カンボジアのスタートアップ、ココナツ由来のフィルターで廃水処理

2024年10月1日

タイのバンコクで6月19日、三菱総合研究所とアユタヤ銀行による「Japan-ASEAN Start-up Business Matching Fair 2024」が開催された。ASEAN各国でも、ディープテックや持続可能なソリューションの分野でスタートアップによるイノベーションが促進されており、同フェアには日本、タイ、カンボジア、ベトナム、ラオス、インドネシアの6カ国から68社のスタートアップが参加した。カンボジアから参加したのは、環境にやさしいフィルターを開発し、廃水処理事業に取り組むSUDrain(スー・ドレイン)だ。カンボジアで生活廃水処理を義務付ける法令の施行が間近に迫る中、事業内容や今後の展望について、CEO(最高経営責任者)兼創設者のヴォン・タリー(Vorn Thary)氏に聞いた。


CEO兼創設者のヴォン・タリー氏がJapan-ASEAN Startup Business Matching Fairで登壇する様子
(本人提供)
質問:
事業概要と製品の特徴は。
答え:
ココナツから出る廃棄物をリサイクルし、バイオフィルムフィルターに加工することで、環境に優しい廃水処理のソリューションを提供している。商品の特性としては、農業残渣(ざんさ)物を再利用してフィルターを作っているため環境にやさしい上、他社製品と比べて安価で導入しやすい。ココナツの繊維の主成分であるセルロースとリグニンはバクテリアや真菌が生息しやすく、廃水をろ過する過程でバイオフィルム中に生育する微生物が廃水を分解して浄化する。ココナツの繊維は腐敗や劣化に強く、廃水処理の過酷な条件下でも、長期間機能を維持したまま廃水の浄化ができるのが特徴。1日当たりに浄化処理できる水量は最大48立方メートル。ろ過した廃水は、浄化前と比べて90%程度、不純物を除去できる。これは自然に戻しても問題ない水準であり、処理後の水をガーデニングなど、別の用途に活用することができる。節水にもつながり、顧客からは水道代が最大75%節約できたと好評だ。バイオフィルムフィルターの入れ替えは5年に1度でよく、経済的だ。当社の製品は、韓国、香港、オーストラリア、スイスなどの多くの国・地域で表彰されている。 最近は競合他社も出てきたが、確認できる範囲では、同様のビジネスをカンボジアで実施しているのは当社のみだ。

家庭に設置する浄化槽
(SUDrain提供)

ココナツから作られたバイオフィルムフィルター(SUDrain提供)
質問:
カンボジアの廃水処理の状況は。
答え:
現状、カンボジアではすべての廃水が処理されているわけではない。商業ビルや工場、経済特区から排出される商業廃水は、法令で処理が義務付けられており、事業主負担で廃水処理施設を備えている。一方、それ以外の家庭や市場、公園などの公共施設の廃水は、一部の下水処理施設を備える自治体(注1)を除いて、廃水処理がされないまま、川などに流れているのが現状だ。そのため、農村部では生活用水と生活廃水が混ざってしまい、衛生面と健康面での課題が残る。その意味で、当社のフィルターは家庭や小規模な施設の廃水処理に適しており、農村が直面する衛生・健康問題の解決に微力ながら貢献できる。

生活廃水処理の義務化へ

質問:
市場におけるビジネスチャンスは。
答え:
カンボジア政府は、これまで処理が義務付けられてこなかった生活廃水についても対象とする法令を施行する予定だ(注2)。施行予定の草案では、すべての生活廃水に対して、廃水処理を義務付けており、違反した場合は罰金が科される予定となっている。自社製品は、環境にやさしいだけでなく、価格競争力が高いことから、多くの方々に受け入れてもらえる可能性がある。
人が暮らすところには必ず廃水があり、当社の事業には大きなビジネスチャンスがある。対象となる顧客は、一般家庭、リゾートオーナー、商業ビル、学校、病院、公衆トイレ、政府プロジェクトなど多岐にわたるため、拡大の余地が大きいと考えている。

日本企業との協業に関心、メコン地域で事業拡大へ

質問:
日本企業をはじめ、どのような協業・連携を求めているか。
答え:
この事業は自己資金で始めた。今回のビジネスマッチングのイベントを通じて、事業に共感し、拡大に協力するなど、後押ししてくれる投資家を探している。今回のイベントでは、15社ほどと商談することができた。
日本企業との商談は、事業における水質検査やラボ分析、製品検証などの詳細な情報の確認を求められる傾向がある。その対応に時間を要することがあるが、そのやりとりの中で新しいアイディアが生まれることもある。時間と手間がかかるが、きちんと双方が納得の上で事業を進められるよう話し合うことで、長期的なパートナーとして協業できると考えている。パートナーは、日本企業に限定するつもりはないが、きちんと話し合いを持って進めていきたい。
質問:
今後の展望は。
答え:
当社は、「すべての人に健康と福祉を」「安全な水とトイレを世界中に」「住み続けられるまちづくりを」といった持続可能な開発目標(SDGs)をカンボジア政府とともに推進している。先に述べたように、政府はまもなく廃水管理に関する法令を施行する。法令に後押しされるかたちで廃水処理の整備が進み、カンボジアの衛生・健康にかかる社会課題が解決されるよう、当社も同製品を供給することで貢献していきたい。また、既存の製品を販売するだけでなく、新製品を開発するなど、事業拡大も計画している。例えば、フィルターの容量の最大化に取り組み、カンボジアだけでなく、メコン地域でも事業を広く展開していきたい。

注1:
下水処理施設を持つ自治体はプノンペン、バッタンバン、シェムリアップ、カンダ―ル、バンテイミアンチェイ、プルサット、コンポンスプー。
注2:
生活廃水処理に関する法令は2024年9月に国会で議論され、2025年以降に施行の予定。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
トー・タイ
2015年からジェトロ・プノンペン事務所勤務。会計、税務、政府関係、調査、日本とカンボジアとの連携・協業を促進するJ-Bridge事業などの職務を経験。