アニメ人気に後押しされ、アジアで広がる商品化ビジネス
日本産品の海外展開におけるアニメIP活用の可能性
2024年9月25日
世界各国で高まる日本アニメの人気を背景に、アニメのキャラクターなどを使ったライセンス製品の海外市場拡大への期待も高まる。他方、日本のアニメは権利関係の複雑さから、特に海外でのIP(知的財産権)活用には課題も多い。アジア地域でアニメIPライセンスビジネスを手がける大手IPエージェントであるミューズ(MUSE、木綿花国際股份有限公司、本拠地台湾)のディマス・ノヴァロビアント氏にインタビューし、アジア諸国での日本アニメのライセンス市場の動向、および海外でIPを使用する際の手続き方法について聞いた(取材日:2024年4月27日)。
キャラクターライセンスビジネスの市場は拡大
知的財産に関する国際団体ライセンシングインターナショナルによると、2023年の世界におけるライセンス小売市場規模は、2022年の3,408億ドルから3,565億ドル(4.6%増)に成長した。ライセンスのプロパティの中でも、エンターテインメント・キャラクター分野が1,476億ドル(前年比6.9%増)で全体の41.4%を占める。このように、アニメーションや映画などのエンタメコンテンツのIPを第三者に使用許諾し利益を生み出す、キャラクターライセンスビジネスの市場規模が全世界で拡大している。
キャラクターライセンスビジネスの市場規模拡大は、動画配信サービスの普及により、海外で人気が高まる日本アニメのIPを活用した海外ビジネスの可能性を秘める。しかし、複数の企業が参加する製作委員会方式で制作されることが多い日本のアニメは権利関係が複雑で、特に海外に向けた商品化ビジネスの参入障壁は高いとされている。一般的に、アニメIPを保有する権利元との契約は通常、国・地域で限定されるため、使用したい国・地域別にIP使用権の許諾を得る必要がある。人気の作品には許諾依頼が集中することから、権利元が各国・地域においてIPエージェントを任命し、IPの管理を任せていることも多い。
IPエージェントに聞く、日本のアニメの可能性
では、日本のアニメIPを活用した海外ビジネスに取り組む際、どのような手順で、どのようなことに留意すべきなのか。アジア地域を中心に日本のアニメIPを扱う大手IPエージェントのMUSE(ミューズ)に聞いた。
- 質問:
- MUSEのビジネス内容について。
- 答え:
- MUSEはアジアの幅広い地域におけるマスターライセンシーとして、主に日本のライセンサーからのライセンス取得、取得したライセンスを第三者へライセンスするサブライセンス許諾(再許諾)を行っている。
- 質問:
- MUSEで取り扱う中でサブライセンス許諾のニーズが高いアニメIPは。
- 答え:
- 中国、香港、台湾、東南アジアで人気のあるアニメIPライセンスは「進撃の巨人」「葬送のフリーレン」「鬼滅の刃」「SPY×FAMILY(スパイファミリー)」。これらの作品の共通点としては、幅広い年代が楽しめる、漫画原作でストーリーラインがしっかりしている、日本でも人気が高いといった点が挙げられる。
- 質問:
- MUSEが管理するIPをライセンスアウト(注1)した実績は。
- 答え:
- 毎年400件ほどの商品のライセンスアウトに成功している。ライセンス商品は、アパレル関連(Tシャツなど)が多い。また、高級ラグジュアリーブランドの商品とアニメキャラクターとを掛け合わせた商品開発やプロモーションを手掛けた実績も多い。
- 質問:
- アニメIPを使用する場合の手続きの流れ、期間は。
- 答え:
- まず、メーカーから我々が扱っているIPを使用したいとの依頼を受けると、メーカーの事業概要を入手した上で、IPの使用用途を確認する。用途としては、(1)アニメキャラクターが印刷されたライセンス商品の開発、(2)アニメキャラクターを起用したプロモーションキャンペーンの実施、のいずれかの場合が多い。
- 使用したいIPが決まっていない場合は、メーカーの使用目的に合ったIPをこちらから提案することも可能だ。使用するIPが決まり、ライセンス商品を製作する場合、販売地域、契約期間、商品カテゴリー、希望小売価格、製造数量、ライセンス料(ロイヤルティー料率およびロイヤルティーの最低保証料)などの条件を調整し、提案書にまとめてMUSEからライセンサーに確認する。ライセンサーでの確認が完了し、契約締結となる。
- メーカーからロイヤルティーの最低保証料(ミニマムギャランティ)が支払われた後、画像データやデザインのガイドラインを提供し、商品開発を行っていくこととなる。商品開発にあたり、デザインの監修は版権元が行うため、IPエージェントがメーカーに代わってライセンサーとやり取りを行う。IPの条件やメーカーの商品製作スピードによるが、契約締結まで2カ月から3カ月、その後の商品開発に3カ月から5カ月かかり、使用依頼から販売開始まで平均6カ月から8カ月を要する。
- 質問:
- IPを使用する上での留意点は。
- 答え:
- IPによって、使用上の要件が異なる。要件が厳しいIPでは、作品のイメージに合っていない商品や企業、あるいはこれまでアニメIPを活用したことがない企業との協業を断るケースがある。また、他社との契約の関係で一部の商品カテゴリーにはライセンスを提供できない場合もある。他方、人気作品の中にも、そのような制限が少ない柔軟なアニメIPもあるため、IPの選択には留意する必要がある。
- 質問:
- 今後、アニメIPを活用した製品の海外輸出に関心のある日本企業へメッセージを。
- 答え:
- 企業規模に関係なく、基本的にはどんな提案も歓迎している。近年、日本アニメのライセンス商品に対する需要はアジア市場で急速に伸びているが、正規のアニメライセンス商品は多くはなく、特に東南アジア地域はブルーオーシャンであると思う。日本のアニメコンテンツであるため、日本の商品と掛け合わせた方が、需要が高いと考えており、海外市場での日本のアニメライセンスの活用にぜひ挑戦してほしい。
- 質問:
- アニメIPを活用して成功している商品の具体的な事例は。
- 答え:
- アニメIPと活用をするメリットは多くある。具体的には、売り上げへの貢献だけでなく、長年の間に築き上げられてきたアニメの強力なファンベースを生かし、企業ブランドのイメージ強化や市場での露出拡大に貢献し得る。
- MUSEの多くの地場の連携先は実はグローバルな大企業ではなく、ほとんどが中堅・中小企業となっている。企業規模にかかわらず、IPライセンスの期間後も効果的な反響が得られている。例えば、ジャカルタのローカルのカフェでは、2023年に「スパイファミリー」とコラボレーションし、1週間で月々の平均売り上げの約4倍の売り上げを達成することができた。その上、このコラボレーションのおかげで、同カフェはより多くの人の目に留まるようになり、オンライン上で非常に多くのサイト流入(注2)を得ることができた。2020年から2024年の4年間で、同様の事例が異なる産業のさまざまなブランドでみられ、クライアントの多くがリピーターとして毎年異なるIPの活用に取り組んでいる。MUSEのアニメIPライセンシング事例に関しては、ミューズウェブサイトを参照。
アニメIPを活用し、自社商品に新たなイメージを加えることは、現地のアニメファンを新規顧客に取り込み、輸出拡大につながる効果的な手段の1つになると考えられる。MUSEのように、IPエージェントが現地マーケットの情報を踏まえた適切なIPの提案を行っている場合もある。自社商品の海外展開を進めるに当たり、日本のアニメIPの活用を検討する場合には、商品の展開を考えている地域でアニメIPを管理しているIPホルダーとつながることが重要だろう。
- 注1:
- ライセンスアウトとは、第三者とライセンス契約(使用許諾契約)を締結すること。
- 注2:
- サイト流入とは、該当サイトへの検索エンジンなどからの訪問数のこと。
- 執筆者紹介
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ジェトロデジタルマーケティング部デジタルマーケティング課
柴田 桃佳(しばた ももか) - 2021年、ジェトロ入構。デジタルマーケティング課にて、アニメーション、マンガ、IPなどをはじめとしたコンテンツ産業と、地域の文化や匠の技術を生かした工芸品、伝統産品を含むライフスタイル産業の海外展開に従事。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・大連事務所
阿部 里苑(あべ りおん) - 2021年、ジェトロ入構。デジタルマーケティング部プラットフォームビジネス課勤務を経て、2024年5月から現職。