モロッコ経済を牽引する財閥系など有力企業を紹介

2024年3月28日

フランスのアフリカ政治経済誌ジュヌ・アフリック(Jeune Afrique)が毎年公表するアフリカ重要企業トップ500の2023年版ランキング(2023年3月公表)では、55社のモロッコ企業がランクインしている。モロッコ企業は全体の11%を占め、人口3,800万人弱の市場規模からするとその割合は高い。

このランキングにおけるモロッコ企業のトップは、11位のモロッコ国営リン鉱石公社(OCPグループ)で、リン鉱石採掘・肥料生産の世界的大手だ。また、全国規模で市民の生活や交通の足を支える公的色彩の強い企業もランクインしている。例えば、41位のグループ・マロック・テレコム(Groupe Maroc Telecom・通信)、45位の国営電力水道公社(ONEE)・水・電気ガス)、166位のタンジェ・メッド・スペシャル・エージェンシー(Tanger MED Special Agency・港湾管理など)、206位のロイヤル・エア・マロック(Royal Air Maroc・航空)、315位のモロッコ国営鉄道(ONCF・鉄道)などが名を連ねる。

また、建設工事関係では、163位のラファージュ・ホルシム・マロック(LafargeHolcim Maroc)を筆頭に、215位ソシエテ・ジェネラル・デ・トラボー・デュ・マロック(SGTM)、289位シモン・デュ・マロック(Ciments Du Maroc)、291位のホールディング・アル・オムラヌ(Holding Al Omrane)、314位のトラボー・ジェネルー・ドゥ・コンストラクション・ドュ・カサブランカ(TGCC)などが続く。

公的企業以外で上位にランキングされているのは、103位のビボ・エナジー・マロック(VIVO Energy Maroc・エネルギー、シェルグループ)、105位のルノー・コマース・マロック(Renault Commerce Maroc・自動車)や107位のトタルエナジー・マロック(Totalenergies Maroc・エネルギー、トタルグループ)、149位のソシエテ・マロッカン・デ・タバ(SMT・たばこ)、265位のサントラル・ダノン(Centrale Danone・食品)などで、外資系企業も含まれている。三井物産が出資している167位のザラール・ホールディング(Zalar Holding)、249位のルシュール・クリスタル(Lesieur Cristal)、405位のフォラフリック(Forafric)、381位のグループ・デ・ボワソン・デュ・マロック(Groupe Des Boissons Du Maroc)は食品関連産業で、農業国モロッコを代表する企業といえよう。

国内産業分野に根を張る財閥系企業

前述のランクイン企業には、モロッコの財閥系企業が含まれている。次のリストに主な財閥系企業をまとめた。

当地には王族系を筆頭に複数の財閥が存在し、強い財政基盤のもと、モロッコ経済を牽引している。 例えば77位のアフリキア(Afriquia) SMDC(エネルギー)や190位のアフリキア・ガザ(Afriquia Gaz・エネルギー)は財閥であるアクワ(SMDC)グループ(AKWA(SMDC)GROUP)の傘下にあり、同財閥のトップはアハヌーシュ現首相令嬢である。全国各地でガスステーションアフリキア(AFRIQUIA)を運営し、複数の不動産・観光業やメディア企業も傘下に収める。再生可能エネルギー事業の開発では、別の財閥オー・キャピタル(O Capital)とのジョイントベンチャーであるグリーン・オブ・アフリカ(GREEN OF AFRICA)を運営する。

98位のマルジャン・ホールディング(Marjane Holding・リテール、国内最大手スーパーチェーン)はアル・マダ(AL MADA)というロイヤルファミリー資本の財閥に属する。この財閥には他にも有力企業が名を連ねる。金融では国内大手銀行の1つでアフリカや欧州、中国にも拠点を持つアティジャリワファ銀行(Attijariwafa Bank)や保険大手のワファ保険(Wafa Assurance)、エネルギーでは再生可能エネルギーや火力発電ビジネスのナレバ(NAREVA)、通信大手のイヌウィ(INWI)、鉱業系ではアフリカ各地で鉱山ビジネスを展開するランキング183位のグループ・マナジェム(Groupe Managem)、前述のランキング163位ラファージ・ホルシム・マロック(建設)もアル・マダグループの企業だ。流通では、ステランティスブランド車の販売で、アフリカ地域への自動車などの流通ネットワークを持つソプリアム(Sopriam)も傘下に収める。

120位のラベルビ(LabelVie)は、サナム・ホールディング(SANAM HOLDING)傘下のリテール企業だ。リテール分野では他にもバージン・メガストア・マロック(Virgin Megastore Maroc)やバーガーキング(BURGER KING)も同じ財閥に属する。サナム・ホールディングは、その他にも保険大手のサンラム・マロック(Sanlam Maroc)や不動産・観光業やアグリビジネス関係でも様々な企業を傘下に収めている。

125位のホルマルコム・グループ(HOLMARCOM GROUP)は、保険業でコートジボワールやケニアでもビジネスを展開する一方、運輸・物流ではエア・アラビア(Air Arabia・航空)を傘下に収める。国内飲料大手のレ・オー・ミネラル・ドゥルメス(LES EAUX MINERALS D’OULMES)は479位にランクインしているほか、別にベナンの飲料会社を傘下に収めている。

180位の通信大手オランジュ・マロック(ORANGE MAROC)はオーキャピタルグループの傘下企業だ。モロッコの大手銀行の一角を占め、サブサハラでも事業を展開するバンク・オブ・アフリカ(Bank of Africa)もオー・キャピタルグループに属する。他にマリやコンゴの銀行も傘下に収めている。再生可能エネルギー事業開発のグリーン・オブ・アフリカは前述のアクワ・グループ(AKWA GROUP)とのジョイントベンチャーである。この他、DIY商品と家庭用品の小売りチェーンのミスター・ブリコラージュ(Mr. Bricolage)も傘下に収め、運輸、金融、不動産・観光業など幅広い分野で事業を展開している。

水産加工やワイン生産などアグリビジネスを幅広く展開するのがディアナ・ホールディング(DIANA HOLDING)だ。代表のリタ・マリア・ズニベール氏は、2024年1月に国際女性リーダーシップフォーラム(IWLF)から欧州女性リーダーシップアワード(EWILA)を受賞した。

なお、2023年8月に米国経済誌フォーブスが公表した「2023年アラブファミリービジネストップ100」で3つのモロッコ財閥が紹介され、ディアナ・ホールディングが92位、オーキャピタルグループが21位、ホルマルコム・グループが87位だった。

執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所長
本田 雅英 (ほんだ まさひで)
1988年、ジェトロ入構。総務部、企画部、ジェトロ福井、ジェトロ静岡などで勤務。海外はハンガリーに3度赴任。ジェトロ鳥取を経て2021年7月から現職。