みずほフィナンシャルグループ、地域統括会社設立(サウジアラビア)
設立の背景と今後の戦略

2025年5月22日

みずほフィナンシャルグループ(本社:東京都千代田区)は、サウジアラビアに邦銀初の拠点を2009年に開設した。以来、ファイナンスやアドバイザリー領域などの総合金融サービスを提供している。

2024年11月には、首都リヤドに中東・アフリカ地域統括会社(RHQ)となるMizuho MEA Regional Headquarters Companyを開業。同年12月に世界最大級の政府系ファンドであるサウジアラビア公的投資基金(Public Investment Fund、以降PIF)と提携し、サウジアラビア株式市場に投資を行うETF(注1)として「One ETF FTSE・サウジアラビア・インデックス」を日本市場で組成した。

RHQ設立の狙いや背景、また今後の取り組みについて、Mizuho MEA Regional Headquarters Companyの社長で中東・アフリカ・トルコ・中央アジア・コーカサス総支配人の水之江有紀氏と、最高戦略責任者(Chief Strategy Officer)の柴田清孝氏に聞いた(取材日:2025年3月24日)。


Mizuho MEA Regional Headquarters Companyの水之江社長(左)と柴田CSO(同社提供)
質問:
サウジアラビアでのビジネス活動について。
答え:
みずほグループは1958年に、日本の原油自主開発の先駆けであるアラビア石油の支援から、サウジアラビアでのビジネスを開始した。1976年にSaudi Investment Bank設立に携わる。1987年には日本・サウジビジネスカウンシルの日本側共同議長を派遣するなどして、各産業・金融業界と関係を構築し、2009年に同国初の邦銀系証券会社Mizuho Saudi Arabia Companyを設立した。
当グループは、中東を海外戦略における注力地域として位置付けており、サウジアラビアでは、(1)旺盛な資金需要のサポート、(2)エネルギートランジション(注2)支援、(3)スタートアップ支援の3つの柱を掲げている。中でも、(1)資金需要サポートの観点では、融資や起債といったソリューションに加え、アジアを中心とした1,000を超える投資家ネットワークを駆使した支援を提供し、サウジアラビアへの投資呼び込みにつなげている。
近年は、ギガプロジェクトを主導するPIF総裁とサウジアラビア政府関係者の日本出張のアレンジに加え、PIFと共催で債券投資家向けセミナー、サウジ証券取引所と共催で株式投資家向けセミナーを日本で開催した。また、2024年12月にETFを組成した際には、日本の投資家に対する啓発活動の一環として、サウジアラビア株式市場に関する特集動画を作成した。YouTubeでも視聴可能とすることで、個人投資家からのアクセスも容易にしている。
みずほでは、グループの機能・ネットワークを生かして、サウジアラビア政府・企業との長期的な信頼関係の強化をさらに深めたい。また、「サウジ・ビジョン2030」に基づくサウジアラビアの経済発展への貢献、そして日本とサウジアラビアの関係深化の一助となる取り組みをこれからも多面的に続けていく。
質問:
RHQを設立した背景は。
答え:
中東・アフリカ地域では、脱石油依存、再生可能エネルギーのバリューチェーン構築など、脱炭素社会の移行に向けた産業構造改革を進めている。
サウジアラビアは、持続可能かつ革新的な国家モデルを確立することを目的とする国家プロジェクト「サウジ・ビジョン2030」を推進し、グローバル企業にとって魅力的なビジネス環境を提供すべく、外国企業の投資誘致や戦略的提携に注力しており、今後さらなる発展を遂げるとみている。その大きな成長余地に寄り添いながら、同グループとしても事業拡大の可能性を大きく感じた。
事業拡大にあたり、同国との信頼関係をさらに強固とし、当社のプレゼンスを一層向上させることを目的に、2024年6月にアジアの金融機関としては初となるRHQのライセンスを取得し、同年11月に開業した。60年以上のサウジアラビアでのビジネス活動を継続してきた歴史があるからこそ、この決断に至ったことも併せて言及したい。
質問:
RHQの業務内容は。
答え:
みずほグループは中東・アフリカに6カ国9拠点〔サウジアラビア2拠点、UAE(ドバイ、アブダビ)、バーレーン、イラン(テヘラン)、トルコ(イスタンブール)、南アフリカ(ヨハネスブルグ)と証券拠点(ドバイ)〕を設けている。
RHQは中東・アフリカ全拠点を管轄し、「企画」「管理」「調査・分析」「営業支援」「コンプラ・内部統制」の業務を担う。企画・管理の業務受託会社として一元的な管理を担い、各拠点との連携を深め、管理業務の全体効率を高めていく。
なお、サウジアラビアにおける営業推進はMizuho Saudi Arabia Companyが引き続き担う。
質問:
RHQ設立のプロセスは。
答え:
サウジアラビア投資省のRHQチームと連携し、投資ライセンス取得を進めた。投資省から柔軟なサポートを受けることができたので、投資省と本格的に議論を始めてから5カ月程度、ライセンス取得後2カ月で登記に至った。採用活動は現在進めている。
RHQ設立に至っては、申請手続きに不明瞭な部分も多々あった。しかし、投資省と密なコミュニケーションをとることで問題なく進めることができた。例えば、ファストトラックという制度がある。通常、登記申請書類には外部認証が必要で、認証済書類がそろうまで登記申請できない。一方で、ファストトラック制度を利用すると認証前書類で手続きでき、登記後に認証済書類を提出することが許容される。これにより、物品購入の契約等に必要となる商業登記番号を早く得ることができ、会社のセットアップを円滑に進めることが可能になる。このように各制度をうまく活用すると、円滑に手続きを進められる。
質問:
サウジアラビアにおける今後の戦略は。
答え:
RHQを設立したことで、関係省庁・企業から高い評価をいただいており、従業員の採用面でも前向きな効果を感じている。
このアドバンテージを生かし、みずほグループ全体の機能・ネットワークを活用したビジネス展開を強めていきたい。特に、先述の3分野に加え、M&A関連のアドバイザリーにも注力していく予定だ。同グループでは、2023年に米国のM&Aアドバイザリー会社であるGreenhillを買収し、グローバルなアドバイザリー機能の内製化を推進した。海外企業のサウジアラビア進出と、サウジアラビア企業のグローバル化を支援し、同国のさらなる発展に貢献していきたい。

注1:
Exchange-Traded Fund。金融商品取引所で取引される投資信託。
注2:
エネルギー供給や消費の構造が変化すること。現在は、化石燃料を主としたエネルギーシステムから、持続可能で地球環境に配慮した新たなエネルギーシステムへの移行を意味することが多い。
執筆者紹介
日・サウジ・ビジョン・オフィス
井村 文哉(いむら ふみや)
金融機関勤務を経て、2024年4月から日・サウジ・ビジョン・オフィス勤務。
日本・サウジアラビア両国が推進する「ビジョン2030」に関連する業務を担当。