日本食品の可能性を「Weee!」CEOに聞く
注目の米EC市場動向(2)

2024年3月21日

アジア系食品の電子商取引(EC)のウィー(Weee!、本社:カリフォルニア州フリーモント)は、常温、生鮮、冷凍品など幅広い品ぞろえ、安定した価格と丁寧な梱包(こんぽう)、翌日配送により、全米のアジア人から支持を受けているECだ。アプリダウンロード数は累計400万以上、全米の主要都市の大半をサービス提供エリアとしている。米国の市場調査会社のスタティスタ(Statista)によると、同社は2023年12月時点で米国の直販型ECのスタートアップ企業の評価額では全米6番目であり、41億ドルの企業価値を有する(図参照)。

同社最高経営責任者(CEO)のラリー・リュウ氏へのインタビューを通じて、米国ECでの日本企業の事業展開のヒントを探る(2024年2月21日にインタビュー実施)。

図:米国直販ECスタートアップ企業の評価額ランキング
(2023年12月時点、単位:10億ドル)
ファナティクスが1位で310億ドル、以降ゴーパフが150億ドル、フェアーが125億9,000万ドル、セラシオが100億ドル、スキムス50億ドル、ウィー41億ドル、ハウズ、ビュオリ、インポッシブルフーズがそれぞれ40億ドル、ストックXが38億ドルと続く。

出所:スタティスタ

自らの経験から起業、足元のビジネスは好調

質問:
起業のきっかけは。
答え:
2003年に中国からカリフォルニア州サクラメントに移住した際、慣れ親しんだ中国の食品を手に入れようと思うと、家から2時間かけてオークランド・バークレー地域のスーパーに行く必要があり、不便だと思ったのがきっかけ。その後、ウィーチャット(We chat)で中国の商品をグループ購入している人たちの存在をヒントに、2014年にグループ購入の代行サービスを創業。グループ購入は、配送はせず、グループの中心となった人の家に取りに行く必要がある。(商圏が狭く)事業拡大に向けては課題があった。プロダクトマーケットフィット(PMF、自社の商品が市場の需要に適合している状態)に向け、2017年の夏に配送をスタート。週に1回の配達からスタートし、徐々に増やしていった。

Weee!のラリー・リュウ最高経営責任者(同社提供)
質問:
2024年の業績は。
答え:
コロナ前の2019年と比較すると、売り上げ規模は50倍になった。コロナ前は毎年、前年の2倍程度の成長であったが、コロナによりお客様が大きく増えた。他のECは新型コロナ禍後に、成長スピードが落ちる傾向にあるとの報道もあるようだが、当社は2024年も2023年比で、大きく売り上げを伸ばしている。

新たな顧客獲得、AI活用にも積極的

質問:
どのような層が購入しているのか。
答え:
アジア系のお客様が中心だ。ただ、米国のメインストリーム(白人層)の購入が増えてきた。アジア系のお客様はリピーターが多い。他方、米国のメインストリームは、買う頻度はアジア系に比べ高くない。彼らのリピート購入をどのように増やしていくかが課題となっている。米国のメインストリームから、「アジア食品=ウィー」という評価を得たいと考えている。
質問:
メインストリームを取り込む戦略は。
答え:
2023年6月からTikTokコマースをスタート(写真参照)。フォロワー83万人のうち、9割以上が若い米国のメインストリーム。アカウント開始後2カ月で、アジア系食品では1位のプレーヤーになった。年配の人は、味に対して保守的な傾向にあるため、アジアの食品はほとんど食べない人もいる。これから市場を作っていく若年層に対して訴求することが有効と考えている。

ティックトック上のウィーのアカウントおよび動画の様子
質問:
生成人工知能(AI)の活用状況は。
答え:
AI専門のチームがあり、販売データやレビューなどを活用し、業務に役立てている。例えば、商品に対する顧客レビューからその商品の訴求ポイントをチョイスしたり、商品PRのためのフライヤーをAIが作ったりしている。実店舗のビジネスではなかなかそうはいかないだろうが、やはりデータが得られるのが強み。ベイエリアは、テック系人材が多い地域であり、いわゆるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の元社員もいる。人材の採用は積極的に行っている。

アジア人顧客を意識した商品、配送、差別化戦略

質問:
どのような商品が売れているのか。
答え:
野菜がよく売れている。長ネギ、エノキダケ、キャベツ、レンコン、オクラなどだが、ココナッツジュ―ス、皮付きのチキンなども人気だ。ココナッツジュースは、ベトナム系の人がよく飲んでいるが、米国のメインストリームのスーパーにはあまり多く置いていない。皮付きのチキンは、日本も含めアジア人はよく食べるが、米国のメインストリームのスーパーでは流通していない。韓国のプルダック(注)麺は、国籍を問わずよく売れている。日本からの商品だとコメ、牛丼、うどん、おでん、ギョーザなどが人気。
質問:
今後はどのような商品を扱うことを考えているか。
答え:
日本からの商品であれば、日用雑貨や化粧品などは市場拡大の可能性がある。今は直販以外にマーケットプレイス(後述)も行っており、今後も強化していく方針である。また、日本からの食品の直接輸入も行っており、ラインナップの拡大を検討している。
質問:
配送はどのように行っているのか。
答え:
お客様が注文すると、その翌日には到着する体制。冷凍・冷蔵も含め全ての温度帯で配送を行っている。梱包は、高いクオリティを求める日本人のお客様にも満足してもらっている。配送時間帯は3時間ごとのスケジュールで、何時に届くか目安を示し、配送後はお客様にメールでお知らせしている。
全米でフルフィルメントセンターを7カ所(サンフランシスコ、ロサンゼルス、シアトル、ニュージャージー、シカゴ、ヒューストン、タンパ)有している。ロサンゼルスから、ラスベガスやフェニックスにも配送している。全米の主要地域はこのフルフィルメントセンターでほぼカバー可能となった。全米で100台以上のトラックが毎日配達している。
質問:
競合他社との違いは。
答え:
最たる例は、顧客の国籍ごとにチームを構築し、商品の調達から販売までをサポートしていること。日本、韓国、中国、ベトナム、フィリピンなど国別のチームが、その国出身のお客様の満足度を高めるため、データ分析から戦略の構築・実行までを担う。そのような組織構成の小売り企業は他にないだろう。
質問:
オフライン(実店舗)でのビジネス展開は考えているのか。
答え:
現状は考えていない。ECの強みは、多様な商品を扱えることであり、それをさらに深めたい。実店舗では、簡単に棚を変えられないし、バイヤーは商品カテゴリーごとの担当。バイヤーは、どうしたら自分の棚の売り上げが最大化するかを常に考える。米系小売店であれば、顧客のマジョリティである米国人メインストリームに売れるものを販売する。アジアのものを販売する隙間はあまりないだろう。

新たなビジネスとしてマーケットプレイスを展開

質問:
マーケットプレイスはどのようなものか。
答え:
日本企業がウィーに出店し、商品を直接消費者に対して販売する仕組み。米国への輸送、米国内での輸送も出店者自身が行う必要がある。賞味期限の短い商品などを越境ECで企業自身が直接、消費者に販売する。日本企業の参加は現在100社に満たないが、もっと増やしていきたいと思っている。
質問:
マーケットプレイスではどのような展開を考えているのか。
答え:
商品のラインナップをさらに増やし、今は手に入らない魅力的な商品も導入できたらよいと思っている。日本には拠点を設置するつもりであるし、専門チームも設置している。より多くの日本企業に参加してほしい。
質問:
日本企業・商品に対する期待・メッセージは。
答え:
米国ではアジアの食品を受け入れる土壌ができた。しかしながら、米国には日本企業の商品はまだまだ一部流通していない。日本に旅行に行くと、良い商品がたくさんあり、多くの人が買って帰っている。それを米国でも手に入れられるようにすることで、より多くの売り上げにつながると考えている。ぜひ、やる気のあるメーカーと一緒に事業を構築していきたい。

インタビューを通じて、「米国で日本食品を受け入れる土壌はできた」と力強く語るリュウCEO。日本商品のラインナップが広がる可能性を感じた。米国では、ティックトック・コマースが浸透しており、特に若年層に対するPRとしては非常に有効だろうと推察される。


注:
韓国のインスタントラーメンのブランド。

注目の米EC市場動向

  1. Z世代が消費の鍵、新興の中国勢にも注目
  2. 日本食品の可能性を「Weee!」CEOに聞く
執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 ディレクター
芦崎 暢(あしざき とおる)
民間企業にて海外事業立ち上げなどを担当後、2018年ジェトロ入構。ECビジネス課、デジタルマーケティング部、ジェトロ名古屋を経て、2023年8月から現職。