ナチュラル製品展示会から見るプラントベース製品動向(米国)

2024年9月30日

米国カリフォルニア州アナハイムで毎年3月に開催される米国最大規模のナチュラル製品分野の展示会「Natural Products Expo West」(以下、NPEW)は、米国の小売市場における製品のトレンドや新興ブランドが発表される場として、1981年の初開催以来、米国進出を狙う世界中の企業が関心を寄せている。ジェトロは2024年に開催された同展示会でジャパンブースを設置し、来場者に対して日本製品のアピールを行った。本稿では、本展示会の概要および本展示会への出展支援から見えた、米国小売市場で需要が見込まれるプラントベース製品分野について紹介する。

ナチュラル製品分野における米国最大規模の展示会、NPEW2024

NPEWは、自然由来の製品やオーガニック製品を含むナチュラル製品分野において、米国最大規模を誇る展示会だ。2024年の同展示会の来場者数は、小売関係者(来場者数に占める割合:13.4%)やディストリビューター(14.5%)などの関係者含め6万5,000人以上を記録している。NPEWは来場者数や出展社数などの規模の観点から、ナチュラル製品分野における人気製品および同カテゴリー内での流行などを体感できる展示会である。米国で開催されるほかの主要な食品展示会での来場者数および出展社数と比較すると、その規模の大きさがうかがえる(表1参照)。

表1:米国主要展示会(食品分野)の来場者数と出展者数(2024年)
項目 NPEW Summer Fancy Food Show Winter Fancy Cood Show
来場者数(人) 65,000以上 29,000超 13,000以上
出展者数(社) 3,301 2,400超 1,052

出所:主催者発表からジェトロ作成

同展示会において、ジェトロはジャパンブースを設置し、日系企業30社の出展および出品を支援した(2024年3月28日付ビジネス短信参照)。今回、ジャパンブースに展示された製品のほとんどは、消費者向けパッケージ商品(Consumer Packaged Goods、CPG)と呼ばれる食品や日用品、化粧品などの製品だ。ブースへの出品に際して、出品予定の製品の成分表示ラベルや取得している認証の証明書など各種資料の提出に関して主催者と調整を行う必要があるなど、主催者から承認がおりた選ばれた製品のみブースに陳列できる。
ジャパンブースへは、会期の3日間を通して、日本製品に関心を持つ有望バイヤー317人が来場した。ジャパンブースを訪れたバイヤーの属性としては、大手小売関係者やディストリビューターに加え、飲食店関係者や電子商取引(EC)サイト運営者など、日系企業による製品の販売先の候補となる出展者が一定数確認できた。

会場はメインホールと北ホールに二分され、さらにメインホール内は製品カテゴリーやブースの規模などによって細かく分類された。全体的に食料・飲料関連の製品が多く見られたが、日用品などの非食品の製品のブースが集まったエリアもあった。本展示会において、ジャパンブースは「ホットプロダクツ」と呼ばれる、主に今後、流行が見込まれる製品や新進気鋭のブランドのブースが並ぶエリアにブースを構えた。ジャパンブースのほかにも、日本本社や米国法人から多数の日系企業が出展していた。主催者によると、日系企業の出展はジェトロのほか12社あった(注)。


来場者でにぎわう北ホール会場内(ジェトロ撮影)

多様なプラントベース製品、1,000食以上の試食提供も

本展示会において、会期前から主催者による特集記事が発行されるなど特に関心を集めていたのは、プラントベース製品を扱うブランドだ。消費者庁によると、プラントベース食品とは、動物性原料ではなく植物由来の原材料を使用した食品を指し、その多くは肉などの動物性食品を大豆や小麦を用いて製造・販売されるものとされており、肉や乳製品などの動物性由来の食品の代替品として注目を集めている。本展示会では、全3,301の出展社のうち、確認できただけでも200ブース以上がプラントベース製品をPRしていた。目立った出展者の一例として、同展示会で毎年開催されている、先進的かつインパクトのある製品を表彰するための賞受賞候補が表2となる。同賞は飲料部門やビーガン食品部門など複数分野に分かれている。

表2:「NPEW NEXTY Award 2024」の受賞候補に選出されたプラントベース製品を扱う企業一覧
企業名 所在国 主製品
アボッツ 米国 代替肉
プライムルーツ 米国 代替肉
マイフォレストフーズ 米国 代替肉
コンシャスフーズ カナダ 代替サーモン
アバフィナオーガニックス カナダ 代替キャビア、スプレッド
ル・グラン カナダ 代替乳製品
オートリ― スウェーデン 代替乳製品
スパークルイノベーションズ 米国 植物性由来の生理用品

出所:イベント主催者(New Hope Network)ウェブサイトからジェトロ作成

次に、実際に筆者がブースへ往訪した、米国内の小売店において販売実績のあるプラントベース関連の製品を扱う事業者について述べる。

プラントベースの代替肉を製造する、シリコンバレー発のフードテックのインポッシブルフーズ(本社:米国カリフォルニア)は、新製品のハンバーガーやホットドックなどを試食提供し、多くの来場者が集まっていた。同社はラスベガスで開催されたテクノロジー関連の展示会であるCESにも出店。主催者の発表では、展示会開始後の12時間以内に、同社の代替肉を使った製品である「インポッシブルバーガー」に関する300もの記事が各種メディアに掲載されるなど、同展示会において同社の製品が脚光を浴びた。同社は代替肉をレストランや大手ファストフードチェーンのバーガーキングなどに提供し、ホールフーズなどの小売り大手向けにも販売を行っている。


ブースに陳列されていたプラントベースの代替肉(ジェトロ撮影)

また、プラントベースのサーモンやロール寿司(ずし)、おにぎりなどを製造・販売するコンシャスフーズ(本社:カナダ)は、展示会主催者が選ぶアワード「2024 NPEW NEXTY Awards」を受賞した。同社の製品であるサーモンは、コンニャクを原材料として作られている。主要製品の1つであるロール寿司は、ホールフーズやセーフウェイ、クローガーなどの米国小売り大手の店舗で販売されており、米国での商品展開を進めている。


ブースに展示されていたプラントベースサーモン(ジェトロ撮影)

プラントベースの卵を販売するイスラエル発のヨーエッグは、目玉焼きやポーチドエッグなど、植物性由来の卵関連の製品を展示した。試食の提供を行うことで来場者に自社製品を効果的にアピールし、会期中は合計1,000食以上の試食を提供した旨を同社のSNSで発表している。

同社はイスラエルをはじめ、米国のトレーダージョーズやウォルマートなどの小売り大手への販売も行っており、米国各地の店舗で同社の製品を味わうことができる。

また、同社のプラントベースの卵は、ビーガン向けの製品やレストランなどの情報を発信する米国メディアのVegNewsが主催する「ビーガンアワード2024」の代替卵部門において2位を獲得し、米国でも注目を集めている。


ヨーエッグのブースで提供された代替卵を使用したポーチドエッグ(ジェトロ撮影)

プラントベース製品の需要、若年層を中心に今後も拡大か

先述のプラントベースによる食品の人気は展示会にとどまらず、ここ数年にわたり世界的にその需要を高めている。

プラントベース製品などの代替品を推進する非営利団体のグッド・フード・インスティテューション(GFI)の発表によると、2023年の米国におけるプラントベース製品の市場規模は81億ドルだった。さらに、プラントベース製品の中でも大きな販売額を占めるプラントベースミルクについては、同年におけるプラントベース関連製品の市場規模が29億ドルであり、プラントベース製品全体の販売額の36%を占めるとのデータを発表した。また、プラントベースミルクの販売額は、動物性のものを含むミルク全体の販売額の15%にあたるとのデータを発表した。

さらに、温室効果ガス(GHG)の削減や森林破壊の抑制など環境問題に対応する上で、プラントベース製品は動物性製品と比較して高い効果が見込まれる。国連が発表した、気候変動と食品の関係についてまとめた記事では、動物性メインの食事が環境に負荷をかけていると問題提起した上で、従来の食生活からプラントベースメインの食事に切り替えることで、二酸化炭素(CO2)の排出量削減に一定以上の効果を見込むことができると述べられている。関連して、米国大手ディストリビューターのKeHE社が消費者の持続可能な製品に対する関心についてまとめた記事によると、世界の消費者の75%が環境に害を与えないような行動を心掛けている。これは一般の購買者層、特に若年層(Z世代、ミレニアル世代)における持続可能性や環境配慮への関心の高さがプラントベース関連製品の需要増大につながっている傾向を示唆している。 上述のプラントベース製品がもつ環境面への好影響を踏まえ、プラントベース製品への需要の拡大は、持続可能な開発目標(SDGs)の浸透や環境問題などに対する社会的な関心の高まりが一因として推察できる。

他方、プラントベース製品は、同カテゴリーの動物性の製品に比べると価格が高い。上述のGFIのレポートによると、植物性由来の肉・魚介類と動物由来の製品との1ポンド(0.45キログラム)あたりの価格差は77%ある(プラントベース:7.89ドル、動物性ベース:4.46ドル)。こうしたプラントベースの価格帯に関し、年収10万ドル以上の高所得者世帯はプラントベース製品を購入する傾向にあり、年収2万ドル以下の世帯は、購入率が平均を下回っていると発表している。

前述に関連して、プラントベース関連製品の昨今の盛況について米国食品業界の専門家に話を聞いたところ、「ニューヨーク(NY)州やカリフォルニア州などに代表される、健康意識や社会問題への関心が高い、東海岸・西海岸の若年層を中心にプラントベース製品は人気があり、今後も拡大していくだろう」とのコメントを得た。併せて、「日系企業が米国向けにプラントベース製品を販売する際には、米国消費者に訴求し得る企業固有のストーリーや、調理例および調理方法をパッケージに記載するなど、消費者に対して日本製品の購入を促す理由付けを行うこと、さらに、手軽に調理ができるような工夫が重要である」と述べ、日系企業が米国小売市場へプラントベース製品を売り込む際のポイントを説明した。

前述のとおり、NPEW 2024ではプラントベースの肉や魚を扱う企業のブースが注目を集めていた。地球温暖化や生物の多様性の保護などの社会問題への意識の高まりとともに、持続可能な食生活やビーガン食への関心も上昇傾向にある。プラントベースの製品は、先の社会問題の事態改善に向けて動物性由来の肉や魚に代わる製品として、若年層や高所得者層を中心に人気を集めていることが展示会、データ、専門家ヒアリングなどからも確認できる。ECサイトを含め、海外市場におけるプラントベース製品への需要の高まりは、日系企業の同製品カテゴリーにおける参入の可能性を高める一助となり得るだろう。


注:
主催者からジェトロに共有された情報によるもので、同数字は、NPEWのブースのコンタクト先が日本になっていることに基づく。実際は、日本からの出展に加え、日系企業の米国現地法人の出展が多数みられたため、日系企業のNPEWの出展数はさらに多いと見込まれる。
執筆者紹介
ジェトロデジタルマーケティング部ECビジネス課
梅田 健太郎(うめだ けんたろう)
2023年、ジェトロ入構。同年から現職。