逆境の中で国内販売、生産台数とも前年比増(南アフリカ共和国)
トヨタをはじめとする日系が国内シェア上位占める

2023年9月13日

2022年はコロナ禍からの経済回復が期待されていたが、南アフリカ共和国(以下「南ア」)では国内の問題により、進出する自動車メーカーにとって厳しい一年だった。洪水(2022年4月15日付ビジネス短信参照)、ストライキ(2022年10月19日付ビジネス短信参照)、長期化する計画停電(2022年11月25日付ビジネス短信参照)により、生産活動の停止、物流の混乱に見舞われた。2022年の南アの実質GDP成長率は2%と前年の4.9%から減速した。そのような中でも、新車販売台数、生産台数はともに前年比増となったが、コロナ禍以前の水準には及ばなかった。

新車販売台数、トヨタが首位を維持

南アの自動車製造者協会(NAAMSA)の発表によると、2022年の南ア国内の新車販売台数は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた各種制限などが撤廃され、経済活動が再開されたことを受け、前年比14%増の52万9,562台となった(表1参照)。ただ、金利上昇、インフレ、燃料費高騰による生活コストの増加が家計を圧迫したため、2018年の55万台には達しなかった。

新車販売台数市場全体のシェアは、トップのトヨタが24.9%、フォルクスワーゲン(VW)が13.2%で続き、スズキが8.9%で3位だった(図参照)。トヨタ車では小型商用車部門の「ハイラックス」(3万2,203台)、スポーツ用多目的車(SUV)の「フォーチュナー」(7,805台)の人気が高く、ここ数年、部門別でトップを維持している。

表1:国内新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 365,247 △ 0.8 355,379 △ 2.7 246,541 △ 30.6 304,341 23.4 363,696 19.5 375,000 3.1
階層レベル2の項目輸入台数 266,545 △ 0.7 267,557 0.4 187,115 △ 30.1 238,848 27.6 291,906 22.2 295,000 1.1
小型商用車 159,525 △ 2.3 153,221 △ 4.0 110,912 △ 27.6 133,077 20.0 135,713 2.0 157,000 15.7
階層レベル2の項目輸入台数 26,761 △ 1.5 24,226 △ 9.5 17,163 △ 29.2 24,579 43.2 32,553 32.4 32,000 △ 1.7
中・大型商用車(輸入台数含む) 27,455 4.5 28,012 2.0 22,754 △ 18.8 27,075 19.0 30,153 11.4 31,000 2.8
合計販売台数 552,227 △ 1.0 536,612 △ 2.8 380,206 △ 29.1 464,493 22.2 529,562 14.0 563,000 6.3

注:輸入台数はNAAMSA非加盟製造者については報告値。
出所:NAAMSA

乗用車に限ってみると、VW「ポロ・ビボ」の2022年の販売台数は2万866台となり過去数年で最も売れているモデルとなった。スズキ「スイフト」は2位で、前年比51.8%増の1万7,282台となった。3位はトヨタ「アーバンクルーザー」の1万6,992台(前年比47.7%増)で、同「カローラ クロス」が1万5,841台(同77.2%増)と続いた。

図:新車販売台数市場シェア(2022年)
24.9%を占めたトヨタが首位、13.2%を占めたフォルクスワーゲン(VW)グループが2位、8.9%を占めたスズキが3位であった。以下、現代が6.8%、日産が5.8%、ルノーが5.2%、フォードが5%、起亜が4.3%、ハバルが4.3%、いすゞが4%、その他のメーカーが17.6%を占めた。

出所:NAAMSAを基にジェトロ作成

乗用車でもトヨタがVWを抜いて首位に

2022年の乗用車の販売台数は36万3,696台で、うち約80%が輸入車だった。乗用車の販売台数をメーカー別にみると、トヨタが前年比31%増の7万6,689台で、VWグループの6万5,960台を抜いて国内シェアで首位に立った。トヨタは2018年に記録した最高販売台数(7万170台)を塗り替え、過去最高記録を更新した。一方、VWは前年比6.8%減で、国内シェア2位に後退した。トヨタが全体の新車販売台数のみならず、乗用車市場でも首位に立ち、南アにおけるトヨタの人気を反映した。

乗用車の日系自動車メーカーのシェアは、スズキが3位(4万6,004台)、日産が1つランクを落とし9位(1万1,526台、前年比1.8%減)だった。非日系では、現代自動車が4位(3万2,486台)、ルノーが5位(2万7,165台)だった。

中国メーカーでは、ハバル(長城汽車のSUVブランド)が22.2%増の1万3,936台で、前年に引き続き着実にシェアを広げた。南アの自動車販売市場をモニタリングする民間調査会社ライトストーンオート(Lightstone Auto)は、8,013台販売したチェリー(奇瑞汽車)を2022年からモニター対象に追加した。

スズキが好調、存在感増す

ここ数年で存在感が増しているのはスズキだ。2022年の乗用車の販売台数は前年比72%増(4万6,004台)を記録し、5年前の販売実績(2017年8,532台)から5倍以上に販売台数を伸ばしている。2022年の新車販売台数のメーカー別シェアは、現代自動車を抜いて3位となった。特に「スイフト」や「ジムニー」が人気となっている。スズキによれば、この成長の背景には複合的な要因があり、(1) カー・オブ・ザ・イヤーを2年連続(2017、2018年)受賞するなどブランドの認知向上、(2)経済的な価格帯にラインナップをそろえたこと、(3)半導体不足の中でも在庫の確保・供給ができたことが主な理由という。

小型商用車では日産がフォードを抜く

小型商用車では、2022年は日産(1万8,961台)がフォード(1万7,824台)を抜きシェア2位となり、首位トヨタ(5万1,498台)に続いた。シェア4位のいすゞも、フォードに僅差で迫る1万7,062台(前年比3.8%増)と過去最高の販売台数を記録した。

経済低迷の中、生産台数は拡大

世界的な半導体不足、と洪水、ストライキ、電力不足などの南ア国内の問題は生産活動に大きな影響を与えたが、2021年7月1日に開始された「ポスト自動車生産開発プログラム」(ポストAPDPまたはAPDP2、2021年9月1日付地域・分析レポート参照)が追い風となり、各メーカーは積極的に設備投資を行い、新モデルの生産を開始するなどした結果、2022年の乗用車の生産台数は、前年比29.3%増の30万9,423台となった(表2参照)。NAAMSAによれば、2022年に発表されたOEM(完成車)メーカー7社による南アへの設備投資総額(注)は71億ランド(約565億8,700万円、1ランド=約7.97円)で、2021年の88億ランドから減少したものの高水準を維持した。

表2:国内生産台数 (単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 320,383 △ 3.1 348,665 8.8 237,214 △ 32.0 239,267 0.9 309,423 29.3 323,000 4.4
階層レベル2の項目輸出台数 220,889 △ 4.0 260,057 17.7 178,299 △ 31.4 173,086 △ 2.9 237,627 37.3 245,000 3.1
小型商用車 261,086 7.8 254,417 △ 2.6 185,691 △ 27.0 232,166 25.0 215,472 △ 7.2 260,000 20.7
階層レベル2の項目輸出台数 128,005 20.9 125,079 △ 2.3 91,725 △ 26.7 123,210 34.3 111,659 △ 9.4 135,000 20.9
国内生産合計 610,060 1.7 631,921 3.6 446,216 △ 29.4 499,087 11.8 555,889 11.4 614,900 10.6

注:中・大型車の生産台数は発表なし。
出所:NAAMSA

世界自動車生産シェアは22位

NAAMSAの「自動車輸出マニュアル2023」によると、世界の自動車生産台数シェアにおいては、南アは2021年の0.62%から2022年は0.65%に拡大した。国別ランキングでは、マレーシアに抜かれ22位だった。好調だった小型商用車の生産では、世界シェア1.1%(16位)にランクインした。南アの自動車産業は、アフリカ大陸での総自動車生産台数(102万2,783台)の54.4%を占める。

NEV導入推進に向けたロードマップ法制化に期待

2022年の新エネルギー車(NEV)販売台数は4,674台(2021年:896台)となり、中でもハイブリッド車が人気だった。バッテリー電気自動車の販売台数は502台(2021年:218台)にとどまった。

NEVの販売台数は増加傾向にあるものの、マーケット全体では限定的だ。政府の財源不足や足元の電力事情に鑑みると、電気自動車向けの充電インフラ新設などは進みそうにない。購入のための補助金もないため、一般消費者にはまだ手が届かない。

国内OEMメーカーは生産した車の約75%を輸出しているため、南アが今後も生産地として世界的な競争力を高めていくためには、世界のトレンドに合わせた生産が求められる。

政府はNEV導入推進を目的として、2021年5月にロードマップ案「オート・グリーン・ペーパー」を公開した。その後、進捗がなかったが、2023年5月にエブラヒム・パテル貿易産業競争相は、メディア向けに「今年中に進捗があるだろう」と述べた。また、同ロードマップの策定に携わるNAAMSA関係者は、ジェトロのインタビューに対し「2024年早々に法制化される予定と見ている」と回答しており、ロードマップの法制化が自動車市場にどのような変化をもたらすか注目される。


注:
総額には複数年度にわたる投資も含まれる。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
トラスト・ムブトゥンガイ
ジンバブエ出身。2011年から、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。主に南部アフリカの経済・産業調査に従事。