韓国化粧品が世界に躍進
K-ビューティーの軌跡と展望(1)
2024年7月22日
近年、韓国化粧品は世界的な人気を博している。2021年の化粧品輸出額は過去最高を記録するとともに、フランス、米国に次ぐ世界3位になった。さらに、直近の2023年の化粧品輸出額も2021年に次いで歴代2位の輸出額を記録するなど、今、韓国化粧品は世界的に注目を集めている。
そこで、韓国の化粧品産業について、2回にわたりレポートする。前編では、政府支援策と業界のプレイヤーを整理する。後編では、韓国の化粧品産業の強みと今後のトレンドについて分析していく。
政府主導の化粧品海外輸出・進出政策
韓国では、「K-ビューティー」(注1)を国の新たな輸出主力産業として成長させるため、政府が主導し、さまざまな輸出・海外進出の支援策を講じている。2019年には、民間主導で成長を遂げていた化粧品産業を政府が主導することで、化粧品産業のさらなる成長を促進し、韓国を世界3大化粧品輸出国にすることなどを目標に掲げた「(K‐ビューティー)未来化粧品産業育成方案」を発表した。その後、2021年に同政策を補完した「K‐ビューティー革新総合戦略」を発表した。そこでは、重点推進課題として「持続可能なK‐ビューティー革新技術開発」「K‐ビューティー産業のエコシステム造成」「規制改善を通じた企業活動の支援」「戦略的な海外進出支援」の4項目を掲げ、これら課題を解消する計画を策定している(表参照)。
表:2021年「K-ビューティー革新総合戦略」概要
項目 | 内容 |
---|---|
輸出拡大および輸出先国の多様化 |
|
グローバルリーディングカンパニー および強小企業(注)の育成 |
|
新規雇用9万3,000人の創出 |
|
項目 | 内容 |
---|---|
持続可能なK-ビューティー革新技術開発 |
|
K-ビューティー産業のエコシステム造成 |
|
規制改善を通じた企業活動の支援 |
|
戦略的な海外進出支援 |
|
注:「小さいが強い企業」を意味する。
出所:政府資料(2021年1月27日)を基にジェトロ作成
さらに、2024年5月に食品医薬品安全処と法制処(いずれも国家行政機関)が「化粧品海外進出法令情報提供協力業務協約」を締結し、食品医薬品安全処が保有する海外化粧品規制情報と法制処が保有する法令情報を基に、より有用な情報提供の体制が整えられた。これにより、次の利点が生じる。まず、輸出に特化した国別規制・法令情報の提供だ。2024年には、日本、米国をはじめとした15カ国の化粧品に関する法令37件を翻訳し、韓国語で確認できるようになる。将来的には、提供範囲を24カ国以上に拡大していく予定だ。ついで、両機関が保有する法令情報を連携させ、詳細な情報を提供する計画だ。具体的には、食品医薬品安全処が運営する生成型人工知能(AI)チャットボット「コスボット(COSBOT)」に、法制処の情報(海外法令翻訳、動向資料など)を上乗せする。海外進出を希望する化粧品企業に対し、営業登録、化粧品記載・表示事項、品質·安全規制情報などを幅広く提供することを目指す。
このように、韓国では化粧品産業を国の輸出主力産業として政策に組み込み、事業者にとりより良いビジネス環境を整備する取り組みがなされている。
政策に基づいた政府間の連携と支援事業
ここで、韓国の化粧品業界を取り巻く環境について整理する。前述のとおり、韓国では政府が化粧品産業を新たな輸出主力産業に指定し、世界3大化粧品輸出国を目標とした政策を打ち出している。
化粧品業界を管轄している中央省庁は、保健福祉部と食品医薬品安全処だ。保健福祉部は、日本の厚生労働省の旧厚生省に相当し、保健衛生・防疫・医療行政・薬事行政・基礎生活保障・自活支援および社会保障、人口・出産・保育・児童・老人および障害者に関する事務を所管し、化粧品の開発段階における研究開発支援などを実施・管理する。食品医薬品安全処は、安全な食品および医薬品関連産業の競争力向上、医薬品安全使用情報の提供などを実施する国家行政機関で、化粧品の製造・輸入、流通、使用において、管理基準や審査、製造業・製造販売業者登録、広告、価格表示、安全性情報発信などを所管する。
なお、一般的に韓国国内で扱われる化粧品の開発段階から消費者の使用段階までは図1のように管理されている。

注:Cosmetic Good Manufacturing Practiceの略。優秀化粧品製造および品質管理基準。
出所:食品医薬品安全処ウェブサイトを基にジェトロ作成
政策に基づき、各種支援事業を実施しているのは保健福祉部傘下の政府系機関である韓国保健産業振興院(KHIDI)だ。同機関が2023年度に実施した代表的な事業は次のとおり。
1. 海外化粧品販売店運営支援事業
韓国化粧品の輸出先国の多角化を目的として、中堅中小企業および化粧品専門流通企業を対象に、輸出有望国〔米国、カナダ、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、フィリピン、チリ、ポーランド〕への輸出支援を実施。具体的には当該国における、現地化粧品市場調査・分析、製品の許認可、物流・通関、バイヤー発掘、ネットワーク構築、マーケティングなど、化粧品販売店の開業・運営に必要な費用を1社あたり、最大2億ウォン(約2,200万円、1ウォン=約0.11円)支援。なお、事業期間は最長3年で、毎年の評価を通して次年度の継続可否について決定。
2. 中小化粧品海外進出支援事業
中小企業の海外化粧品広報ポップアップストア(注2)および化粧品広報販売店出展を支援。対象地域は、広報ポップアップストアが日本(東京、名古屋)、クウェート(サルミヤ)、広報販売店がチリ(サンティアゴ)、UAE(ドバイ)。広報ポップアップストアや広報販売店のブース出展費用が補助される。企業側はサンプル提供やポスター制作、物流・許可に関する費用を負担する必要がある。
3. 海外化粧品広報ポップアップブース運営支援事業
韓国化粧品企業のグローバル競争力およびブランドイメージの向上、輸出先国の多角化、新規市場開拓を目的として、中堅中小企業および化粧品専門流通企業を対象に広報ポップアップストアの運営を支援する事業。当該国への市場参入初期段階のテストマーケティングとして、ポップアップストアを設置し、企業・製品の認知度向上および新市場の発掘を狙う。具体的には主要新興輸出国(英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダ、カタール、オマーン、ブラジル、メキシコ、オーストラリア)を対象に、企業イメージアップを目指し、製品の展示・広報ブースを設置、またそれに係る費用を支援。
韓国化粧品業界を牽引する大手企業4社
韓国の化粧品業界のプレイヤーは主に、自社ブランドを持つ化粧品メーカーと、化粧品ブランドを持たない化粧品OEM(注3)/ODM(注4)企業の2つに分類される。中でも、韓国における大手化粧品メーカーとして、「イニスフリー(inisfree)」「エチュード(ETUDE)」などを持つアモーレパシフィックと、「ザ・フェイスショップ(THE FACE SHOP)」「シーエヌピーラボラトリー(CNP Laboratory)」などを持つLG生活健康
の2社が挙げられる。これら2社は、日本でも知名度の高い化粧品ブランドを複数持ち、国内生産の約半分を占めている。近年では、同大手2社のみならず、数多くの中堅中小企業が勢いをつけ、その数は2012年から2022年までの10年間で約7倍に増えた(図2参照)。

出所:食品医薬品安全処
このように、韓国のブランドを持つ化粧品メーカーが急増、急成長をした背景には、韓国コルマーや、コスマックス
といった化粧品OEM/ODM企業の存在が大きい。韓国国内のOEM/ODM企業は約200~300社と言われているが、韓国コルマーとコスマックスに業界3位のコスメカコリアを加えると市場全体の50~60%を占めていると推計される。実際に、化粧品OEM/ODM企業大手2社の過去の売上高と、韓国国内の化粧品メーカー数は比例して増加している。
化粧品OEM/ODMの強みは何かを考えた場合、大きく3つ挙げることができる。1つ目に、体系化されたOEM/ODM製造プラットフォームが構築されていることだ。もともと韓国でも、化粧品開発と生産は一貫体制で行われていた。しかし、2000年代初頭に起きた「カード大乱」(注5)で景気が悪化したことをきっかけに、自社工場を持たずにアイデアやコンセプトを基盤に新たな商品を開発し、他社に生産を委託する業界構造が主流となった。これにより、化粧品市場への参入障壁は下がった。一方で、市場参入障壁が下がった結果、競争は激化し、各社の新製品の市場投入周期は従来の2年から6カ月に短くなった。
2つ目に、技術力の向上と革新的な商品ラインアップが挙げられる。前述のとおり、韓国化粧品市場の競争激化により韓国OEM/ODM企業の技術力は著しく成長した。例えば、今や世界中の化粧品メーカーも採用する「クッションファンデーション」(注6)は韓国発祥の商品であり、高い技術力が生み出した革新的な商品である。このような韓国のOEM/ODM企業が出した製品カテゴリーおよび配合比率などは数千種類、かつ、ヒット商品は数百個に及ぶと言われている。OEM/ODM企業は常に革新的な商品が求められている状況で技術力を成長させ、常に新商品を生み出してきた。
3つ目に、高いコストパフォーマンスの商品展開が特徴的である。韓国の化粧品は一般的に効果や品質に対し、価格が安価であるという消費者の意見が多い。韓国化粧品のコストパフォーマンスの高さは多くの人が手に取る理由の1つだ。加えて、韓国の新興化粧品ブランドは、立ち上げの段階から海外市場を見据える企業が多く、韓国の輸出拡大に大きく寄与している。
化粧品販売店、ブランドショップから再びマルチショップへ
韓国化粧品産業の成長を牽引するプレイヤーとして、化粧品を最終消費者に届ける販売店の存在も欠かせない。韓国における主な販売店として、Health & Beauty Store(H&B、日本のドラッグストア、バラエティーストアに相当する)、ブランドショップ、百貨店、スーパーマーケットがあり、これら販売店は店頭のみならずEC(電子商取引)サイトも充実している。
ここで、販売店の変遷について歴史をさかのぼる。かつて、化粧品販売店は、個人事業者などがアモーレパシフィック、LG生活健康をはじめとした化粧品メーカー品を卸売業者から納品してもらい販売するマルチブランドショップが主流だった。しかし、先述の1990年代後半から2000年代初頭の不景気により、こうした業態は難しくなり、代わって、化粧品メーカーが直接運営する自社ブランドショップが徐々に頭角を現すようになった。2002年に、自社ブランドショップとして「ミシャ(MISSHA)」が梨大(注7)に1号店をオープンして以来、ミシャは不景気にもかかわらず爆発的な成長を記録した。同社は広告費、梱包費など無駄な支出を抑えることで3,300ウォンから9,800ウォンの低価格製品を実現し、2004年には240店舗、年間売上高1,200億ウォンを記録した。これに続き、LG生活健康が2003年12月に「ザ・フェイスショップ」明洞1号店を開設し、わずか1年で220店舗、売上高1,000億ウォンを記録した。これにより、売上高が落ち込んだアモーレパシフィックは、LG生活健康に対抗して自社ブランドショップである「ヒュープレイス(現アリタウム)」1号店(奉天店)を2004年7月にオープンした。ヒュープレイスもわずか4カ月で300店舗を突破した。この際、アモーレパシフィックは同社の製品をヒュープレイス以外では販売できないようにした。
このような大手化粧品メーカーの流通業進出は、中低価格商品のシェア向上に貢献した。また、これは時間が経過するにつれ、国内新規・海外の中低価格商品の進出を妨げる参入障壁として作用した。所得水準が上昇し、ファッションはもちろん、化粧品も海外ブランドが韓国国内へ進出し、ラグジュアリー化粧品は百貨店などで激しい競争があったものの、中低価格帯では海外ブランドの韓国国内進出の影響は限定的だった。これにより、国内ブランド同士の激しい競争を通じて、競争力を向上させる時間を確保できるようになったとも言われている。
ブランドショップの人気は2019年ごろまで続いた。アモーレパシフィックが運営する「イニスフリー(inisfree)」「エチュードハウス(ETUDE HOUSE)(現エチュード)」は店舗数が最も多いブランドで、それぞれ1,000店舗以上、合計で2千数百店舗を構えていた。しかし、新型コロナ禍を経て、主力顧客の中国などからの外国人観光客が激減したため、現在の店舗数は当時の約半数から6割程度にまで減少し、合計で1,000店舗を下回る状況となっている。このようにブランドショップが減少した一方で、H&Bストアである「オリーブヤング」だけが成長を遂げた。オリーブヤングの実店舗数は、他店舗が続々と撤退するなかでも、2019年から2023年までの間に約100店舗増えた。さらに売上高は、オンラインも含めると、2023年は3兆8,612億ウォン(前年比40%増)と順調に拡大している。また、韓国のオンライン店舗の使用頻度をみてみると、韓国の調査会社Opensurveyが実施した15~59歳1,000人を対象としたアンケートによると、化粧品を購入するチャンネルとしてオフライン店舗が70.5%となっているのに対し、オンライン店舗は84.7%と高い比率の結果が出ている(複数回答可能、「ビューティートレンドレポート2024」)。中でも、韓国の化粧品メーカーが得意とする中低価格商品は特にオンラインでの購買率が高く、近年は化粧品を購入するチャンネルとして、オリーブヤングやオンラインでの購入が主流となっている。

- 注1:
- K-ビューティーのKはKoreaの頭文字で、K-POPのような韓国ならではの美容産業を意味する。
- 注2:
- 期間限定で営業されるショップ、ブースのこと。主に空き店舗やレンタル店舗、ショッピングモールの一部などを利用し数日から数週間程度の短い期間で運営される。
- 注3:
- Original Equipment Manufacturingの略。委託者ブランドの製品生産のみを請け負う。
- 注4:
- Original Design Manufacturingの略。委託者ブランドの製品生産だけでなく、設計やデザインも請け負う。
- 注5:
- 1997年の通貨危機以降、停滞していた内需回復のために政府は1999年にクレジットカード活性化政策を打ち出した。カード会社が顧客に対する現金サービスの引き出し金額を自由に決められるようになり、さらに所得控除制度を設けて、カードを多く使えば一定の割合で減税が受けられるようになった。これにより、1998年には63兆6,000億ウォンだったカード使用額は、2002年には622兆9,000億ウォンを突破した。一方で、本来であれば信用調査などを経てカードを発行すべきであるが、当時は市場シェア率を高めるために、カード会社は所得がなく信用度が低い人にもカードを発行した。これにより、2003年末にはカード総使用金額の14%以上が滞納分となりカード会社の経営も悪化、韓国経済全体の景気が悪化する結果となった。
- 注6:
- スポンジにリキッドファンデーションをしみこませた形状で、化粧下地の役割も含んだオールインワン化粧品。
- 注7:
- 高校や大学などが多く立地するソウル市内の学生街。
K-ビューティーの軌跡と展望
- 韓国化粧品が世界に躍進
- 韓国化粧品OEM・ODMに強み

- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ソウル事務所
花輪 夏海(はなわ なつみ) - 2021年、ジェトロ入構。農林水産食品部商流構築課を経て2023年8月から現職。