民営企業支援を加速、座談会を経て民間経済促進法も施行(中国)
2025年6月30日
貿易摩擦の激化などで世界経済の不確実性が高まっている。その影響も受け、中国経済の先行きが不透明さを増す中、中国共産党および政府は、民営企業の支援強化に乗り出している。2025年2月17日には、習近平国家主席らが出席し、2018年11月以来となる民営企業座談会を開催した。31人の民営企業家が招かれ、民間経済の発展に向けて議論を交わした。そして、5月20日からは民間経済促進法を施行。公平な競争環境の実現、投融資の促進などに向け法的裏付けを整備した。
民営企業座談会、31人の民営企業家が参加
北京市で2月17日、民営企業座談会(以下、座談会)が開催された。習近平国家主席が出席し、重要講話を行った。習国家主席は、民間経済の発展に向けた中国共産党と国家の基本方針・政策について変えることはできず、今後も変わらないと強調した。また、民営企業が改革開放の偉大な過程で盛んに発展してきたとした上で、党と国家は各種所有制経済に対して、法に基づく生産要素の平等な利用や、市場競争への公平な参画、法律による平等な保護を受ける権利を保障すべきとした。そして、各種所有制経済の相互補完を促しつつ、非公有制経済(民間経済)の健全な発展を促進していくと強調した。
座談会には、中国メディア各紙の報道によると、総勢31人の民営企業家が招かれたとされる。そのうち6人に発言の機会が与えられ、民間経済発展に向けての意見、建議が提出された。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の任正非・CEO(最高経営責任者)、電気自動車(EV)メーカー大手の比亜迪(BYD)の王伝福・董事長など、ICT(情報通信技術)、新エネルギー車、ロボットなどの分野の著名な民営企業家である(表1参照)。
企業名 | 役職・氏名 | 企業概要 |
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華為技術(ファーウェイ) | CEO・任正非 | 1987年に設立された、情報通信技術(ICT)インフラおよびスマート端末のグローバルプロバイダー。スマートフォン、タブレット、ウェアラブル端末などの事業を展開している。2021年から自動車メーカーと提携し、電気自動車ブランド、プラグインハイブリッド車ブランドを手掛けている。 |
比亜迪(BYD) | 董事長・王伝福 | 1994年に設立された、エレクトロニクス、自動車、再生可能エネルギー、鉄道輸送関連分野で事業展開している企業。 電気自動車、プラグインハイブリッド車、バッテリー、太陽光発電・蓄電システムなどを手掛けている。 |
新希望控股集団 | 董事長・劉永好 | 1982年に設立された、主に現代農牧業、食品産業分野で業務展開している企業。世界最大レベルの飼料生産能力に加え、中国最大レベルの鳥類加工能力も有しており、中国最大級の肉、卵、牛乳の総合サプライヤーでもある。 |
上海韋爾半導体(Will Semiconductor) | 董事長・虞仁荣 | 2007年5月に設立された、半導体デバイスの研究、開発、設計、販売を行う企業。イメージセンサー、タッチパネル、ディスプレイ、専用集積回路などを手掛けている。 |
杭州宇樹科技(Unitree Robotics) | CEO・王興興 | 2016年に設立された、四足歩行ロボット、ヒト型ロボットなどの研究開発、製造、販売を行う企業。ロボットコア部品、モーションコントロール、ロボットセンシングなどの分野で優位性を発揮している。 |
小米科技 | 董事長・雷軍 | 2010年に設立された、IoT(モノのインターネット)プラットフォームで接続されるスマートフォンとスマートハードウェアを中核とした家電およびスマートデバイス製造企業。2024年に電気自動車を中国で発売し注目を集めた。 |
出所:中国政府発表、各社ウェブサイト、各種報道を基にジェトロ作成
また、「紅網」の2月19日の報道などによると、前述した6人以外に、以下のメンバーが第一列に座ったとされる。IT大手のアリババ集団創業者の馬雲氏、同じくIT大手の騰訊科技(テンセント)の馬化騰・董事会主席兼CEO、車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)の曾毓群・董事長、エネルギー大手の正泰集団の南存輝・董事長、乳業大手の黒竜江飛鶴乳業の冷友斌・董事長、ネットセキュリティー大手・奇安信科技集団の斎向東・董事長、人工知能(AI)スタートアップのディープシーク創業者の梁文鋒・CEO、軍事工業設備・エネルギー大手の泰豪集団の黄代放・董事会主席である。メンバーにおけるハイテク企業の存在感が大きい。
座談会で、習国家主席は現状として、民間経済発展が直面している課題や困難は部分的で一時的なもので、全体的で長期的なものではないとした。その上で、克服可能と強調した。また、民間経済の発展に向けた政策措置を着実に実施することが当面の重点的な取り組みとした。
具体的には、法に基づく生産要素の平等な利用や公平な競争への参画を妨げる各種障害を取り除き、インフラ建設のうち、競争的な分野にあらゆる種類の事業体が公平に参入できるよう継続的に推進するとした。また、民営企業の資金調達難・調達コスト高、民営企業への未払金の問題を解決、法執行に対する監督を強化し、不当な費用徴収や過剰な罰金、不必要な検査や封鎖を是正するとした。その上で、民営企業やその経営者の合法的権益を保護することにも言及した。
さらに、民営企業が自主イノベーションを強化し、発展モデルの転換を図り、企業の質・効率・コアコンピタンスを高め、科学技術イノベーションや、新たな質の生産力(注1)の育成、現代化産業体系の建設などに貢献するよう推進するとした。
2018年11月以来の開催、民営企業支援強化のシグナルを発信
今回の座談会は、中国共産党序列4位の王滬寧・全国政治協商会議主席が司会を務め、2位の李強首相と6位の丁薛祥副首相も参加した。中国共産党中央政治局常務委員7人のうち、上位2人を含む4人が参加した。前回の開催は2018年11月であり、6年3カ月ぶりの開催となった。
2025年1月末までで、中国の民営企業数は5,670万7,000社に達しており、企業数の9割以上を占める。また、税収の5割以上、GDPの6割以上、技術イノベーション新成果の7割以上、都市部就業の8割以上を占めるに至っている。民営企業は中国経済を支える中核的存在となっている。
しかし、昨今、民営企業の経営活動が力強さを欠いている側面がある。国家統計局の発表では、2024年の固定資産投資(農家による投資は含まない)は前年比3.2%増(2023年は3.0%増)の51兆4,374億元(約1,028兆7,480億円、1元=約20円)だった。一方で、民間固定資産投資(農家による投資は含まない、以下民間投資)は0.1%減(同0.4%減)の25兆7,574億元と、前年に続きマイナス成長となった。図の通り、2022年以降は、民間投資の前年比伸び率が固定資産投資全体の伸び率を下回る傾向が続いている。2025年1~5月でも、民間投資は前年同期比0.0%増と全体の3.7%増と比較すると低調である(国有企業は5.9%増)。なお、固定資産投資全体に占める民間投資の構成比も、10年前の2015年は56.2%であったが低下傾向にあり、2024年には50.1%に低下した。また、国家統計局のデータによると、工業分野の民営企業のうち、赤字企業の構成比は、2025年4月末は30%となっており、2023年末の19.9%、2024年末の21.1%と比較すると高い状況になっている。

出所:国家統計局データベースからジェトロ作成
2024年11月の米国大統領選挙で勝利したドナルド・トランプ氏が2025年1月20日、第47代大統領として返り咲き、追加関税など保護主義的な政策を展開する中で、輸出額(2024年)における構成比が6割以上と大きい民営企業への影響も懸念されている。また、近年の不動産市場の低迷も民営不動産企業に大きな影響を与えている。
こうした状況下、中国経済の安定成長を維持するために、民営企業のさらなる発展を促すことが不可欠となっている。中国共産党・政府が強力に支援するというシグナルを発信することで、一部で指摘がなされる民営企業への規制強化が続くという声を払拭する意図があると考える。
2020年12月の中央経済工作会議で、反独占と資本の無秩序な拡張防止を強化するという方針が打ち出されたが、その前ごろから、民営企業の代表であるプラットフォーム企業に対する罰金徴収などが続いた。2020年11月にアリババ集団の金融関連会社アントグループのIPO(上海・香港での同時上場)が突然延期された。その背景には、中国金融システムでの同社プレゼンス急拡大への当局の懸念があったと指摘する声がある。2021年3月には中国政府はテンセント、百度などを含む12社に企業結合の事前申請がなかったことを理由にそれぞれ罰金50万元を科した。2021年4月には「二者択一」の強要行為があったとしアリババ集団に罰金182億元を科したほか、2021年7月には国家安全上の理由で滴滴出行を調査、同社アプリのダウンロードを停止した。2021年10月には、「二者択一」の強要行為があったとし美団に罰金34億4,200万元を科した。反独占や国家安全の対応の必要性などが理由に挙げられたが、政府の民営企業への規制強化とみる向きがあり、民営企業のマインド低下やその発展の不透明性を指摘する声もあった。
なお、今回の座談会には、アリババ集団創業者の馬雲氏も参加し、メディアの注目が集まった。馬氏が共産党・政府の公式行事に参加するのは近年まれなことであった。
民間経済発展に関する初の法律を制定
その後2025年4月30日には、2024年10~11月に意見募集が行われた民間経済促進法(中国語)が、第14期全国人民代表大会常務委員会第15回会議で可決された。5月20日から施行されている。民営経済発展に関する中国初の基本的な法律であり、民営企業座談会で習国家主席が強調した内容が再現されている。
同法は、全9章・78条で構成されている。第1章では総則で、目的などを示している。民間経済の健全な発展と民営企業家の健全な成長を促進する方針の下で、「2つのいささかも揺るぐことなく」(注2)の原則に基づき、中国は民間経済を平等に扱い、公平な競争のもと同等に保護し、民間経済の発展と強化を促進するとした。また、民間経済の持続的で、健全で、質の高い発展を促すことは、国家が長期的に堅持する重要方針・政策であると強調した。なお、全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会の王瑞賀副主任は5月8日、「平等」「公平」「同等」の表現が26カ所使われており、平等原則が民営経済発展任務の全プロセス、各分野で一貫していると指摘した。
第2~4章では、主に民間経済支援の方向性が示された(表2参照)。第2章では公平な競争環境の実現に関する項目がまとめられた。全国統一の市場と公正な競争を阻害する内容を含む政策措置を速やかに一掃・廃止するとした。また、民間経済組織の資金、技術、人材、データ、土地などへの平等なアクセスの保障、入札、政府調達など公共資源取引への平等な参加の保障などがうたわれた。入札や銀行融資などにおいて、国有企業が優先されているとの指摘がある中、民営企業の平等な参画を実現する法的裏付けとして盛り込まれた。
章番号 | 項目 | 内容 |
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第2章 | 公平な競争 |
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第3章 | 投融資の促進 |
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第4章 | 科学技術イノベーション |
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第5章 | 経営の規範化 |
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第6章 | サービスの保障 |
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第7章 | 権益の保護 |
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注:このほか第1章は総則、第8章は法律責任、第9章は付則となっている。
出所:民間経済促進法を基にジェトロ作成
第3章では、投融資の促進に関する項目がまとめられた。国家の重要戦略・重要プロジェクト、戦略的新興産業、未来産業(注3)への参画支援が挙げられており、高い技術力を持つ民営企業の力を産業高度化にこれまで以上に活用する意向だ。なお、国家発展改革委員会の鄭備副主任は5月8日、2025年に交通運輸、エネルギー、水利、新型インフラ(注4)、都市基礎インフラなどの重点分野で総投資規模約3兆元の良質なプロジェクトを展開するとしており、民営企業の参画に期待を示している。また、民間経済組織が株式、債券などの発行を通じて平等な直接資金調達を行うことを支援するとしており、前述の通り過去にIPOの突然延期などもあった中、市場に安心感を与える内容になっている。
第4章では、科学技術イノベーションに関する項目がまとめられた。民間経済組織が科学技術イノベーションを推進し、新たな質の生産力を育成し、近代的な産業システムを構築する上で積極的な役割を果たすことを奨励、支援するなどとしている。
第5~9章では、民間経済組織や政府の果たすべき役割、各種権利、法律責任などが示されている。第5章では、経営の規範化に関する項目がまとめられた。民間経済組織が、経済発展、雇用拡大、民生改善などで積極的に貢献すべき、内部監督を強化し規範化した統治を実現すべき、などとしている。急速に発展した民営プラットフォーマーでEC(電子商取引)商品や食品などの配送を担う配達員などが急増しているが、その長時間労働、社会保険未加入などが問題となるケースがある。中国政府はその待遇改善を呼びかけているが、同法でも民営企業の経営規範化を促している。
第6章では、サービスの保障に関する項目がまとめられた。国家機関およびその職員は、法律に従って民営経済の発展を促進する職責を履行すべきと強調。また、民間経済組織が関連する優遇政策を申請するための便宜を提供しなければならないとした。さらに、民間経済組織の創業を奨励する政策を制定し、公共サービスを提供し、操業が雇用を促進することを奨励しなければならないとした。
第7章では、権益の保護に関する項目がまとめられた。民営経済組織およびその経営者の人格権、財産権、経営自主権などの合法的な権利と利益は法律により保護されるとし、財産の収用および徴用は、法定の権限、条件および手続きに厳密に従って行われなければならないとした。中国の建国当初、国有企業が経済活動の中心を担ってきた歴史があることから、ここで改めて後から成長してきた民営企業の財産権や経営自主権がしっかりと保護されることを、法律で明確化した。
また、大企業が中小民間経済組織から物品、サービスなどを購入する場合、両者は合理的に支払い条件について合意し、適時に代金を支払わなければならず、中小民間経済組織への支払い条件として第三者からの支払いを設定してはならないとした。不動産分野などで、下請けの中小民営企業に対して、支払い義務を負う大企業が第三者からの入金をその前提に設定するケースが散見されるとの指摘がある中、それを是正し、中小民営企業の権益を守る意図がある。
その後、第8章は法律責任、第9章は付則と続いている。
各政府が取り組み、今後は実際の運用を注視
民間経済促進法が2025年4月30日に可決された後の5月7日、人民銀行の潘功勝行長、金融監督管理総局の李雲澤局長、証券監督管理委員会の呉清主席は「包括的な金融政策による市場・予想の安定化支援」に関する共同記者会見を行った。人民銀行は10 項目の措置を展開するとしたが、そのうちの1つとして、農業関連、小規模零細企業支援の再貸し出しを3,000 億元増やし(増加後の総額は3兆元規模)、再貸出金利の引き下げ政策と相乗効果を生み出すとした。銀行の農業関連、小規模零細企業、民営企業への貸し出し拡大を支援するものである。特に中小民営企業が重点に据えられている。
華夏時報の5月30日の記事によると、民営経済促進法が可決されて約1カ月の間に、少なくとも6省において、その加速に向けた政策文書が発表された。北京市(4月29日)、陝西省(5月8日)、江西省(5月12日)、浙江省(5月12日)、河南省(5月14日)、新彊ウイグル自治区(5月23日)だ。
河南省で打ち出された政策文書「河南省の民間経済の質の高い発展を促進する行動計画」をみると、今後3年前後で、「中国民営企業500強」にランクインする企業数を同省経済規模に見合うものにすることや、特定分野でトップの実力を持つ国家級および省級の「製造業単一項目チャンピオン企業」の同省企業のうち、民営企業の構成比を8割超にするとした。
民営企業座談会を経て、民営経済発展に関する中国初の基本的な法律が整備されたが、今後は広大な中国において、地方政府が着実に運用していくか、どのような支援の取り組みを行っていくかに注目が集まる。
- 注1:
- 中国中央電視台(CCTV)の解説によると、技術の革命的なブレークスルー、生産要素のイノベーティブな配置、産業構造の深い転換・レベルアップにより生み出される先進的な生産力とされる。
- 注2:
- 公有制経済をいささかも揺るぐことなく強固にし、発展させること、ならびに、非公有制経済の発展をいささかも揺るぐことなく奨励し、支援し、誘導すること、を指す。
- 注3:
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未来産業については、工業情報化部などが2024年1月29日、「未来産業の革新的発展の推進に関する実施意見(中国語)
」を発表し、同産業の発展に係る2025年までと2027年までの2つの目標を掲げたほか、重点6分野として製造、情報、材料、エネルギー、空間、ヘルスケアを挙げ、技術イノベーションと産業育成などを推進する方針を明確にした(2024年2月7日付ビジネス短信参照)。
- 注4:
- 中国語の「新型基礎施設」を指し、5G(第5世代移動通信システム)、データセンター、AI(人工知能)技術などを支えるデジタルインフラ、充電スタンドをはじめとする次世代交通インフラなどを指す。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課 主査
宗金 建志(むねかね けんじ) - 1999年、ジェトロ入構。調査部中国北アジア課、企画部企画課海外地域戦略班(北東アジア)、北京事務所などでの業務に従事。2025年5月から現職。