ジャムとゼリーで世界を魅了
広がる日本の果物輸出(2)
2025年11月28日
日本産青果物は高品質であることから海外市場で高い評価を受けており、輸出は近年増加傾向にある。一方で、青果物輸出には供給や輸送、検疫などの課題が存在する。こうした課題を克服する手段として、加工品による輸出拡大が注目されている。加工は保存性や輸送性を高めるだけでなく、規格外品や地元産品の活用を通じて地域経済の活性化にも寄与する。後編では、フルーツジャムを製造する原田商店
(長野県諏訪市)およびフルーツゼリー販売のナチュレ
(神奈川県小田原市)の事例を取り上げ、加工品輸出の現状と海外展開の取り組みを分析する(取材日:2025年10月21日、10月30日)。
原田商店:定番ではないフルーツジャム、世界で勝負
1886年創業の原田商店(長野県諏訪市)は、かりん(花梨、マルメロ)加工食品や、国産はちみつ、ジャムなどを製造する老舗企業だ。創業当時からの昔ながらの製造方法で丁寧に作られ、無添加かつ信州産原材料にこだわった商品は地元のみならず長野県外からも高い評価を得ている。
同社の原田俊代表取締役社長は今後の国内市場縮小を見据えて、新規販路開拓先として輸出に挑戦することを決意し、地元の金融機関である長野県信用組合やジェトロ諏訪に相談した。コロナ禍の2022年、輸出の準備として中小企業海外ビジネス人材育成塾(注)を受講し、社長自身の商談スキルを高めるとともに、商談資料のブラッシュアップを図った。また、サンプルショールーム事業などを活用してオンライン商談を重ねた。その後、コロナ明けから積極的に長野県やジェトロなどが主催する商談会やPRイベントに参加し、バイヤーとの交渉を重ねて、複数国で小売店の常設棚を獲得。現在、台湾、シンガポール、オーストラリア、フィリピンに輸出している。
その中でも人気のある商品がフルーツジャムだ。特に、ゆずマーマレード、あんずジャム、梅ジャム、かりんジャムは、台湾やシンガポールで高評価を受けている。ジャムとしての定番青果物ではなく、他製品にない、珍しい素材を使ったユニークなジャムであることが人気の理由だ。また、同社商品の多くは無添加であるため、健康志向の高い現地消費者にも好評を得ており、海外市場での手応えを感じている。
原田商店のフルーツジャム(同社提供)
長野県諏訪産のかりんジャムを世界へ
原田社長は「弊社の商品は、消費者がまだ知らないおいしい素材を使ったものがメイン。海外市場には競合製品はあまりなく、差別化しやすく、勝負できると実感している。他方、海外では知られていない青果物や商品を消費者に説明することは難しく、受け入れてもらうには時間がかかるが、根気強くイベントなどでPRして実際に試食してもらって良さをわかってもらうようにしている」と話す。
また、海外展開で工夫している点に関しては、「商品数を絞ることが重要で、まず1つの商品で人気を得られれば、他の商品にも興味を持ってもらえる」と語る。「海外売上高比率を5年後には売上高全体の10%、10年後には30%まで伸ばしたい。最終目標は、かりんの原産地であるヨーロッパに、長野県諏訪産のかりんジャムを届けることだ」と意気込みを見せた。
原田商店の丁寧な製品づくり、地域資源の活用、そして戦略的な販路開拓が同社の輸出が好調となっている要因だ。

ナチュレ:フルーツゼリー、季節の青果物と相乗効果
神奈川県小田原市で、2013年に創業したナチュレは、神奈川県産を中心とした国産果物を使用したフルーツゼリーやグミなどを販売する企業だ。香港や台湾、シンガポールでの催事に参加をしたことをきっかけに輸出に取り組む必要性を感じ、2016年からジェトロの支援を受けて本格的に海外市場での販路開拓活動を開始した。その後、コロナ禍でも、オンラインでの展示会や商談会などに積極的にチャレンジし続けた結果、香港、米国、シンガポール、タイなどに徐々に輸出を拡大してきた。
日本産フルーツをフルーツゼリーに加工することで、台湾、香港やシンガポールのほか、米国やマレーシア、スイスなど、現在までに8カ国に販路が拡大した。日本産果物を使用していることや果実本来の味わいが楽しめることなどを理由に現地消費者にも高い人気を誇っている。特に、海外市場では、ゆずゼリーやモモゼリー、リンゴゼリーが高い評価を得ている。また、食用桜を使ったゼリーは、陳列するだけで美しく日本の季節を感じることができるため、春の季節に好評だった。
同社代表取締役の大曽根一成氏は「弊社商品は他商品と競合しないように、小売店のお菓子コーナーやデザートコーナーではなく、青果物コーナーに陳列することで、差別化を図っている。また、季節ごとの旬の果物の隣で販売することで、一緒に手に取ってもらえるように工夫している。今後は海外売上高比率を売上高全体の30%に伸ばすことを目指しており、業務用商品にもチャレンジしたい」と海外での販売戦略を語る。
地域特産物から地域振興、神奈川発の展示会開催まで
大曽根氏は、フルーツ加工品で神奈川県産や日本産をアピールすることによる相乗効果で、勢いのついてきた地元活性化にも注力している。その取り組みは、自社のみならず、神奈川県全体に広がっている。同氏らが発起人として立ち上げた神奈川県発の食品展示会「OUR KANAGAWA」は、各団体の協力もあり、2025年で3回目を迎えた(2025年10月2日付ビジネス短信参照)。同展示会は、神奈川県内の中小企業が有する魅力あふれる商品を国内外バイヤーへ紹介する展示商談会だ。大曽根氏は、「神奈川ブランドが少ない中で『Our Kanagawa』は、神奈川県のさまざまな商品が一度に並び、事業者同士がコラボレーションしやすい場となっている。今後は、機会があれば海外バイヤーも招へいし、海外商談ブースを設けるなどして、神奈川県一体となって輸出にも取り組みたい」と熱意を語った。


青果物輸出は供給や輸送、検疫の課題などから容易ではない。しかし、フルーツゼリーやジャムなどの加工品にすることで、これらの課題を解決し日本産青果物の魅力を世界に発信できる。こうした戦略的な取り組みは、地域ブランドの価値向上と輸出拡大の両立に貢献するものであり、今後の中小企業の海外展開における参考事例となるだろう。
- 注:
- 中小企業海外ビジネス人材育成塾とは、ジェトロが提供するサービスで、海外バイヤーとの輸出商談に初めて臨む方やこれまでの商談に課題を感じている方を対象に、「効果的な商談」に向けた準備をサポートする無料研修。研修では、主に海外展開戦略の策定方法、プレゼン資料の作成方法、商談の進め方を習得する。
広がる日本の果物輸出
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- 執筆者紹介
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ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム 課長代理
古城 達也(ふるじょう たつや) - 2011年、ジェトロ入構。人材開発支援課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ニューヨーク事務所、ジェトロ諏訪を経て、2024年11月から現職。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の輸入規制、法令や市場情報などの調査や、日本企業からの輸出相談窓口を担当。
- 執筆者紹介
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ジェトロ農林水産食品部 市場開拓課調査チーム
庄田 幸生(しょうだ こうき) - 2025年、ジェトロ入構。現在、農林水産物・食品の輸出に関して、各国の市場情報や輸入規制、法令などの調査を担当。




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