厳しい事業環境により微減傾向(ロシア)
2022年以降の在ロシア日系企業数の推移

2025年4月14日

2024年末時点で、ロシア国内に登記されている日系企業数は前年比10社減の240社だった。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後の急減からは落ち着きを見せた。その一方で、トランプ政権になって以降のロ米関係に変化はありつつも、在ロシア日系企業を取り巻く環境はいまだ厳しい。ロシアの日系企業は一定の存在感を保ちつつも、今後も当面は大きくその数が回復するとは見通しにくい。

ウクライナ侵攻後に加速した日系企業の減少数、2024年は鈍化

ロシア連邦税務局の企業登記データを基にしたデータベースをジェトロで取りまとめたところ、2024年12月時点で、日本企業または日本国籍の個人が出資する企業(以下、日系企業)の登記件数は240社であった(表1参照)。前年12月比で10社減少した。減少の理由は清算などのほか、1年間活動実態がなかったとみなされたことで企業登記が抹消されたケースも含まれる。

表1:ロシア国内に登記されている日系企業数(2023年、2024年)

活動中の企業(12月時点)(単位:社)
項目 2023年 2024年
(1)活動中 246 232
(2)登記抹消手続き中 4 7
(3)減資中 0 1
合計 250 240

注:統一企業登記簿からの削除は、12カ月間税務報告などが提出されず、銀行口座の動きもない場合に活動停止と判断され行われる。
出所:連邦税務局資料からジェトロ作成

2020年以降の登記された企業数の動きをみると、2020年、2021年はそれぞれ前年比8社の減少だったが、2022年は17社、2023年は19社の減少となった(表2参照)。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始以降、日本企業を含む外国企業のロシアからの撤退が進んだ影響とみられる。その一方で、2024年の減少は10社と、登記抹消のペースは2022年以前の通常のペースに戻った。2024年12月時点で登記抹消、清算手続き中の日系企業は7社存在しており、2022年以降、日本からのロシア向け新規投資が禁止されている中で、日系企業の減少は今後もゆるやかに続くとみられる。

表2:撤退の時期(2010年以降)(単位:社)

企業数
2010年 2
2011年 5
2012年 6
2013年 10
2014年 9
2015年 8
2016年 18
2017年 11
2018年 10
2019年 9
2020年 8
2021年 8
2022年 17
2023年 19
2024年 10

出所:連邦税務局資料からジェトロ作成

所在地はモスクワ市が最多、極東でも存在感

2024年12月時点の在ロ日系企業の地域分布を見ると、圧倒的に多いのはモスクワ市を中心とする中央連邦管区で、全体の53.8%(うちモスクワ市は48.3%)を占める(表3参照)。次に多いのは、極東の玄関口となるウラジオストクのある沿海地方やエネルギー資源関連で日本との関係が深いサハリン州を含む極東連邦管区だ。日系企業の約20%が所在する。第3位につけるのは、トヨタ自動車、日産自動車がかつて工場を有し「ロシアのデトロイト」と称されたサンクトペテルブルク市を含む北西連邦管区だ。ただし、サンクトペテルブルク市および周辺に存在した「日系資本」の企業は、2024年12月時点でほぼ撤退を完了、または活動を停止している。登記が残る企業の多くは、現地在住の日本国籍者が設立した企業、または休眠中の企業とみられる。

沿ボルガ連邦管区も、いまだに一定数の日系企業の登記が残る。かつてルノーとアライアンスを組んだロシア最大の自動車メーカー、アフトワズへの納品などを目的に、日系自動車部品メーカーが多く進出した名残である。ただし、現時点ではそれら自動車部品メーカーの多くは操業を停止している。

表3:地域別の日系企業の分布(2024年12月)(単位:社)
地域名 合計 活動中 登記抹消
手続き中
減資中
中央連邦管区 129 125 4 0
階層レベル2の項目モスクワ市 116 112 4 0
階層レベル2の項目モスクワ州 6 6 0 0
階層レベル2の項目その他 7 7 0 0
北西連邦管区 25 23 2 0
階層レベル2の項目サンクトペテルブルク市 24 22 2 0
階層レベル2の項目その他 1 1 0 0
沿ボルガ連邦管区 16 16 0 0
極東連邦管区 53 51 1 1
階層レベル2の項目沿海地方 28 27 0 1
階層レベル2の項目ハバロフスク地方 7 7 0 0
階層レベル2の項目サハリン州 13 12 1 0
階層レベル2の項目その他 5 5 0 0
その他の連邦管区 17 17 0 0
合計 240 232 7 1

出所:連邦税務局資料からジェトロ作成

ジャパンクラブの法人会員数、侵攻開始前から3割減

連邦税務局のデータは、個人の投資やロシア在住日本人による企業設立を含むため、日本に本社がある企業の拠点(現地法人、支店、駐在員事務所。欧州などの統括拠点からの投資事例を含む)の推移とは若干異なる部分もある。そのため、モスクワにある日系企業が主に加盟する団体であるジャパンクラブの法人会員(注)数の推移(表4参照)にも参考として触れておきたい。

ウクライナ侵攻直前の2022年1月末時点の法人会員数は181社。これまで最多だったのは、ジャパンクラブの記録では2018年3月の198社である。2025年1月末時点では130社であり、これを多いとみるか少ないとみるかは議論の分かれるところだが、最盛期から34%、侵攻開始直前から28%の減少となる。

表4:ジャパンクラブ法人会員数の推移(単位:社)
会員数
2022年 1月 181
5月 178
10月 170
2023年 1月 171
5月 149
10月 147
2024年 1月 147
5月 130
10月 130
2025年 1月 130

注:各期末値。
出所:ジャパンクラブ資料からジェトロ作成

ジェトロが定期的に行う在ロシア日系企業景況感調査(本稿執筆時点での最新調査は2025年2月実施分)では、今後1~2年のロシアでの事業展開見通しを「維持」とする回答が62.7%を占めた(2025年3月4日付ビジネス短信参照)。「維持」の割合が最多となる状況にはここ1年で変化がない(図参照)。2022年と比べると「維持」が増加し、「縮小」が減少する傾向が続く。他方で、「休眠」「撤退」の回答もいまだに一定数あり、日系企業のビジネスの縮小、日系企業数の減少に歯止めがかかったとも言い切れない。

図:今後1~2年のロシアでの事業展開見通し

出所:ロシア・ウクライナ情勢下におけるロシア進出日系企業アンケート調査(2025年1月)

米国でトランプ新政権が本格的に動き出し、ロ米関係に新たな動きが見え始めたことから、ビジネス環境の改善を期待する向きもある。「頭の体操」として、制裁解除、停戦などを前提とする事業再開の検討を始めた企業もわずかながら出始めてはいるが、それらはまだ少数だ。むしろ事業環境としては、高金利などによるロシア企業間での資金繰りの悪化、購買力の低下など、市場の冷え込みを指摘する声も聞かれる。

在ロシア日系企業を取り巻く事業環境はいまだ厳しく、今後、改善の方向に進むかは予断を許さない。当面は日系企業の数が回復するとは見通しにくい。


注:
モスクワ市以外に所在する日系企業も若干含まれるものの、加盟企業の大部分はモスクワ市およびモスクワ州に立地する。法務・税務コンサル多国籍企業(現在は国際ネットワークから切り離されたところが大半)や地場系各種サービスプロバイダーも一部加盟するものの、事実上の在モスクワ日本商工会に相当する組織。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課