愛知県企業、中東・北アフリカへの医療用超音波装置の販路拡大を目指す

2024年9月26日

国連によると、中東・北アフリカ地域の人口は増加傾向であり、2024年に5億8,148万人、30年後の2054年には8億1,929万人に達する見込みだ(2024年7月19日付ビジネス短信参照)。また、WHOによると、中東諸国の医療支出額は、2021年に1,815億ドルと2001年から約6倍に増加しており、市場が拡大しているといえる。一方で、医療機器を輸出するにあたっては、現地の輸入制度にも留意が必要となる。こうした中、中東ではアラブ首長国連邦(UAE)で、中東最大規模の医療機器展示会「アラブヘルス(Arab Health)」が開催され、中東やアフリカを含む世界各国から多くの医療関連企業が集まる。

同展示会に出展した本多電子外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの中島智也メディカル事業部副事業部長に、同社の中東における医療機器販売の取り組みと留意点などについて話を聞いた(2024年8月23日)。


本多電子の中島氏(ジェトロ撮影)
質問:
企業概要は。
答え:
1960年設立で、資本金1億円、従業員224人の愛知県企業(本社:豊橋市)だ。魚群探知機や、超音波洗浄機など超音波技術を使った製品の研究開発、設計、製造をしている。医療機器については、もともと1980年代に医療用診断装置をOEM供給しており、その際の知見や技術を生かして、1990年代から自社ブランドの超音波診断装置の発売を開始した。
質問:
中東で販売する医療機器の強みや特徴は。
答え:
中東などでは、メンテナンス対応が難しいこともあり、耐久性が求められる。このような中、自社商品は壊れにくいとの評価がある。また、小型ポータブル機など持ち運びが簡単な機材もある。操作が簡単であり、短時間の説明で使用者が診断を開始できることも、まだ熟練した技術者の少ない中東、アフリカ地区で強みとなっている。
人体用の機器のほか、ペットや大型動物向けなどの超音波機器のラインアップがある。
質問:
海外での販売状況は。
答え:
多い順にパキスタン、ポーランド、アメリカ、タイ、ドイツなど45カ国以上に販売している。特にパキスタンでは良い代理店が見つかり、同国内シェア1位となっている。タイなどアジア向け販売も多く、バンコクに海外拠点もある。現在、海外販売の割合は、全体の3割程度だ。
人体用の機器は、GE(ゼネラル・エレクトリック)やシーメンスなど欧米企業が競合のほか、中国製診断装置が市場シェアを拡大しているため、自社としては汎用(はんよう)機、ポータブル機の市場を狙っている。
動物用機器の市場では、先進国向けの販売が多かったが、近年では途上国でも拡大している。
質問:
現在の中東での取り組みは。
答え:
中東では、トルコ、ヨルダン、UAE、シリア、サウジアラビア、レバノンなど、北アフリカではエジプト、チュニジア、リビア、アルジェリアなどに販売している。代理店経由での販売のため、1年に1回は現地訪問、同行営業をし、渡航困難な地域はドバイの展示会で面談を行っている。
また、中東では、牛・馬・羊・ラクダなどの大型動物向け機器販売も拡大している。

ドバイでの機器の使用の様子(同社提供)
質問:
中東ビジネスの課題や注意点は。
答え:
アジアでは日本の薬事法に基づく許認可取得実績があれば現地販売許可が通りやすく、輸出できる国もあるが、サウジアラビア以外の中東や北アフリカ諸国では、輸入にあたって米国食品医薬品局(FDA)もしくは、欧州のCEマークの認証を取得していることが求められることが多い。CEマークに関しては、医療機器指令(MDD: Medical Devices Directive)から医療機器規則(MDR:Medical Device Regulation)に移行される(移行期間あり)予定で、中小企業にとって予算、提出書類の多さから、取得はかなり難しい。
また、中東に限らず、医療機器の輸出入の手続きは煩雑なため、現地でトラブルが起きないよう輸出入書類を代理店に事前に確認してもらっている。現地法人のない中小企業は、海外での販売にあたり、代理店選びが重要で、当社ではマニュアルは日本語版、英語版のみ準備し、現地語への翻訳は代理店で対応している。販売だけではなく、このような対応ができる代理店を見つけることも必要。
また、代金回収リスク回避のため、基本支払いは前払いにしてもらっている。
質問:
今後、中東に販路拡大する日本企業へのアドバイスは。
答え:
良い現地パートナーを見つけることが重要だ。新たな代理店検討の際には、会社の規模よりも、これまでの類似の機器の取り扱いをした経験があるかなどを重視している。展示会のほか、既存の海外代理店などから他の国の代理店を紹介してもらい、販路開拓できた例もある。なお、中東以外では、援助案件がきっかけで代理店を見つけた例もある。
中東においては、商談相手から大小さまざまな要望を受けることがあるが、時間とコストを無限に使えるわけではないので、代理店候補には、いくつか質問を投げかけて、相手の本気度を測るなどしている。中東などでは、こちらの要望は明確に主張するべきと考える。例えば、代理店となる際に、カタログのみではなく、実際の商品で商品PRをしてもらいたいため、販売機種のデモ機材購入を求めている。
リスクを負って投資してくれているため、基本1カ国に1代理店とし、現地での同じ商品による価格競争は起きないよう配慮している。
まずは現地を訪れてみることも大事だと考える。
質問:
販路拡大としての展示会メリットは。
答え:
展示会では、出展コストもかかるが、取引先と対面で話ができるメリットもある。特に中東では治安の悪い国もあり、日本から直接訪問することが困難であっても、UAEなどで彼らと面談することが可能だ。さらに、自社の海外担当者が少ないため、展示会にて、取引先開拓のみならず、様々な関係者とつながることができる。例えば、日本を含む世界のさまざまな医療機器メーカーと話をしたり、最新のトレンドなどを情報収集し、横のつながりを構築することもできる。
医療機器関連では、「アラブヘルス(Arab Health)(UAE・ドバイ、毎年2月ごろ)」「アフリカ・ヘルス・エックスコン(Africa Health ExCon) (エジプト・カイロ、毎年 6月ごろ)」「メディカ(MEDICA)(ドイツ・デュッセルドルフ、毎年11月ごろ)」などへ出展している。
質問:
今後の取り組みは。
答え:
大動物向け妊娠診断用超音波診断機は国内シェア1位で、北米、南米、欧州を中心に販売している。2023年に新製品「HS-103V」が発売されたため、各地域で講習会、現場実習を開催している。
中東では、2023年1月にトルコの大学などで講演したほか、農場、競馬場なども訪れ機器のPRをしている。今後、アジアや中東諸国でも動物向け機器市場が広がる可能性があるため注力していきたい。
近年は、インターネット普及で動画や写真の共有などが容易になったため、メンテナンス対応やプロモーション対応への活用も実施しており、頻繁に海外渡航での説明が難しいため、既にホームページ、YOUTUBEなどでPR動画、操作方法動画を公開している。

新製品「HS-103V」(同社提供)
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。