日系企業の平均昇給率、2023年は10%台に(インド)

2024年3月22日

在インド日系企業の2023年昇給率が、10%台になった。インド国内で地場系や外資系を問わず各企業が積極的に事業展開を図る中、労働市場も活況を呈している。中途採用(転職)では、求職者に前職給の2~3割増の給与を提示する企業も珍しくない。好調なインド経済を受け、2024年の昇給率も引き続き高い水準で推移することが見込まれる。

平均昇給率は2桁、中途採用では2~3割増の給与提示も

ジェトロはインド日本商工会(JCCII)とともに、インド各地域の日本商工会や日本人会の協力の下、在インド日系企業を対象に「2023年度賃金実態調査(381KB)」を実施した(調査対象1,109社:2023年10月1日時点、調査実施期間:2023年11月6~17日、有効回答率28.1%)。

調査の結果、日系企業の昇給率は、2023年(暦年)の実績でスタッフが10.4%(前年実績9.6%)、ワーカーが10.3%(同9.4%)と、2023年の消費者物価上昇率5.5%(IMF推計値)を大幅に上回る2桁の伸びになった。2024年の昇給率は、スタッフが10.0%、ワーカーが9.8%と、引き続き高い水準になる見込みだ。業種別の昇給率は表1のとおり。

表1:在インド日系企業の昇給率(現地法人・支店)(業種別)(-は値なし)
業種 スタッフ ワーカー
2023年
実績
2024年
見込み
2023年
実績
2024年
見込み
製造小計 10.6% 9.8% 10.3% 9.8%
階層レベル2の項目自動車・同部品 9.8% 9.7% 9.8% 9.7%
階層レベル2の項目電気・電子・同部品 7.3% 7.3% 8.9% 9.0%
階層レベル2の項目機械・同部品 15.6% 10.3% 12.9% 11.0%
階層レベル2の項目その他製品 10.5% 10.2% 10.6% 9.7%
販売小計 10.9% 10.6%
階層レベル2の項目自動車・同部品 8.9% 9.6%
階層レベル2の項目電気・電子・同部品 10.2% 11.0%
階層レベル2の項目機械・同部品 11.7% 10.4%
階層レベル2の項目その他製品 11.6% 11.0%
貿易 9.8% 9.5%
建設・エンジニアリング 9.9% 9.4%
運輸・流通 10.7% 11.0%
情報通信技術サービス 8.2% 10.2%
金融サービス 11.6% 12.3%
その他サービス 10.0% 9.8%
その他 8.5% 8.7%
駐在員事務所 10.2% 9.6%
全体 10.4% 10.0% 10.3% 9.8%

出所:ジェトロ・インド日本商工会(JCCII)「2023年度賃金実態調査」

賃金水準を決定する上での参考指標(複数回答)としては、「インフレ率」(81.4%)、「各種調査結果」(77.2%)、「他社の動向」(61.5%)が上位にあがった。

また、中途で人材を採用する場合、前職の基本給からの昇給率に関しては、「20%超~30%以下」が37.1%、「10%超~20%以下」が36.2%で、転職市場では大幅な昇給を提示するケースが多いことがうかがえる。

主な職種別賃金水準(平均月給、諸手当込み)は表2のとおりだ。なお、初任給(月額)の平均は、上級中等学校卒業(日本の高校卒業程度)レベルで1万8,947ルピー(約3万4,105円、1ルピー=約1.8円)、大学卒業レベルで3万2,718ルピーだった。

表2:在インド日系企業の職種別賃金水準 (ルピー、平均月給・諸手当込み)

全業種共通
職種 2023年実績
部長級 444,196
課長級 186,406
係長級 105,268
一般事務職 69,990
サービスエンジニア 61,631
製造業
職種 2023年実績
工場長級 307,742
ライン管理者 91,333
エンジニア(上級職) 65,995
エンジニア(一般職) 45,157
ラインワーカー 32,215

出所:表1と同じ

賞与に関しては、2023年の支給回数実績は「1回」とした回答が72.1%を占め、年間支給月数の平均値は1.4カ月だった。2024年の支給回数見込みも「1回」とする回答が72.6%に上り、年間支給月数見込みの平均値は1.5カ月になった。

従業員のモチベーションを維持向上するためには

日系企業が用意している福利厚生(複数回答可)として、対スタッフでは「有給休暇」(89.9%)が最も多かったほか、「医療保険」(84.0%)、「携帯電話支給」(58.6%)、「医療費支給・補助」(48.2%)、「通勤費支給・補助」(45.3%)などが挙げられた。対ワーカーでは、対スタッフと同様に「有給休暇」(86.8%)と「医療保険」(87.9%)が上位となったほか、「通勤車・バス手配」(80.2%)、「医療費支給・補助」(59.3%)、「食事手当」(57.1%)などが挙がった。

図:在インド日系企業の福利厚生制度(スタッフ、ワーカー別)
対スタッフでは有給休暇が最も割合が多く、医療保険、携帯電話支給、医療費支給・補助、通勤費支給・補助などが続いている。一方、対ワーカーも有給休暇が最も割合が高く、医療保険、通勤車・バス手配、医療費支給・補助、食事手当などが続く。

注:スタッフ、ワーカーのそれぞれ上位5項目を抜粋(残る2項目はもう一方の上位とは限らない)
出所:表1と同じ

従業員のモチベーション維持向上のために重視している項目(複数回答)としては、対スタッフではほぼ全ての企業が「昇給」(97.4%)を挙げた。このほか、「昇格」(85.8%)、「社内イベントの実施」(60.0%)、「有給休暇」(59.4%)、「医療保険」(58.4%)が上位に挙がった。対ワーカーでも、「昇給」(97.9%)がトップとなり、次いで「昇格」(75.5%)、「表彰制度」(67.0%)、「有給休暇」(66.0%)になった。

経営上の大きな問題点として、「賃金」(52.9%)が過半になったほか、多くの企業が「採用」(42.7%)を挙げた。一方、「解雇」(14.9%)は、限定的だった(以上、複数回答)。

平均離職率は、スタッフ(セールス担当者、秘書、受付、事務員:10.0%)やエンジニア(8.0%)、管理職(課長・係長級:7.5%)が相対的に高い。一方、ワーカー(5.9%)やトップマネジメント(部長級以上:3.3%)は相対的に低かった。直近で離職率の高さが従来以上に深刻な課題となっているとした回答は、28.8%にとどまった。

他方、離職率を引き下げるために「2022年以降に新たな取り組みを開始した・する予定」とした回答は、51.5%と過半数を占めた。具体的な取り組みとしては、「人事評価制度の見直し」(44.6%)、「福利厚生の柔軟化」(43.5%)、「給与体系の見直し」(41.5%)が上位だった(複数回答)。ジェトロの2023年度海外進出日系企業実態調査では、在インド日系企業の75.6%が今後1~2年間のうちに事業拡大を考えていると答えた。そのために必要になるのが人材だ。その定着を図る動きが活発化する背景には、企業戦略もありそうだ(2024年3月21日付地域・分析レポート参照)。

このような状況下、転職によって離職した社員が復職を希望した場合の基本方針に関する設問(単一回答)では、「基本方針は決めていない」(46.3%)の回答が約半数を占めた。一方、基本方針を定めている場合の内容は、「復職を認める(給与水準は転職先での水準を考慮)」(19.2%)、「復職を認める(給与水準は転職先での水準を考慮せず)」(12.5%)、「復職を認めない」(15.0%)と回答が分かれたほか、「その他」(7.0%)とした企業もあった。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
広木 拓(ひろき たく)
2006年、ジェトロ入構。海外調査部、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ブリュッセル事務所、企画部、ジェトロ名古屋を経て、2021年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
サンディープ・シン
2015年6月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。2023年5月から調査担当。