ホーチミン高島屋、トレンドに適応しつつ、独自性発揮(ベトナム)

2024年3月27日

ベトナムは安定した経済成長が続いており、1人当たりGDPは4,000ドルを超えた。人口も1億人を突破するなど、所得と人口の伸びにより、消費市場としても注目されている。ベトナム全土では伝統的なトラディショナルトレード(市場や個人商店)が現状大半を占めているが、都市部を中心にモダントレード(商業施設やスーパーマーケット)が拡大している状況だ。所得水準が上がるとともに、消費行動も変化するなど、消費市場の成長性も期待されている。

今回は、そのように消費市場としても注目を集めているベトナムの南部の商都ホーチミンに進出した高島屋を取り上げる。高島屋は1993年にシンガポールに海外初進出。その後、2012年に中国(上海)、2016年にベトナム(ホーチミン)、2018年にタイ(バンコク)に進出している。ホーチミン高島屋は、ホーチミン市1区中心部の商業施設であるサイゴンセンターに入居している。進出してから2024年で8年目になる中、入居テナントの状況から今後の展望まで、ホーチミン高島屋食料品売り場部門長の西村英一郎氏に聞いた(取材日:2024年2月27日)。


高島屋が入居している大型商業施設(サイゴンセンター)の外観(ジェトロ撮影)
質問:
ホーチミン高島屋の取り扱い商品や売れ行きの特徴は。
答え:
ホーチミン高島屋全体の売り上げの構成比は、化粧品が最も高く、次が食料品である。化粧品が売れている理由としては、高島屋であれば、ラグジュアリーブランドのコスメの正規品を安心して購入できること、他店舗にない日系ブランドも多いことが挙げられる。ベトナムの方は、ブランド品を持つことをステータスに感じ、自信やモチベーションを高める傾向が日本人よりも強いように感じている。また、アパレルブランドの売り上げも順調である。本来、ホーチミンは明確な四季がなく、衣服の提案の種類が限られるため、日本や欧米諸国と違って販売が難しいが、セレクトショップなど、「高級志向」というところで売れている。
質問:
日本のラグジュアリーな商品展開に対して、その購買層の取り込み状況は。
答え:
立地の良さも高島屋の大きな強みであり、(1)ホーチミン市1区の中心地にある、(2)サイゴンセンターに有力な日系、外資、現地企業が入居している、(3)サイゴンセンター内にはセドナスイーツという高級レジデンスやフュージョンホテルなども入居している、といった理由から、購買力のある富裕層の取り込みにも成功している。また、2024年中には地下鉄も開通予定であり、駅からのアクセスも抜群であることから、人の流れがさらに増えることを期待している。
質問:
コロナ禍後の売り上げの状況について。
答え:
コロナ禍後の2022年以降は消費が好調である。2023年は不動産市場の低迷の影響もあり、食器や寝具などの家庭用品の一部の商品は想定していた売り上げに届かなかった。一方、行動規制が緩和されたことで、外出の機会が増えたことから、食料品や化粧品を中心に核となるアイテムの売り上げは堅調に伸びている。他の小売業が苦戦する中で当店は、日系の百貨店というエクスクルーシブな特色を出しやすいという強みから、大きな影響は受けていない。
質問:
入居テナントの状況は。
答え:
入居テナントは、オープン当初と比べて変わってきている。消費環境の変化が速いベトナムマーケットのニーズやトレンドに敏感に対応し、ブランドの入れ替えをしている。
質問:
(西村氏が)担当されている地下2階の食料品売り場について。
答え:
売り上げの約5割が日系のブランド。「日本の上質な食文化を発信する」というコンセプトの下、開業当初から日系ブランドを多く展開している。また、他店舗(スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど)と差別化を図り、特徴を出せるように、オーセンティックかつラグジュアリーな商品の提案をするよう心掛けている。
質問:
食料品売り場の構成の工夫について。
答え:
日本のデパ地下をそのまま再現するだけでなく、現地のマーケットをよく研究し、バランス良くローカライズさせることを意識している。ベトナム人は家族や友人と外食をすることを好むため、イートインの比重を大きくしている。また、各ブランドでは、ベトナム人の口に合うような味付けにアレンジしたメニューや素材を用いた商品も展開している。他には、日本人を含む外国人観光客の立ち寄りが多いことを受けて、お土産として人気があるナッツ、チョコレート、ドライフルーツ、紅茶などがすべて取りそろう、ベトナムお土産ゾーンを新設した。また、バインミーラスクなどの新しいベトナム土産になり得る商品の提案も開始した。飲食店については、あらゆる国籍の観光客やニーズに対応して、ベトナム料理や和食だけでなく、タイ料理、韓国料理、シンガポール料理などをバランス良く配置している。和食以外では、タイ料理、韓国料理の人気が高い。
質問:
日本と同様に、ベトナムでも正月などといったイベントがあると思うが、ギフト需要はどうか。
答え:
旧正月のハンパー(注1)や中秋節の月餅(注2)など、イベント期間のギフトの需要は大きい。ありがたいことに、ベトナムでも高島屋のブランドネームを信頼していただけており、法人の需要の割合も高い。法人では日系企業が多いが、地場企業やシンガポール系の企業(シンガポールにも高島屋があるため)にも認知されている。日本のお歳暮やお中元と同じで、ギフトを贈る文化が少しずつ縮小しつつあるが、そういった法人の需要の支えで受注件数を増やすことができている。上質なギフト品提案と日本と同じクオリティのギフト包装を心掛けていることが支持されている理由だと分析している。
質問:
展開ブランドを検討する際に気を付けていることは。
答え:
展開ブランドを検討する際には、商品の品質はもちろん、そのブランドの担当者と販売戦略について深く話すことに注力している。店頭に並べるだけでなく、ベトナムの方にどうやって発信して手に取っていただくのか、販促や提案方法も含めて戦略ができているのかが重要。以前、日本国内の異なる産地の牛肉販売店を2つ同時に展開したことがある。ブランドの知名度が高い牛肉は、期待どおりの実績であった。もう1つのブランドは知名度こそ低かったものの、ベトナム人の好みに合わせ、和牛を使用したフォーをその場で販売するという工夫を行った。結果として知名度の高いブランドを超える売り上げとなった。このことからも、やはりベトナム人にまず関心を持ってもらうための戦略と工夫が重要であると考える。その他の検討事項としては、他店舗にはないエクスクルーシブなもの、生産背景にストーリー性やこだわりがあるものなどがある。
また、ベトナムでよく売れる日本商品となるためには、ブランドネームが強みになる。日本を訪れたことがある方なら分かるようなもの(有名なお菓子、人気店のラーメンセット)は分かりやすく売れる。過去に日本の有名なお土産品を取り扱った際、販売期間の都合上、航空機で輸送をしたことがあった。船便よりもコストがかかるため、商品価格も日本と比較すると割高となったが、それでも現地には日本が好きなお客様が多く、喜んでいただくことができ、結果として完売した。
質問:
今後の展望について。
答え:
購買力のある、若い世代の価値観が変化している。フルーツやスムージー、オーガニックなアイテムなどへの関心がさらに高まってきていることや、ナッツやドライフルーツなどを量り売りで必要な分だけ購入するなど、エシカルな消費傾向も増加した。今後は、こういった商品群のブランドを増やす予定である。また、富裕層向けのラグジュアリーなブランドの拡大展開も計画している。今後の海外展開については、引き続き東南アジアに注目している。日本の百貨店としての独自性を発揮することで、集客力のある店舗をつくり、まちの中でインパクトのある存在になることを目指していく。

注1:
ギフトの詰め合わせ。
注2:
中秋節(旧暦の8月15日)に食べられるベトナムの伝統的な菓子。一般的に、甘い具材(あんこ、ココナツ、イモなど)を小麦の生地で包む。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
細川 雄貴(ほそかわ ゆうき)
2021年、富山県庁入庁。2023年4月から現職(出向)。