中南米域内での事業展開も
ベネズエラ配車サービス大手Ridery(2)

2025年8月26日

ベネズエラで配車サービスを展開するライドリー(Ridery)。後編では、配車サービス以外の同社の事業について聞くとともに、中南米ワイドでの今後の事業展開の方向性も紹介する。創業者で最高経営責任者(CEO)のヘルソン・ゴメス氏に話を聞いた(取材日:2025年7月22日)。

質問:
配車以外のサービスについて。
答え:
当社ではライドリーのほか、貨物輸送に特化したフレティ(Flety)という事業部門がある。1,500台のトラックを保有しており、ユーザーはアプリにログイン後、国内の希望の場所に荷物を運ぶトラックをリクエストできる。食品配達サービスも提供している。スッパー(Zupper)という食品配達事業部門があり、バイクでスーパーマーケットの商品を運べる。
また、現在、ベネズエラの国内都市に移動するためのプライベートジェットを予約できるプラットフォームを「Ridery Fly」という名称で構築しようとしている。例えば、企業が会議のために幹部をマラカイボに急に派遣しなければならなくなったとき、出発する便が午前9時しかなく、前泊しなければならないことがある。幹部4人を午前7時など、彼らが出発したい時間に飛行機で送り、会議終了の午後3時に帰れるようにできれば、ホテル代や食費などのコストを減らし、費用対効果を高められる。ニッチな市場ではあるが、このタイプのサービスを求める顧客は確実に存在する。
現在、ライドリーはベネズエラでイノベーションを生み出し、国内で最大規模の企業の1つとなりつつある。われわれの目標は、中南米で最も重要なテクノロジー企業の1つになることだ。
われわれは人工知能(AI)の開発にも取り組んでいる。パニータ(Panita)という人工知能エンジンのAIプロジェクトを進めている。これは現実世界とつながるアシスタント機能だ。例えば、「ねえ、今度、彼女と映画に行くんだけど、チケットを買って」と言えば、音声メッセージを送信するだけで映画のチケットを購入できる。また、アプリを通じてポップコーンなどのスナックを購入できるオプションも用意している。これらは全てワッツアップ上で行い、オンラインで支払い手続きを行う。映画館で、支払い時に生成されたQRコードで受け取る仕組みとなっている。
ライドリーを使えば、中南米ではまだ存在しない多くのことが可能になる。地域全体にも波及する可能性がある。われわれはウーバーを超え、グーグルやアップルのような存在だと自負している。われわれは人々の生活に影響を与える製品を生み出すテクノロジー企業になりたいと考えている。われわれのフォーカスはベネズエラだが、例えば、貨物輸送部門(フレティ)は2025年1月にパナマで事業を開始し、間もなく中南米の別の国にも拠点を開設する予定だ。
つまり、このビジョンはもう少し先に進められるということだ。中南米を見渡すと、ウーバーのような多くの企業が中南米全域で歓迎されており、この地域にとって非常に良い影響を与えている。しかし、中南米の大手テクノロジー企業を見てみると、メルカド・リブレ(Mercado Libre)やラッピ(Rappi)などごく少数で、まだまだチャンスがあると考えている。われわれはこの地域をよりローカルな視点で捉えており、そこに可能性を見いだしている。

ライドリーオフィス内、左がヘルソン・ゴメス氏、右は同社顧問のラミロ・モリーナ氏
(ジェトロ撮影)
質問:
資本について。
答え:
配車サービスはライドリーを含めて8社ほどがベネズエラで展開しているが、ベネズエラ資本は当社だけだ。ヤミー・ライズ(Yummy Rides)は米国のベンチャーキャピタルが入っている。そのほか小規模な会社も幾つかあり、ビップビップ・ライズ(BipBip Rides)は、1年半ほど前の参入時はロシアが所有していたようだが、その後サウジアラビア資本に買収されたはずだ。
質問:
電気自動車(EV)について。
答え:
ベルディ(Verdi)という会社は主に空港送迎サービスに特化しており、保有車両は全てEVという特徴がある。ちなみに、われわれもEVの世界に参入すべく、検証を進めている。これはライドリーにとって次なる大きなイノベーションだ。会社の将来は持続可能性の課題とより密接に結びついており、今後もそうなると考えている。停電が頻発するこの国でEVはどの程度実現可能なのかという疑問については、検証が必要だ。というのも、各州でそれぞれ状況が異なり、首都圏ではここ数年間、電力事情は比較的安定している。従って、まずは首都圏から始め、車両管理に関する全ての検証が完了すれば、他の都市にも展開できるかどうかを見極めたいと考えている。2021年にライドリーが開業した当時、ベネズエラはガソリン供給問題を抱えていた。ガソリンの入手が容易ではなかったため、ライドリーは成長できないだろうと多くの人が考えていたが、実際はそうはならなかった。EVでも同じことが起こることを願っている。
質問:
ベネズエラのエコシステムについて。
答え:
ライドリーはこれまでに幾つものプロジェクトに投資してきており、中には後に買収や合併されたものもある。われわれは他のベンチャーにも投資してきたが、成功したものもあれば、そうでないものもあった。しかし、モビリティー分野には重要なイノベーションの要素があり、新しいプロジェクトに投資している。少し前に「ベネズエラ・モビリティー・ベンチャーズ」というファンドを立ち上げた。これはベネズエラ初のベンチャーキャピタル(VC)ファンドだ。このファンドは国家証券監督庁(SUNAVAL)の承認を受けており、間もなくカラカス証券取引所に上場する予定だ。このファンドには2,000人以上の投資家が参加している。このファンドの素晴らしい点は、誰もがVCに投資できるようにすることを目指していたことで、大口投資家から10ドル規模の個人投資家まで、さまざまな投資家が含まれていることだ。
投資家への呼びかけに関しては、SUNAVALの承認後、マラカイボ、バレンシア、サンクリストバルなどベネズエラ各地を巡回した。カラカスでもさまざまな場所で講演を行った。また、VCとは何かを十分に理解していない人がいたため、アンドレス・ベロ・カトリック大学(UCAB)と共同でオンラインコースを提供した。コースへの参加料金の50ドルをファンドの株式として、ファンドへの投資を受ける形態をとった。このVCコースには約400人が参加した。
ベネズエラでVCのエコシステムはまだ初期段階にある。実際、ライドリーやベネズエラの多くのスタートアップにとって、最大の課題はVCへのアクセスだ。ライドリーではVCだけでなく、非常にハイレベルのベネズエラ人投資家チームを結成できた。多くのスタートアップはVCとつながる機会がなく、事業を軌道に乗せられなかったり、銀行融資を受けてもうまくいかずに負債を抱えたりすることになる。VCファンドは起業家に、その形態に適した種類の資本でベンチャーに取り組む機会を提供することに真に努めている。
ライドリーはプロジェクトを適切なタイミングで立ち上げることができ、その成長は目覚ましいものだった。実際、世界各地でイベントを開催すると、わずかな資金で起業した企業が、しかも、ベネズエラでこれほど効率的に成長できたことを信じられない、あるいは理解できないという反応が多い。しかし、モビリティーを含むこの分野にはチャンスがあり、それは今もなお存在している。そして、われわれはまだやるべきことがたくさんあると信じている。
質問:
紹介のあった事業内容以外に、日本企業に知っておいてもらいたい点は。
答え:
日本車に関して言うと、ベネズエラの自動車市場で日本ブランドのポジショニングは非常に強力だ。市場が停滞気味であるにもかかわらず、日本ブランドは依然として魅力的だ。現在は中国やイランなどからの車を扱っているが、われわれは市場で高い需要がある日本のトラックや自動車ブランドに興味を持っており、日本車を導入していきたいと考えている。
これまで参加している国際イベントなどでベネズエラに投資機会があることを常に訴求している。多くの人はベネズエラの現状を知らないため、魅力に気づいていない。ネガティブな報道だけを見ていることもあり、ベネズエラ経済の好調な側面が十分に反映されていないこともある。われわれは常にベネズエラは素晴らしい投資機会だという考えを訴求するよう努めている。ベネズエラはアイデアや提携など、さまざまなことにオープンだ。

ベネズエラ配車サービス大手Ridery

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(1)多様なサービスを提供

執筆者紹介
ジェトロ・カラカス事務所
マガリ・ヨネクラ
1998年、ジェトロ入構。ベネズエラ業務全般。
執筆者紹介
ジェトロ・ボゴタ事務所長
中山 泰弘(なかやま やすひろ)
2002年、ジェトロ入構。青森、関東貿易情報センター、在ニカラグア日本大使館、サンティアゴ事務所、アディスアベバ事務所などの勤務を経て、2024年8月から現職。