持続可能な調達戦略でアフリカ産天然原料を化粧品に活用

2024年4月11日

近年、化粧品業界では、オーガニックやクリーン・ビューティー(注1)が世界的なトレンドだ。日本でもアルガンオイル(注2)、シアバター(注3)、バオバブオイル(注4)などに代表されるアフリカ産天然原料を使用した化粧品が増えており、ビジネスとして注目され始めている。一方で、原料を生産している地域は農村部が多く、調達企業は品質管理、安定供給に苦慮している。大阪に拠点を置く化粧品メーカーであるヴァーチェは、まだ日本では知名度が低いマルラオイル(注5)を主にモザンビークから調達し、同社の主力製品として販売している。課題への対策、トレンドを踏まえた製品ブランド力の向上について、ヴァーチェの藤原友香代表にインタビューした。(インタビュー日:2024年2月2日)


藤原氏(右)と、マルラ採取に携わる女性およびその家族(ヴァーチェ提供)
質問:
事業を始めた経緯とビジネスモデルは。
答え:
当社は天然素材からの抽出物を原材料としたエイジングケア化粧品を製造・販売している。創業前に在籍していた化粧品会社で、マルラオイルを含む複数の新製品テストを実施し、最も反応が良かったマルラオイルを原料とした化粧品製造を2014年から開始した。その後分社化し、2017年からヴァーチェとして製造・販売を続けている。主力製品である純度100%のマルラオイルは10年間で累計100万本の販売実績があり、販売形態は自社EC(電子商取引)サイトを通じた通信販売、いわゆるD to C(注6)がメインだ。
質問:
原料としてモザンビーク産マルラを採用した理由は。
答え:
マルラはアフリカ大陸に広く分布しており、以前は南アフリカ共和国やナミビア産のマルラを原料として調達していた。しかし、サプライヤーとの価格交渉や品質の不安定さなどで課題があり、新規の調達先を探していたところ、欧州のパートナー企業からモザンビーク産マルラを勧められた。調達検討にあたり、成分などを分析した結果、抗酸化作用などで他国産より品質的に優れていたため、2019年からモザンビーク産マルラを主力原料として調達している。

収穫後のマルラ果実(ヴァーチェ提供)
質問:
調達から製造、製品化までのサプライチェーンは。
答え:
現地パートナーがモザンビークの農村部でマルラ果実を買い取り、種子から一次抽出したオイルを第三国のパートナーが輸入し、精製したものを日本で最終製品化している。モザンビークの現地パートナーは買い取り先の農村部において、マルラ果実採取に携わる女性の生計支援に積極的に取り組んでいる。当社は原料調達にあたり、生産地の環境保護や経済・社会的貢献も重要と考えており、そのポリシーが一致している点もポイントとなった。私も買い取り先の農村を実際に訪問し、女性たちにも話を聞いた。彼女らはこれまで、地元の森林からマルラを採取し、その果実を伝統的なジュースやお酒としてのみ使用していたが、近年種子部分が化粧品原料としての価値があることが広く知られるようになった。新しいビジネスは、彼女らの生計強化につながっている。当社のビジネスを考える上で、原料の品質的優位性が調達元決定において最優先の要因ではあったが、企業の調達活動によって新たな社会的価値が生み出され、地元への裨益(ひえき)のみならず、商品価値や企業価値の向上につながる可能性を感じた。
質問:
天然原料の調達におけるリスクと対策は。
答え:
調達元の農村地域でマルラが輸出作物として認知されるようになったのは比較的最近のことだ。人為的に管理された環境で栽培されておらず、元々地域の森林から採取されたもののみ取り扱っているため、100%天然の原料だ。そのため、気候変動や天災による不作リスクと、原料の数量や品質管理など調達元での人的要因によってもたらされるリスクがある。化粧品メーカーにとって原料の安定調達は質・量ともにビジネスの根幹と言える。常に鮮度の高い原料を使い、品質を安定させるため、発注方法を工夫している。当社は通信販売による顧客への直接販売が主体であるため、購買行動の先読みができる。このビジネス上の特性を生かし、前年に翌年分の発注数量を決め、出荷回数を年間4、5回に分けるなど、調達元と調整している。また、現地で実際に調達元に会い、事業の持続性や農村部住民の生活改善への熱意を直接確認し、突発的な方針転換が起こるリスクなどを査定するとともに、信頼関係を構築することも重要だと感じている。今後はモザンビーク内で複数の調達元を開拓し、不作や調達元に何らかの問題が生じた際にも対応できる体制を構築することを目指している。
質問:
調達ポリシーやアフリカ産原料の使用に対する市場の反応は。
答え:
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)や持続可能性への社会的関心が高まっている。例えば、購入者からの製品レビューを見ると、購入動機として、製品そのものの評価に加え、自身の購買行動によってアフリカの雇用創出や収入拡大に貢献したいとの言及が増えていると感じる。消費者は、天然素材やエイジングケアへの効能だけでなく、原材料調達にまつわるストーリーや、社会や環境に優しい取り組みにも関心が高い。
質問:
アフリカ産天然原料の可能性と今後の抱負は。
答え:
生産地を訪問した時に、地元住民は、マルラと同じウルシ科の植物で、モザンビークで栽培が盛んなカシューナッツと比べ、マルラの方が気候への耐性が強いと話していた。季節が乾季・雨季にはっきりと分かれるなど、特有の気候条件下で育つ植物は生命力が強く、その分効能も優れていると考えられる。実際、調達検討の際に、他国で採取されたマルラと成分分析比較で優位性が見られた。
マルラと同様に、アフリカ各地にはまだ眠っている天然原料が存在していてもおかしくはない。今後は質・量を伴った調達の持続性と、産地との一層の関係強化を目指し、将来的には現地法人を設立することを検討している。

注1:
健康および環境に影響のある成分を使用せず、環境や地域社会そして動物への配慮を施した美容アイテムのことを指す。
注2:
アルガンノキの種子から得られる植物油。オレイン酸の割合が多く、ビタミンEの含有率が多い。抗酸化作用や抗炎症作用があるとされている。
注3:
シアの木から採れる植物性油脂、保温力が高い。
注4:
バオバブの木の種子から採取される天然の植物オイル。平均樹齢300~500年の生命力の強い木と知られる。
注5:
ウルシ科に属し、雌雄異株。アフリカでは伝統的に食糧として使用。
注6:
企業が自ら企画・製造した商品やサービスを消費者に直接販売する仕組み。「Direct to Customer」の略称。
執筆者紹介
ジェトロ・マプト事務所
松永 篤(まつなが あつし)
2015年からモザンビークで農業、BOPビジネスなどの事業に携わる。2019年からジェトロ・マプト事務所業務に従事。