統一より分断に向かうトランプ大統領
米国2026年中間選挙(2)

2025年11月18日

米国では、経済状況の悪化や長引く政府閉鎖などの影響で、ドナルド・トランプ大統領の支持率は低迷している(2025年11月5日付ビジネス短信参照)。中間選挙に向けて、トランプ氏は2025年9月に、自身のSNSで共和党の業績を発表する場として全国大会(注1)を開催すると発表した。同氏は犯罪などへの対応を理由に民主党支持の強い都市へ州兵を派遣し、暴力行為は左派の過激派に起因すると発言するなど、国内の分断の鎮静化ではなく、むしろ助長する姿勢をみせている。

民主党に求められるトランプ政権との向き合い方

民主党内では、トランプ氏の支持率が低下していることもあり、2026年の連邦下院選挙では過半数奪還に楽観的とされる。しかし、共和党は同党支持の強い州で有利になるよう選挙区を再編し、民主党も同党支持の強い州で同様の対抗策を取る動きがある(注2)。全米では、共和党が優勢な州が民主党よりも多く、選挙区再編の波に乗ろうとする可能性が高いため、民主党の下院奪還の目標は危うくなるともみられる。

ギャビン・ニューサム・カリフォルニア州知事とJ.B.プリツカー・イリノイ州知事は、トランプ氏が全米で最も人口の多いロサンゼルスとシカゴに軍隊を派遣しようとしているのは、2026年の中間選挙で、民主党支持の都市の投票所に軍や連邦捜査官を派遣する前兆だと警告している。

また、中間選挙での投票を想定した世論調査では、民主党議員への支持が共和党議員を上回るが(注3)、民主党支持者の中では民主党への不満が高まっている(2025年10月31日付ビジネス短信参照)。不満の主な要因は、トランプ政権への抵抗が不十分とされており、民主党は引き続きトランプ政権とその政策に向き合うことが求められる。

トランプ氏への不満が中間選挙で民主党支持者の投票率を押し上げる要因になる一方、トランプ氏が共和党支持者の投票率を劇的に高められるかどうかは不透明という見方もある。

ヒスパニックのトランプ氏支持率が低下

2024年の大統領選挙の投票パターンの分析(注4)によれば、ヒスパニック有権者の48%がトランプ氏に投票しており、これは2020年(36%)から大きく増加した。一方、民主党候補者に投票したヒスパニックの割合は2020年と比較して2024年には10ポイント低下し、トランプ氏を勝利に押し上げたとみられる。

しかし、経済誌「エコノミスト」と調査会社ユーガブが実施した最近の世論調査(2025年10月31日~11月3日実施)では、若年層とヒスパニックのトランプ氏支持率は低下傾向が著しい。2025年3月の世論調査結果と比べた場合、年代別では、特に若年層(18~29歳)で49%から30%へと大幅に低下した。人種別では、特にヒスパニックの支持率が48%から29%へと大幅に低下した(注5)。

公民権団体UnidosUSがヒスパニック有権者を対象に2025年10月に実施した世論調査(注6)によれば、64%がトランプ氏を不支持としている。懸念事項として、53%が「生活費とインフレ」を挙げた。中間選挙で投票するのは、民主党という回答が52%と、共和党(28%)を大きく上回った。

郵便投票の廃止を望むトランプ氏

トランプ氏は、2026年中間選挙で上院、下院とも共和党の多数派を維持したい。同氏は2020年大統領選挙が不正に操作されたと主張し、郵便投票に疑問を呈しており、制度の廃止を唱えている。トランプ氏の主張は、中間選挙で共和党が敗北した場合、結果の正当性を認めないと主張する布石を打っているともみられる。しかし、実際にはトランプ氏の思惑に反して、党内では、州によっては2024年の選挙で郵便投票がトランプ氏や共和党の勝利に貢献したという見方もあり、トランプ氏が郵便投票の仕組みを理解することが望ましいという意見もある。また、多くの共和党員が、選挙に勝つために郵便投票を含む不在者投票が必要と認識しているという。

民主党が勝利した2つの州知事選とニューヨーク市長選

バージニア州とニュージャージー州の知事選挙、ニューヨーク(NY)市長選挙は2025年11月4日に実施され、中間選挙を占う意味でも注目された。各選挙で、民主党候補が過半の得票率で勝利した(2025年11月6日付ビジネス短信参照)。民主党は、各候補者が経済問題に焦点を当てたことが功を奏したことから、この戦略を中間選挙での勝利につなげたい意向だ。

一方、住宅政策などを掲げNY市長選で勝利したゾーラン・マムダニ氏をトランプ氏は「共産主義者」と非難してきたが、共和党はマムダニ氏と民主党を結びつけて糾弾することで、民主党への支持を弱める戦略を展開するとみられる。

CNNが実施した2025年10月の世論調査(注7)では、米国の現状については「悪い」が68%、経済状況については「ひどい」が72%と不満が広がっている。61%がトランプ氏の政策が米国の経済状況を悪化させたと回答した。NBCニュースの10月の世論調査(注8)では、66%が「インフレ・物価」対応、63%が「経済政策」でトランプ氏が期待に応えられなかったと回答した。トランプ氏と共和党の経済運営の優位性が崩れつつあり、前述の11月の選挙は世論調査結果に影響されたとされる。

11月選挙の民主党勝利を受けて、共和党の勢力が強いとされるアラスカ、アイオワ、オハイオの3州の上院選挙で、民主党は穏健派のイメージを打ち出しつつ、保守的ではない共和党支持者や無党派層の取り込みを図る。

党派による不一致、国内を分断

米国で実施される各種世論調査では、支持政党(民主党・共和党)の違いで対照的な傾向を示すことが多い。ピュー・リサーチ・センターの調査(注9)によれば、80%が支持政党の違いで、計画や政策だけでなく、基本的な事実についても意見が一致しないとしている。計画や政策で合意できなくても、基本的な事実については合意できるとする割合は18%にとどまった。分断の理由としては、「各党の有権者が同じ情報を異なる方法で解釈している」が67%、「各党の有権者が全く異なる情報を得ている」が53%という結果だった。

保守活動家チャーリー・カーク氏が設立した団体「ターニング・ポイントUSA」は、2024年の大統領選挙で若年層のトランプ氏への投票を後押しした。そのため、カーク氏の暗殺(注10)が、保守化した若年層の投票行動に影響を与える可能性も指摘されている。また、これを機に、トランプ政権がリベラルな組織や機関への攻撃をさらに強めるのではないかとみられる。

民主党のバーニー・サンダース連邦上院議員(バーモント州)は、中間選挙で接戦になった場合、トランプ氏の憲法を尊重しない姿勢を危惧し、共和党は選挙結果に異議を唱え、その判断を裁判所に持ち込む可能性があると指摘する。

中間選挙は、2028年の大統領選挙キャンペーンの開始点ともみられ、トランプ氏の選挙結果への対応が注目される。


注1:
通常、全国大会は大統領選挙前に行われる。
注2:
カリフォルニア州では2025年11月4日に、選挙区再編を問う住民提案「プロポジション50」の投票が実施され、6割以上の賛成票を集め承認されることになった。新しい区割りは2030年の選挙まで有効となる。
注3:
選挙情報サイト、リアルクリアポリティクスが発表した2026年の中間選挙を想定した投票についての平均値(2025年10月13日~11月3日)では、民主党議員への支持が46.1%と共和党議員(42.3%)を上回った。
注4:
ピュー・リサーチ・センター調査。
注5:
2025年3月22~25日に実施した調査(全米の成人1,600人対象)と10月31日~11月3日に実施した調査(全米の成人1,656人対象)を比較。
注6:
実施時期は2025年10月8~22日。対象者は全米のヒスパニック有権者3,000人。
注7:
実施時期は2025年10月27~30日。対象者は全米の成人1,245人。
注8:
実施時期は2025年10月24~28日。対象者は全米の登録有権者1,000人。
注9:
実施時期は2025年3月10~16日。対象者は、全米の成人9,482人。
注10:
2025年9月10日に、カーク氏はユタ大学での討論会中に銃撃され、死亡した。

米国2026年中間選挙

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執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。