コロナ禍後の飲食業のタイ進出事情
人気ラーメン店「TONCHIN」に聞く(1)

2024年1月16日

新型コロナ禍でも、またそれ以降も、タイにおける日本食レストランの数は増加を続けている。ジェトロが実施している「タイ国日本食レストラン調査」によると、2022年の日本食レストランの店舗数は5,325店舗と、前年から22%増加し、5,000店舗を突破した。引き続き、タイへの進出に関心を寄せる日本の飲食業者は多い。新型コロナ禍に新たにオープンした飲食店の中で、タイの消費者から大きな支持を得ているラーメン店の1つが「TONCHIN」だ。タイにおける飲食店の進出事情や、現地市場で成功を収めている秘訣(ひけつ)について、フーデックスホールディングスの重光勇治常務取締役、築井豊タイランドFC担当マネージャーに聞いた(取材日:2023年11月30日)。


左から、重光常務、築井マネージャー(サイアムパラゴン店でジェトロ撮影)

タイへの出店を決めた経緯

質問:
「屯ちんラーメン」の海外展開について。
答え:
屯ちんは1992年に創業したラーメン店だ。創業後間もなく、池袋本店が爆発的にヒットし、毎日1,000人を超える客が訪れる店舗となった。麺、スープ、チャーシューすべてを自家製にこだわり、日本では着実に店舗を増やしていった。しかし、店舗拡大を急がず、あくまで1店舗ずつ経営基盤を固めていく方針であった。屯ちんのラーメンは「東京豚骨ラーメン」という、醤油(しょうゆ)ラーメンと豚骨ラーメンをミックスして名付けたオリジナルのラーメンだが、海外のお客様の反応が良かったため、早い段階から店舗を増やすなら海外と考えるようになった。海外事業を本格化させたのは2011年からで、上海、台湾に店舗をオープンした。ラーメン市場が育っている国で、かつ外資の飲食業であっても100%出資できるエリアを選定した。

屯ちんラーメン(フーデックスホールディングス提供)
質問:
初めての海外進出で、売れるかどうかの不安はなかったか。
答え:
上海、台湾では、屯ちんラーメンは出店早々に支持を獲得し、順調に売り上げを拡大することができた。海外展開前に、訪日客が日本の店舗に来店しており、海外のお客様の反応を見ていた。スープも麺も海外受けするという感触があり、特に中華系のお客様の好みに合うと感じていた。台湾1号店は毎月2万人が訪れる繁盛店となった。その後の海外展開にあたって、商品について自信を持つことができた。あとは売り方の問題であり、価格、サイドメニューなどは検討が必要だが、ラーメン自体は売れるという確信があった。
質問:
その後、米国、タイへの展開を決めた理由は。
答え:
上海と台湾の後に、どう店舗展開を拡大しようか検討した。直営店方式が可能で、市場が大きいエリアとして、ニューヨークと香港の2案が浮上した。最終的にニューヨーク1号店が2017年に開業した。同店までは、直営店として進出した。ここまでは海外でも直営店方式しか採らず、地固めしながら慎重に進めてきた。しかし、この方法では店舗数の更なる拡大が困難だった。そこで、海外店舗拡大に向けた挑戦として、フランチャイズ(FC)方式を検討。現地市場に強いパートナーと組んで展開する方法を考えた。そして、当社として初めてFC展開するにあたって、最初に選んだ市場がバンコクだった。

タイではFC契約方式で展開

質問:
FC方式とは。
答え:
現地パートナーに対して「屯ちん」というパッケージをライセンス販売し、技術指導料・ロイヤルティーとして、売り上げの一定率を利益配分してもらう方式のことだ。本来、FC契約の場合は駐在員を置く必要はないが、当社としてはFC店も直営店と同じように本物の味やサービスにこだわるという意識もあり、築井マネージャーが駐在して品質管理を行っている。
質問:
パートナーは、どのように探したのか。
答え:
パートナーに求めることは、現地運営を任せられるオペレーション能力を持っているかどうかだ。そして、有力な店舗立地先を選定・確保できることだ。その2点が優先事項だった。パートナーはタイで人気の寿司(すし)店、しゃぶしゃぶ店などを手掛けている企業だ。オペレーション能力の実績は高い。また、集客しやすい良い立地に出店している。それなりの資金と実績がなければ、良い立地条件の店舗候補として声はかからない。先方は主要な商業施設にテナントとして入居している実績があった。また、そのパートナー企業の代表が、日本の屯ちんラーメンを知っていて好きだったことも手伝い、仲介者を通じて面会する機会があった。当社としても、対等に話せる会社だと感じ、先の2要件を満たしていたこともあって、2018年にFC契約を締結した。先方と自社で強みとする部分がはっきり分かれているのが良かった。
質問:
タイ1号店を、バンコク中心部の商業施設「マーキュリーヴィレ」にした理由は。
答え:
もし1号店の立地選定を誤り、売り上げが伸びない場合、2店舗目の話はなくなってしまうことが予想されたため、細心の注意を払って立地を判断・決定した。周辺の人通りの多さなど、事前に数字を調査した。また、現地パートナーを含めて色々な人から意見を聞いた。そうした中で、「マーキュリーヴィレ」であれば、屯ちんラーメンが支持されそうで、競合店と比較して負けないだろう、という感触を得て、最終決定した。
質問:
出店時に新型コロナが流行した影響は。
答え:
FC契約の締結後、パートナーには日本の店舗に何度も来てもらった。契約から出店までに約2年を要した。タイ1号店は、新型コロナが流行していた2020年9月にオープンした。入国制限などが厳しくなる状況下、新型コロナが流行する前から、弊社の築井マネージャーが準備のために既にタイに入国していたことが幸いした。また、海外事業の品質管理責任者が偶然、台湾に駐在しており、渡航制限下においても台湾からはタイに入国できたことも準備を後押しした。日本人2人で店舗を立ち上げ、新規採用したキッチンスタッフ7人、ホールスタッフ7人の体制でスタートした。日本からもリモートで準備を支援し、内装などもリモートで相談しながら進めた。さらに、タイからの出国も難しくなり、タイ人が日本に渡航したくてもできない時期に、新たにオープンした日系のラーメン店に注目・話題が集まりやすかったことは集客面でプラスに働いた。
質問:
2号店を商業施設「サイアムパラゴン」にオープンした理由は。
答え:
新型コロナ禍の中でタイ1号店をオープンし、話題の人気店となった。翌2021年は、新型コロナに伴う行動制限がタイで最も厳しかった時期だが、同年にサイアムパラゴン店がオープンした。タイでの事業展開では、バンコクを代表する商業施設「サイアムパラゴン」にはぜひ出店したいと思っていた。当初は、商業施設側から「もうラーメンの時代ではない」(出店不可能)といわれ、相手にされなかったが、1号店が大きな話題となったことで、サイアムパラゴン店に出店する話が持ち上がってきた。
質問:
出店先はどう探すのか。また、3店舗目以降の出店状況は。
答え:
基本的にパートナーが物件開発を担当している。当社として出店を希望する物件リストはパートナーに渡しており、「サイアムパラゴン」はその最上位に記載されていた。パートナーが探してきた物件を当社が承認する形を採っている。パートナーの出店拡大意欲は高く、非常に勢いがある。その後、バンコクのハイセンスなエリアであるアーリー地区、北郊のノンタブリー県にも出店したほか、5店舗目は日本人の多いプロンポン駅付近に新たに開業した大型ショッピングモール「エムスフィア」に出店した。これもパートナーが交渉し、見つけてきた物件である。

人気ラーメン店「TONCHIN」に聞く

  1. コロナ禍後の飲食業のタイ進出事情
  2. タイ店舗での人材育成と商品開発
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
松浦 英佑(まつうら えいすけ)
2023年6月から現職。スタートアップ担当。