韓国の防衛産業輸出の現状を探る
グローバル防衛産業4大強国を目指す

2025年12月2日

従来、国内需要中心と見なされていた韓国の防衛産業は、今では輸出戦略産業として位置付けられている。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権期から積極的に推進してきた防衛産業輸出拡大(2024年4月19日付ビジネス短信参照)の動きは、李在明(イ・ジェミョン)政権においても継続している。李大統領は、大統領秘書室長を「防産特使(注1)」に任命し、主要輸出先国へ派遣するなど、同分野を重要視している。本稿では、韓国の防衛産業について、輸出動向と関連政策を中心に紹介する。

世界12カ国へ10種類以上の武器システムを輸出

韓国の防衛産業の輸出は、1975年にフィリピンへ弾薬を輸出したことに始まる。しかし、同案件は少額・少量であったことから、これをもって輸出が本格化したとは言い難い。その後、2006年に「防衛事業庁」を設置したことが起爆剤となり、2010年代から本格化したとされている。当初は自走砲など旧来型の中型戦闘システムが主要輸出品だったが、2020年代に入ってからは、高性能ミサイルなど技術レベルが高度な武器システムの輸出にも取り組んでいる。韓国は、今では世界の防衛産業における新たなプレーヤーとして浮上している。

実際、韓国の防衛産業の輸出総額は2020年代に入り飛躍的に伸びている。2010年代には20億ドル台から30億ドル台で推移していた防衛産業の輸出額は、2021年に72億5,000万ドルを記録、2022年には173億ドルと、100億ドルの壁を一気に突破した(図)。2023年と2024年は成約案件の契約遅延などで、一時的に輸出額は落ち込んだものの、2025年は200億ドルを超えるとの見方も示されている。輸出先や輸出する武器システムの種類も多様化している。2020年代前半には4カ国だった輸出先は2025年には12カ国に増え、武器システムの種類も10種類以上に増加している(注2)。

図:韓国の防衛産業の輸出額推移
韓国の防衛産業輸出推移 2012年23.5億ドル、2013年34.1億ドル、2014年36.1億ドル、2015年35.4億ドル、2016年24.0億ドル、2017年31.2億ドル、2018年27.7億ドル、2019年30.8億ドル、2020年29.7億ドル、2021年72.5億ドル、2022年173.0億ドル、2023年135.0億ドル、2024年95.0億ドル。

出所:産業研究院、「国内防衛産業の供給網リスク分析と競争力診断」(注3)

次に、韓国の防衛産業の輸出先、種類、主要輸出事例などを紹介する。主要輸出先は、ポーランドをはじめとする欧州、アラブ首長国連邦(UAE)をはじめとする中東が中心で、一部のアジア・オセアニア諸国への輸出も確認される。現在の12カ国への輸出に加え、新規で3~5カ国への輸出も話が進んでいるようだ。

種類別には、ハンファ・エアロスペース製の「K9自走砲」、現代ロテム製の「K2戦車」、韓国航空宇宙産業(KAI)製の「FA-50軽攻撃機」など、実戦運用経験のある装備の輸出が多い。最近では、ハンファ・エアロスペース製の「天舞(多連装ロケットシステム)」「天弓(中距離・中高度地対空迎撃ミサイル)」などのミサイルへと、輸出品目が増加している。その他、KAI製「KF-21次世代戦闘機」や潜水艦などの高度な武器システムについての輸出協議も進められている。

主要輸出事例としてポーランド、UAEなどへの輸出が注目される。特にポーランドとは、2022年にK2戦車180台を含むK9自走砲、FA-50軽攻撃機など、合計123億ドルの輸出契約を締結した。その結果、同国が韓国の防衛産業の最大の輸出先として急浮上している。2024年には、天舞(多連装ロケットシステム)の購入契約も締結されるなど、ポーランドへの防衛産業輸出は多様化している。UAEとは、2022年に天弓の輸出契約(35億ドル)を締結した。同案件は、韓国初の中距離・中高度地対空迎撃ミサイルシステムの輸出として意義深い。さらに天弓は、2024年にサウジアラビアとの契約(32億ドル)にも成功した。

李政権、「グローバル防衛産業4大強国」を目指し、コントロールタワーを新設

このような韓国の防衛産業の輸出躍進には、積極的な政府の支援も大きく貢献している。防衛産業の特性上、輸出成約には政府間の交渉が前提条件で、政府の積極的な政策推進やトップセールスが必須だ。韓国政府もこれに着目し、前述の「防衛事業庁」の開庁以来、さまざまな関連政策を推進してきた。李在明政権も「防衛産業育成および獲得(導入・調達)体系革新を通じた『グローバル防衛産業4大強国』(注4)入り」を123の国政課題(2025年8月14日付ビジネス短信参照)の1つとして挙げ、同分野を後押ししている。同国政課題の主要な内容は以下のとおり。

  1. 防衛産業輸出に対する財政・金融・税制面での支援を実施し、産業協力などのパッケージ支援を大幅に強化するとともに、防衛産業輸出のコントロールタワーの構築を通じ、政府を挙げて総力で支援する。
  2. 企業を成長段階別(参入·成長·拡大·高度化)に集中支援し、防衛産業の素材·部品·装備企業を全方位的に支援するとともに、技術移転などを通じ、中小・ベンチャー企業を育成する。
  3. AI(人工知能)、航空エンジン、半導体、宇宙、ドローン·ロボットなど、先端戦略分野のR&D(研究開発)およびインフラ投資を拡大し、韓国型防衛産業のビッグテック企業を育成する。
  4. 韓国軍が運用している100の武器システムの素材·部品のサプライチェーンマップをデータベース化し、国際協力、素材・部品の国産化、備蓄などを通じ、サプライチェーンの安定性と自律性を強化する。

ソウル国際航空宇宙・防衛産業展示会での受注相談も急増

このような韓国の防衛産業の輸出拡大や積極的な政策推進により関連展示会に参加する海外バイヤーからの関心も高まっている。韓国宇宙航空産業協会と韓国防衛産業振興会は2年に1回、「ソウル国際航空宇宙および防衛産業展示会(ADEX)」を開催している。今年は10月20日から24日の間、京畿道KINTEXとソウル空港(注5)で開催された。今年のADEXには35カ国の約600社が参加し、合計449億ドルの受注(輸出)相談が行われた。2年前(2023年10月24日付ビジネス短信参照)の34カ国・約550社の参加、合計294億ドルの受注相談をはるかに上回っており、韓国の防衛産業への関心度の高まりが伺える。特に今年のADEXでは、KAI製の韓国型機動ヘリ「スリオン」や「KF-21次世代戦闘機」に対し、米国、エジプト、マレーシア、UEA、サウジアラビアなどが関心を示した。サウジアラビアは人工衛星を含む宇宙分野にも関心を示したと報道されている。その他、今年のADEXでは、最近のトレンドを反映した、AIおよび無人システムが多く展示され、世界各国のバイヤーや来場者の関心を引いた。


ADEXでの韓国武器システムの展示(ジェトロ撮影)

ADEXのハンファグループブースの様子
(ジェトロ撮影)

これまで紹介したことを踏まえると、韓国の防衛産業輸出は、しばらく成長の道を歩むと思われる。特に、ロシアによるウクライナ侵攻を背景とした欧州各国の防衛力強化、中東・東南アジア諸国における軍隊の現代化需要などが、成長の後押しになる。しかし、韓国防衛産業が「グローバル防衛産業4大強国」になるためには、課題も存在する。まず、現在、約65%といわれている防衛産業の核心部品・素材の国産化率の向上が挙げられる。加えて、輸出だけにとどまらない、メンテナンスを含む長期的な協力モデルの構築や、大手企業に偏っている産業構造のすそ野拡大なども課題として指摘できよう。


注1:
正式名称は「戦略経済特使」。主な役割は、防衛産業の輸出先との経済・安全保障および支援方策を総括すること。「防産」は防衛産業を指し、安保(安全保障)と同様に韓国では一般的に使われている用語。
注2:
韓国経済新聞「韓国防衛産業輸入、12カ国に増え…今年200億ドルを突破(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2025年6月23日)などを基に作成。政府の各種プレスリリースやマスコミの報道などを総合すると、12カ国は、ポーランド、フィンランド、エストニア、ノルウェー、UAE、サウジアラビア、イラク、エジプト、フィリピン、タイ、インドネシア、オーストラリアと思われる。
注3:
韓国政府(防衛事業庁)は2017年以降、輸出統計を公表していない。産業研究院の同資料は、2017年までは「防衛事業統計年報」から引用し、その後は、業界推計値や国会答弁資料などを引用したものと思われる。
注4:
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の発表によると、韓国は2020~2024年の輸出で、10位(世界シェア、2.2%)となっている。1位~9位は、米国(43.0%)、フランス(9.6%)、ロシア(7.8%)、中国(5.9%)、ドイツ(5.6%)、イタリア(4.8%)、英国(3.6%)、イスラエル(3.1%)、スペイン(3.0%)の順。
注5:
ソウル特別市南部にある空軍空港。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
李 海昌(イ ヘチャン)
2000年から、ジェトロ・ソウル事務所勤務。本部中国北アジア課勤務(2006~2008年)を経て、現職。