歴史ある中南米経済統合の枠組み
ラテンアメリカ統合連合の今(1)
2025年10月27日
中南米では古くから、自由貿易協定(FTA)など貿易協定の活用が進んできた。GATT24条に基づくFTAのほか、中南米統合連合(ALADI)の枠組みで締結した貿易協定の利用が多い。南米南部共同市場(メルコスール)を構成する複数の協定やメキシコ-メルコスール自動車協定などは、進出日系企業も活用している。
1980年の発足以降、45年の歴史を持つALADIの現状について解説する。
1980年に創設された歴史ある経済統合
ALADIは、1980年8月12日にウルグアイの首都モンテビデオで締結されたモンテビデオ条約に基づく、ラテンアメリカ共同市場を志向する地域統合だ。前身のラテンアメリカ自由貿易連合(ALALC)の失敗(注1)を教訓に、統合プロセスの柔軟性を認めている。例えば、サブリージョン単位での統合深化や、加盟する二国間・複数国間で部分的な協定を締結することを許容し、加盟国が画一的に関税削減の義務を負うのではなく、より開発度合いが低い国・地域への配慮を盛り込んでいる。
WTOとの関係では、最恵国待遇(MFN)原則の例外とされる地域貿易協定(RTA)の1つに当たる。ただし、「関税および貿易に関する一般協定(GATT)」第24条に基づくFTA(注2)ではなく、授権条項(注3)に基づくRTAだ。
設立時の加盟国は、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、メキシコ、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ。1999年8月にキューバ、2012年5月にパナマが加盟し、現加盟国は13カ国だ。約2,000万平方キロメートルの領土に6億人以上の人口を有する経済ブロックになっている。
モンテビデオ条約は、経済統合の手段として、(1)地域特恵関税(Preferencia Arancelaria Regional:PAR)、(2)地域協定(Acuerdo de Alcance Regional:AAR)、(3)部分的到達協定(Acuerdo de Alcance Parcial:AAP)の3種類を規定している。対外共通関税の設定は、盛り込んでいない。
| 大分類 | 細分 | 内容 | 協定名 |
|---|---|---|---|
|
地域協定 (AAR) |
市場開放(AM) | 特定の低開発国に対する市場開放 | AR.AM1~3号 |
| 科学技術協力(CYT) | 科学技術協力の促進 | AR.CYT6号 | |
| 文化教育科学貿易(CEYC) | 文化、教育、科学の領域で協力し貿易を促進 | AR.CEYC7号 | |
| 貿易の技術的障害(OTC) | 貿易に関する技術的障害(TBT)を調和 | AR.OTC8号 | |
|
部分的到達協定 (AAP) |
経済補完(CE) | 特定国間で相互に関税などを譲許 | 表2参照 |
| 貿易(C) | 財の貿易に特化 | AAP.C28号 | |
| 旧譲許再交渉合意(R) | ALALC時代の譲許をALADIの枠組みで再合意 | AAP.R29号、AAP.R38号 | |
| 農牧業(AG) | 特定農産品の関税譲許や特定地域の農業開発など | AAP.AG1~3号 | |
| 貿易促進(PC) | 関税譲許以外の貿易促進(輸送、燃料供給、輸送など) | AAP.PC1, 2, 5, 7~10, 12~19号 | |
| モンテビデオ条約第14条関連(AAP.A14TM) | 科学技術協力、観光促進、環境保護など | AAP.A14TM1, 3~17号 | |
| モンテビデオ条約第25条関連(AAP.A25TM) |
ラテンアメリカのALADI非加盟国・地域とのAAP (ALADI加盟国と中米・カリブ諸国との協定) |
AAP.A25TM6, 7, 16, 20, 22~29, 31, 36~38, 40~47号 | |
| 地域特恵関税(PAR) | 全加盟国で、発展段階に応じて相互に関税を譲許 | AR.PAR4号 | |
出所:ALADIウェブサイトから作成
(1)はALADIで最も重要な協定だ。加盟国間で発展段階に応じて相互に関税を削減する内容だ(詳細を後述)。(2)のAARと同様に全加盟国を対象にするため、AARの第4号(AR.PAR4)としての記号を付している。PAR以外のAARの例としては、以下の通り。ALADIへの新規加盟を望む国は、PARを含むAARを全て締結・批准する必要がある。ニカラグアは2011年にALADIへの加盟が認められたものの、このプロセスが完了していないため、加盟国になっていない。
- AR.AM1号:ボリビア原産品に対して他の加盟国が一方的に関税や非関税規制を撤廃
- AR.AM2号:エクアドル原産品に対して同様に関税や非関税規制を撤廃
- AR.AM3号:パラグアイ原産品に対して関税や非関税規制を撤廃
- AR.CYT6号:地域間で科学技術協力を促進
- AR.CEYC7号:地域間の文化、教育、科学の領域における協力と貿易促進が目的
- AR.OTC8号:地域間の貿易に関する技術的障害(TBT)の調和が目的
(3)のAAPの例としては、二国間あるいは複数国間で相互に関税を撤廃するAAP.CE(部分的到達・経済補完協定、表2)がある。なお、貿易円滑化や科学技術協力、文化交流、観光促進などを目的とするAAPも締結可能だ。現時点で約50本のAAPが発効している。
| 番号 | 対象国・地域 |
対象産業分野 (2025年9月末時点) |
発効日 |
|---|---|---|---|
| 2 | ブラジル、ウルグアイ | 自動車産業 | 1985年10月 |
| 6 | アルゼンチン、メキシコ | 限定無し | 1987年1月 |
| 13 | アルゼンチン、パラグアイ | 自動車産業 | 1989年11月 |
| 14 | アルゼンチン、ブラジル | 自動車産業 | 1990年12月 |
| 16 | アルゼンチン、チリ | 限定無し | 1991年8月 |
| 18 | アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ | 限定無し | 1991年11月 |
| 22 | ボリビア、チリ | 限定無し | 1993年4月 |
| 23 | チリ、ベネズエラ | 限定無し | 1993年4月 |
| 24 | チリ、コロンビア | 限定無し | 1993年12月 |
| 33 | コロンビア、メキシコ、ベネズエラ | 限定無し | 1995年1月 |
| 35 | チリ、メルコスール | 限定無し | 1996年10月 |
| 36 | ボリビア、メルコスール | 限定無し | 1997年2月 |
| 38 | チリ、ペルー | 限定無し | 1998年7月 |
| 40 | キューバ、ベネズエラ | 限定無し | 2001年8月 |
| 41 | チリ、メキシコ | 限定無し | 1999年8月 |
| 42 | チリ、キューバ | 限定無し | 2008年6月 |
| 46 | キューバ、エクアドル | 限定無し | 2001年3月 |
| 47 | ボリビア、キューバ | 限定無し | 2001年8月 |
| 49 | コロンビア、キューバ | 限定無し | 2001年7月 |
| 50 | キューバ、ペルー | 限定無し | 2001年3月 |
| 51 | キューバ、メキシコ | 限定無し | 2001年2月 |
| 53 | ブラジル、メキシコ | 限定無し | 2001年2月 |
| 54 | メキシコ、メルコスール | 枠組み協定 | 2003年5月 |
| 55 | メキシコ、メルコスール | 自動車産業 | 2003年1月 |
| 57 | アルゼンチン、ウルグアイ | 自動車産業 | 2003年5月 |
| 58 | メルコスール、ぺルー | 限定無し | 2006年1~2月 |
| 59 | メルコスール、コロンビア、エクアドル、ベネズエラ | 限定無し | 2005年1~4月 |
| 60 | メキシコ、ウルグアイ | 限定無し | 2004年7月 |
| 62 | キューバ、メルコスール | 限定無し | 2007~2009年 |
| 63 | ウルグアイ、ベネズエラ | 限定無し | 2009年4月 |
| 64 | パラグアイ、ベネズエラ | 限定無し | N.A. |
| 66 | ボリビア‐メキシコ | 限定無し | 2010年6月 |
| 67 | メキシコ、ペルー | 限定無し | 2012年2月 |
| 68 | アルゼンチン、ベネズエラ | 限定無し | 2013年1月 |
| 69 | ブラジル、ベネズエラ | 限定無し | 2014年10月 |
| 70 | ボリビア、キューバ、ベネズエラ、ニカラグア | 限定無し | 2014~2015年 |
| 71 | キューバ、パナマ | 限定無し | 2009年8月 |
| 72 | コロンビア、メルコスール | 限定無し | 2017~2019年 |
| 73 | チリ、ウルグアイ | 限定無し | 2018年12月 |
| 74 | ブラジル、パラグアイ | 自動車産業 | 2020年9月 |
| 75 | チリ、エクアドル | 限定無し | 2022年5月 |
| 76 | メルコスール、パナマ | 枠組み協定 | N.A. |
出所:ALADIウェブサイトから作成
ALADIの機構としては、最高意思決定機関の閣僚審議会(Consejo de Ministros:各国の外相または通商交渉担当相が参加)、閣僚審議会に対して統合深化に向けた提案を行う政府代表委員会(Comité de Representantes)、ALADIの政策を評価し、AAPなど二国間・複数国間の協定の調和を図る評価・収斂会議(Conferencia de Evaluación y Convergencia)と各機構の活動をサポートする事務局(Secretaría General)がある。政府代表委員会を構成する政府代表は常任で、ウルグアイ(各国大使館など)に常駐する。評価・収斂会議のメンバーは、各国の特命全権大使で構成される。
事務局メンバーには、国籍別に人数枠が設定され、出身国別にメンバーがその範囲内に収まるように公募がなされる。事務総長と次官級の任期は3年で再選禁止、課長級(Jefe de Departamento)の任期は4年だ。各課(Departamento)や特定の課に属さない総務・会計班、人事班、渉外・広報班、法務支援班などで働く専門スタッフ(Técnico)は、無期限雇用だ。
1984年の地域特恵関税が有効、進出日系企業は自動車分野のACEを活用
1984年に締結されたPAR4号は、中南米11カ国(アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、メキシコ、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ)の間で締結された協定だ。1999年にキューバ、2012年にパナマも加わった。
この協定は、加盟国間の発展水準の違いに配慮し、豊かな国が貧しい国に対してより多く関税譲許(関税削減)する設計になっている。アルゼンチン、ブラジル、メキシコを域内先進国に、キューバ、コロンビア、チリ、パナマ、ウルグアイ、ベネズエラを中進国に、ボリビア、エクアドル、パラグアイを低開発国に分類する。さらに、低開発国の中でも内陸国(ボリビアとパラグアイ)と、沿岸国(エクアドル)で、待遇に差を設けている。より発展した国が、発展水準が低い国に対して大きな割合で関税を譲許するメカニズムになっている。例示すると、域内先進国のメキシコが同じく域内先進国ブラジル産から一般関税率20%の商品を輸入する場合、20%×80%(20%譲許)で16%の税率になる。これに対し、中進国コロンビア産の場合は、20%×72%(28%譲許)で14.4%、低開発国(沿岸)エクアドル産の場合は、20%×60%(40%譲許)で12%、低開発国(内陸)ボリビア産の場合、20%×52%(48%譲許)で10.4%になる。対象品目は、各国がセンシティブ品目として指定した例外品目を除く全品目だ。
なお、相手国との間でGATT24条に基づくFTAやALADIの枠組みの部分的到達・経済補完協定(AAP.CE、以降、ACE)を締結している場合、それら協定に基づく税率が適用になる。すなわち、同協定の対象外品目だけがPAR4号の適用になる。
PAR4号は1984年に発効した古い協定ながら、現在でも有効だ。特に二国間で広範囲の産品をカバーするFTAやACEがないメキシコ-ブラジル間で進出日系企業の利用機会が多い。後述するACE55号の対象外のメキシコ製品について、PAR4号を用いてブラジルでの関税負担を軽減(2割削減)している進出日系企業もある。
| 特恵供与国 | 特恵授与国 | |||
|---|---|---|---|---|
|
ボリビア、 パラグアイ |
エクアドル | コロンビア、チリ、キューバ、パナマ、ウルグアイ、ベネズエラ | アルゼンチン、ブラジル、メキシコ | |
| ボリビア、パラグアイ | 24% | 20% | 12% | 8% |
| エクアドル | 24% | — | 12% | 8% |
| コロンビア、チリ、キューバ、パナマ、ウルグアイ、ベネズエラ | 34% | 28% | 20% | 12% |
|
アルゼンチン、ブラジル、 メキシコ |
48% | 40% | 28% | 20% |
出所:ALADI地域協定4号および追加議定書から作成
ALADIの協定のうち、進出日系企業が最も活用しているのは、メキシコと南米南部共同市場(メルコスール)加盟国との間で自動車分野の関税を削減するACE55号、アルゼンチン-ブラジル間で主に自動車分野の関税を削減するACE14号、自動車以外のメルコスール諸国間の貿易自由化を定めるACE18号だ。
ACE55号は、自動車産業に対象を限定し、メキシコ-アルゼンチン間は附属書I、メキシコ-ブラジル間は附属書II、メキシコ-パラグアイ間は附属書III(注4)、メキシコ-ウルグアイ間は附属書IVで、具体的な関税削減を規定している。ACE55号は、メキシコ-ブラジル間の完成車相互貿易に加え、メキシコからアルゼンチンへの完成車輸出、メキシコからブラジルへの自動車部品輸出で、日系企業が利用している。同協定の問題点は、メキシコ-ブラジル間の原産地規則が厳しすぎて、利用できない企業が多いことだ。ACE55号の自動車部品の原産地規則〔同協定の別添II(原産地規則)の第5条で規定〕では従来、一部を除き、a) 4桁レベルの関税分類変更(CTH、注5)、またはb) 製品価額に占める非原産材料の価額が50%以下(注6)のいずれかを満たせば良かった。しかし、2015年に締結された第5次追加議定書に基づき、ブラジル向けにはCTHの採用を廃止。積み上げ方式(注7)の域内原産割合(RVC)で35%(2019年3月19日以降は40%)以上を求めるようになった(2015年4月8日付ビジネス短信参照)。メキシコでは高品質な鋼材やプラスチック樹脂などの素材を現地調達するのが困難なため、素材加工型の自動車部品の場合、積み上げ方式のRVCで40%以上を達成するのは至難の業だ。
ACE14号は、メルコスール域内の関税削減を定めるACE18号の例外品目になっている自動車分野を対象とするアルゼンチン-ブラジル間の二国間協定だ(注8)。両国間の完成車の相互貿易に加え、ブラジルからアルゼンチンへの自動車部品輸出で、同協定の特恵関税を活用している日系企業がある。大国ブラジルのアルゼンチンに対する一方的な輸出超過にならないように均衡係数(注9)を定めているため、主要な完成車メーカーは両国に工場を構えて相互に輸出することでバランスを取ることが求められる。
- 注1:
-
ALALCは、1960年のモンテビデオ条約で発足。12年後に域内貿易の自由化することを目指した。
しかし、(1)共通譲許表を作成して発展段階の異なる全加盟国に画一的な関税削減を敷いたこと、(2)輸入代替工業化を進める各加盟国の保護主義的な動きから、関税削減提案の取り消しが相次いだこと、(3) 1970年代に発生した石油危機により産油国の放漫財政を招き、インフレ進行など域内の通商環境にも悪影響を与えたことなどにより、当初想定していた成果を上げられなかった。 - 注2:
-
GATTでは、第1条で一般的最恵国待遇(MFN)を規定。関税の譲許は、WTO加盟国に対して等しく適用することを原則としている。
その例外としてGATT24条が定める関税同盟や自由貿易地域がある。同条が定める関税同盟や自由貿易協定(FTA)は、締約国間の「実質上のすべての貿易」について関税を廃止することを条件とする。 - 注3:
- 授権条項(Enabling Clause)は、1979年に完了したGATTの東京ラウンド交渉で、締約国団の決定として採択した「異なるかつ一層有利な待遇並びに相互主義及び開発途上国のより十分な参加」のこと。GATT第1条にかかわらず、開発途上国に対してより有利な待遇(特恵関税)を適用することを認め、さらに開発途上国の貿易協定についてGATT24条の厳格な要件を満たすことなく締結を認める。
- 注4:
- 附属書IIIでは、メキシコ-パラグアイ間の関連貿易について規定している。ただし、パラグアイには自動車産業が協定交渉時点(2001~2002年)で存在しなかったため、空欄になっている。
- 注5:
- 輸出する産品の生産に使用する非原産材料の関税分類(HS)コードが輸出産品のHSコードと上4桁の単位で異なる場合、域内で非原産材料に実質的な変更があったと判断し原産品と認める判断基準。
- 注6:
- 輸出製品の取引価額(FOB)に占める非原産材料価額の比率が製品のFOB価額の50%以下ならば、原産品と認める判断基準。日本が締結する経済連携協定(EPA)で採用されている控除方式の域内原産割合(RVC)で50%以上と同意。
- 注7:
- 製品取引価額(FOB)に占める原産材料の価額で計算する方式。「材料」の価格しか足し上げられず、労務費や経費、利益などが非原産付加価値になるため、控除方式と比べて厳格な基準。
- 注8:
- 元々はALADIの枠組みでアルゼンチンとブラジルの間の関税を削減する二国間協定で、自動車や自動車部品以外も含まれていた。しかし、1991年11月末にメルコスール諸国間で関税を削減するACE18号が発効したため、自動車分野以外はACE18号に基づいて関税を削減している。
- 注9:
- ブラジルからアルゼンチンへの自動車・同部品の輸出額が、アルゼンチンからブラジルへの自動車・同部品の輸出額に対して一定の比率以下に収まるように規制する係数。2025年9月末時点の係数は2であり、ブラジル側の輸出額はアルゼンチン側の輸出額の2倍まで許容される。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課主幹(中南米)
中畑 貴雄(なかはた たかお) - 1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て、2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月からジェトロ・メキシコ事務所長、2024年5月から調査部主任調査研究員、2025年4月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『グローバルサプライチェーン再考: 経済安保、ビジネスと人権、脱炭素が迫る変革』、『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』など。




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