多様なサービスを提供
ベネズエラ配車サービス大手Ridery(1)
2025年8月26日
ベネズエラで配車サービスを展開するライドリー(Ridery)。サービス開始の経緯や今後の展開などについて、創業者で最高経営責任者(CEO)のヘルソン・ゴメス氏に話を聞いた(取材日:2025年7月22日)。
- 質問:
- ライドリーについて。
- 答え:
- 社員は約300人いる。現在はローカルモビリティーが中心だが、これまで20年間にさまざまなテクノロジー関連事業を立ち上げ、常にベネズエラの発展を目指してきた。テクノロジーを通じてベネズエラの人々の生活を向上させることがビジョンだ。設立当初はアマゾンのようなシステムを作りたいと考え、2005年にオンラインで書籍の販売を開始した。2015年には「Hecho en Venezuela Store」というプロジェクトを立ち上げた。これは、職人たちが作品を販売できる店で、当初はデジタルストアだったが、現在は実店舗を構えており、店舗の1つが首都カラカスの国際空港内にある。同店舗で観光客から「ベネズエラ国内を移動するのに何のアプリが必要か」とよく尋ねられたが、当時はまだそのようなツールはベネズエラになかった。ベネズエラの観光を促進し、観光客の移動を支援するアプリが必要だという考えは当時既にあり、モビリティーに関するツールを開発するのは当然の流れだった。
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カラカス国際空港内のHecho en Venezuela Store(ジェトロ撮影) - 新型コロナウイルスのパンデミックが2020年3月中旬に発生し、2021年に入っても国は依然としてまひ状態にあったが、その最中の2021年3月15日に首都カラカスでライドリーのサービスを開始した。われわれのスローガンは「ベネズエラを再び動かそう」だった。なぜなら、われわれは1年間、事実上何もできていなかったからだ。また、パンデミックの最中、車は持っていないが病院などに移動が必要な人々を輸送することの価値に気づいた。それは差し迫った必要性でもあった。そこで、われわれはごくわずかな資本でサービスを開始した。まるで実験のようでもあった。驚いたことに、初日に10件のオペレーションを行い、2日目は12件、3日目は20件、そして最初の1カ月で800件のオペレーションを行った。2カ月目には3,000件、数カ月後には既に2万5,000件を超えるオペレーションを実行した。現在の月間オペレーション件数は200万件に迫っており、アプリのユーザー数は約300万人いる。そして現在、15都市で事業を展開している。ちなみに、月間200万件のオペレーションのうち、バイク移動のニーズが多く、40%を占めている。
- 現在5万6,000人以上のドライバーが車やバイクを含むさまざまな車両で、われわれとともに働いている。ドライバーはライドリーで収入を得る方法を見いだしているが、運用の過程で、多くのドライバーもしくは個人がライドリーで働きたいと思っていても、車を持っておらず、資金調達もできないことに気づいた。そこで、「ライドリーでビジネスを始めよう(Emprende con Ridery)」というプログラムのアイデアを思いついた。具体的には、ライドリーが車を提供するサービスで、ライドリーのロゴが描かれた車を当社が提供し、ドライバーと利益を分配するシステムを採用している。これにより、ドライバーは車を所有していない状態から、家族のために収入を得られる状態になり、将来的にはその車のオーナーになることも可能となる。2024年からは新車両を用意しており、より安全なサービスを提供できている。また、高齢者や車椅子利用者など移動が制限される方々向けに、特別サービスを提供するプログラムを他社と共同で推進している。サービスの選択肢でも、プレミアムな存在となることで貢献している。
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カラカス市内を走るライドリー車(ジェトロ撮影) - 赤紫色のライドリー車も街中を走っているが、これはライドリーがベネズエラ代表サッカーチーム〔愛称:ビノティント(赤ワイン)〕の公式モビリティースポンサーだからだ。サロモン・ロンドン選手はライドリーのアンバサダーも務めている。
- ライドリーは国内を移動する手段をもたらし、ベネズエラ人の生活を変えただけでなく、ベネズエラでの起業は可能だという信念を新たにした。だからこそ、われわれはエコシステムだと言っている。さまざまなプロジェクトがここにあるが、起業家たちも常に新しいアイデアを持って、われわれにアプローチしてくる。ウーバーのような事業という当初のアイデアをはるかに超えて、われわれにとって、ライドリーはこの国の未来を牽引し続けるテクノロジー企業となっている。
- 質問:
- ライドリーで自社車両を準備した背景について。
- 答え:
- ベネズエラでは2016年のハイパーインフレ以降、主要自動車メーカーの撤退が相次ぎ、長年にわたって自動車供給に大きな空白が生じていた。ライドリーサービスのニーズを満たすには車両数が足りなかったため、自社で準備する流れとなった。車両は国内ディーラーを通じてさまざまなブランドを入れている。
- 質問:
- 国内シェアについて。
- 答え:
- とある調査によると、国内8社のモビリティーサービス提供会社のうち、われわれの市場シェアは6割と出ている。われわれが最初に参入し、その後も圧倒的な市場シェアを維持しているのは興味深い。ただ、他社の参入は市場の活性化をもたらし、われわれも改善の必要性を意識することとなった。ベネズエラは国土の舗装距離が長い国の1つで、モビリティーは経済にとって重要な要素だ。
- 質問:
- ライドリーでドライバー登録を行うに当たり、どのようなフィルターを設定しているか。
- 答え:
- われわれが構築したドライバー認証システムは、中南米で最も先進的なものの1つだ。他国では車の写真や運転免許証の写真をアップロードするだけで承認されるアプリがたくさんあるが、ライドリーでは初期段階からブランドの信頼を築くため、システム構築に当たって失敗の可能性を最小限に抑えることを目指した。現在、ライドリーで働くことが承認された5万6,000人のドライバーは、登録者20万人以上の中から選考されている。選考されたドライバーは全員、ライドリーのオフィスがある15都市のいずれかに事前予約した上で出向き、必要な書類を持参し、心理テストを受け、車両を検査し、講習とオンラインテストを受けなければならない。その後、ライドリーで働くためのアクセス権を付与する流れとなっている。このようなプロセスもあり、サービス開始以降、ドライバーが利用者から盗難を働いた事例は一度も報告されていない。特にベネズエラでは、安全性への懸念が大きいので、この結果はわれわれにとって非常に好ましい。
- 質問:
- 支払いツール、料金設定などについて。
- 答え:
- 多様だ。ボリバル現金、ドル現金のほか、国際カード、国内カードなどを取り扱っている。コロンビア国境近くではコロンビア・ペソも使用できる。また、プリペイド方式も導入しており、走行距離分を事前購入できるシステムも設けている。最低料金は車種にもよるが、バイクが1.25ドル、車が2.70ドルで設定している。選択肢も豊富に用意しており、例えば、通常車でも製造年が2000年以前の車両はバラティコ、2015年までのものはエコノミー、新しい車両はプレミアムと、3段階設けている。また、運転手が女性、サービス依頼者も女性限定の「Ellas por ellas(女性専用車両)」というサービスも設けている。一般客だけでなく、法人向けサービスも提供しており、既に1,000社以上の利用がある。例えば、ある企業は幹部社員をカラカスからバレンシアへ出張させる必要がある場合に、ライドリーのプレミアム車両で送迎を行うサービスを利用している。
- 質問:
- 貴社が所有する車両に関し、メンテナンスはどのように実施しているのか。
- 答え:
- ライドリーが保有している車両台数は1,000台近くで、これに対し、車両メンテナンス専任のスタッフが約40人いる。修理・整備場は3都市にある。メンテナンス以外にも、スペアパーツや在庫の管理も行うため、業務範囲は広範で、2年近くかけてようやく体制が整った。ちなみに、メンテナンス費用はドライバーには請求しない。ドライバーと収益分配モデルを運用しており、メンテナンス費用、スペアパーツ、保険料もライドリーが負担する。
ベネズエラ配車サービス大手Ridery
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・カラカス事務所
マガリ・ヨネクラ - 1998年、ジェトロ入構。ベネズエラ業務全般。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ボゴタ事務所長
中山 泰弘(なかやま やすひろ) - 2002年、ジェトロ入構。青森、関東貿易情報センター、在ニカラグア日本大使館、サンティアゴ事務所、アディスアベバ事務所などの勤務を経て、2024年8月から現職。