日本産ウイスキーやハイボールが人気、焼酎への期待も(韓国)
輸入酒類のトレンドを徹底分析

2024年3月13日

韓国の酒類輸入は2023年、金額・量ともに減少した。しかし、ビールやハイボールなどのリキュールは、輸入額・輸入量ともにプラス成長。また、ウイスキーは額が減少したものの、量では2桁成長した。このように、酒類別にみると、動きは一様でない。

日本からの輸入に限ると、ビール、日本酒がプラス成長。ハイボールなどのリキュールは、急成長した。

本稿では、関連統計や有識者へのヒアリングに基づき、2023年の韓国の輸入酒類市場を分析。さらに、2024年を展望する。

リキュールは輸入額19.0%増、量で63.2%増

韓国酒類輸入協会(Korea Wines & Spirits Importers Association:KWSIA)によると、韓国の酒類輸入額は2023年、11億2,856万ドル(前年比4.8%減)。輸入量は、3億8,028万リットル(1.3%減)だった。額と量、ともに小幅に減少したかたちだ(図1参照)。

図1:韓国の輸入酒類市場の推移
2015年輸入量2億5,690万リットル、輸入額5億9,400万ドル、2016年輸入量 3億980万リットル、輸入額6億1,600万ドル、2017年輸入量 4億2,160万リットル、輸入額7億800万ドル、2018年輸入量 4億8,940万リットル、輸入額8億600万ドル、 2019年輸入量 4億6,450万リットル、輸入額7億8,800万ドル、 2020年輸入量 3億9,390万リットル、輸入額7億8,000万ドル、2021年輸入量 4億870万リットル、輸入額10億7,500万ドル、2022年輸入量 3億8,540万リットル、輸入額11億8,600万ドル、 2023年輸入量 3億8,030万リットル、輸入額11億2,900万ドル。2023年は輸入額が前年比4.8%減、輸入量が1.3%減に微減。なお、2022年に輸入額は過去最高を記録。

出所:韓国酒類輸入協会

2023年の品目別輸入額・輸入量は、表1で確認できる。上位3酒類は輸入額・輸入量ともワイン、ウイスキー、ビールが占めた。額ではワインが全体の44.8%、量ではビールが62.8%を占めた。

表:韓国の酒類別輸入推移(単位:輸入額は1,000ドル、輸入量は1,000リットル)
項目 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
ワイン 輸入額 147,426 171,771 182,387 189,766 191,418 210,041 243,992 259,192 330,070 559,808 581,253 506,013
輸入量 28,170 32,547 33,228 36,805 37,373 36,144 40,292 43,495 54,148 76,575 71,020 56,541
ビール 輸入額 73,590 89,663 111,636 141,771 181,592 263,092 309,683 280,881 226,920 223,100 195,101 218,216
輸入量 74,750 95,211 119,467 170,919 220,557 331,211 387,981 360,132 277,930 257,932 228,747 238,696
ベルモット酒 輸入額 628 989 2,831 2,194 1,958 2,651 2,958 3,115 3,525 4,227 4,057 3,472
輸入量 287 435 1,344 1,146 1,028 1,387 1,444 1,488 1,634 1,827 1,662 1,294
清酒(日本酒) 輸入額 16,658 16,147 14,674 13,286 16,557 18,565 22,511 15,797 11,736 15,589 21,512 24,753
輸入量 3,782 4,367 4,094 4,054 4,497 5,400 6,308 4,111 2,379 3,109 4,840 5,415
その他発酵酒 輸入額 4,744 6,851 8,420 7,747 6,268 8,508 11,421 13,328 21,419 33,458 29,675 21,876
輸入量 2,365 3,522 4,170 4,225 4,314 7,157 10,207 12,119 21,234 30,684 25,055 15,206
コニャック 輸入額 3,832 3,921 3,800 3,934 4,701 4,555 4,993 4,658 5,116 7,236 10,830 9,396
輸入量 146 141 122 116 127 115 111 126 137 168 263 236
グレープブランデー 輸入額 1,480 1,860 1,238 1,374 1,378 1,041 1,194 1,342 1,144 1,516 1,514 1,598
輸入量 350 389 274 334 312 227 257 320 287 303 289 336
その他ブランデー 輸入額 552 556 300 418 386 318 345 398 431 527 1,187 1,641
輸入量 83 102 73 97 85 67 90 70 68 101 155 179
ウイスキー 輸入額 205,934 185,194 194,070 188,152 166,123 152,574 154,989 153,933 132,463 175,349 266,815 259,571
輸入量 19,543 18,434 19,033 20,535 21,029 20,290 19,966 19,836 15,923 15,662 27,038 30,586
ラム 輸入額 1,741 1,963 1,951 1,944 1,967 1,846 2,276 2,586 2,047 2,438 2,924 3,223
輸入量 815 827 848 839 851 783 958 1,042 749 814 1,008 986
ジン 輸入額 1,333 1,812 1,759 1,644 1,530 1,629 2,351 2,614 2,893 3,519 5,314 5,549
輸入量 330 399 400 364 330 351 451 498 500 548 899 929
ウォッカ 輸入額 6,570 9,333 10,336 7,900 7,911 7,328 8,885 8,797 5,558 6,984 7,447 6,114
輸入量 1,823 2,609 2,682 2,061 2,163 2,053 3,681 3,401 2,037 2,266 2,347 2,033
リキュール 輸入額 18,898 22,513 22,598 19,322 16,913 16,874 19,354 18,719 15,779 18,030 26,234 31,208
輸入量 6,580 7,076 7,077 6,715 5,825 6,155 6,387 5,835 4,982 4,996 7,346 11,987
高梁酒 輸入額 3,309 4,440 5,387 6,706 8,439 11,137 11,585 12,137 12,160 12,963 17,548 17,703
輸入量 4,783 5,861 5,775 6,806 7,794 7,326 7,575 7,464 7,447 7,123 7,767 7,667
テキーラ 輸入額 3,099 3,077 3,518 2,925 3,403 3,586 4,392 4,440 2,531 2,990 5,866 6,476
輸入量 688 613 669 503 589 625 764 759 434 454 867 755
その他 輸入額 1,967 2,400 3,572 5,306 5,510 4,464 5,022 5,882 5,769 7,253 8,493 11,748
輸入量 903 1,059 1,789 1,402 2,900 2,311 2,967 3,812 3,997 6,125 6,147 7,437
合計 輸入額 491,761 522,490 568,477 594,389 616,054 708,209 805,951 787,819 779,561 1,074,987 1,185,770 1,128,557
輸入量 145,397 173,592 201,043 256,922 309,773 421,604 489,441 464,509 393,887 408,686 385,449 380,285

出所:韓国酒類輸入協会

上位3酒類の2023年の輸入実績は、次のとおり。

  • ワイン
    額が、5億601万ドル(前年比12.9%減)。量は、5,654万リットル(20.4%減)になった。直近10年以上続いてきた成長基調が止まった。 コロナ禍期以降、輸入単価上昇が著しい。これは、外食先で飲酒ができなくなった代わりに、自宅で高額ワインを飲む傾向が広がったと言えそうだ。
  • ウイスキー
    額が、2億5,957万ドル(2.7%減)。量は3,059万リットル(13.1%増)で、過去最高を更新した。 2022年から輸入量が急増した。コロナ禍による自宅飲み需要の増加(ワイン同様)や日本産ウイスキーブームなどが、その原因と考えられる。
  • ビール
    額で2億1,822万ドル(11.8%増)、量が2億3,870万リットル(4.3%増)。前年比で、額・量ともに伸びた。もっとも、全盛期の2018年に比べると6~7割の水準にとどまる。

なお、上位3酒類以外で注目されるのが、リキュールの躍進だ。輸入額では3,121万ドル(19.0%増)、量が1,199万リットル(63.2%増)を記録した。当地では目下、日本産ハイボールなど、RTD(Ready to Drink)製品の人気が急上昇している。輸入増は、それを受けた結果と思われる。

日本からの輸入は、ビール、日本酒、ウイスキーが牽引

次いで、韓国貿易協会の統計に基づき、主要な日本産酒類の輸入を追う。

まず、日本産ビールの輸入は、2023年に勢いをつけた。金額は5,551万ドル(前年比3.8倍)、量は6万6,882トン(3.5倍)を記録した。前年に続いての大幅増だ。これにより、韓国のビール輸入総額の中で、日本産が約25%を占めることなった。

その輸入が増えた理由の1つに、「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶(以下、生ジョッキ缶)」人気がある。図2は、ビールの輸入上位3カ国(日本、オランダ、中国)ごとに、ビール輸入額の月別推移を記録した結果だ。日本は5月まで、他2カ国に遅れをとっていた。それが、6月から急増したことがわかる。一方、生ジョッキ缶の発売開始は5月で、その直後は品薄状態だった。その状況を受け、6月以降、輸入が好調に伸びた。その結果、輸入ビールで、日本独走することになったわけだ。

ちなみに、アサヒビールは2011年から2018年にかけて、当地で日本産ビールとしてシェア1位だった。しかし、2019年の不買運動やコロナ禍の影響を受け、2019年から2022年まで売上高が低迷。日本に代わって2019年から2022年までトップになったのが中国で、その主力が青島ビールだった。しかし2023年10月、青島ビールに不適切動画事件が発生。その影響で、輸入が急減した。

図2:2023年のビール輸入上位3カ国の月別輸入額の推移
2023年のビール輸入国上位3ヵ国(日本、中国、オランダ)の年間推移を見ると1月は中国がトップ、日本は3位。その後、小さな変化があるものの日本がトップになることはなく、6月以降一気に日本が1位に躍り出た。その後12月まで、日本は2位と圧倒的な差をつけて独走。それに伴い、中国、オランダは輸入量減少。特に 2023年10月に問題となった青島ビールの不適切動画事件の影響で、中国は10月以降、輸入量が急激に減少。

出所:韓国貿易協会

日本酒は、2019年から2021年にかけて輸入額・量とも低迷した。ビールと同じく、不買運動やコロナ禍の影響を受けた結果と言える。その後、いずれも徐々に回復しつつはある。それでも2023年時点で、量では2018年水準まで戻っていない(図3参照)。

一方で、特記しておくべきなのは、輸入単価が上昇したことだろう。この点は、ワインに共通するところがある。もっとも、日本酒は自宅飲み需要が中心でないという点に、相違がある。では、どこにそのような需要があったのか。韓国では近年、高級寿司(すし)人気が上昇した。例えば、寿司店で「おまかせ」メニューが流行している。それに伴い、飲食店で高級日本酒の販売が伸びたというわけだ。

図3:日本酒の対日輸入の推移
2017年輸入量 4,513トン、輸入額1,612万ドル、2018年輸入量 5,444トン、輸入額1,988万ドル、 2019年輸入量 3,227トン、輸入額1,387万ドル、 2020年輸入量 1,720トン、輸入額1,027万ドル、2021年輸入量 2,459トン、輸入額1,416万ドル、2022年輸入量 3,882トン、輸入額1,899万ドル、 2023年輸入量 4,298トン、輸入額2,138万ドル。2019年以降急激に減少し、その後2021年から徐々に増加傾向。

出所:韓国貿易協会

ウイスキーの全世界輸入は2023年、金額で減少、量で増加した(前述)。これは、比較的安価な商品の輸入が増えたためだ。しかし、日本からの輸入に限ると、状況が全く異なる。金額・量ともに過去最高を記録しているのだ(図4参照)。

日本産ウイスキーは、「響」「山崎」「サントリー角瓶」など、ナショナルブランドが世界的に人気を集めている。ただしそれだけでなく、知名度の低い地方のウイスキーまで人気が広がっている。

図4:ウイスキーの対日輸入の推移
2017年輸入量 853トン、輸入額57万ドル、2018年輸入量 1,583トン、輸入額105万ドル、 2019年輸入量 2,121トン、金輸入136万ドル、 2020年輸入量 3,278トン、輸入額222万ドル、2021年輸入量 3,963トン、輸入額316万ドル、2022年輸入量 5,326トン、輸入額415万ドル、 2023年輸入量8,972トン、輸入額799万ドル。2017年から毎年右肩上がりで推移。

出所:韓国貿易協会

日本からのリキュール輸入は、2023年に飛躍的な伸びを記録した。金額が前年比で約5.7倍、量では実に約8.3倍になる(図5参照)。

日本産リキュールは、RTD(Ready to Drink)製品で構成される。具体的には、(1)缶ハイボール、(2)缶酎ハイなどだ。ただし、その大半は(1)と思われる。輸入増の原因は、日本産ウイスキー人気の余波という面が強そうだ。

図5:リキュールの対日輸入の推移
2017年輸入量 1,947トン、輸入額271万ドル、2018年輸入量 1,887 トン、輸入額270万ドル、 2019年輸入量 1,218 トン、輸入額181万ドル、 2020年輸入量 445 トン、輸入額67万ドル、2021年輸入量590 トン、輸入額84万ドル、2022年輸入量 722 トン、輸入額105万ドル、 2023年輸入量5,962トン、輸入額598万ドル。2023年は前年に比べ、輸入額は約5.7倍、輸入量は約8.3倍の飛躍的な伸びを記録。

出所:韓国貿易協会

ここまで、韓国の酒類輸入を統計で確認してみた。

2023年の動きで特徴的なことは、まず「単価の上昇」だろう。これにはMZ世代(注1)が大きく影響している。近年、韓国MZ世代の飲酒量や飲酒回数は減っている。同時に、より高品質を求める傾向が広がった。これが輸入酒類の単価上昇につながっている。このような価値観の変化は、飲酒に限らない。食事や消費財の購入など、消費活動全体に影響を及ぼしている。当地消費市場の注目点と捉えても良い。

このほか、「ミクソロジー(Mixology)の台頭」も、指摘できる。ミクソロジーとは、さまざまな酒類や飲み物を混ぜて作ること。商品としては、いわゆる「カクテル」に当たる。コロナ禍以降、ウイスキー流行とともに、自宅で手軽に作れるハイボールの人気が急上昇した。これが、代表例と言えるだろう。今後、 (1)サワーや酎ハイ(ミクソロジーの完成品として)や、(2)ジンをはじめとするスピリッツ(ミクソロジーのベースになる)などに、注目できそうだ。

コロナ禍以降のキーワードは「ホムスル」「ホンスル」

ジェトロは2024年1月22日、韓国酒類輸入協会(KWSIA)の尹鮮鏞(ユン・ソンヨン)事務局長に話を聞いた。聴取を通じて、ここまで考察してきた結果を検証してみる。


尹事務局長(ジェトロ撮影)
質問:
韓国酒類輸入協会の活動内容は。
答え:
KWSIAは、2002年に設立された社団法人だ。輸入酒類産業の持続的発展や健全な飲酒文化の定着が、その目的になる。現在のところ、会員企業は酒類を輸入する62社。ワイン、ビール、ウイスキー、清酒・中国酒などの分科会ごとに活動している。
質問:
コロナ禍も落ち着いた。業界は、2023年をどう総合評価しているのか。
答え:
輸入酒類市場は、コロナ禍の影響で2020年に輸入量が減少した。しかし、金額では、2021年以降増加。2021年と2022年、いずれも過去最高額を更新した。
2023年は前年比で、金額・量ともに微減だった。しかし、2021年~2022年にはワインブームなどがあった。(2023年の実績は)そのピークアウトによる反動と分析できる。輸入酒類市場が停滞したとは言い難い。コロナ禍では、「ホムスル」「ホンスル」(注2)が流行し始めた。その人気が継続したことも、輸入酒類を巡る2023年の特徴だ。
質問:
酒類別に、2023年の特徴と2024年の展望は。まずワインから。
答え:
「ホムスル」「ホンスル」の人気上昇で、コロナ禍期に最も恩恵を受けたのがワインだ。韓国における外出時のアルコールの代名詞である「ソジュ」(注3)は、複数人と外で飲酒する時の飲み物という印象が強い。換言すると、「ホムスル」「ホンスル」にはふさわしくない。そこで、ワイン人気が急上昇した。
そんなワインブームで、ここ2年間、新規輸入業者が約400社生まれた。現在、合計1,800社の輸入業者が競っている。そのため、輸入ワイン市場は供給過剰状態にある。輸入ワイン市場はすでにピークアウト。多くの在庫を抱えている。そのため、輸入業者は2023年、発注を減らした。当然、輸入額・量が落ち込んだ。
しかし2024年は、輸入ワイン市場がプラス成長に転換する可能性がある。在庫が徐々に減少する下半期から、輸入が増えると思われるからだ。また、欧州地域以外の産品(注4)やスパークリングの人気上昇も、2024年に向けて追い風になろう。
質問:
次に、ウイスキーや、スピリッツなど高度数アルコール飲料水については。
答え:
2023年のウイスキー市場は、2022年に続き堅調だった。低価格ウイスキーの輸入増加により、輸入額は減少した。片や、輸入量は2桁台の増加になった。
2022年~2023年のウイスキーブームを支えた要因の1つが、「ホムスル」「ホンスル」の影響だった。この点は、前述のワインブームと同様だ。加えて、日本産ウイスキーの人気、ニューワールドウイスキー(ドイツや台湾など)の登場なども挙げられる。そのブーム自体は2024年も続くと予想される。しかし、ニューワールドウイスキーなど、好奇心による需要は衰退すると予想できる。こうしてみると、急激な伸びは期待できない見込みだ。
ウイスキーの人気上昇は、アルコール度数が同程度の酒類に広がった。ラム酒、テキーラなど、スピリッツにもプラスの影響が及んだ。確かに、ボリュームそのものは大きくない。それでも、高度数スピリッツ市場が成長しているのは事実だ。2024年は、例えば高級テキーラが注目を集める可能性がある。
質問:
ビールとRTDは。
答え:
2023年のビール市場をキーワードで示すと、「青島ビールの没落」と「アサヒビールの復活」になる。青島ビールは、不適切動画事件で輸入量が激減。韓国法人の職員を解雇するところまで、追い込まれている。一方のアサヒビールは、2019年の日本産品不買運動の影響で輸入・販売が急減していた。それが2023年、日韓関係の改善や生ジョッキ缶の大ヒットで、華麗なる復活を遂げた。
ビールは2023年、輸入額・量で伸びは見せた。しかし、コロナ禍前の水準には戻っていない。2024年も急激な伸びは期待できないという見方が多い。その理由として、RTDの人気急浮上を挙げることができる。つまり、輸入ビールの需要が、RTD代替されているということだ。
ちなみにRTDとは本来、いわゆるリキュール全般を言う。具体的には、ハイボール、缶酎ハイ、サワーなどを指す。ただし、2023年時点では、輸入額でも量でも、大半を占めるのがハイボールになる。それでは、ハイボールがそこまで伸びたのはなぜか。ブームの背景にあるのが、ウイスキー輸入会社の営業努力だ。コロナ禍によってクラブなどの飲み屋でのウイスキー需要が減少。輸入会社は、在庫を抱えていた。対策として、飲み屋に代えて飲食店にハイボールサーバーなどを設置し、ウイスキーの在庫処理を積極的に展開した。こうして、ハイボールの認知度が上がったわけだ。もちろん、日本産ウイスキーの好評価に伴って、日本産ハイボールに人気が出たことも、追い風になった。
今やハイボールは、ビールの代替材として家庭にまで浸透している。ビールには、脅威の存在と言える。2024年も、人気が続くと見込まれる。ハイボールはもちろん、焼酎などをベースにするリキュールも同様だろう。もっとも、ビールを完全に代替できるほどの市場支配力があるかは、もう少し様子をみる必要がある。

日本産RTD製品。これらは、ジェトロのJapan Street事業を通じて輸入された(Tradium社提供)

2024年は、日本産焼酎・RTDに期待

質問:
日本産酒類の2023年のトレンドと2024年展望は。また、日本産酒類に対するアドバイスは。
答え:
まず、日本産ウイスキーは2023年、在庫不足で販売できないほどの人気を集めた。有名ブランドのウイスキーだけでない。あまり知られていない日本産ウイスキーまで、多数輸入された。2024年も、その人気が続くと思われる。 日本産ビールは2023年、アサヒが躍進した(前述のとおり)。一方で、サントリー、キリン、サッポロは横ばいだった。アサヒはロッテとの合弁の「ロッテアサヒ酒類」が、サントリーは「OB」が、キリンは「ハイト眞露」が、サッポロは「エムズビバレッジ(M’s Beverage)」が、それぞれ輸入している。アサヒの場合、合弁会社のため、自社製品の積極的なマーケティングができる。しかし、サントリーやキリンの場合、輸入会社がそれぞれ国産の自社ブランドビールを持つ(注5)。このことから、日本産ビールを積極的なマーケティングできない状況だ。また、競合商品のハイボールも牽制(けんせい)しなければならない。
日本酒の輸入は2023年に、金額・量とも増加した。これは、(1)高級寿司店・居酒屋での需要や、(2)越境EC(電子商取引)での高級日本酒購入などが増えたためと考えられる。
日本産焼酎も、2023年に輸入が増えた。ボリュームが小さいとは言え、増加スピードが速い。その理由として、前述のウイスキーの人気に伴う高度数酒類の人気上昇が挙げられる。2024年も、増加が期待できる。ただし、焼酎は高関税品目に当たる。いかに安価で良質な焼酎を発掘するかが課題だ。(1)単価を下げるために、低容量製品を開発したり、(2)当地消費者の好みに合わせた製品・パッケージを開発したりする努力も必要だろう。
最後に、2023年のRTD輸入は好調だった(前述)。しかも、その輸入の大半が日本からだった。RTDブームは、2024年も続くと思われる。RTDは焼酎とともに、2024年に期待できる日本産酒類と言える。

注1:
主に1980年代半ばから1990年代前半に生まれたのが、「ミレニアム(M)世代」。また、1990年代後半から2000年代後半の間に生まれた「Z世代」。これら2つを合わせた世代を指す。
注2:
「スル」は、韓国語で酒。「ホム」は英語のhome、「ホン」は韓国語で「ひとり」だ。そこから、「ホムスル」は家でお酒を飲むこと、「ホンスル」はひとりでお酒を飲むこと、を意味する。
注3:
「ソジュ」は、韓国語で焼酎。韓国では外食時に飲む代表的な酒が焼酎である。
注4:
欧州以外の地域のワインは、「新大陸ワイン」と呼ばれることもある。
注5:
サントリービールを輸入するOBは、自社ブランドの国産ビールとして「Cass」を擁する。また、キリンを輸入するハイト眞露には、同じく「Terra」がある。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
李 海昌(イ ヘチャン)
2000年から、ジェトロ・ソウル事務所勤務。本部中国北アジア課勤務(2006~2008年)を経て、現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
花輪 夏海(はなわ なつみ)
2021年、ジェトロ入構。農林水産食品部商流構築課を経て2023年8月から現職。