「香港知財取引調査(ブランド・コンテンツ編)」を読み解く

2024年8月16日

ジェトロ香港事務所は今回、「香港知財取引調査(ブランド・コンテンツ編)」(以下、本マニュアル)を作成した。香港のブランドやコンテンツライセンスビジネスの強み、契約交渉や締結の流れ、契約締結後の留意点などの情報をまとめた。日本企業が香港の企業・代理店などと商品販売で連携したり、フランチャイズ契約、キャラクターライセンス契約などを締結して香港市場に参入したりする際に、参考になるだろう(注1)。

本マニュアルは、第1章(契約前段階-ブランドにとって魅力的なビジネス環境としての香港)、第2章(契約の交渉と締結)、第3章(契約後段階)の3章と付録で構成している。第1章では、ブランドライセンスに関する香港の市場や法的環境をはじめ、日本企業のパートナー候補となる事例を紹介。知的財産権(IPR)取引プラットフォーム(ブランドライセンスに関する香港政府主催フェア・見本市など)、香港市場参入前に検討すべきIPR関連のポイントについても解説した。第2章では、ライセンス契約の交渉から締結までのプロセスや、契約締結前のデューディリジェンス(注2)、交渉の要点について説明。第3章で、契約締結後の品質管理と紛争解決方法について紹介している。最後に、付録としてライセンス契約書のサンプルを掲載した。

本稿では、主に第2章、第3章について触れる(第1章、付録に関しては割愛)。詳細や「第1章」「付録」については、ジェトロ「香港での知財に関する情報」から、マニュアル〔英語原本PDFファイル(974KB)日本語訳PDFファイル(1.45MB)〕を参照されたい。

香港でのIPR取引に大きなポテンシャル

まず、本マニュアルを作成するに至った背景について簡単に説明しておく。

中国国務院が2021年10月に公表した「『第14次5カ年(2021~2025年)規画』国家知的財産権保護および運用規画」では、香港の知的財産取引センターとしての発展を支持する方針を示した。それを受けて、香港政府も施政報告で、知的財産取引センターとしての発展を推進していくことを表明している。

香港は国際性に富む高度な人材と消費力の高い市場を擁し、日本のブランドやコンテンツに関心が高い。日本企業にとって、IPR取引に大きなポテンシャルを秘める市場と言えるだろう。しかしこれまで、(1)パートナー・連携先の探し方、(2)契約の際の交渉方法、(3)各種類契約の留意点、(4)契約締結後の品質コントロール、(5)契約交渉前から締結後に至る流れなどについて、中小企業やビギナー向けに日本語でまとめた情報は十分ではなかった。

そこで、ジェトロ香港事務所が日本の特許庁から委託を受け、本マニュアルを作成した。その狙いは、日本企業が香港でブランドやコンテンツのライセンス契約をする際に参考にできるようにするところにある。

契約の交渉と締結(第2章)

(1)交渉から締結まで

一般的なプロセスは次のとおり。

図:交渉から締結までの一般的なプロセス
交渉から締結までの一般的なプロセスは、「機会の特定と評価」「タームシートの交渉」「ライセンス契約の起草」「契約の締結」「ライセンス管理」の5段階となる。第1段階の「機会の特定と評価」では、市場調査を実施して潜在的なビジネスチャンスとリターンを評価する、また、ライセンシー候補、ライセンス契約の種類の特定をする。第2段階の「タームシートの交渉」では、詳細な議論の前に、秘密保持契約を締結する、契約の大まかな条件を合意する、デューデリジェンスの実施する。「ライセンス契約の起草と交渉」では、交渉前に、交渉不可能な条項と交渉可能な条項を特定する。重要な条件(例えば、独占権、フランチャイズ権、ライセンス権、ロイヤリティ、IPRの所有権や保護等)について交渉 する。「契約の締結」では、ライセンス契約書を見直し、当事者間で合意された条件通りか、曖昧な点はないか等を確認する。問題がなければ、署名し、契約締結となる。「ライセンス管理」は契約後、契約によるロイヤリティを受けとる。また、品質基準適合性のモニタリングやロイヤリティ監査を定期的に実施する。必要に応じて、立ち入り検査を実施し、契約上限が順守されていることを確認する。

注1:ライセンスに基づいて製造された製品がライセンサーの要求に合致した品質を備えているか。
注2:ブランド所有者が、ライセンスに基づいて支払われるべき適切な金額をライセンサーが受け取っているかどうかを確認・判断するための監査。
出所:本マニュアル(pp.27~29)

(2)契約締結前のデューディリジェンス

デューディリジェンスの対象になる分野には、例えば、次のようなものがある。

  1. 財務デューディリジェンス:相手方の経営状態などに関する調査。
  2. コマーシャルデューディリジェンス:相手方のビジネス上の評判や、ビジネス市場(競合状況など)に関する調査。
  3. オペレーショナルデューディリジェンス:相手方が事業運営する上での背景に関する調査。
  4. 法律関連:相手方の権利や義務に影響を及ぼす可能性のある法的リスク(例えば、既存または差し迫った請求や訴訟など)、およびIPRに関する調査。

(3)交渉の要点

ライセンス契約では、表のとおり条件が設定されることが多い。契約交渉や最終決定の際、参考にすると良い。

表:ライセンス契約で一般的に見られる主な条件と交渉の要点(—は項目なし)

(1)基本的規定
条項 コメント 当事者間でよく起きる争い
IPRの説明とライセンスの範囲 ライセンス範囲は、(1)使用範囲や権原に関する保証範囲(非侵害を含む)、(2)ライセンス契約締結後の執行方法、ひいては(3)契約の効力にまで影響を与える可能性がある。そのため、詳細かつ正確に記述すべき。 ライセンサー(IPRの権利者)側が詳細な記述を望む一方、ライセンシー(IPRの利用者)は大まかな記述を望むことが多い。
独占性と譲渡可能性 ライセンスには、独占的なものと非独占的なものがある。またその権利は、譲渡可能にも譲渡不可能にもできる。当事者は、商標などが適用される市場での競争などに照らし、各種の影響を慎重に検討すべき。
なお、非独占的ライセンスでは、複数のライセンシーにライセンスを付与できる。そのため、ライセンサーにしてみると、(1)ライセンス収入の増加につながり、(2)(異なるライセンシー間の競争は商品の競争を通じ)商品の品質を高める可能性がある。
ライセンシーとしては、事業や市場の需要に影響を与える他のライセンシーとの競争を避けたい。そのため、独占的ライセンスを望むのが通例。
販売地域と取引チャネル ライセンサーの立場からすると、(1)販売地域を特定し、かつ(2)ライセンス地域外の他者に、ライセンシーが商品を販売することを禁止する、適切な条項を盛り込むべき。
チャネルの特定も重要。ライセンスを特定チャネルにだけ付与するのか、全チャネルに付与するのかは、ライセンサーの潜在的収益に直接影響を与える。それだけでなく、異なる市場でIPRを使用する上でも影響を与える。
ライセンサーは自ら開拓するため、特定の販売地域やチャネルを残しておくことを望む。
対してライセンシーにしてみると、完全な自由が理想。全ての販売地域やチャネルを自ら開拓することや、ライセンスを受けた地域内のいかなる相手にも販売できるよう望むことが多い。
期間と更新 契約期間が短いと、商品の売上高が少なくなる。これでは、ライセンサーにとっても、潜在的収益が減少する結果につながりかねない。
しかし、長期の自動更新契約にすると、製品の品質基準を十分監視できなる恐れが生じる。IPR権利者の立場からは、(1)業績目標を達成するための十分な時間を確保すること、(2)ライセンス要件の順守状況を監視できるようにすること、とのバランスから、期間・更新条件を設けるべき。
ライセンサーは契約を更新する前にライセンシーの順守状況を確認できるよう、自動更新のない短期契約を望むことが多い。対してライセンシーは、既存の条件に変更を加えない自動更新を望む。
ロイヤルティー ロイヤルティーにはさまざまな計算方法がある。一般的には、(1)契約一時金と(2)ライセンス商品の売上高に基づく継続的なロイヤルティーの支払いの両方が盛り込まれることも多い。
ライセンサーがライセンス付与する目的はそもそも、主にロイヤルティーの徴収にある。それだけに、この条項の詳細については慎重に交渉すべき。なお、純売上高の計算から控除できる項目や、支払うべきロイヤルティーの水準は、両当事者の合意次第になる。
ライセンサーは適切な財務報告を含め、短い間隔で定期的に支払い設定することを望む。一方でライセンシーは、最小限の報告要件でより長い支払い間隔を望む。
支払いと報告の期間 両当事者は、売上高報告書の提出とロイヤルティーの支払いについて、形式、手続き、標準的期間について合意する必要がある。また、料金計算をする上での適切な手続きや払い戻しの制度についても、事前に合意しておくべきだ。
ライセンサーの立場からは、利益を守るため、受領後でもロイヤルティー報告書に異議を申し立てる権利を常に留保しておくべき。これは、ライセンサーが監査上の不備を発見した場合に特に重要になる。
ライセンシーは、ロイヤルティー報告書が受理された後、ライセンサーによる異議申し立てを認めないことを望む(異議申し立てが行われた場合、ライセンシー側に追加の管理コストが生じる可能性があるため)。
監査権 監査権とは、ライセンサーがライセンシーの生産・販売記録や会計帳簿などを検査できる権利を指す。記録の正確性や、されたロイヤルティーの支払いが適切に計算されているかを確認できることにもなる。そのため、この条項は重要。 ライセンサーは、ライセンサーの都合の良い時に監査する完全な自由を望む。
対して、ライセンシーは、(1)ライセンサーによる当該権利行使を限られた回数に制限する、(2)監査に先立って合理的な通知がなされる、ことなどを望む。
契約の解除、および契約解除・満了の効果 この条項では、(1)ライセンサーまたはライセンシーが契約を解除する権利とその根拠、(2)契約を解除または満了する場合の効果などが規定される。(2)については、ライセンシーがIPRの使用を直ちに中止する、未払い金をすべて支払う、最終的なロイヤリティ報告書を提出する、ことを盛り込む場合が多い。 ライセンサーは、違反があった場合の契約解除について幅広い裁量を望む(ここで言う「違反」には、実際に違反行為があった場合だけでなく、差し迫った違反のおそれや、違反が将来的に予想される場合を含む)。
対して、ライセンシーは、契約解除できる場合を、重大な違反があった場合に限定することを望む。
(2)IPRの保護
条項 コメント 当事者間でよく起きる争い
ライセンスの登録 ライセンス契約に関して法律を適用できるかは、法域によって異なる。一部の法域では、ライセンスの事前登録が前提になる(すなわち、登録がない場合、ライセンシーが第三者に対する賠償などを求める権利が認められなくなる)。
権利者の立場からは、(1)権利行使にあたってのライセンス登録の必要性や、(2)登録について責任を負うはどの当事者なのかなどについて、契約書に明示しておくのが望ましい。
IPRの登録と維持 この条項は、IPRを登録・保護・維持するためのもの。ライセンサーがIPRの登録を継続的に申請することを意味している。 ライセンシーはライセンサーに対し、次の2要件を満たすことで独占権を保護する約束を求めることができることにしておきたい。
(1) ライセンサーは、所要の申請を全て入念に履行する。
(2) ライセンサーは、IPRを確保、維持する。
IPRの行使 権利者にとっては、IPRから派生する権利を完全に維持することが重要(ここで言う「権利」には、ライセンシーによるIPR行使をコントロールすることを含む)。権利者にしてみると、(1) IPR行使状況などが速やかに通知されること、(2)そのコントロールに当たって完全な裁量権を持つこと(自らの名で手続き進めること、およびライセンシーにそう指示できるようにしておくこと)を確保すべきということになる。 手続きの実施やその費用負担について、当事者の意見が異なることがある(手続きの混乱や遅延を避けるため、ライセンス契約を締結する前に、この条件について合意しておくことが賢明)。
(3)保証と救済措置
条項 コメント 当事者間でよく起きる争い
ライセンサーの保証 この条項は、ライセンス化された知的財産に関し、ライセンサーが約束する内容を規定するためのもの。 第三者が当該IPRを無効にしたり侵害したりした場合、ライセンシーとしては、ライセンサーに保証を要求できるようにしておきたい。
ライセンシーの保証 この条項は、取引に関するライセンシーの約束を規定するためのもの。 ライセンシーが合意された範囲外でIPRを使用したなどの場合、ライセンサーとしては、全ての責任〔製造物責任(PL)に依拠するものを含む〕をライセンシーが負うよう要求できるようにしておきたい。
補償 この条項は、商標や商品などが第三者の権利を侵害していることが判明した場合に、各当事者の将来的義務を規定するためのもの。 ライセンサーとしては、ライセンシーの違反によって被る全ての損失・損害を、ライセンシーが補償するよう要求することができるようにしておきたい。
(4)品質管理条項
条項 コメント 当事者間でよく起きる争い
商標と製造基準 ライセンサーにとって、ライセンス化した商標を利用した商品の製造・販売に関し、一定の水準を保証する厳格なメカニズムを盛り込むことが極めて重要になる。
具体的には、(1)ライセンシーが商品を市場に出す前に、デザイン、サンプル、プロトタイプを提示すること、(2)ライセンサーがその提示を承認するに当たっての適切な仕組みとスケジュールを定めておくこと、を確保すべき。また、(3)商品に欠陥が見つかった場合、ライセンサーが市場からのリコールを要求できる権利を盛り込むべきだ。
ライセンサーはライセンシーに対し、(1)あらゆる手続きと技術仕様について厳格な要件と管理を課すこと、(2)リコールを要求できる権利を確保しておくこと、を望む。
一方、ライセンシーは、(1)ライセンサーからの介入を最小限に抑えること、(2)ライセンサーが商品リコールを要求する権利を持たないこと、を望む。
変更する権利 IPR権利者としては、商品のデザインを必要に応じいつでも変更する完全な権利を保持すべき。また、書面による承認がある場合を除いて、ライセンシーがデザイン変更できる権利を制限すべき。 ライセンシーとしては、ライセンサーが商品デザインの変更に対する承認を不当に留保しないことを要求できるようにしておきたい。
また商品デザインの変更自体に争いがない場合、ライセンシーは商品デザイン変更を実施するための合理的な許容時間を確保しておきたい。
改良 ライセンサーとしては、ライセンシーが商品などに改良を加えた場合、直ちにそれをライセンサーに通知・開示するライセンシーの義務を確保しておくべき。
また契約書には、商品を改良できる権利はどちらの当事者に帰属するのか、または両者に帰属するのか、についても明記しておく必要がある。
(1)どちらの当事者が商品の改良に貢献したか、(2)商品の改良を施すために相手方の機密情報を検討することが必然になる場合の取り扱いに関して、意見の相違が生じることがある。
(5)販売促進および販売権に関する追加条項
条項 コメント 当事者間でよく起きる争い
プレミアムアイテム ライセンシーに販売促進目的でプレミアムアイテムを製造する権利を付与している場合、(1)その費用をどちらの当事者が負担するのか、(2)その費用をロイヤルティーの計算に算入するのか、当事者間で決定しておくのが望ましい。 プレミアムアイテムの製造費用などをどちらが負担するかで、争いが生じる可能性がある。
表示 商品の製造に関連して、ライセンサーとしては、ライセンシーが商品に商標を付すための手法を特定しておくべき。
当該規定がないと、登録したとおりにライセンシーが商標を使用しなかったり、そもそも商標が表示されなかったりしかねない。ひいては、商品に脆弱(ぜいじゃく)性が生じる恐れが生じることになる。
セカンド、オーバーラン ライセンサーは、(1)ライセンサーの商標を付してセカンド(注1)やオーバーラン(注2)を販売する権利を、ライセンシーに認めるかどうか、(2)それがライセンサーの「のれん」や評判を損なう恐れがあるかどうか、を検討しておくべき。
注1:欠陥があっても販売価値が完全に損なわれてはいない商品。
注2:過剰生産品。
契約に商品の製造・販売が含まれる場合、ブランド所有者は、ライセンシーがセカンドやオーバーランを販売できるかどうかについて、ルールやガイドラインを課したいと思うかもしれない。
在庫品の販売 契約解除または満了後の売れ残り商品に関して、適切な取り決めを結ぶべき。 契約の解除または満了に際して、ライセンサーはロイヤルティーを全額計上した上で在庫品の限定的な販売期間を設けることを望む。
対して、ライセンシーは在庫品を自由に処分できることを望む。
(6)フランチャイズ権に関する追加条項
条項 コメント 当事者間でよく起きる争い
財産のリース フランチャイズを運営するに当たって施設などをリースする場合、どちらがリースを受ける当事者として責任を負うのか、契約書に明記すべき。
フランチャイザーがリース物件を保有する場合、フランチャイザーはフランチャイジーに対し、追加的に支配権を得ることになる。
取引制限 フランチャイズ契約には、一定の期間、一定の地域内で、フランチャイジーが同一・類似事業を行うことを禁じる制限条項を、例外なく盛り込むべき。 フランチャイジーが完全に事業機会を失うほど過大な制限をかけると、効力を巡って争いになりかねない(判例上、そのような条項は強制力を持たないとされる)。なお、過大かどうかの判断は、利便性のバランスによる。
(7)一般条項(Boilerplate Clauses)
条項 コメント 当事者間でよく起きる争い
言語 当事者が2言語で契約を締結するのは珍しいことではない。しかし、規定内容が不明瞭な場合などにどちらの言語が優先されるか、明記するよう注意すべき。 1つの契約書内で異なる言語を採用すると、その解釈に関して争いを引き起こす恐れがある。
準拠法と法域 契約上、準拠法を明示することが重要。訴訟が発生した場合、裁判所はこの条項を尊重する。また、特定の法律に依拠することに当事者間で合意のある場合も同様。
この条項は、当事者が異なる法域に属する場合、特に重要だ。
両当事者とも、(特にそれぞれの当事者が異なる法域に属する場合)自らが属する法域の法令を準拠法にすることを望む。
紛争解決 この条項は、当事者同士が争いをどのように解決するかを定めるもの。訴訟、調停、仲裁など、さまざまな方法がある。
紛争解決メカニズムがあると、訴訟リスクや費用を当事者が管理する上などで有益。

出所:本マニュアル(pp.33~39)

契約の締結に当たり、どの国・地域の契約慣習および法準拠契約に則るかは当事者間での取り決めによるものである。そのため、契約を行う際にはそれらに関する日本と香港の違いにも留意する必要がある。

契約後段階(第3章)

(1)品質管理

ライセンス契約を締結した後も、当事者は契約の順守状況を継続的に監視・確認すべきだ。これは、ライセンス契約によってライセンサーの商標を付した商品の製造・販売をライセンシーに認めている場合、特に重要になる。ライセンサーの商品に対する評判や品質を保護し、ライセンサーの商標の価値を維持する必要性が強いのが、その理由だ。

その対策として、(1)ライセンス契約に品質管理条項(表(4)参照)を設けたり、(2)商標の使用や商品の製造に関して明確なガイドラインを定めたりすることが有用だ。

(2)紛争解決方法

IPR権利者は、商標、著作権、特許、さらにはドメイン名に関して香港での権利を守るため、個人や企業に対して民事訴訟を提起することができる。とは言え、争いを解決するための方法として、訴訟が最善かつ最も効率的でない場合も多い。

片や、香港には、仲裁や調停といった代替的な紛争解決メカニズムが充実。アジア太平洋地域で、国際的法務紛争を解決するための中心地と目されることも多い。当該メカニズムを通じて、当事者が訴訟に至ることなく意見の相違を解決できることになる。

詳細については、香港の裁判外紛争解決手続き(ADR)関連のマニュアルPDFファイル(1.12MB)を参照されたい。

本マニュアルで基本的な考え方の把握を

この記事では、香港でのブランド・コンテンツに関するライセンス契約の留意点などについて、本マニュアルに沿って解説した。

ライセンス契約は本来、各当事者の特定のニーズを満たすためのものだ。換言すると、そのためにケースバイケースで起草すれば良い。しかし、典型的に盛り込まれる状況について、基本的な考え方を把握しておくことは有用だろう。本マニュアルは、そのような観点から取りまとめたものだ。日本企業が香港でのブランドやコンテンツのライセンスビジネスを検討・展開する際に参考になることを期待したい。


注1:
香港には、数多くのライセンス契約例がある。例えば、香港のローカルファッションブランド「:CHOCOOLATE」は近年、日本のキャラクター「くまモン」、ディズニー「ツムツム」、韓国「LINE FRIENDS」などについて契約を締結。自社のアパレルやアクセサリー商品にそれらキャラクターを使用して商品展開している。
また、デイリー・ファーム(Dairy Farm Company, Limited)は40年近く前から、セブン-イレブンの営業権を受けている。それに基づいて、当地でフランチャイズを拡大。現在までに、香港とマカオで店舗を900以上展開している。
注2:
新規事業を開始するに当たり、契約締結前に、発生する可能性のある問題や責任を特定することを目的として、個人または企業を詳細に調査すること。
執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所
島田 英昭(しまだ ひであき)
経済産業省 特許庁で特許審査/審判、特許審査の品質管理や審判実務者研究会などを担当後、2022年8月ジェトロに出向、同月から現職。