水準だが、審査のハードルが低いことがメリットだという。
生産台数は着実に増加、日系は新車種の製造を開始
自動車産業ポータルを運営するマークラインズによれば、2024年のフィリピンにおける生産台数は、前年比18.0%増の11万7,421台だった(図3参照)。

出所:マークラインズの発表を基にジェトロ作成
販売台数で1位のトヨタは、現地法人トヨタ・モーター・フィリピン(TMP)で主力車種のサブコンパクトセダン「ヴィオス」とMPV(Multi Purpose Vehicle)「イノーバ」を現地生産している。2024年のフィリピンにおける生産台数は、「ヴィオス」が4万3,391台、「イノーバ」が2万578台だった。加えて、2024年11月からBUV(Basic Utility Vehicle)の新型「タマラオ」の製造を開始し、同年内に5,606台を生産した(注4)。TMPはタマラオ製造のため、2023年にラグナ州サンタロサの工場に総額約55億ペソを投資していた。
販売台数2位の三菱自動車は、ミツビシ・モーターズ・フィリピン(MMPC)が「ミラージュ」と「ミラージュG4」(2016年6月27日付ビジネス短信参照)をフィリピン国内で生産している。2024年の2車種の生産台数は合わせて2万6,910台だった。また、小型トラックのL-300も1万6,686台生産した。そのほか、いすゞも現地生産を行っており、小型トラックのNシリーズの生産台数は1,649台だった。
世界情勢や台風の影響で物流や生産に遅れ
ジェトロがヒアリングした在フィリピン日系自動車メーカーによれば、2024年は「中国、ASEANなどからの部品調達に遅れが生じた」という。特に、マニラ港の混雑や複数の大型台風の影響により、タイやインドネシアなどからの船便が継続的に遅延し、企業は空輸による緊急調達や生産計画の調整などで対応した。マニラ港の混雑に関しては、混雑回避のためマニラ首都圏南部のバタンガス港を利用する企業が多くみられた。さらに最近では、「新たな工業団地の開発で整備が進むマニラ首都圏北部スービック港で荷下ろしを行い、陸路で南部工業団地エリアに運搬するルートを活用する企業も出てきている」とのコメントもあった。マニラ港の混雑は、現地生産車向けの部品供給だけでなく、輸入車の納品にも影響した可能性が高い。
2024年は、大型台風がマニラ近郊に度々上陸したことも生産に影響した。台風により、直接的に工場の稼働が止まった日系自動車メーカーはなかったものの、サプライヤーに被害があり、部品の供給が止まった事例があった。また、従業員の居住地域や通勤経路に洪水が発生し、十分な数の従業員が出勤できず、製造スケジュールに遅れが生じるというケースもあった。
自動車国産化プログラム「CARS」を引き継ぐ「RACE」が始動予定
フィリピン国内での自動車生産および販売拡大促進を目的とした「包括的自動車産業振興戦略(CARS)」は2015年12月に公告され、現在は日系の2社が適用を受けている。施行当初は、1車種につき6年間で20万台以上生産するなどの条件の下、総額270億ペソの優遇措置を受けられるというものだったが、適用されているのはTMPの「ヴィオス」とMMPCの「ミラージュ」のみだ。新型コロナウイルス禍で販売台数が急激に落ち込んだことを受け、現在は期限を5年間延長している。
「CARS」を引き継ぐプログラムとして、新たな製造促進プログラム「自動車産業における競争力強化のための再活性化プログラム(RACE :Revitalizing the Automotive Industry for Competitiveness Enhancement)」が策定されている。本プログラムを管轄するフィリピン投資委員会(BOI)によれば、CARSで20万台とされていた最低生産要件は緩和され、10万台となる見込みだ。当初は申請開始期間が2025年4月または5月を予定としていたが、執筆時点(7月8日)で実施は公表されていない。BOIによると、CARSが現在適用されているトヨタと三菱自動車はRACEにも申請する意向だという。
- 注1:
- 2023年10月5日付地域・分析レポート「内需や物流の改善で、自動車販売・生産ともに前年比増(フィリピン)」では、CAMPIの発表データに自動車輸入流通業者協会(AVID)に加盟しているブランドの台数を加算した推計値を掲載。2023 年以降、AVIDからの情報公開がなくなったため、本レポートではCAMPIおよびTMA発表のデータのみを掲載。
- 注2:
- 「オートインダストリア・ドット・コム」は、CAMPIおよびTMA発表の台数に加え、AVIDなどのデータを含んでいる。
- 注3:
- 2024 年内に利下げが行われたのは、8月15日、10月16日、12月19日の3回。2025年4月10日にさらに0.25%下がり、現在の政策金利は5.50%。
- 注4:
- 「タマラオ」は、1970年代に同名の旧型モデル(KF10型)が製造されていた。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・マニラ事務所
西岡 絵里奈(にしおか えりな) - 2016年、ジェトロ入構。途上国ビジネス開発課、ジェトロ・プノンペン事務所、ビジネス展開支援課、対日投資課DX推進チーム、ジェトロ島根を経て、2023年9月から現職。