米国系企業の黒字比率が低下、投資拡大に慎重姿勢(中国)

2025年3月19日

中国に進出した米国企業などで構成する中国米国商会は1月23日、「中国ビジネス環境調査レポート2025年版外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(2025 China Business Climate Survey Report)」を発表した。このレポートは2024年10月21日~11月15日に実施した会員企業向けアンケート調査の結果(回答企業368社)を取りまとめたものだ。

その結果によると、回答企業の半数近くが2024年の業績見込みを「黒字」とした。一方で、「中国を第1の投資先」とする割合が減少している。その背景には、地政学的リスクや、政策の不確実性、貿易摩擦などによる米中関係悪化への懸念の高まりもあるだろう。また、中国事業への投資拡大にも慎重な姿勢が続いている。

「黒字」割合が、特に消費者向け産業で低迷

主要な設問ごとに結果を見ると、以下のとおりになる。

  • 2024年の業績見込み
    「黒字」と回答した企業は46%。前年より3ポイント低下した。
    業種別には、技術・研究開発業(54%)、工業・資源産業(52%)で、全体平均を上回った。いずれも、前年より小幅に改善した。
    対照的に、消費者向け産業は40%と、業種別で最低。前年から11ポイント低下したかたちだ。中国米国商会は、「内需不足や中国地場企業との競合激化が黒字比率下落の要因になった可能性がある」と指摘している。
    一方、全体で「赤字」と回答した企業は、前年並みの18%だった。ただし、「大幅な赤字」が6%あり、前年から2ポイント上昇した。
  • 今後2年間の事業環境の見通し
    この設問では、7項目について聞いた(図1参照)。
    (1)中国市場の成長性と(2)潜在的収益力の項目について、「楽観」または「比較的楽観」とした企業は、それぞれ37%、35%。「悲観」「比較的悲観」より高かった。
    一方で、(3)競争圧力、(4)コスト競争力・コスト水準、(5)規制環境、(6)米中関係、(7)経済の回復・成長の各項目については、いずれも「悲観」「比較的悲観」が「楽観」「比較的楽観」を上回った。特に(3)と(6)について「楽観」「比較的楽観」とした割合は、大幅に低下した(前年比8ポイント減)。
    図1:今後2年間の事業環境見通し
    中国市場の成長については、2024年には、「楽観」と回答した企業が12%、「比較的楽観」と回答した企業が32%、「中立」と回答した企業が29%、「比較的悲観」と回答した企業が21%、「悲観」と回答した企業が7%。2025年には、「楽観」と回答した企業が7%、「比較的楽観」と回答した企業が30%、「中立」と回答した企業が31%、「比較的悲観」と回答した企業が23%、「悲観」と回答した企業が9%。競争圧力については、2024年には、「楽観」と回答した企業が6%、「比較的楽観」と回答した企業が20%、「中立」と回答した企業が37%、「比較的悲観」と回答した企業が28%、「悲観」と回答した企業が9%。2025年には、「楽観」と回答した企業が2%、「比較的楽観」と回答した企業が16%、「中立」と回答した企業が37%、「比較的悲観」と回答した企業が31%、「悲観」と回答した企業が14%。コスト競争力・コスト水準については、2024年には、「楽観」と回答した企業が5%、「比較的楽観」と回答した企業が19%、「中立」と回答した企業が40%、「比較的悲観」と回答した企業が28%、「悲観」と回答した企業が7%。2025年には、「楽観」と回答した企業が3%、「比較的楽観」と回答した企業が20%、「中立」と回答した企業が43%、「比較的悲観」と回答した企業が27%、「悲観」と回答した企業が7%。潜在的収益力については、2024年には、「楽観」と回答した企業が10%、「比較的楽観」と回答した企業が30%、「中立」と回答した企業が33%、「比較的悲観」と回答した企業が20%、「悲観」と回答した企業が6%。2025年には、「楽観」と回答した企業が6%、「比較的楽観」と回答した企業が29%、「中立」と回答した企業が37%、「比較的規制環境については、2024年には、「楽観」と回答した企業が6%、「比較的楽観」と回答した企業が22%、「中立」と回答した企業が37%、「比較的悲観」と回答した企業が23%、「悲観」と回答した企業が12%。2025年には、「楽観」と回答した企業が5%、「比較的楽観」と回答した企業が19%、「中立」と回答した企業が45%、「比較的悲観」と回答した企業が22%、「悲観」と回答した企業が9%。悲観」と回答した企業が20%、「悲観」と回答した企業が8%。米中関係については、2024年には、「楽観」と回答した企業が3%、「比較的楽観」と回答した企業が16%、「中立」と回答した企業が30%、「比較的悲観」と回答した企業が35%、「悲観」と回答した企業が17%。2025年には、「楽観」と回答した企業が2%、「比較的楽観」と回答した企業が9%、「中立」と回答した企業が24%、「比較的悲観」と回答した企業が38%、「悲観」と回答した企業が27%。経済回復については、2024年には、「楽観」と回答した企業が7%、「比較的楽観」と回答した企業が31%、「中立」と回答した企業が30%、「比較的悲観」と回答した企業が24%、「悲観」と回答した企業が9%。2025年には、「楽観」と回答した企業が5%、「比較的楽観」と回答した企業が25%、「中立」と回答した企業が35%、「比較的悲観」と回答した企業が28%、「悲観」と回答した企業が7%。

    出所:中国米国商会「2025 China Business Climate Survey Report」

米中2国間関係の悪化への懸念高まる

当該レポートでは、回答企業が米中関係の重要性を認識する一方、懸念も持っていることを読み取ることができる。

  • 中国での事業展開における米中関係の重要性
    この設問への回答から、約9割の企業が米中関係の重要性を強く認識していることがわかった。構成比は「極めて重要」が57%、「非常に重要」30%だった。
  • 米中2国間関係の展望(図2参照)
    2025年に米中関係が「悪化する」と回答した企業は、51%(前年比27ポイント増)。直近5年で最高だった。
    一方で、「改善する」が14%(16ポイント減)、「現状維持」35%(11ポイント減)、といずれも縮小した。
    図2:米中2国間関係の展望について
    2021年には、「改善する」と回答した企業が45%、「現状維持」と回答した企業が36%、「悪化する」と回答した企業が19%。2022年には、「改善する」と回答した企業が27%、「現状維持」と回答した企業が49%、「悪化する」と回答した企業が24%。2023年には、「改善する」と回答した企業が13%、「現状維持」と回答した企業が41%、「悪化する」と回答した企業が46%。2024年には、「改善する」と回答した企業が30%、「現状維持」と回答した企業が46%、「悪化する」と回答した企業が24%。2025年には、「改善する」と回答した企業が14%、「現状維持」と回答した企業が35%、「悪化する」と回答した企業が51%。

    出所:中国米国商会「2025 China Business Climate Survey Report」

中国米国商会はこの結果について、2024年の米国大統領選挙のさなかで当該調査を実施した点を指摘。「米国が政権交代することで対中政策を調整することや、米中両国が対抗措置の応酬を激化させること、を予想。この結果につながった」と分析している。

投資拡大に引き続き慎重

  • グローバルな投資計画における中国の重要性
    この設問では (1)「(中国が)上位3位に入る投資目的地、」(2)「(中国が)第1の投資目的地」、(3)「中国だけでビジネスを展開している」のいずれかを回答した企業が、約半数に上った。なお、(1)と(2)を合わせた回答は、22%だった(前年比6ポイント減)。
    また「(中国は投資先として)優先的に考慮する対象ではない」が21%あった。2020年時点(新型コロナウイルス禍前)の結果と比べ、倍以上になった(図3参照)。
    図3:グローバルな投資計画における中国の重要性
    2020年には、「第1の目的地」と回答した企業が21%、「上位3位に入る目的地」と回答した企業が40%、「多くの目的地の一つ」と回答した企業が29%、「優先的に考慮する対象でない」と回答した企業が10%。2021年には、「第1の目的地」と回答した企業が22%、「上位3位に入る目的地」と回答した企業が38%、「多くの目的地の一つ」と回答した企業が29%、「優先的に考慮する対象でない」と回答した企業が11%。2022年には、「第1の目的地」と回答した企業が14%、「上位3位に入る目的地」と回答した企業が31%、「多くの目的地の一つ」と回答した企業が38%、「優先的に考慮する対象でない」と回答した企業が17%。2023年には、「中国だけでビジネスを展開」を選択肢として新設。「中国だけでビジネスを展開」と回答した企業が12%、「第1の目的地」と回答した企業が16%、「上位3位に入る目的地」と回答した企業が22%、「多くの目的地の一つ」と回答した企業が33%、「優先的に考慮する対象でない」と回答した企業が18%。2024年には、「中国だけでビジネスを展開」と回答した企業が10%、「第1の目的地」と回答した企業が12%、「上位3位に入る目的地」と回答した企業が26%、「多くの目的地の一つ」と回答した企業が31%、「優先的に考慮する対象でない」と回答した企業が21%。

    注:2023年から選択肢として「中国だけでビジネスを展開している」を追加。
    出所:中国米国商会「2025 China Business Climate Survey Report」

  • 中国事業への投資拡大見通し
    2025年に中国での事業を「拡大」するという回答が53%。前年比1ポイント増と、わずかながら伸びたかたちだ。業種別には、消費者向け産業で7割近くの企業が「拡大」と回答した。前述のとおり「黒字」業績見込みが最少だったにもかかわらず当該産業で拡大意欲が旺盛なのは、中国政府が強化している消費拡大に向けた買い替え支援策などに期待感を見せていることがうかがえる(2025年1月16日付ビジネス短信参照)。
    なお、拡大規模については、「1~10%の拡大」が37%。11%以上拡大するという回答をすべて合わせても16%にとどまる。まとまった事業拡大に踏み込もうという企業は少なく、前年に引き続き慎重な姿勢が続いている(図4参照)。
    図4:2025年の中国事業への投資拡大見通し
    2024年には、「投資減少予定」と回答した企業が5%、「投資拡大計画なし」と回答した企業が43%、「1~10%拡大」と回答した企業が37%、「11~20%拡大」と回答した企業が9%、「21~25%拡大」と回答した企業が3%、「26~50%拡大」と回答した企業が2%、「50%超拡大」と回答した企業が1%未満。2025年には、「投資減少予定」と回答した企業が6%、「投資拡大計画なし」と回答した企業が41%、「1~10%拡大」と回答した企業が37%、「11~20%拡大」と回答した企業が11%、「21~25%拡大」と回答した企業が3%、「26~50%拡大」と回答した企業が1%、「50%超拡大」と回答した企業が1%。

    出所:中国米国商会「2025 China Business Climate Survey Report」

    投資拡大の理由としては、(1)「中国市場の戦略的重要性」(33%)が最も高かった。この点は、前年同様だ。これに(2)「中国市場の成長加速への期待」(18%)、(3)「熟練人材が豊富」(12%)、(4)「政府のインセンティブ」(10%)が続いた。
    一方、「投資を縮小する予定」は、6%だった。これも、前年比1ポイント増と、わずかにせよ増えた。その理由としては、(1)「米中経済関係の不確実性」(22%)が最も多く、(2)「中国の経済成長鈍化の見通し」(17%)が続いた。(2)は、前年比5ポイント増になった。
  • 生産や調達を中国以外の国・地域に移転することを検討・開始しているか
    「計画はない」の回答が67%で、最多。もっとも、この回答はかなり減っている(前年比10ポイント減)。代えて増えたのが「移転に向けたプロセスを開始済み」で、回答率17%だった(前年比6ポイント増)。
    移転先については、(1)「インドやベトナムなど、アジアの開発途上国」(38%、前年比3ポイント減)が最多。このほか、(2)「米国」(18%、前年比2ポイント増)、(3)「日本や韓国など、アジアの先進国」(14%、前年比2ポイント増)が有力な選択肢になっている。

米中両国政府に関係改善を要望

第1期トランプ政権下では、貿易摩擦などにより米中両国の対立が激化した。続くバイデン政権でも中国を最大の競争相手と位置づけ、前政権が課した対中追加関税措置を継続。さらに、先端半導体の輸出を規制するなどした。

さらに第2期トランプ政権(2025年1月20日発足)では、2月4日から中国産の全輸入品に10%の追加関税を課すと発表(2025年2月4日付ビジネス短信参照)。この動きを受け、中国側も措置を発表している。

  • 中国関税税則委員会が2月4日、米国原産の液化天然ガス(LNG)、石炭、原油などに追加関税を賦課する措置を発表した(2025年2月4日付ビジネス短信参照)。
  • 中国商務部も同日、(1)タングステン、テルル、ビスマス、モリブデン、インジウム関連品目に対して輸出管理を実施し(2025年2月4日付ビジネス短信参照)、(2)PVHグループ(米国のアパレル大手)とイルミナ(遺伝子検査機器メーカー)の2社を、「信頼できないエンティティー・リスト」に追加する、と発表した(2025年2月4日付ビジネス短信参照)。
  • 国家市場監督管理総局が同日、中国の独占禁止法違反の疑いでグーグルへの調査を実施すると発表した(2025年2月13日付ビジネス短信参照)。

その後、米国が3月4日から中国原産の全輸入品に対する追加関税を10%から20%に引き上げると発表(2025年3月4日付ビジネス短信参照)。これを受け、中国側も次の通り、措置を講じている。

このように、米中両国が関税など各種措置を拡大している状況だ。措置が企業に影響をもたらす懸念が広がっている。

そこで在中米国企業は折に触れ、米中両国政府に働きかけている。当該レポートにも、次のような提言を掲出した。

  • 米国に対して:(1)過激な発言と対抗的な行動を避けること、(2)中国製品に対する関税を引き下げること、(3)結果志向の政府間コミュニケーションメカニズムを構築すること、など。
  • 中国に対して:(1)公平な競争を確保すること、(2)外国ビジネス界との積極的な対話、(3)中央政府と地方政府で政策の統一性を確保すること、など。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
張 敏(ちょう びん)
1999年、ジェトロ・北京事務所入構。2004年10月より調査業務に従事。