COP29で気候資金新目標が決定、パリ協定第6条は完全運用化に(世界)

2025年2月20日

国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が2024年に、アゼルバイジャンのバクーで開催された。会期は11月11~24日(2日間延長)の14日間で、196カ国から80人の国家元首や政府首脳を含む、約7万2,000人が参加した(注1)。会期中には、首脳級会合である「世界気候行動サミット」や各国閣僚級・交渉官による交渉のほか、各国や企業、関係機関がサイド・イベントを開催した。

COP29の議論では、途上国への気候変動対策資金に関する新規目標の設定が大きな争点になり、2025年以降の新たな定量的目標である「新規合同数値目標」(New Collective Quantified Goal: NCQG)を含む「バクー資金目標」(Baku Finance Goal)への合意を発表した。また、温室効果ガス(GHG)の排出削減量を国際的に移転する「市場メカニズム」について規定したパリ協定第6条の詳細事項についても合意し、完全運用化を達成した。一方で、「ロス・アンド・ダメージ」(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)や、パリ協定で定めた各目標に対する進捗状況について5年ごとに包括的な評価を行う「グローバル・ストックテイク(GST)」(注2)に関する議論は意見の一致に至らず、今後も継続して検討・議論を行うこととなった(表1参照)。

表1:COP29の概要と主な議題
項目 内容
開催期間 2024年11月11日(月曜)~11月24日(日曜)
※11月22日(金曜)までの開催予定だった。しかし、最終合意に時間を要し2日間延長した
開催地 アゼルバイジャン・バクー
議長 ムフタル・ババエフ・アゼルバイジャン環境天然資源相
主な議題
  • 途上国への気候変動対策資金に関する2025年以降の新規目標(新規合同数値目標)の設定
  • パリ協定第6条の詳細事項についての合意
  • 緩和(温室効果ガスの排出削減):COP27で決定した「緩和作業計画」に基づいた、建築分野や都市化における脱炭素化に資する解決策について
  • 適応・損失と損害(ロス・アンド・ダメージ)
  • グローバル・ストックテイク(GST)
スケジュール
  • 11月12~13日で首脳級会合「世界気候行動サミット」を実施
  • 11月14~21日で日替わりのテーマデーが設定され、金融、エネルギー、食糧、輸送などのテーマに沿ったイベントが日々開催された

出所:国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)、COP29公式ウェブサイト、ジェトロビジネス短信からジェトロ作成

本稿では、COP29での議論のポイントや主な成果を紹介し、2025年にブラジルで開催予定のCOP30に向けた議論の展望について取り上げる。

気候資金新目標は2035年までに年3,000億ドルへ

COP29における最も大きな議題の1つが、途上国への気候変動対策資金の「新規合同数値目標」の設定だった。気候資金に関しては、2010年のCOP16で、先進国が途上国に対して2020年までに年間1,000億ドルを提供することが決定。その後の2015年のCOP21では、(1)2025年まで同目標を継続することと、(2)2025年に先立ち、2025年以降の新たな定量的目標の「新規合同数値目標」を、1,000億ドルを下限として設定することを決定していた。

COP29での「新規合同数値目標」に関する議論は、先進国と途上国の双方の意見が対立したことで交渉が難航し、会期を2日延長して11月24日に「バクー資金目標外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」として合意を発表した。途上国向けの気候変動対策資金については、2035年までに先進国主導のもと、少なくとも年間3,000億ドルを拠出するという目標が設定された。併せて、2035年までに、公的・民間資金を合わせて少なくとも年間1兆3,000億ドルまで増額することへの協力を求めた。

この目標に対し、途上国側からは批判が相次いだ。気候変動対策資金に関する独立ハイレベル専門家グループ(IHLEG)は、COP29の「金融、投資、貿易」テーマデーであった11月14日に発表した第3次報告書の中で、中国を除く途上国が必要とする気候資金のうち、公的・民間資金を含む外部資金は2030年までに年間1兆ドル、2035年までに同1兆3,000億ドルが必要とし、今回の目標金額では途上国の需要を満たすことができないという見方があった。インド代表のチャンドニ・ライナ財務省経済局顧問は合意文書について、「私たち全員が直面している課題の深刻さに対処することはできない」とし、「文書の採択に反対する」と述べたほか、マーシャル諸島のティナ・ステギ気候特使は「私たちは気候変動に対して脆弱(ぜいじゃく)な国々が緊急で必要としている資金のほんの一部を持ってここを去ろうとしている」として、資金目標の低さを指摘した(ロイター11月24日)。また、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は11月23日の声明で、 気候資金の成果について「さらに野心的な成果を期待していた」と述べ、各国に対して目標上限値の確実な達成に向けた協力を呼び掛けた。日本からは、浅尾慶一郎環境相が11月20日に開かれたCOP29閣僚級セッションの中で、2025年までの5年間で官民合わせて最大700億ドル規模というコミットメントを着実に実施することを発表した。

OECDが2024年5月に発表した報告書「先進国により2013年~2022年に提供・動員された気候変動対策資金(Climate Finance Provided and Mobilised by Developed Countries in 2013-2022)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、COP16で決定した2020年までに年間1,000億ドルという目標に対して、2020年時点の達成率は約8割(833億ドル)で、2年後の2022年に初めて目標超え(1,159億ドル)となっており、先進国によるより一層の支援が求められていると言える。一方で、同報告書によると、2022年に公的気候変動資金によって拠出された民間資金は全体の約2割を占める219億ドルで、前年比52.1%増と大きく増加しており、今後も民間部門からの支援の拡大が期待される。

排出量取引に関するパリ協定第6条の完全運用化を達成

COP29でのもう1つの成果としては、パリ協定第6条についての詳細事項が決定したことを挙げることができる。第6条は、国際的な協力によってGHGの排出量削減や除去対策を実施するための「市場メカニズム」を規定したもので、2項で二国間クレジットなどの協力的アプローチ、4項で国連が管理する多国間のメカニズム、8項で非市場型のメカニズムについて定めている。2021年のCOP26でその実施方針について合意があり、運用化に向けた議論が進められてきた。

今回、GHG削減・除去量をクレジットとして分配・移転する際に必要な締約国の承認や報告方法、クレジットを追跡・記録するための登録簿の相互接続性(注3)などについて決定し、完全運用化を達成した。このうち、第6条4項のクレジット創出基準に関しては、会期初日に合意に達したことが発表された。これにより今後、第6条のルールに基づき、より高品質で透明性を確保したGHGの排出量削減や除去に関する、官民での国際的な協力がより一層拡大することが期待できる。COP29議長国のアゼルバイジャンは第6条の完全運用化により、各国の「国が決定する貢献(NDC)」(注4)の実施コストを年間で最大2,500億ドル削減することができると予測している(11月23日付COP29ニュースリリース)。

この決定を受けて日本は、二国間クレジット制度(JCM)を活用したプロジェクトの拡大と加速により一層取り組んでいく方針だ。JCMは、日本(ホスト国)からパートナー国に対して行う脱炭素技術などの普及や対策実施によって削減・吸収したGHGの排出量を日本(ホスト国)のNDC達成に活用できるという制度だ。日本はNDCの中で、JCMの活用により2030年度までの累積で1億トンCO2程度の国際的な排出削減・吸収量を目指すとしている。国連環境計画(UNEP)によると、日本は2024年12月時点で29カ国とJCMを構築しており、これは世界(97件)で最も多い。またプロジェクト数でも、全体(141件)の約84%(119件)を日本のJCMに基づく案件が占めており、世界をリードしているといえるだろう。JCMの利用拡大が、今後、日本企業にとって脱炭素関連技術や製品・サービスなどの海外展開の後押しとなることも期待できる。

エネルギー分野で新たな成果、観光業への注目も

COP29では、エネルギーや廃棄物処理などの産業分野でも複数の成果が上がった(表2参照)。

エネルギー分野での主な成果としては、11月15日に開催された「グリーンエネルギー、水素、グローバルエネルギー貯蔵、送電網に関するハイレベル円卓会議」にて発表された「COP29水素宣言(COP29 Hydrogen Declaration)」と、「COP29世界エネルギー貯蔵・送電網誓約(COP29 Global Energy Storage and Grids Pledge)」がある。「COP29水素宣言」は、グリーン水素(注5)の生産量を現在の年間100万トンから大幅に増加させ、化石燃料から現在生産されている年間9,600万トンの水素を削減することを目標とし、 54カ国が賛同している。議長国アゼルバイジャンによれば、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)と国際エネルギー機関(IEA)の推計に基づくと、再生可能・クリーンまたはゼロエミッション・低炭素な水素および誘導体の生産は年間100万トン以下である一方、世界全体で9,600万トンの水素が化石燃料から生産され年間9億トン以上の二酸化炭素(CO2)を排出しており、今回の宣言で低炭素な水素生産の拡大を目指すかたちだ。「COP29世界エネルギー貯蔵・送電網誓約」は、2030年までに世界全体のエネルギー貯蔵容量を2022年時点の6倍以上となる1,500ギガワット(GW)まで拡大し、送電網に関しては2030年までに世界全体で2,500万キロを増設または改修し、2040年までに追加で6,500万キロを増設・改修する必要性を認識することを目指すもので、58カ国が賛同している。前回のCOP28では、2030年までに世界全体の再生可能エネルギー容量を3倍、エネルギー効率の世界平均を2倍にするという目標(2023年12月14日付ビジネス短信参照)を発表した。今回の宣言はこれらの目標達成に対して重要な役割を果たすとしている。

廃棄物処理の分野では、11月19日に「有機性廃棄物からのメタン削減宣言(COP29 Declaration on Reducing Methane from Organic Waste)」を発表した。同宣言の賛同国52カ国は、今後提出するNDCで有機性廃棄物からのメタン削減量のセクター別目標を設定することを表明し、それを達成するための具体的な政策とロードマップを開始することとなっている。同宣言では、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5度目標達成のためには、廃棄物からのメタン排出量を2030年までに2020年時点より30~35%、2050年までに約55%削減する必要がある、と述べている。

また、ユニークな成果として、初めてとなる観光分野での気候変動対策強化に関する閣僚会議が11月20日に開催され、「観光における気候変動対策強化に関する COP29 宣言(COP29 Declaration on Enhanced Climate Action in Tourismm)」が発表された。同宣言には62カ国が賛同しており、NDCなどの気候変動対策政策で、観光分野での取り組みをさらに推進することの必要性を認識し、島しょ国など経済に観光分野が大きく貢献している途上国に対して、観光関連の適応措置を強化することにしている。議長国アゼルバイジャンは同日の発表で、観光業は現在、世界の炭素排出量の約8.8%を占めているとして、気候変動対策における同分野の重要性を強調した。

日本はこれら4つの宣言にいずれも賛同しており、今後、同分野での官民での取り組み拡大が期待される。そのほか、日本がCOP29で参加を表明した主な国際イニシアティブは表3の通り。

表2:COP29で発表された主な成果・合意事項
分野 概要
気候資金
  • 「新規合同数値目標」として、途上国向けの気候変動対策資金を、先進国主導のもと2035年までに少なくとも年間3,000億ドル動員することと、全てのアクターに対し公的・民間資金を合わせて少なくとも年間1兆3,000億ドルまで増額することへの協力を求めることを決定。
  • 「損害と損失」(ロス・アンド・ダメージ)基金の運用を開始し、2025年からプロジェクトへの資金提供を可能にすることを決定。
カーボンクレジット
  • パリ協定第6条の詳細事項を決定し完全運用化を達成。
エネルギー
  • 「COP29水素宣言」を発表。
  • 「COP29世界エネルギー貯蔵・送電網誓約」を発表。
  • 50以上の海運業界関係者が「行動呼びかけ:グリーン水素とグリーン輸送」(Call to Action Green Hydrogen and Green Shipping)に賛同。
廃棄物処理
  • 「有機性廃棄物からのメタン削減宣言」を発表。
その他
  • 「観光における気候変動対策強化に関するCOP29 宣言」を発表

出所:UNFCCC、COP28公式ウェブサイトからジェトロ作成

表3:COP29で日本が参加した主な国際イニシアティブ
分野 国際イニシアティブ
エネルギー
  • EUが主導する、石油・天然ガスのサプライチェーン全体でメタンの排出を最小限に抑えるための「メタン削減パートナーシップロードマップ」
  • アゼルバイジャン主導「COP29世界エネルギー貯蔵・送電網誓約宣言」
  • アゼルバイジャン主導「COP29水素宣言」
廃棄物処理 アゼルバイジャン主導「有機性廃棄物からのメタン削減宣言」
都市化 アゼルバイジャン主導「レジリエント(注)で健康な都市へのマルチセクター行動経路(MAP)に関するCOP29 宣言」
観光 アゼルバイジャン主導「観光における気候変動対策強化に関するCOP29宣言」
その他 アゼルバイジャンが主導する、途上国による2年ごとの透明性報告書(BTR)の作成を支援し、強化された透明性枠組み(ETF)への参加を奨励するための「バクー世界気候透明性プラットフォーム(BTP)」

注:回復力、復元力がある様子を指す。
出所:環境省、COP29公式ウェブサイトからジェトロ作成

COP30はブラジル・ベレンで開催

次回のCOP30は2025年11月10~22日、ブラジル北部のアマゾン地域ベレンで開催予定だ。ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は、熱帯雨林の保護をはじめとした環境保護政策を積極的に打ち出しており(2024年6月12日付地域・分析レポート参照)、COP29期間中には新たなNDCを提出し、GHG排出削減目標を引き上げた(2024年11月18日付ビジネス短信参照)。COP30では、COP29で合意に至らなかったロス・アンド・ダメージへの対応や、GSTの実施についての議論が引き続き行われる予定だ。また、2025年2月までには締約国が次期NDCを提出することとなっており、各国の2035年までのGHG削減目標にも注目が集まる。


注1:
参加国や参加者の数値は、2024年11月12日に首脳級会合「世界気候行動サミット」の場で行われたアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領のスピーチ内での発表に基づく。
注2:
2023年にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されたCOP28で第1回が開催された。
注3:
パリ協定第6条2項の場合、各国が整備する「参加国登録簿」または条約事務局が用意する「国際登録簿」を使用し、4項の場合は条約事務局が用意する「メカニズム登録簿」を使用することになっている。今回の決定で、「参加国登録簿」と「メカニズム登録簿」の任意の接続が可能になり、各国がクレジットに関する情報を一元的に記録・追跡・報告できるようになった〔2024年12月6日付環境省・経済産業省・パリ協定6条実施パートナーシップセンター「COP29(CMA6)におけるパリ協定第6条の完全運用化の実現について」〕。
注4:
Nationally Determined Contribution。パリ協定締約国はNDCとして、気候変動対策を実施しなかった場合のBAU(Business As Usual)シナリオと比べてのGHG削減目標を設定し、5年ごとに国連に報告することになっている。
注5:
一般的に、再生可能エネルギーによって生産した水素を指す。グリーン水素は、生産過程でCO2を排出しない。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチマネージャー
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。