コンテンツ輸出が消費財輸出増に貢献(韓国)
韓国輸出入銀行に聞く

2024年1月11日

韓流ドラマやK-POPが世界的に人気を集める中、韓国の化粧品や食品など、韓国製品の輸出も伸びており、コンテンツの広がりがモノの輸出を後押ししている。日本のアニメもラーメンなどの輸出を後押ししていると言われているが、韓国政府は、こうした波及効果を可視化すべく、コンテンツの間接効果について定量分析を行い、2022年に「Kコンテンツ輸出の経済効果」と題する報告書を発表した。報告書を作成した韓国輸出入銀行海外経済研究所の金倫志(キム・ユンジ)主席研究員に話を聞いた(2023年12月18日)。

質問:
報告書作成の背景は?
答え:
2022年を例に挙げると、韓国のコンテンツの輸出額は133億798万ドルと、韓国の財・サービス輸出全体に占める割合はわずか2%程度だった。しかし、海外での韓国のイメージを高めるなど、さまざまな効果もあり、直接輸出にとどまらない間接効果があると政府では考えていた。実際、K-POPのアーティストや韓流ドラマを通じて、韓国の化粧品や食品などへの関心は高まっているという実感があった。しかし、そういった効果は直感的には理解できるものの、可視化できていなかった。そこで、定量分析調査を実施して仮説を検証することとなった。そもそも文化・コンテンツ産業は、製造業に比して生産性向上は必ずしも容易ではない一方で、公共財としての性質もあり、市場価格を超える波及的な便益をもたらすため、政府の支援が重要と認識されている。
質問:
どのような手法で調査をし、どのような結果が得られたのか?
答え:
韓国コンテンツ振興院(KOCCA)が発表するコンテンツ輸出のデータと貿易統計から得られる化粧品、加工食品、衣類、IT機器などの消費財の輸出データを重力(グラビティ)モデル(注1)を用いて回帰分析を行った。その結果、コンテンツ輸出額が1億ドル増加すると、関連する消費財輸出額が1億8,000万ドル増加するという分析結果が得られた。地域別、分野別にも効果分析をしたところ、地域別では中華圏(中国、台湾、香港)よりも非中華圏でコンテンツの消費財輸出への効果が高く、分野別ではゲームよりも音楽、映像分野の効果が高いことが分かった。調査手法の詳細については、推計結果も含め報告書(韓国輸出入銀行ウェブサイト)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで解説しているので、そちらを確認してほしい。
なお、KOCCAは、毎年発表するコンテンツ白書を通じ、コンテンツの輸出データを含めたさまざまなデータを次のとおり公表している。ちなみに、国別の輸出額も公表しており、2016年に中国が発表した「限韓令(注2)」以降、中国以外へのシフトが加速しているのが特徴といえる。韓国コンテンツの品目別輸出額と、関連する消費財の品目別輸出額は表1~2のとおり。
表1:韓国のコンテンツの品目別輸出額(単位:100万ドル)
ゲーム キャラクター 放送 音楽 出版 アニメーション 漫画 映画 その他 合計
2006年 672 189 134 17 185 67 4 25 81 1,373
2007年 781 203 151 14 213 73 4 24 482 1,945
2008年 1,094 228 171 16 260 81 4 21 473 2,349
2009年 1,241 237 185 31 251 90 4 14 567 2,619
2010年 1,606 276 229 83 358 97 8 14 569 3,240
2011年 2,378 392 222 196 283 116 17 16 681 4,302
2012年 2,639 416 234 235 245 113 17 20 692 4,612
2013年 2,715 446 309 277 292 110 21 37 715 4,923
2014年 2,974 489 336 336 247 116 26 26 724 5,274
2015年 3,215 551 320 381 223 127 29 29 786 5,661
2016年 3,277 613 411 443 187 136 32 44 865 6,008
2017年 5,923 664 362 513 221 145 35 41 911 8,814
2018年 6,411 745 478 564 249 175 41 42 910 9,615
2019年 6,658 791 539 756 215 194 46 38 1,017 10,254
2020年 8,194 716 693 680 346 135 63 54 1,045 11,924

原資料:文化体育観光部、韓国コンテンツ振興院
出所:韓国輸出入銀行海外経済研究所「Kコンテンツ輸出の経済効果」

表2:韓国のコンテンツ関連の消費財の品目別輸出額(単位:100万ドル)
化粧品 加工食品 IT機器 衣類 合計
2006年 314 1,823 23,683 3,111 28,931
2007年 340 2,003 24,822 3,139 30,304
2008年 415 2,266 28,172 2,993 33,846
2009年 467 2,376 22,191 2,511 27,545
2010年 827 2,954 21,747 2,967 28,495
2011年 865 3,662 21,874 3,343 29,744
2012年 1,032 3,780 18,066 3,459 26,337
2013年 1,274 3,758 20,117 3,537 28,686
2014年 1,927 4,091 18,806 3,646 28,470
2015年 2,963 4,196 15,255 3,444 25,858
2016年 4,233 4,476 11,776 3,525 24,010
2017年 5,006 4,781 8,569 4,874 23,230
2018年 6,323 4,784 7,173 3,515 21,795
2019年 6,593 5,051 5,621 3,284 20,549
2020年 7,643 5,883 4,696 3,090 21,312

原資料:文化体育観光部、韓国コンテンツ振興院
出所:韓国輸出入銀行海外経済研究所「Kコンテンツ輸出の経済効果」

質問:
具体的にどのような商品の輸出が増加したのか?
答え:
2012年以降、韓国の化粧品輸出は大幅に拡大している。その後拡大ペースがやや落ち着いた後、今度は加工食品も増加するようになった。トッポギやソジュ(韓国焼酎)、ラーメンなどの輸出が増えているほか、韓国で「チメク」と呼ばれる「フライドチキンとビールのセット」のようなメニューとしての展開もある。消費財の輸出増加以外の効果としては、韓国語を学ぶ人や韓国への留学生も増えており、これらも韓国コンテンツの普及に伴うものと考えている。
質問:
調査結果を受け、今後、どのような展開が必要なのか?
答え:
まず、コンテンツの海外展開について、直接輸出にとどまらない波及効果があることが検証でき、コンテンツを支援する政策的意義を確認することができた。今後は、より有機的な消費財輸出拡大のためにK-POPや韓流ドラマを活用していくことを考えていく必要があろう。実際に、既にさまざまな連携事例はある。大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が海外で実施している韓流博覧会の実施に当たっては、韓流の浸透度などが地域選定の参考とされるとともに、イベントにもK-POPスターなどが招待され、韓国製品のプロモーションを行っている。映画やドラマなどのプロダクトプレイスメント(PPL)(注3)をより戦略的に行っていくことも可能だろう。既に韓流ドラマの制作にあたっては、制作段階から海外市場が意識されている。例えば、ラブストーリーであれば、アジアでの受けがよいのでアジア市場を意識し、社会性の高いドラマやアクション系のものは、欧米での受けがよいので、欧米市場を意識し、制作している。PPLも地域性を考慮しつつ検討していくことになるだろう。

注1:
重力モデルは、国家間貿易の流れを決定する要因を分析する際に多く使われるモデルで、2国間の貿易は両国の市場規模に比例し、距離に反比例するとの仮定を置いたモデル。
注2:
2016年7月、韓国内の終末高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題で、中国が自国の安全保障を脅かされるとして配備に反対し、韓国人アーティストの中国での活動や韓国ドラマ・K-POPなどの中国での流通を規制したことをいう。
注3:
プロダクトプレイスメント(PPL)とは、映画やドラマ、ゲーム、アニメなどのコンテンツ作品に製品やサービスを露出させることで、当該製品やサービスのプロモーションを図る手法をいう。
執筆者紹介
ジェトロデジタルマーケティング部 主幹
牧野 直史(まきの なおふみ)
2003年、ジェトロ入構。海外調査部国際経済研究課、ジェトロ沖縄、海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ・ワルシャワ事務所長、企画部海外地域戦略主幹(欧州)、ジェトロ京都所長を経て、2021年12月から現職。在職中の2012年に司法試験合格。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
李 海昌(イ ヘチャン)
2000年から、ジェトロ・ソウル事務所勤務。本部中国北アジア課勤務(2006~2008年)を経て、現職。