改正続くEU「混合食品」規制、日本産食品の輸出可能性を探る

2023年6月27日

農林水産省が公表した「農林水産物輸出入情報」によると、2022年のEU向け農林水産物・食品輸出額は680億円だった。日本にとってEUは、国・地域別で第6位の輸出先となっている(表1参照)。輸出市場として有望である一方、EUの農林水産・食品分野の輸入規制は厳格だ。特に加工食品のうち、動物性加工済原料(Processed products of animal origin)と植物性原料(Products of plant origin)の両方を含む食品を「混合食品(Composite product)」と定義し、EU独自の規制を設けており、事業者は適切な対応が求められる。本稿では「混合食品」が何を指すのか解説し、日本から「混合食品」の輸出を検討する上で留意すべきポイントを紹介する。

表1:日本からの農林水産物・食品の輸出額(2022年)(単位:億円、%)(△はマイナス値)
順位 輸出先 輸出額 構成比 前年比
1 中国 2,782 20.8 25.1
2 香港 2,086 15.6 △4.8
3 米国 1,939 14.5 15.2
4 台湾 1,489 11.1 19.6
5 ベトナム 724 5.4 23.8
6 EU 680 5.1 8.2
7 韓国 667 5.0 26.6
8 シンガポール 554 4.1 35.3
9 タイ 506 3.8 14.9
10 フィリピン 314 2.3 51.6

出所:農林水産省の輸出統計(2023年6月閲覧)から作成

「混合食品」規制の対象品目は広範ながら曖昧、国境管理所に確認を

EUは公的管理規則(欧州議会・理事会規則2017/625)に基づく欧州委員会委任規則2019/625において、「混合食品」規制の対象となりうる食品の「CNコード」(注)を指定し、2021年4月から適用していた。同委任規則は欧州委員会委任規則2022/2292(2022年12月適用開始)に置き換えられ、2023年5月時点では25の「CNコード」が指定されている。

しかし、この「CNコード」に分類される品目であっても、実際には「混合食品」規制の対象にならない場合もある。同じ名称やHSコードの加工食品であっても「混合食品」となるかどうかは一様ではなく、原材料の性質や加工度によって決まる。

冒頭の定義によると、植物性原料と動物性加工済原料の両方を含んでいる食品は「混合食品」に該当する可能性がある。動物性加工済原料とは、動物性原料に加熱(heating)、燻製(くんせい)(smoking)、塩蔵(curing)などの加工を加えた原料で、魚介粉末やエキス、液卵、脱脂粉乳などが挙げられる。植物性原料とそれらを含むソースやめんつゆ、ラーメンスープといった調味料類のほか、チョコレートやビスケットといった菓子類、パスタやベーカリー製品など幅広い食品が「混合食品」に該当する可能性がある。

一方、ハーブを添加したチーズやニンニク入りソーセージなど、畜水産食品を主原料としたものに植物性原料を添加した製品は「混合食品」に該当しない。製品が「混合食品」に該当するかどうかは当局の判断になるため、現地の輸入者などを通じて、輸入可否や種別をEU加盟国の国境管理所(BCP: Border Control Post)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに問い合わせる必要があるだろう。

動物性加工済原料はEU向け認定施設での加工が必要

畜産物や水産物をEUに輸出するためには、国レベルで、対象の動物性食品の動物種が「薬理的活性物質、農薬、汚染物質の管理計画(Control plan)」(以下「管理計画」)の承認を受けており、EU域内への輸出を許可された「第三国リスト」掲載国である必要がある。「管理計画」は2022年12月から適用されている欧州委員会実施規則2022/2293の付属書Ⅰに、「第三国リスト」は2021年4月から適用されている欧州委員会実施規則2021/404の付属書VII、XIII、XIV、XV、XVI、XVII、XIXおよび欧州委員会実施規則2021/405の付属書IV、VIII、IX、XII、XIIIに掲載されている(表2参照)。また、事業者レベルでは、当該畜産品や水産品が「EU(HACCP)認定施設」で加工されることで輸出が可能となる。

動物性加工済原料を含む「混合食品」も、この規制が一部適用される。原則として、混合食品に含まれる動物性加工済原料の動物種が前述の「管理計画」を有するとともに、「第三国リスト」の要件を満たす必要がある。また、「混合食品」を製造する施設自体は認定を必要としないが、含まれる動物性加工済原料を製造する施設は「EU(HACCP)認定施設」でなければならない(表2参照)。食品における動物性加工済原料の割合によって免除されることはなく、1%でも含まれていれば、「EU(HACCP)認定施設」由来の原料を使用する必要がある。

表2:日本の動物種に対するEUの承認状況
動物種 「管理計画」承認の有無 「第三国リスト」掲載の有無 国内の「EU (HACCP)認定施設」の有無
ウシおよびウシ科動物 (Bovine)
水産養殖物 (Aquaculture)
(鮮魚・二枚貝など、冷凍・加工)
ケーシング(Casings
卵 (Eggs)
(クラスA卵のみ)

(卵製品で1施設)
乳 (Milk) ×
豚(Porcine)
(加工品のみ)
×
鶏・家きん類 (Poultry) ×
ハチミツ (Honey) 対象外 対象外

注1:〇=あり、×=なし、△(ハチミツ)=管理計画の承認は受けていないが、承認済み国で製造されたハチミツを混合食品の原材料として輸入し、混合食品を輸出することは可。
注2:ウシ、豚、鶏・家きん類、水産物由来の 「ゼラチン・コラーゲン」は「第三国リスト」に掲載されている。
注3:鮮魚は「ヒレ付き鮮魚(finfish)」に限る。
注4:水産養殖物(Aquaculture)(キャビアなどの魚の派生品・甲殻類)、羊・山羊(Ovine/caprine)、ウマ科動物(Equine)、ウサギ(Rabbit)、野生/飼育の狩猟獣(Wild/Farmed game)は「管理計画」の承認を受けていない。
出所:EU官報、農林水産省ウェブサイトを基にジェトロ作成

「EU(HACCP)認定」は国の機関が認定することとなっており、日本では厚生労働省または農林水産省が認定している。認定施設リストは農林水産省ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに掲載されている。2023年5月時点で、日本で動物性加工済原料の供給が可能な「EU(HACCP)認定施設」は、水産関係は全国に一定数あるものの、食肉製品と乳製品の施設はなく、卵製品は兵庫県にある1施設のみである。つまり、輸出が禁止されているわけではないが、国内に「EU(HACCP)認定施設」がないため、国内産の畜肉エキス(食肉製品)や脱脂粉乳(乳製品)といった動物性加工済原料を使用した「混合食品」は、実質的に日本からEUに輸出することができない。

日本産ハチミツは使用不可、EU産ハチミツは使用可

日本からのハチミツを含む「混合食品」の輸出については、規制の改正が続き二転三転している。欧州委員会実施規則2022/2293によると、日本は国レベルで、前述の「管理計画」の承認を受けていないため、日本産のハチミツを輸出することができない。しかしながら、EUまたは「管理計画」承認済みの第三国で製造された(加工済み)ハチミツを「混合食品」の原材料として使用する場合は、日本からEUへ輸出することが可能である。

当初、日本で製造される食品へのハチミツの使用は一切不可とされていたが、2021年12月から、上述のとおり輸入したハチミツ(原材料)であれば、「混合食品」への使用が可能と改正された。ところが、2022年8月には再度ハチミツの使用が不可とされ、あくまで日本は製造工程に関与しない第三国貿易のみの取り扱いに制限された。その後、2022年11月に再び規制は改正され、2022年12月15日から適用されている現行の欧州委員会実施規則2022/2293では、EUまたは「管理計画」承認済みの第三国のハチミツを、「混合食品」の原材料として使用することは可能となった。このように、規制内容の変更が度々なされており、常に最新情報を確認する必要がある。

日本側では「衛生証明書」または「輸出検疫証明書」を取得

日本からEU域内に「混合食品」を輸入する際、公的機関が発行する「公的証明書 (Official Certificate)」あるいは輸入者作成による「自己宣誓書 (Private Attestation)」の添付が求められる。温度管理が必要な食品、または温度管理が不要であっても肉製品または初乳由来原料を含む食品に対しては「公的証明書」が求められる。一方、温度管理が不要で、肉製品または初乳由来原料を含まない食品は「低リスク」と見なされ、「自己宣誓書」が求められる。

「公的証明書」の場合、欧州委員会実施規則2020/2235の付属書Ⅲ 第50章で様式が規定されており、輸出者は、この様式に沿った政府発行の証明書を製品に添付して輸出する必要がある。日本では農林水産省が所管しており、「欧州連合、スイス、リヒテンシュタイン及びノルウェー向け輸出混合食品の取扱要綱PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.6MB)」によれば、輸出者は原料の違いによって「衛生証明書」または「輸出検疫証明書」の交付を申請する。輸出・国際局が交付する「衛生証明書」、または動物検疫所が交付する「輸出検疫証明書」が、EUが求める「公的証明書」に当たる。

国内のEU向け認定施設が少ないことが課題

農林水産物・食品の輸出額を2025年に2兆円、2030年に5兆円にするという政府目標を実現するためには、輸出先で第6位であるEU市場を取り込むことも重要だ。「混合食品」には、めんつゆからマヨネーズ、菓子まで幅広い食品が含まれているため、この分野の輸出を伸ばす意義は大きい。日本の主な動物種は「管理計画」の承認を受け、「第三国リスト」にも既に掲載されているため、日本からEUへの輸出が禁止されているわけではない。今後、EU向けの輸出を拡大するには、政府と事業者が一丸となって動物性加工済原料のEU向け認定施設を増やす取り組みが必要だ。


注:
EU域内で使用される合同関税品目分類表(CN:Combined Nomenclature)に基づく8桁の品目コードで、HSコード(1~6桁目)にEU独自のCN下位品目分類(7~8桁目)を加えたコード
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部市場開拓課
上嶋 友也(うえじま ともや)
2021年、ジェトロ入構。同年から現職。