2024年家計調査から見るメキシコの収入と支出
所得水準は向上も、格差は依然大きく

2025年10月16日

メキシコの国立統計地理情報院(INEGI)が2025年7月30日に発表した2024年全国家計調査(ENIGH 2024)によると、同年の世帯平均実質所得は前回調査(2022年)から10.6%増加した。過去10年間で内需が最も好調に推移していた2016年と比較しても、10.8%の増加を見せ、新型コロナウイルス禍からの回復局面から成長局面に移行しつつある。しかし、所得格差は依然として残っており、上位10%の世帯の平均所得は下位10%の14倍だ。南北格差も大きく、北部ヌエボレオン州の世帯平均所得は南部チアパス州の3倍以上にもなる。

少子高齢化が継続

INEGIの2024年全国家計調査(ENIGH2024)は、2024年8月21日~11月28日に全国10万5,718世帯を対象に実施された2年に1度の標本調査だ。同調査に基づく推計によると、メキシコの世帯総数は3,883万230世帯、世帯構成員総数は1億3,022万6,218人、1世帯当たりの平均構成員数は3.35人となっている(表1参照)。世帯当たりの就業者数は1.63人で共働きが多い。世帯主の平均年齢は51.7歳だが、世帯構成員は依然として若年層が多く、30歳未満が45.9%を占める。しかし、メキシコでも核家族化と少子高齢化が進んでおり、世帯関連データを10年前と比較すると、構成員数は0.4人減少し、世帯主の平均年齢は2.9歳上昇した。構成員比率も、30歳未満は7.6ポイント低下した一方、60歳以上が4.4ポイント上昇している。

表1:メキシコの世帯関連データの推移
指標 単位 2014年 2016年 2018年 2020年 2022年 2024年
人口 1,000人 119,906 122,644 125,092 126,761 128,890 130,226
世帯数 1,000世帯 31,671 33,463 34,745 35,750 37,560 38,830
世帯構成員数 人/世帯 3.79 3.67 3.60 3.55 3.43 3.35
世帯当たり就業者数 人/世帯 1.64 1.69 1.70 1.64 1.65 1.63
世帯主平均年齢 48.8 49.2 49.8 51.2 51.4 51.7
30歳未満の構成比 53.4 52.1 50.9 48.7 47.6 45.9
60歳以上の構成比 10.6 11.3 12.1 13.6 14.2 15.1

出所:国立統計地理情報院(INEGI)「全国家計調査(ENIGH)」データから作成

2024年の世帯平均所得額は、四半期換算で7万7,864ペソ(約64万3,935円、同年の期中平均レートは1ペソ=8.27円)、月額換算で2万5,955ペソになる。前回調査(2022年)時と比較すると、実質10.6%と大きく増加しており、経済が好調だった2016年と比べても、実質10.8%の増加となっている(表2参照)。

表2:階層別世帯平均所得額(月額)推移(単位:2024年価格ペソ、%、ポイント)(△はマイナス値)
所得階層
(10段階)
2016年
金額
2018年
金額
2020年
金額
2022年
金額
2024年
金額
増減(2022年)
2016年比 2022年比
I 4,104 4,120 4,175 4,940 5,598 36.4 13.3
II 7,140 7,277 7,083 8,259 9,432 32.1 14.2
III 9,508 9,684 9,357 10,757 12,282 29.2 14.2
IV 11,839 12,062 11,576 13,242 15,082 27.4 13.9
V 14,481 14,602 14,016 15,966 18,103 25.0 13.4
VI 17,511 17,600 16,848 19,127 21,533 23.0 12.6
VII 21,330 21,358 20,445 22,991 25,817 21.0 12.3
VIII 26,842 26,611 25,455 28,267 31,764 18.3 12.4
IX 36,223 35,528 33,789 37,156 41,237 13.8 11.0
X 85,177 75,555 68,590 73,931 78,698 △ 7.6 6.4
平均 23,416 22,440 21,133 23,464 25,955 10.8 10.6
ジニ係数 0.449 0.426 0.415 0.402 0.391 △ 0.059 △ 0.011

注:所得階層は世帯数を均等に所得の低い順から高い順へ10分割したもの。
平均所得は原典の四半期額を3で除して月額に換算した。
増減はジニ係数のみ増減幅、その他は増減率。
2024年の期中平均為替レートは1ドル=18.30ペソ、1ペソ=約8.27円。
出所:INEGI「ENIGH2024」、IMFのデータから作成

所得分配をみると、過去10年間は格差が縮小傾向にあり、ジニ係数(注1)も低下している。世帯数を均等に所得の低い順から高い順(I→X)に分割した所得階層別に見ると、2022年比では全ての階層で所得が増加し、所得階層が低い方の増加幅が大きい傾向にある。2016年比ではその傾向はより顕著で、第X階層は減少したのに対し、第I、第II階層では30%以上増加している。

ただ、依然として所得格差は大きく、所得上位10%(第X階層)の世帯所得を合計すると、全世帯所得の30.3%を占めるが、下位10%(第1階層)の世帯所得を合計しても2.2%にすぎない(図1参照)。上位10%の月額世帯平均所得(7万8,698ペソ)は、下位10%のそれ(5,598ペソ)の約14倍だ。

図1:2024年の世帯所得の所得階層別シェア(%)
I階層は2.2%、II階層は3.6%、III階層は4.7%、IV階層は5.8%、V階層は7.0%、VI階層は8.3%、VII階層は9.9%、VIII階層は12.2%、IX階層は15.9%、X階層は30.3%。

注:所得階層は世帯数を均等に所得の低い順から高い順(I→X)へ10分割したもの。
出所:国立統計地理情報院(INEGI)「全国家計調査(ENIGH)2024」

政府補助の占める割合が増大

次に、世帯所得の内訳、すなわち各世帯の収入源についてみる。所得総額から、政府の補助金支給や在外メキシコ移民の家族送金などの移転所得を除いた自己収入を時系列でみると、中間層に当たる第Ⅲ~Ⅵ階層の伸びが大きく、第Ⅰ~Ⅱ階層の伸びは比較的小さい。また、所得全体に占める自己収入の割合は、低所得層ほど低く、第Ⅰ階層では3分の1にも満たない(表3参照)。

表3:階層別世帯平均自己収入額(月額)推移(単位:2024年価格ペソ、%)(△はマイナス値、ーは値なし)
所得階層
(10段階)
2016年
金額
2018年
金額
2020年
金額
2022年
金額
2024年 増減(2022年)
金額 所得に占める
自己収入の割合
2016年比 2022年比
I 1,498 1,514 1,577 1,618 1,736 31.0 15.9 7.3
II 4,112 4,189 3,949 4,484 4,967 52.7 20.8 10.8
III 6,679 6,921 6,308 7,414 8,377 68.2 25.4 13.0
IV 9,060 9,393 8,640 10,004 11,325 75.1 25.0 13.2
V 11,576 11,931 11,005 12,681 14,388 79.5 24.3 13.5
VI 14,535 14,798 13,737 15,725 17,755 82.5 22.1 12.9
VII 18,172 18,353 17,187 19,417 21,717 84.1 19.5 11.8
VIII 23,214 23,200 21,695 24,314 27,095 85.3 16.7 11.4
IX 31,694 31,300 29,237 32,292 35,988 87.3 13.5 11.4
X 77,254 68,390 60,735 66,431 70,201 89.2 △ 9.1 5.7
平均 19,779 18,999 17,407 19,438 21,355 82.3 8.0 9.9
ジニ係数 0.499 0.475 0.468 0.460 0.450 △ 0.049 △ 0.010

注:所得階層は世帯数を均等に所得の低い順から高い順へ10分割したもの。
自己収入は政府の補助や在外移民からの送金などを除く所得額。
平均収入は原典の四半期額を3で除して月額に換算した。
増減はジニ係数のみ増減幅、その他は増減率。
2024年の期中平均為替レートは1ドル=18.30ペソ、1ペソ=約8.27円。
出所:INEGI「ENIGH2024」、IMFのデータから作成

背景の1つには、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)前政権下で進められた総合福祉政策があると考えられる。福祉政策を所管する福祉省の予算がGDPに占める比率は、2020年度は0.7%だったが、2022年度は1.0%、2024年度には1.5%にまで拡大している。2024年度の社会プログラム予算(高齢者年金、奨学金、農村支援など)はGDP比で12.8%に達し、エンリケ・ペニャ・ニエト政権最終年の2018年と比べると、比率が2.7ポイント上昇している。

移転収入のもう1つの大きな要素としては、在米を中心とする在外移民のメキシコへの郷里送金がある。ただ、2023年以降の伸びは鈍化しており、2024年の外国からメキシコへの送金額は過去最高を更新したものの、前年比2.3%増にとどまった(図2参照)。ただ、総額はGDP比3.5%の647億4,600万ドルに上り、メキシコの家計にとって引き続き重要な要素となっている。

図2:外国からメキシコへの送金額推移
2014年の送金額は244億200万ドル、GDP比は1.8%。2015年の送金額は253億7,700万ドル、GDP比は2.1%。2016年の送金額は276億3,100万ドル、GDP比は2.5%。2017年の送金額は309億4,300万ドル、GDP比は2.6%。2018年の送金額は344億3,500万ドル、GDP比は2.7%。2019年の送金額は372億5,000万ドル、GDP比は2.9%。2020年の送金額は417億400万ドル、GDP比は3.7%。2021年の送金額は525億2,300万ドル、GDP比は4.0%。2022年の送金額は588億6,800万ドル、GDP比は4.0%。2023年の送金額は633億1,900万ドル、GDP比は3.5%。2024年の送金額は647億4,600万ドル、GDP比は3.5%。

出所:メキシコ中央銀行、IMFのデータから作成

世帯平均所得の主要収入源構成比の推移を見てみると、労働・事業収入は2022年比でほとんど差がなく、最も多く拡大したのは第Ⅱ階層(0.9ポイント増)、最も縮小したのは第Ⅹ階層(0.9ポイント減)だった(表4参照)。顕著な変化が見られたのは移転収入で、全体では全ての階層で2022年度から増加となった。項目別に見ると、「政府の社会福祉プログラム」と「政府・NGOなどの現物贈与」が全ての階層で増加していた。政府による補助金・現物贈与は低所得層への支援を目的としたものだが、高所得層でも増加が見られるのは、高齢者一律年金(注2)など政府の社会福祉政策がより広範囲に実施されていることを表している。政府の補助金を受け取ったことがあると回答した世帯の割合は、第Ⅰ階層で40.3%なのに対し、第Ⅹ階層でも27.2%と、そこまで差はない。

他方、在外メキシコ移民からの送金収入は、第Ⅴ階層を除く全階層で縮小している。背景には、外国からの送金に依存する世帯の減少があると考えられる。外国からの送金を受け取ったことがあると回答した世帯の割合は、2022年の4.6%から3.9%に減少した。ただ、低所得層は依然として送金に依存している。民間シンクタンクのメヒコ・コモ・バモスが2025年8月1日に発表したENIGH2024の結果分析レポート(注3)によると、送金を経常的に受け取っている世帯だけでみると、それら世帯の全収入に占める送金収入の依存度は、第I~V階層では30%以上だった一方で、第Ⅸ階層では18.2%、第Ⅹ階層では11.9%となっている。

表4:所得階層別経常所得の主要収入源別構成比(上段:2020年、中段:2022年、下段:2024年)(単位:%)
現金支出項目 全世帯
平均
所得階層
I II III IV V VI VII VIII IX X
労働・事業収入(-) 63.8 43.9 52.0 57.9 60.4 63.5 66.4 69.2 69.1 69.7 60.6
65.7 42.6 54.3 59.8 64.1 66.2 68.6 70.1 70.1 69.9 63.7
65.6(-) 42.5(-) 55.2(+) 59.9(+) 64.6(+) 66.8(+) 68.8(+) 70.1(-) 70.5(+) 69.8(-) 62.8(-)
賃貸収入(-) 5.4 1.0 1.3 1.3 1.6 1.9 2.1 1.9 2.6 2.9 12.1
5.2 1.0 1.2 1.3 1.5 1.8 2.1 2.2 2.8 3.4 11.4
4.9(-) 0.8(-) 1.2(-) 1.5(+) 1.4(-) 1.7(-) 1.9(-) 2.0(-) 2.5(-) 3.5(+) 11.1(-)
移転収入(全体)(+) 17.6 31.7 26.8 23.7 21.6 19.3 17.5 15.7 15.8 15.6 16.3
17.2 35.7 27.7 23.7 20.5 18.5 16.9 15.9 15.5 15.8 14.7
17.7(+) 36.2(+) 28.1(+) 24.2(+) 21.0(+) 18.5(+) 17.2(+) 16.2(+) 16.1(+) 15.8(+) 15.6(+)
階層レベル2の項目年金・退職金収入(-) 8.5 2.4 4.4 5.0 6.0 6.5 6.7 6.8 8.0 9.3 11.4
8.1 2.7 4.5 5.0 5.4 6.0 6.3 6.9 7.8 9.4 10.6
8.0(-) 2.9(+) 5.1(+) 5.6(+) 5.7(+) 5.9(-) 6.5(+) 7.1(+) 8.4(+) 9.5(+) 9.8(-)
階層レベル2の項目政府などによる奨学金(-) 0.2 0.3 0.2 0.3 0.2 0.2 0.2 0.3 0.2 0.3 0.2
0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2
0.2(-) 0.2(-) 0.1(-) 0.2(+) 0.2(-) 0.2(-) 0.2(-) 0.2(-) 0.2(-) 0.2(-) 0.2(+)
階層レベル2の項目現金による寄付(-) 2.2 7.5 6.1 5.0 4.1 3.1 2.5 2.2 1.7 1.6 0.9
2.0 8.5 6.1 4.8 3.6 2.9 2.4 1.8 1.5 1.3 0.7
2.0(-) 8.1(-) 5.7(-) 4.4(-) 3.5(-) 2.7(-) 2.3(-) 2.0(+) 1.4(-) 1.2(-) 0.8(+)
階層レベル2の項目他国からの移転(在外送金)(-) 0.8 1.5 1.7 1.6 1.3 1.2 0.9 0.9 0.8 0.7 0.4
1.0 1.9 2.1 2.1 1.6 1.4 1.1 1.2 1.0 0.9 0.5
0.8(-) 1.9(-) 2.1(-) 1.8(-) 1.5(-) 1.4(+) 1.0(-) 0.8(-) 0.7(-) 0.4(-) 0.2(-)
階層レベル2の項目政府の社会福祉プログラム(+) 2.3 12.1 7.5 5.5 4.3 3.7 2.9 2.4 1.9 1.3 0.6
2.8 14.7 8.6 6.4 5.1 4.0 3.2 2.9 2.2 1.7 0.8
3.2(+) 15.2(+) 9.1(+) 7.1(+) 5.3(+) 4.4(+) 3.5(+) 3.1(+) 2.6(+) 2.1(+) 1.1(+)
階層レベル2の項目他の家庭からの現物贈与(+) 2.6 6.8 6.0 5.5 4.9 3.8 3.3 2.6 2.5 1.7 1.3
2.2 6.8 5.4 4.4 3.9 3.2 2.8 2.2 2.0 1.7 1.0
2.3(+) 6.9(+) 5.0(-) 4.1(-) 3.7(-) 3.1(-) 2.8(-) 2.2(-) 1.9(-) 1.6(-) 1.4(-)
階層レベル2の項目政府・NGOなどの現物贈与(+) 1.0 1.1 0.8 0.8 0.8 0.8 0.8 0.7 0.7 0.6 1.4
0.8 0.9 0.9 0.8 0.7 0.8 0.8 0.7 0.7 0.6 0.9
1.2(+) 1.1(+) 1.1(+) 1.0(+) 1.0(+) 0.9(+) 1.0(+) 0.9(+) 0.9(+) 0.8(+) 2.0(+)
持ち家の帰属家賃(-) 13.1 23.1 19.7 17.0 16.3 15.1 14.0 13.1 12.4 11.7 10.9
11.8 20.4 16.6 15.1 13.8 13.4 12.4 11.8 11.5 10.8 10.1
11.6(-) 20.2(-) 15.3(-) 14.2(-) 12.9(-) 12.9(-) 12.0(-) 11.6(-) 10.8(-) 10.8(-) 10.3(+)
その他の経常所得(-) 0.1 0.3 0.2 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.1
0.1 0.3 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1
0.1(-) 0.2(-) 0.2(+) 0.1(-) 0.1(-) 0.1(+) 0.1(-) 0.0(-) 0.1(-) 0.1(-) 0.1(+)

注:(+)は2022年と比較して構成比が上昇した項目、(-)は反対に低下した項目。
出所:INEGI、ENIGHの2020年、2022年、2024年版から作成

新型コロナ禍からの回復が続き、外食や娯楽・旅行への支出拡大

世帯平均現金支出額のデータをみると、2024年は月額1万5,898ペソとなり、2022年比で19.3%増加した。年間の消費者物価上昇率(インフレ率)は2022年7.9%、2023年5.6%で、インフレ率を上回るかたちで消費が好調となっている。2024年の所得階層別現金支出額をみると、第Ⅰ階層の5,661ペソと第Ⅹ階層の3万9,329ペソの間には6.9倍の開きがある(表5参照)。階層別に現金支出と自己収入(世帯の経常収入から移転所得を除いた収入)を比較すると、第I~Ⅲ階層までの貧しい層では現金支出が自己収入を超えており、低所得層の家計が政府や在外移民などからの移転所得に依存していることがわかる。

表5:所得階層別世帯平均現金支出と自己収入(単位:2024年価格ペソ、%)(ーは値なし)
所得階層
(10段階)
現金支出 自己収入(注) 現金支出
/自己収入
支出額 構成比 金額 構成比
I 5,661 3.6 1,736 0.8 326.0
II 7,788 4.9 4,967 2.3 156.8
III 9,447 5.9 8,377 3.9 112.8
IV 10,941 6.9 11,325 5.3 96.6
V 12,494 7.9 14,388 6.7 86.8
VI 14,343 9.0 17,755 8.3 80.8
VII 16,286 10.2 21,717 10.2 75.0
VIII 19,163 12.1 27,095 12.7 70.7
IX 23,497 14.8 35,988 16.9 65.3
X 39,329 24.7 70,201 32.9 56.0
平均 15,898 21,355 74.4

注:自己収入は、政府やNGOからの補助金、年金・社会保障給付金などの移転所得を除く世帯の経常収入。原典の4半期データを3で除して月額換算。
2024年の期中平均為替レートは1ドル=18.30ペソ、1ペソ=約8.27円。
構成比は各階層の合計が全世帯の合計に占める割合。
出所:INEGI「ENIGH 2024」から作成

所得階層により、支出項目別の構成比は大きく異なる。貧しい階層(I~II)では食費が4割を超えるのとは対照的に、裕福な家庭では外食、教育や娯楽・旅行など、生活必需品以外に費やす支出が大きくなっている(表6参照)。ただし、住宅関連・光熱費、個人用品・美容の2分野については、階層間で構成比の差が小さく、どの階層でもほぼ同様の割合を支出している。

表6:所得層別の経常現金支出構成比(上段:2020年、中段:2022年、下段:2024年)(単位:%)
現金支出項目 全世帯
平均
所得階層
I II III IV V VI VII VIII IX X
食品・飲料・たばこ(-) 33.0 46.3 44.8 42.6 41.0 38.6 37.1 35.0 32.6 28.9 22.4
30.3 46.9 43.5 40.9 38.9 37.1 34.8 32.8 29.8 26.8 18.3
29.4(-) 46.1(-) 42.2(-) 39.8(-) 37.8(-) 35.7(-) 33.7(-) 31.2(-) 28.5(-) 25.0(-) 18.2(-)
外食(+) 5.1 3.9 3.9 4.0 4.1 4.5 4.6 4.7 5.3 5.6 6.1
7.4 4.2 5.3 5.5 5.7 5.8 6.4 6.7 7.1 7.9 10.1
8.2(+) 4.8(+) 5.5(+) 6.0(+) 6.4(+) 7.0(+) 7.4(+) 7.8(+) 8.5(+) 9.0(+) 10.3(+)
衣類・履物(+) 3.0 2.2 2.3 2.4 2.5 2.7 2.7 2.9 3.1 3.4 3.4
3.8 2.9 3.1 3.2 3.4 3.6 3.7 3.9 3.9 4.0 4.2
3.8(+) 2.8(-) 3.2(+) 3.3(+) 3.5(+) 3.6(-) 3.7(+) 3.9(-) 4.1(+) 4.2(+) 4.2(-)
住宅関連・光熱費(-) 11.0 12.7 12.4 12.9 12.2 11.8 11.4 11.0 10.5 10.3 9.8
9.5 10.9 10.9 10.9 10.7 10.3 10.0 9.7 9.4 8.8 8.3
9.1(-) 10.4(-) 10.7(-) 10.3(-) 10.1(-) 9.5(-) 9.1(-) 9.2(-) 8.7(-) 8.9(+) 8.2(-)
家庭用品・サービス(+) 6.5 6.4 6.4 6.0 6.0 6.1 5.9 6.0 6.0 6.3 7.9
6.1 6.0 5.8 5.5 5.3 5.4 5.3 5.6 5.4 6.0 7.6
6.3(+) 6.5(+) 5.9(+) 5.8(+) 5.7(+) 5.9(+) 5.6(+) 5.7(+) 6.0(+) 6.3(+) 7.5(-)
医療・健康関連(+) 4.2 4.2 3.7 3.6 3.8 3.9 3.8 3.9 4.0 4.4 5.1
3.4 3.8 3.1 2.8 2.7 2.8 3.0 2.9 3.3 3.2 4.3
3.4(+) 3.8(+) 3.3(+) 3(+) 2.9(+) 3.1(+) 3.0(+) 2.7(-) 3.0(-) 3.4(+) 4.1(-)
交通・輸送手段(+) 12.9 8.2 8.9 10.0 10.4 11.8 12.2 13.2 13.3 14.9 14.8
14.4 9.1 10.1 11.3 11.9 13.0 13.6 14.3 15.3 16.6 16.5
14.7(+) 9.2(+) 10.5(+) 11.8(+) 12.4(+) 12.7(-) 14.1(+) 15.2(+) 15.5(+) 16.1(-) 17.2(+)
通信(-) 5.7 3.6 4.5 5.1 5.5 5.7 6.1 6.2 6.3 6.3 5.5
4.9 3.2 4.0 4.5 4.8 5.1 5.3 5.5 5.6 5.3 4.4
4.8(-) 3.6(+) 4.3(+) 4.8(+) 4.9(+) 5.1(-) 5.1(-) 5.2(-) 5.3(-) 5.1(-) 4.3(-)
教育(-) 6.0 2.4 2.7 2.9 3.6 3.8 4.5 5.2 6.2 6.4 9.8
7.0 3.8 4.6 5.3 6.0 6.2 6.2 6.6 7.5 7.0 9.0
6.1(-) 2.7(-) 3.7(-) 4.2(-) 4.9(-) 5.0(-) 5.6(-) 5.6(-) 6.0(-) 6.5(-) 8.3(-)
娯楽・旅行(+) 1.7 1.2 1.3 1.2 1.3 1.3 1.4 1.5 1.7 1.8 2.4
2.8 1.1 1.3 1.5 1.5 1.6 2.0 2.3 2.5 3.1 4.8
3.5(+) 1.5(+) 1.7(+) 1.9(+) 2.1(+) 2.4(+) 2.7(+) 2.9(+) 3.5(+) 4.1(+) 5.6(+)
個人用品・美容(+) 8.0 7.6 7.8 7.7 7.7 7.9 7.8 8.1 8.1 8.1 8.2
5.9 6.0 6.2 6.3 6.3 6.3 6.2 6.2 6.1 6.0 5.2
7.8(+) 6.9(+) 7.3(+) 7.2(+) 7.3(+) 7.5(+) 7.5(+) 7.7(+) 8.0(+) 8.1(+) 8.2(+)
移転支出・その他(-) 3.0 1.2 1.4 1.6 2.0 2.0 2.3 2.4 2.9 3.5 4.6
4.5 2.1 2.1 2.4 2.7 2.8 3.5 3.6 4.1 5.2 7.4
2.7(-) 1.5(-) 1.5(-) 1.8(-) 1.8(-) 2.2(-) 2.2(-) 2.7(-) 2.7(-) 3.1(-) 3.6(-)

注:(+)は2022年と比較して構成比が上昇した項目、(-)は反対に低下した項目。
出所:INEGI、ENIGHの2020年、2022年、2024年版から作成

支出項目別の構成比をみると、2022年比で食品・飲料・たばこや住宅関連・光熱費など生活必需品がほぼ全ての階層で減少したのに対し、外食、交通・輸送手段、娯楽・旅行などが拡大しており、まだ新型コロナ禍の最中にあった2022年からの回復がみられる。個人用品・美容は全ての階層で大きく増加し、巣ごもり需要で拡大した2020年の水準に近付いている。

北部中心に収入・支出が拡大、南北格差は引き続き大きく

州別の世帯平均所得(移転収入を除く自己収入)をみると、メキシコで最も世帯平均所得が高いのは、メキシコを代表する財閥の本拠地で北東部の重要な工業都市モンテレイがあるヌエボレオン州(月額3万3,723ペソ)だった。2022年に行われた前回調査の4位から順位を上げた。同州には米国へのニアショアリングを背景に、自動車関連企業の進出が相次いでおり、州別の外国直接投資額は2023年に第2位、2024年に第3位に入っている。先述の所得階層別の世帯平均自己収入額では、第Ⅸ階層が3万5,988ペソなのを考えると、かなり高い水準であることがわかる。太平洋岸のリゾート地ロス・カボスがあり、米国やカナダの退職者などの移民が多い南バハカリフォルニア州が同3万477ペソで2位、首都メキシコ市が同3万307ペソで3位だった。他方、最も所得水準の低い州は、グアテマラと国境を接している南部チアパス州で、世帯平均所得は月額換算で1万1,018ペソと、ヌエボレオン州の3分の1にも満たない。下位4州は、チアパス州に続いて、ゲレロ州、ベラクルス州、オアハカ州で、いずれも南部や南東部の州だ。

州別の世帯平均現金支出額をみると、支出額が最も多いのは首都メキシコ市で、ケレタロ州、ヌエボレオン州、ハリスコ州と続く。各州の所得水準に加え、物価水準や商業施設、娯楽・サービス施設などの数(消費の選択肢の多さ)が影響しているものと思われる。最も支出額が小さいのはチアパス州で、オアハカ州、ベラクルス州と続く。世帯平均所得と同様、南部諸州で支出額が小さくなっている。自己収入に占める現金支出額をみると、全国平均は74.4%だが、貧しい世帯が多い割に物価は総じて低くないゲレロ州では92.8%に達している。全体的に、貧しい州の方が自己収入に占める現金支出額の割合が高く、生活の厳しさがうかがえる(表7参照)。

表7:州別世帯平均所得(移転収入を除く)・現金支出額(2024年、月額)PDFファイル(371KB)

生活様式の変化に伴い、インターネットや携帯電話の普及率拡大

INEGIの家計調査では、世帯での自動車や電化製品、生活関連サービスなどの所有・利用状況も調査している(表8参照)。調査結果データベースから主要な財・サービスの普及率を抽出した。乗用車の普及率(2024年)は34.4%と上昇傾向が続いているが、ピックアップトラックの普及率は総じて横ばいだ。乗用車、バン、ピックアップのいずれかを所有している世帯は2024年に全体の5割を超えた。近年の都市部におけるスマートフォン(スマホ)アプリを活用した宅配サービスの普及に伴い、オートバイの世帯普及率が18.4%に達し、前回調査から5.3ポイントも上昇している。

AV機器の普及率をみると、テレビが90.6%、オーディオ機器は22.1%、DVD・ブルーレイ再生機器は9.6%で、下降傾向にある。対照的に、携帯電話(94.0%)やインターネット(65.3%)など通信サービスの普及率は上昇しており、スマホで音楽や動画を視聴する層の拡大が反映されている。有料テレビ放送の普及率も、2016年をピークに減少傾向にある。冷蔵庫、洗濯機の普及率は緩やかながら拡大を続けているが、電気掃除機の普及は進んでいない。カーペットの床が少ないことと、富裕層は家事代行などに掃除を任せる習慣があるため、電気掃除機の利便性を求める消費者が少ないことが影響していると思われる。他方、ミキサーの普及率は91.8%と9割を超えており、メキシコの食生活に欠かせないソース(唐辛子を使った辛いソースが多い)を作るのに用いられることが背景にある。

表8:自動車・電化製品・サービス等世帯普及率の推移(単位:%)
商品・サービス名 2008年 2010年 2012年 2014年 2016年 2018年 2020年 2022年 2024年
携帯電話 56.9 63.7 74.0 76.7 83.1 84.9 89.2 91.9 94.0
ミキサー 82.9 81.7 84.3 86.1 87.5 88.0 90.0 91.2 91.8
テレビ 93.1 92.0 92.3 93.2 93.6 92.1 92.3 90.8 90.6
冷蔵庫 82.8 81.0 81.8 84.7 85.7 86.2 88.4 89.4 90.6
洗濯機 53.2 62.0 63.8 65.6 67.6 67.8 71.1 72.8 75.0
アイロン 84.0 79.8 79.7 79.2 78.1 75.9 73.4 72.6 71.3
自動車(注) 43.6 39.7 41.1 42.1 45.0 45.0 46.8 49.2 50.8
階層レベル2の項目乗用車 N.A. 26.0 27.1 27.1 28.2 28.8 31.3 32.7 34.4
階層レベル2の項目バン N.A. 9.9 11.2 12.3 11.8 11.5 11.9 12.5 13.3
階層レベル2の項目ピックアップ N.A. 9.4 12.6 10.6 8.7 8.4 8.6 8.3 8.2
有料テレビ放送 25.1 28.3 33.5 36.4 48.7 44.1 44.2 42.1 35.8
電子レンジ 43.5 41.1 43.2 44.6 44.3 43.5 45.0 45.8 48.5
オーディオ機器 83.0 74.3 70.0 65.8 39.5 36.6 33.9 28.9 22.1
DVD/BDプレーヤー 55.8 50.0 48.8 43.4 37.9 29.8 31.6 13.7 9.6
インターネット 14.5 19.2 24.4 27.9 29.7 34.3 48.4 56.8 65.3
固定電話 46.4 41.4 40.3 37.3 29.4 27.8 30.1 27.8 23.0
パソコン 23.8 25.9 30.1 29.9 29.0 27.2 21.6 30.1 29.0
プリンター 16.3 14.6 14.2 13.4 13.0 12.3 10.6 13.2 12.8
オートバイ 3.9 4.3 5.6 7.0 6.9 9.0 10.7 13.1 18.4
ビデオゲーム機 12.6 9.3 10.6 11.4 10.5 10.5 10.4 10.6 11.3
電気掃除機 8.4 7.1 6.0 7.0 7.9 7.6 8.2 8.4 10.0

注:乗用車、バン、ピックアップのいずれか(双方、3つともを含む)を所有している世帯の比率。
出所:INEGI 「全国家計調査(ENIGH)」データから作成


注1:
所得などの分布の均等度合いを示す指標。係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほど所得格差が拡大していることを示す。
注2:
65歳以上の高齢者を一律に対象にする無拠出制年金。2024年度にはこのプログラムが福祉省予算(執行額)の84.6%を占めた。
注3:
México, ¿Cómo Vamos?,”ENIGH 2024,¿cómo vamos con los ingresos y gastos de los hogares?”
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課中南米班
加藤 遥平(かとう ようへい)
2023年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2025年4月から現職。